【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー37 クリームシチュー
太陽が完全に落ち、暗闇に満ちた街を黒い三角が描かれた羽織を羽織った青年と、荷物を抱えた男性が並んで早足で歩いてた。歩きながら青年が自分達を照らしている月を見て舌打ちをした。
「ちっ、もっと早く帰れる予定だったのに……すいません。カワサキさん」
「良いよ、気にする事はねえ。今回の事は想定出来ていたことだからな」
鬼殺隊を運用するには莫大な資金が必要だ。政府非公認と言う事にはなっているが、完全に政府との繋がりがないわけではない。非公認という部分は鬼を認めるわけには行かないと言うだけで、政府自体も鬼の事は把握している。しかしそれらの繋がりがあり、公にならない程度の支援を受けていてもやはりあれだけの組織を運用するには金が足りない。耀哉が色々と手を打ってもそれでも足りない所がある、そうなったら俺の出番だ。
「別に作り方を売らなくても」
「何、そう気にするわけでもないさ」
俺がイタリア等に料理修行に行っていたと言う事にし、名店と言われる店にレシピと作り方を教える。そしてオーナーから金を貰う、実質的な元手が無しで資金が増えるのだから俺としては申し分がない。
「でもあいつらの態度が」
「慣れだよ慣れ、料理人って言うのは基本的に自尊心の塊だからな」
自分の料理の腕が相手よりも劣っている訳がない、自分の方が美味い料理を作れる。そういう負けん気がなければ料理人なんて物は務まらない、常に最高を考え、今作った品よりもより良い物を作りたいと思うのは当然の事だ。それがオーナーの知り合いと言う事で流れをしている料理人から料理を教われと言われて、はいそうですかと納得出来ないのは当然の事だ。
「反発、反抗大いに結構。俺を越えるという負けん気の良さを俺は買うよ」
「そういうものですか?」
「そういうもんだ。それに実際今日の店の料理人は良い腕してたよ。長崎にいたって言うのも納得だ」
中途半端ではあるが、カレーを再現していた。スパイスのブレンドはまだまだだったが、十分に美味しいと言うレベルだった。
「すぐに俺の作り方なんて覚えちまうよ。いや、次行く時が楽しみだ」
俺のカレーの作り方を見て、味見をして自分が負けていることを悟り、それに悔しさを顔を滲ませながらも美味いと笑って見せた。ああいう奴は伸びる、今度行く時はもっと美味いカレーを食べれそうだ。
「カワサキさんの方が料理が上手いでしょう? それなのになんで他の料理人の料理を食べようなんて思うんですか?」
「学ぶ為だ。1杯の味噌汁でさえも、料理人の様々な工夫がある。俺はそれを知りたいのさ」
「カワサキさんでも?」
「俺なんかたいした事はない。俺より腕の良い料理人なんてどこにでもいるさ」
俺はただ少しインチキをしているだけ……そう言おうとした瞬間俺は抱えていた荷物を強引に獪岳に押し付けた。
「カワサキさん!? 駄目」
制止の声を上げる獪岳を無視して、扇子を持っている優男――そしてその前で血反吐を吐いている女の隊士――「胡蝶カナエ」を助ける為に全力で走り、そしてそのままの勢いで扇子を持っている優男の顔面目掛けて飛び膝蹴りを叩き込むのだった。
突然の横からの衝撃に俺は思わずたたらを踏んだ。可愛い女の子を救おうとするのに集中しすぎて、回りに全然気がついてなかった。
「か……かわ……ごぷ……」
「喋んな、カナエ。獪岳ッ! カナエを連れてけッ!」
「いや違うだろ!? 逃げるのはあんたの「獪岳ッ!」っ! あーくそッ! 失礼しますよ、花柱様ッ!!!」
よろめいている間に子供が俺が救おうとした女の子を連れて行こうとするので、手にした扇子を振るったのだが……。
「おっと待った。優男、てめえの相手は俺だ」
「へえ?」
振り切る前に腕を掴まれた。ミシミシと軋む腕に正直驚き、そして笑った。
「君。鬼殺隊じゃないよね? 普通の人間が俺に勝てるとでも?」
「……逆に聞いてやるよ。俺が普通の人間にてめえは見えるのか?」
目を覗き込まれて逆に背筋が冷えた……なんだ、鬼じゃない。鬼じゃないけど……人間でも……そこまで思った瞬間。横殴りの拳が俺の頬に叩きこまれたが、後退したのは男の方だった。
「大丈夫? 手の骨――砕けたんじゃない? ぐっ!?」
血鬼術で作った氷を殴りつけた男の腕は確実に砕けた。その音を俺は聞いている、だが俺が見ている間に男の砕けた骨は元通りになり、俺の作った氷の壁ごと俺の顔面を殴りぬいた。
「ぺっぺ……ちょっと、ちょっと君何者?」
殴り飛ばされて切った口の中の血を吐き出しながら問いかける。すると俺の目の前に振り上げられた靴の爪先が広がった。
「俺か? 俺は料理人だッ!!」
「……ッ! いやいや、君みたいな料理人いないでしょ?」
辛うじて顔を後に逸らして直撃は避けたけど、風圧で髪の毛が切れたんだけどッ!?
「なんだ知らないのか? 護身術は料理人の嗜みだぞ?」
「え。嘘、本当?」
「当たり前だろ? 香辛料とかめちゃくちゃ高いんだぞ?」
そう言われるとそうかも知れないッ!?そんなことを考えている間に連続で拳を振るわれ、思わず身をかがめて逃げる。
「あのさ。話してる途中に普通殴る?」
「聞いてる振りして周りに変なもんばら撒いてる奴に言われたくはねえな」
俺の血鬼術にも気付いている。だけど、全然効果が出ているようには見えない……。
「鬼じゃなかったら、君は何? 人間でもないんでしょ?」
「料理人っつっただろ?」
「だからさあ! 君みたいな料理人はいないでしょッ!」
扇子を振り上げ、頭から両断しようとした瞬間手首を掴まれ、引き寄せられたと思った瞬間背中での打撃を喰らい大きく弾き飛ばされた。
「あいたたた……」
「嘘付け、自分から飛びやがって」
「あれ? ばれちゃった?」
素手で攻撃してくる相手は猗窩座殿で慣れている。命中の瞬間を見極めればその威力は半減させる事だって簡単だ。
「素手の相手はなれてるってか」
「そういうこと!」
扇子を振るい蓮葉氷を飛ばすが、素手で砕かれた。
「あのさ? それ普通の人間なら手が凍るんだけど?」
「んなもん知るか」
人間じゃなくて、でも鬼でもなくて……なんなんだろう? この男は……? 可愛い女の子にしか興味はないけど、この男には少しだけ興味が沸いた。
「料理人って言うなら、何か料理でも作って欲しいなッ!!」
飛び掛りながらそう言うと、腕を掴まれ地面に叩きつけられた。
「OK。ご馳走してやるよ。でも今は食材がなくてなあ」
「あ、やっぱりいらないかも?」
そのにやあっとした顔を見てこれは不味いと思ったんだが、時既に遅し、腹を踏みつけられて動けなくなっていた。
「遠慮するなよ。香辛料はそのままでも美味いんだぜ?」
「待って、待って、違う違う。それはやばいって」
「大丈夫だ。問題ない」
「いや、問題しかごぼっ!!!」
口の中に赤い瓶を押し込まれ、その中身が全部口の中にぶちまけられる。痛い痛い、それに熱い!何これ!? なんで鬼なのに味が判るのさ!? 激しく咳き込んでいると両手に男が瓶を持っていた。
「お代わりあるぞ」
「え、い、いら「召し上がれ」~~~~~ッ!!!」
俺の言葉を無視して男は瓶をどんどん俺の口の中に突っ込んでいく、痛いし、辛いし、熱いし訳が判らない痛みがずっと俺を襲う。最初は動いていた手足もだんだん動かなくなってきた。
「最後に酒でも飲んどけ、な?」
「……」
動けない俺の口の中に酒瓶を突っ込み、口の中に残っている香辛料を無理やり飲ませ、俺の頭を掴んでぶんぶん振った男は痙攣している俺を無視して、先に逃げて行った2人の後を追って走り出した。
(……ああ、なんだろこれ……凄く気持ち良い)
痛いし、熱いし、辛いし、なんか訳がわからないんだけど、目の前が光っているし、凄く気分が良い……走り去っていく男の背中を見つめながら、人間でも鬼でもないなら人間よりもこっちにいた方がいい。今度はこっちにおいでと誘ってみよう……俺は心からそう思い、地面に開いた琵琶の君の血鬼術の中へと落ちていくのだった……。
「こ……こ……は?」
身体に走る痛みに顔を歪めながら、私は目を開いた。目の前に広がったのは慣れ親しんだ蝶屋敷の天井……。
「姉さん! 姉さんッ!!」
「し、しの……しのぶ」
泣きながら横になっている私にしがみ付いてくるしのぶ。涙で真っ赤になっているしのぶの目を見て、どれだけ泣かせてしまったのかと思い、申し訳無い気持ちで一杯だった。
「か、カワ……サキ……さん……は?」
喋るのも辛い。だけど、カワサキさんがどうなったのかとしのぶに尋ねる。
「上弦の弐から無事に逃げて来てくれたわ。少し怪我をしてるけど、姉さんよりずっと軽症よ」
「……よか……良かった……」
私を助けてカワサキさんが死んでしまっていたら何もかもが終わってしまう――カワサキさんが生きていて、無事だったと聞いて安堵の溜め息を吐いた。
「ちょっと待ってて、カワサキさんが何か作ってくれてるから、すぐに来るから!」
そう言うとしのぶは病室を飛び出していった。その後姿を見て小さく笑い、痛んだ胸に手を当てた。
(命があるだけ良いわよね……)
上弦の弐の血鬼術は氷だった。呼吸を扱う全ての鬼殺隊の天敵とも言えるのが上弦の弐だ。そんな鬼と対峙して生きているだけでも御の字、息苦しいのはきっと肺が1つ潰れてしまったからだろう。
「お待たせ! えっと良く判らないんだけど……しちーとか言う、西洋の料理らしいわ」
白く濁った粘り気のある汁が平皿に入っていた。匙に手を伸ばそうとするとしのぶにその手を掴まれた。
「駄目。あんまり無理をしないで、はい」
「……あ、ありが……とう」
しのぶが冷ましてくれた汁を口にする。暖かく、身体の中に熱が染み渡っていく……色んな具材の味と、優しい包み込むような味がする。
「……おい……しい……わ」
「良かった。ゆっくり、焦らないでね」
しのぶが冷ましてくれた汁を1口、1口と飲むたびに身体が中から温まって行くのが判る。
「はい。これでおしまい、姉さん。後で薬を持って来るわね」
「……ご馳走様。ありがとうしのぶ……あの私は……」
飲み終わる頃には息苦しさも大分収まり、普通に喋る事が出来るようになっていた。お皿を片付けようとしているしのぶに私は隊士として復帰出来るのか……そう尋ねようとするとしのぶは逃げるように病室を後にした。
「そうよね……判ってる」
自分が1番判っている。私はもう隊士には復帰出来ない……それをしのぶに言わせようなんて、私はきっと悪い姉だ。しのぶに自分の未練を断ち切って欲しいなんて……。
「……うう……ッ」
零れ落ちた涙が手の甲に落ちた。布団を濡らす涙は止まる事がないのだった……。
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「美味しいですよ、カワサキさん」
「喜んでもらえて嬉しいんだけどよ、なんで具材も何も無いシチューを食べたいなんて言うんだ?」
「ふふ、良いじゃないですか」
料理人としては具材の無いシチューを食べたいとか複雑なんだよなあと言いながらも、私の為に具材の無いシチューを用意してくれるカワサキさんには感謝しかない。
「まぁ良いけどなあ、そこまで偏食って訳じゃないし」
「カワサキさんが作ってくれる物なら私なんでも好きですよ?」
カワサキさんは少し驚いた顔をして、机の上に肘を立てて、掌に顎を乗せる。
「俺の店を手伝ってくれるのは嬉しいんだが、もうちょっと年頃の娘みたいにおしゃれとかしたらどうよ?」
「沙代ちゃんとお買い物には良く行きますよ? それにカワサキさんのお手伝いをするって凄く楽しいんですよ」
「いやな、こんな人だか、化けもんだが良く判らんやつに付き纏ってどうするよ?」
シチューを食べていた手が一瞬止まった。カワサキさんが人間ではないという事を私は知っている……ううん、私だけではない、今の柱は皆それを知っている。それでもカワサキさんは私達鬼殺隊に必要な存在なのだ、だから、誰もそれを口にしない。
「罪の意識なんて感じなくても良いんだぜ?」
「そういう訳じゃないです」
カワサキさんが私を助けた時に隠れていた隊士が上弦の弐がカワサキさんの事を人でも、鬼でもないと言っていたのを聞いていて、それが原因でカワサキさんは酷い目に合った。私を助けなければそんな事にはならなかった……そう思うと、どうしても後悔というのは私の中から消えることはない。
「俺は俺の好きにしてる。必要とされてる間は協力するさ、だけど俺が必要にならなくなる時は何れ来る。もっと広い視野を持った方がいい」
必要とされなくなったらどこへ行くんですか? という言葉は私の口から発せられる事は無かった。カワサキさんの目の中に何もかも、諦めきった……いや、割り切った感情を見て取ってしまったから……。
「明日は獪岳と沙代が手伝ってくれるからカナエもしのぶと何処かに出かけて来ると良い」
そう笑って空になった食器を片付ける為に厨房に向かうカワサキさん。その背中はいつもと同じで大きくて広いのに、それが私にはとても小さい背中に見えた。
(……鬼がいなくなったら……)
鬼殺隊の悲願――鬼舞辻無惨を倒した後の事なんて考えた事が無かった。だけどカワサキさんがふと呟いたカワサキさんが必要では無くなった時……その時が来たらカワサキさんがいなくなってしまうかもしれない、それがとても恐ろしい事に思えた。
「……世界が貴方を必要ないと言っても、私には貴方が必要です」
「なんか言ったか?」
「い、いえ! ご馳走様でした」
世界中の全てが貴方を悪だと言っても……私は貴方しか信じない。どんよりとした光の無い瞳を洗い物をしているカワサキに向けるカナエは両手を頬に当て、恍惚とした表情でその背中を見つめ続けているのだった……。
メニュー38 カレーライス へ続く
童磨にロックオン、病んでるカナエさんにロックオン。カワサキさんは人気者ですねえ(白目)やばい人に好かれることに定評のあるカワサキさん。ナイスボートにならないといいですね、次回はカレーライスと言う事でかまぼこ隊を再登場させて行こうと思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない