【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー38 カレーライス
その香りに気付いたのは善逸と伊之助と共に任務を終えて、カワサキさんの店に向かっている途中だった。
(なんだろう、この匂い……今までこんな匂いは嗅いだ事が無い)
少し刺激的で、色んな野菜の香りが何かに溶け込んでいて、物凄く複雑で、でも香りだけで美味しいと判る。
「炭治郎。どうかした?」
「あ、いや。すまない、カワサキさんの店の方から凄く良い香りがしたんだ」
「ならカワサキがうめえもんを用意してくれてるって事だな! 行くぜぇッ!!」
俺の言葉を聞いて駆け出して行く伊之助の後を追って、カワサキさんの店に向かって走る。
「わ、本当だ。凄い良い匂いッ! なにこれッ!?」
「本当だよな。なんだろう、この匂い……」
俺の知っている料理の中でこんな匂いの食べ物はなかった。一体何をカワサキさんは作っているのだろうか……そんな事を考えながら走っているとカワサキさんの店が見えてきた。
「でかッ!? なにあの鍋ッ!?」
善逸が驚きの声を上げるが、俺も正直驚いた。カワサキさんの店の前に巨大な鍋が置かれていて、俺や善逸が座っていたら頭まですっぽり入ってしまいそうなそんな大きな鍋だ。
「な、ななな、カワサキッ! お前なんて物を煮て、こいつは……う「はい、それ以上言ったら駄目ですよ。伊之助君」ふぐうっ!?」
全然動きが見えなかった……しのぶさんの手刀が伊之助の被っている猪の頭を貫いた。ぴくぴくと痙攣している伊之助を見て、俺と善逸は慌てて駆け寄った。
「貴方が想像した物は違いますからね? 分かりましたか? 食事中に言って良い事と悪いことは判りますよね?」
「ハイ……ゴメンナサイ」
しのぶさんがめちゃくちゃ怒っている――その事に恐怖しながらカワサキさんの店の前の広場に行くと、煉獄さんや義勇さんといった柱の人達と村田さん達といった一般の隊士に後藤さん達といった隠の皆の姿もあった。
「よーう、炭治郎。おかえり、今日も無事で何よりだな」
「カワサキさん、はい! ありがとうございますッ!」
「カワサキさぁぁあんッ! 今回も怖かったんだよぉぉおおおッ!「うるせえぞ、カス。鍋の中に鼻水が入るだろうが」げふっ!?」
カワサキさんに駆け寄った善逸が獪岳の蹴りで吹っ飛んだ。
「やりすぎだと思いますッ!」
「鍋の中に涙や鼻水が入ったら食えなくなるだろうが、あのままだったら絶対入っていた。だから俺は悪くねえ」
……確かにそう言われるとその通りかもしれない。だから俺は獪岳にこれ以上文句を言えず、カワサキさんに視線を向けた。
「これは味噌汁ですか?」
いや、でも味噌汁の割には味噌の香りがしないんだけど……。
「ははははッ! 竈門少年はこれは初めてかッ! これはな、ライスカレーという洋食だッ! カワサキ殿! おかわりをッ!!!」
「あいよー、どんどん食えよ」
平皿にご飯をたっぷりとよそい、その上にとろみのついた汁が掛けられた。
「ら、らいすかれー? ってなんですか?」
「嘘ぉッ! らいすかれーッ!? あのめちゃくちゃ高級な……ッ!」
ライスカレーと聞いて善逸が飛び起きて、興奮した面持ちでカワサキさんに尋ねる。
「まぁ確かに高級っちゃあ高級だが、作れる人間にはそんなに難しいもんじゃないさ。ほれほれ、手を洗って来い。そしたらカレーを盛り付けてやるからな。しのぶも伊之助への説教はそれくらいにな?」
「……カワサキさん……はい、判りました。これで最後にします、分かりましたか? 人がいる時は言う言葉をもう少し考えるんですよ?」
「……ハイ、ワカリマシタ」
「それなら良いです。さ、伊之助君も手を洗ってご飯を食べる準備をしましょうね?」
「……ウン、ゴメンネ」
しのぶさんに怒られてとぼとぼと歩いてきた伊之助も手を洗う。
「それで善逸、ライスカレーって言うのはそんなに高級品なのか?」
「そらもう! 円を越えてるよ」
「なッ!? そんなにッ!?」
うどんが大体5~10銭くらいだから、ライスカレーの値段はその10倍はする。
「はー、どんなのか楽しみだなあッ!」
にこにこと笑いながら手を洗う善逸、その姿を見て禰豆子にもと思っていると、カナエさんが俺達に声をかけてくれた。
「禰豆子ちゃんにも食べさせてあげたいでしょ? カワサキさんに許可を貰ったからお店の中に入ってくれていいわよ?」
「あ、ありがとうございますッ!」
俺達だけではなく、禰豆子の事も考えてくれているカナエさんとカワサキさんに心から感謝した。
「ふふ、良いのよ。その代わりカナヲも一緒でいいかしら? あの子、少し人見知りするから、ね?」
「はい! 全然大丈夫です! ありがとうございます!」
カナヲも一緒か…同期が4人揃って食事が出来ると思うと何か楽しくなってくるな。俺はそんな事を考えながら鼻歌交じりで手を洗うのだった……。
カワサキ殿の基本的な考えに階級等は関係なく、皆等しく取り扱ってくれる。それが不満だと言う隊士もいるが、俺としては下級隊士の中で継子試験に挑めそうな人材を探す良い機会だと思っている。
(しかし、やはり逸材というのはそうはいないなッ!)
カワサキ殿の近代的な訓練のおかげで底上げは出来ているが、その分俺達が求める力量も上がっている。父上も以前なら継子に申し分ないと思った人材も今では普通だと思うと仰っておられていたし……。
「やはり冨岡と鱗滝は良い継子候補を見つけたと思うぞッ!」
ライスカレーが美味いッ! あまり辛くなく、食べやすい辛さと言うのが実に良い。もっと辛い物もあるが、俺にはやはり、この甘口が丁度良い。
「あの、継子候補って俺ですか?」
「「「お前だが?」」」
村田と言う鱗滝と冨岡の同期の「庚」の階級の隊士と聞くが、常に生き残っていることからその能力は決して低くないだろう。俺達の声が重なり、村田は絶望したと言う顔をしているな。
「しかし、美味いッ! 牛肉の塊がいいな!」
「ああ、食いでがある」
「……もぐ」
にんじん、じゃがいも、玉葱は柔らかく煮られていて、殆ど溶けていると言っても良いのだが、ちゃんと食感と味を残してくれている。しかもこれは1度すり潰した物を使い、その上から新しく野菜を入れているので恐ろしいほどの手間が掛かっている。
「前にレストランのカレーを食べたが、カワサキ殿のカレーの方が美味かったなッ! 勿体無い事をしてしまった!」
1円と55銭も払ったのにカワサキ殿のカレーの方が遥かに美味かった。しかも量が全く足りなかったと言うと鱗滝はうんうんと頷いた。
「確かにな、前に高級ライスカレーと謳っている店の物を食べたが、なんというかあれは……」
「臭かった」
言いよどんでいると富岡が真っ直ぐに臭かったと呟いた。
「臭い? それはカレーの香りと違ったのか?」
牛乳と果実の絞り汁とヨーグルトと言う物を混ぜた白くてドロリとしているラッシーという甘酸っぱい飲み物を口にし、口の中をさっぱりさせながら具体的にどんな物だったのかを尋ねる。
「烏賊と貝と海老……不味い」
「カワサキさんが言うには下処理が出来てないんだなと、罰げえむか何かだなと言っていたよ」
「確かに臭い海鮮ほど辛い物はないなッ!」
きっと痛んでいる物を煮込む事で誤魔化そうとしたのだろうが、なんとも酷い店だ。そんな事を考えながら牛肉とルーと米を同時に掬い、大きく口を開けて頬張る。何種類もの香辛料が使われているからかその味わいはとても複雑で言葉にするのは難しい……しかし確実に美味い!
(うむ、これだ)
白米ではなく麦飯――このプチプチとした食感は実にカレーと良く合う。そこに煮られていても固い牛肉の食感が加わると匙を動かす手がどんどん早くなっていく。
「なんだなんだ、煉獄はまだ甘口か?」
「はっはっは! 自分の美味いと思うものを食べるのが良いだろう!」
辛口の大盛りのライスカレーを手にしている宇髄がどかりと俺達が座っている机に腰掛ける。
「へー、それが…ほー…」
「あの音柱様、なんでしょうか?」
「なに、鱗滝と冨岡が継子試験に推薦したって言うやつを見に来たんだが、地味だな!」
「いや、村田はやる男だ。きっとあの試験も潜り抜けてくれるだろう」
「村田なら余裕だ!」
「お願いだから無茶振りするのやめてくれませんかねえ!?」
冨岡達の激励を聞いて村田がもう耐えられないと言う感じで叫び声を上げる。それを聞いて宇髄は楽しそうに笑った。
「はは、面白いなお前ッ!」
「どーもありがとうございます!」
完全に自棄になっているように見えるが、あの2人が推薦するのだから試験を間違いなく合格することだろう。
(俺も次の継子を見つけなくてはなッ!)
竈門少年達なんかは見所があって良いと思う。鬼の妹を連れているというのは並みの覚悟ではないだろうし、しかもカワサキ殿が命を賭けているというのもある。柱としては厳しく接しなければならないが、俺個人としてはかなり好感が持てる。しかし、今のままではいらないやっかみを受ける可能性もある、早い段階で誰かの継子として抱え込んでしまった方が良い。
「冨岡、鱗滝。竈門少年についてだが、俺の継子の候補にしても良いだろうか?」
カワサキ殿の食事会に初参加し、最後まで食べたと言うのは俺も聞いて驚いた。その段階ではカワサキ殿の訓練に耐えるだけの下地はあると思うし、何よりも肝が据わっている。冨岡と鱗滝の2人が継子にするつもりが無いのならば、俺の継子にしたいと思っていた。
「……構わない」
「炭治郎がお前を師事すると言うのならば、俺も義勇も止めないさ。兄弟子とは言えど、そこまで踏み入る訳にもいかんしな」
2人の育手と同じく竈門少年は左近次殿の弟子だ。通例で考えれば2人の継子となる筈だが、2人にその気が無いのならば何の問題も無いだろう。
「うむ! ならば今度1度誘ってみる事にしよう!」
「お、それなら俺様も一枚かませてくれや。あの善逸とかいう奴、髪が金色で派手派手で俺も少し気になっている」
「そうか! では俺と宇髄の2人で声を掛けてみることにしよう!」
2人の許可を得たのならば声を掛けても問題はないだろう。それに竈門少年と隊を組んでいる2人も実に興味深い人材ではある。まぁ本音を言うとカワサキ殿の事もあるが、あの竈門炭治郎という少年には個人的に気になっている事もある。
(あの耳飾――歴代炎柱の書の通りならば……)
日の呼吸の使い手は花札を模した耳飾をしていたと言う……それと同じ物が竈門少年の耳にあった事がどうしても気になっていた。父上も1度話を聞いてみたいと仰っていたし、那田蜘蛛山で下弦とは言え十二鬼月と出会い、それを生き残ったというのが実力なのか、それとも運なのか……それを見極める良い機会だと俺は思うのだった……。
カナエ姉さんのお蔭で炭治郎達とお昼ご飯を食べる事が出来た。私では絶対に誘えなかったので、善逸と伊之助がいても炭治郎と一緒というだけで私は嬉しかった。
「……美味しい。こんな美味しいの初めてだ」
「うっまぁぁああいッ! 何これッ!? ライスカレーってこんなに美味しいのッ!?」
「うまッ! うめえじゃねえかッ!!」
初めてライスカレーを食べる炭治郎達はその味に大興奮という感じで、3人が3人ともとても嬉しそうだ。
「……ぱぁぁあああ」
「そうか、禰豆子も美味しいか! そうかそうか、良かった」
「こくこくこく」
カワサキさんの作る料理は禰豆子ちゃんも食べる事が出来る。普段炭治郎は自分だけが美味しい物を食べるなんてと言ってあんまり物を食べてくれないけど、禰豆子ちゃんも食べれると判ると本当に嬉しそうに笑って料理を食べてくれる。
(……良かった)
鬼殺隊は身体が資本だ。食が細い炭治郎を心配していたけど、この様子なら大丈夫そうだと私は安心し、カレーを口に運んだ。
(美味しい)
作るのを手伝っていたから判るけど、物凄く沢山の香辛料を使っている。カナエ姉さんが言うには、薬になる物も使っているので、食べているだけで健康になると言っていた。
「ふーふー」
「んー汗が出てくるけど、美味しいから手が止まらない!」
「あちい……」
カレーに息を吹きかけて冷まして食べて、それでも身体が暖かくなる。ライスカレーに使われている香辛料の効果らしい。鍛錬や運動するのとは違う心地よい汗を感じながらライスカレーを口に運ぶ。
「……こくこく」
「眠くなったのか、おやすみ。禰豆子」
満腹になったのか舟を漕いでいる禰豆子ちゃんを抱き上げて箱の中に入れてあげる炭治郎。その顔はとても優しくて、見ているだけでとても穏やかな気持ちになる。
「カナヲ、このライスカレーって言うのは凄く美味しいな」
「う、うん。美味しい……」
その笑顔が自分に向けられて、思わずドキリとした。炭治郎が私を励ましてくれたから、私は変わりたいと思った。
「炭治郎。お代わり行こうぜ! もっと食べたいし」
「ああ、そうだな! 伊之助は?」
「行くに決まってるだろ! 俺様に続け、子分共ッ!!」
私が半分も食べ終わってない中、炭治郎達はライスカレーを食べ終えて、お代わりを貰いに行くその後姿を見つめながらライスカレーを口に運んだ。
「……」
さっきはとても美味しいと思っていた。ううん、きっとこのカレーは今も美味しいんだと思う。だけど、なんだろう……。
「あんまり美味しくない……」
凄く美味しい筈なのに、何故か美味しいと思えなかった。炭治郎達がいた時は、凄く美味しくて満ち足りた気持ちになれたのに……何故か美味しいとは思えなかった。
「なんでだろう……」
カワサキさんの料理が美味しくないなんて思うことは無い筈なのに……なんでこんなに美味しくないと思うのかが私には判らなかった。
「今度は卵を乗っけて貰ったんだ!」
「へへ、俺様は海老だ! これ美味いんだよな!」
「カナヲはそのままでいいのか?」
「……私も食べ終わったら、色々乗せてもらおうと思うよ?」
「そっか、カワサキさんの料理はどれも美味しいからどれを乗せてもらっても美味しいよな!」
ぱあっと太陽のように笑う炭治郎を見ながらカレーを口に運んだ。その味はさっきのものよりも美味しく感じて……カナエ姉さんの言葉が脳裏を過ぎった。
【好きな人と一緒にご飯を食べると凄く美味しいのよ?】
お腹だけではなく、気持ちも満たされる。とても幸せな事なのだとカナエ姉さんは私に言っていた……。
「馬鹿馬鹿! なんで黄身を崩さないんだよぉ」
「え、黄身を崩すのか?」
「そりゃそうだろうよお! 全部食べきっちゃう前に黄身をちゃんと崩して食べなよ。炭治郎」
「そうか、じゃあ俺もそうすることにするよ」
「おお、このかれーってのが海老についても美味いんだな!」
騒がしく、それでも凄く楽しそうに食べている炭治郎と善逸と伊之助を見ていると……いや多分違う。楽しそうに食べている炭治郎を見ているからきっと美味しくて、幸せな気持ちになるのだと思う。
(……)
息が苦しくなるくらい胸が早鐘を打っているのが判る……だけどその息苦しさは決して嫌じゃなくて、思わず口元に笑みを浮かべながらカレーを口に運ぶのだった……。
メニュー39 カツ丼に続く
今回は食事描写よりも、食べている鬼滅キャラの会話に力を入れてみました。いつも同じパターンだと飽きが来るかなあと思いこういう風にして見ましたが、反響がよければこういう感じの話も度々入れてみようと思います。次回は杏寿朗さんの初陣という感じの話で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない