【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー39 カツ丼
杏寿朗が最終選別から無事に戻り2日後……杏寿朗の最初の任務が迫ると、当然の事だが瑠火さんや槇寿朗は不安の色をその顔に浮かべ始めていた。なんせ、最初の任務で殉職する可能性は約7割――鬼を見た恐怖で足が竦んだり、鬼が想像以上に強くて返り討ちにあうと言うことは珍しい事ではないらしい……それを知っているからこそ、槇寿朗は杏寿朗なら大丈夫と思っていても不安を隠しきれず、瑠火さんもそわそわとしている……その気持ちは俺にだって判る。自分の子供が自分よりも先に死ぬ……それは何よりも辛いことだ。それでも杏寿朗は槇寿朗のように鬼狩りになる道を選び、そして己を真っ直ぐに鍛えてきた。もうここまで来たら、俺達に出来る事は杏寿朗が無事に戻ってくる事を祈り待つだけだ。
「……とは言っても、ジッとしてはいられんのだなぁ」
頭の中で判っていても、何もしないと言う訳ではない。俺には俺に出来る方法で杏寿朗の任務の成功と、杏寿朗が無事に帰って来る事を祈り1品料理を作らせて貰おうと思う。現にこうして色々考えている間も俺は料理の準備を続けていて、やっと良い具合になったそれを見て小さく笑みを浮かべた。
「良し、OKOK」
鉄鍋の中で揚げていたトンカツを取り出し、包丁で食べやすい大きさに手早く切り分ける。少し中が赤いが、今回はこれで良いのだ。かなり厚めに切り出しているので1回で揚げ切れるとは思っていない。
「カツ丼にするから問題なしっと」
カツ丼は勝つだ。それに卵と米で栄養価もバッチリだ。くだらない験担ぎと言われても、俺に出来るのはこれくらいだ。
(流石にユグドラシルのアイテムを持ち出すわけには行かないしな)
鬼に回収されたり、ユグドラシルのアイテムの明らかに人智を超えた効果が発揮され、杏寿朗が鬼と通じていると言う噂が立っても困る。だから俺に今出来るのは、こうやって料理を作って無事に戻ってきてくれと祈る事だけだ。
「醤油、みりん、砂糖、酒っと」
片手鍋の中に調味料を入れ、1度煮たたせてアルコールを飛ばし、丼タレを作る。普段だったら出汁の中に調味料を入れて作るが、今回は普段よりも少し丁寧に作る。
「合わせ出汁に丼タレを入れて、1度煮立たせて……うん、よしよし」
鰹節と昆布でそれぞれ取った出汁を混ぜた合わせ出汁、丼タレを入れて煮た立たせ味見をする。普段作る物よりも甘みが強いが、今回はこれくらいで丁度良いだろう。玉葱は2mm幅で薄切りにし、出汁の中に入れて煮詰める。
「……どうだろうか、普段より緊張しているかもしれないしな……こっちにしておくか」
普段杏寿朗が使っている丼よりもワンサイズ小さい丼に飯を盛る。足りないと言ってきたらカツはまだあるし、お代わりを作ることも出来るし、お代わりする食欲が無ければ槇寿朗か千寿朗の夕飯にすればいいので、何の問題もない。
「良し、OK」
玉葱がしんなりしてきたらカツを入れて、スプーンで出汁を掬ってトンカツの上に掛けながら煮詰める。衣が十分にタレを吸い込んだら頃合だ。
「軽くまぜてっと……」
卵2個を割り軽く混ぜたら、カツの周りに回し入れる。カツの上に直接掛けないのがポイントだ、卵が半熟になったら蓋をして少し蒸らしたら米の上に滑らせるように乗せて蓋をする。
「漬物、味噌汁、良し。行くか」
今頃自室で精神集中をしているだろう杏寿朗の元に夕食を届ける為、俺は厨を後にするのだった……。
父上の日輪刀よりも赤みが薄い己の日輪刀を前にし禅を組む。普段と同じ何時も通りの精神修養……頭の中で炎の呼吸の型の動きを復習していると、伍ノ型炎虎の所で動きが止まった。
「よもやよもや……初陣というだけでここまで気が乱れるか……」
最終選別の時とは違う、人を喰らい己の力を高めている鬼と戦うというだけで、柄にも無く緊張している。
「……ふーっ」
深く、普段よりも深く息を吐き、全集中の呼吸の精度を高めていると襖が叩かれた。
「杏寿朗。今大丈夫か? 夕飯を持ってきた」
「これはカワサキ殿、かたじけない。今開けます」
襖を開け、カワサキ殿を招き入れる。盆の上には漬物と味噌汁、それと蓋がされた丼が1つ。
「任務の前で緊張してるかもって思って小さめにしておいた」
「お気遣い感謝します」
今日は普段と同じ量は食べられないと思っていたので小さめな丼で丁度良かったとさえ思った。
「今日は何を作ってくれたのですか?」
「験担ぎでカツ丼にしてきた。鬼に勝つでな」
丼の蓋を開けるとふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。そして丼の上には分厚いトンカツと黄色と白の色の兼ね合いが美しい半熟卵……食欲があんまりないと思っていたのに口の中に唾が湧いてくるのが判った。
「いただきますッ!」
作ってくれたカワサキ殿に感謝して丼を持ち上げる。ずしりと重い丼の重さを感じながら箸でトンカツを持ち上げる。分厚く、たっぷりと出汁を吸い込んだトンカツを大きく口を開けて頬張る。衣にたっぷりと出汁が染みこんでいて、甘辛い食欲を誘う味が口いっぱいに広がる。トンカツの弾力も素晴らしく、分厚いのに簡単に噛み切る事が出来た。
「美味いッ!」
「良かった良かった。トンカツはよく作ったが、カツ丼は今日が初めてだろ?」
「はい! 親子丼や牛丼は良く食べましたが、カツ丼は初めてですね!」
カワサキ殿はいろんな物を食べさせてくれたがカツ丼はこれが初めてだと思う。トンカツを頬張り飯をかき込む。
「美味い美味いッ!!!」
さっきまでの不安は何時の間にか消えていた。カワサキ殿は験担ぎと言っていたが、それでもそれが俺の不安を消してくれていた。
「おお! トンカツを食わなくても美味い!」
ふんわりとした卵と出汁を吸い込んだ玉葱。これだけでも味が抜群に良く米をどんどん口の中に頬張り、トンカツを口の中に入れる。歯応えのいい豚肉の食感と脂身の兼ね合いが丁度良く、どんどん米を口の中にかっこむ。
「おいおい、そんなに急いで食うと喉詰まるぞ?」
「大丈夫です!」
トンカツはさくりとした衣が美味いと思っていたが、こうして出汁を吸い込んだ物も絶品なのだと判った。分厚いのに簡単に噛み切れる、だが歯を跳ね返す弾力があり、その弾力を楽しんでいると米がまた食べたくなる。
「おっとと、いかんいかん」
このまま米ばかりを食べていては、トンカツが残ってしまう。1度箸を休め、味噌汁を口に運んだ瞬間思わず叫んでいた。
「わっしょい! わっしょい!! これはさつまいもの味噌汁ではないですか!」
「おう、お前の大好物だ」
赤味噌の濃い味の味噌汁の中に沈んでいるさつまいもは適度な甘さを持っており、カツ丼で重くなった口の中には実に丁度良い。
「うん、美味い! わっしょい! 美味い! わっしょいッ!!!」
トンカツと味噌汁を交互に食べる度に美味いとわっしょいの言葉が交互に口から飛び出し、知らずの内に笑みを浮かべていた。
「あぐッ!! うん! うんうんッ!」
丁寧に作られた出汁に甘めの味付けは俺の舌に良くあった。半熟卵が絡んだ米を食べ、甘く煮られた玉葱と漬物を箸休みにし、甘辛く煮られているトンカツを頬張る。丼を持つ手は徐々に上に上がり、今は口に殆どつけた状態でカツ丼を頬張っていた。
「ふーッ! 美味かったッ!!!」
少し物足りなさを感じたが、空の丼を机の上に戻し蓋を閉める。
「お代わりは? 用意してあるけど?」
お代わり……その言葉に一瞬眉が動いたが首を左右に振った。
「いや、やめておきます! 無事に戻って来たらその時に食べます!」
食い意地が張っていると思われるかもしれないが、無事に帰ってきて何の心配も不安も無く腹一杯カツ丼を食べたい。
「判った。沢山準備しておくよ、少し寝て夜に備えておけよ?」
「はいッ!」
父上と母上とは既に話をしてある。満腹には遠いが十分に膨れている腹を撫でながら目を閉じる……任務まで眠れないと思っていたが、程よい腹の膨れ具合と暖かさを感じながら俺は目を閉じ眠りに落ちた。
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「杏寿朗、無事に帰って来い。お前なら並の鬼に遅れを取る事はないと思うが、慢心せず警戒を緩めるな」
「はいッ!」
父上からの激励の言葉を聞きながら羽織を羽織って、腰に日輪刀を下げる。
「兄上……お気をつけて」
「ああ、案ずるな! 俺は無事に戻る! 絶対にだ!」
今の俺の心は熱く燃えている。不安も恐怖も胸の中に燃え盛る炎で焼き尽くされている。だから怯える事も恐怖する事も無く、日輪刀を振るう事が出来る。
「杏寿朗、気をつけて。待ってますからね」
「ありがとうございます! 母上!」
母上が作ってくれたおにぎりの包みを受け取り荷物の中に入れる。これは鬼を退治し、戻る道中に口にしようと思う。
「気をつけてな。杏寿朗」
カワサキ殿がそう言って拳を突き出してくる。何を意味するのか判らず首を傾げていると、カワサキ殿が苦笑した。
「手出せ」
「こうですか?」
カワサキ殿と同じ様に拳を突き出すと、カワサキ殿と俺の拳がぶつかり合う音が響いた。
「フィスト・バンプっつう海外の挨拶の1種だ。鬼殺隊として戦うお前を尊敬してるぜ、槇寿朗と同じでな。ちゃんと無事に帰って来いよ、杏寿朗」
尊敬……それを言うのならば俺の方だ。何時だって俺も父上も、そして母上もカワサキ殿に助けられている。
「すいません、カワサキ殿。また手を」
「ん? おう」
カワサキ殿に手を突き出してくれるように頼み、今度は俺から拳を打ちつけた。
「俺も貴方を尊敬しています。もっと別の強さをカワサキ殿は俺に教えてくれた」
俺は父上から炎の呼吸を学び、鬼と戦う強さを学んだ。
俺は母上から優しさと人を思いやる心を学んだ
俺はカワサキ殿から己の信念を貫き、そして己ではない誰かの為に振るわれる強さを知った。
「行って来ます!」
火打石の音色を聞きながら俺は煉獄家の門を潜った。今日から俺は鬼殺隊の隊士だ、人を守り、悪鬼を切る父上のような強い隊士になるのだと決意を秘め俺は夕暮れの中を走り出すのだった……。
「煉獄杏寿朗! 今より助太刀するッ!!」
「ま、待て! 煉獄! あいつの血鬼術はッ!!」
「駄目! 無闇に立向かってはッ!」
最終選別で共に戦った男女の同期。そして影の犬のような物から子供を庇っている先輩隊士の横を駆け抜け、横笛を携えた老翁の姿をした鬼へと飛びかかる。
「ワシの笛の音は神経を狂わせる……「おおおおおーーーッ!!!」 なっ!? 糞っ!! 糞っ!! 儂はこれから十二鬼……」
鬼が何かを言って笛を吹いていたが、何がしたかったのか判らないな! 恐らく血鬼術だっただろうが……。俺には何の効果も無かったなッ!! 笛ごと鬼の首を断ち切り、日輪刀を鞘に納めた。
「良しッ! 無事か皆ッ!!!」
あんぐりと口を開けている同期と、信じられない物を見ている目をしている先輩を見て、俺は思わず首を傾げるのだった。
杏寿朗は勿論、カワサキ本人も知る良しも無いが、10年近くカワサキの料理を食べ続けていた杏寿朗は、強い精神・毒耐性を有しており、十二鬼月になることを夢見た、笛鬼のような血鬼術に頼りきりの鬼の天敵となっているのだった……。
そして現在のカワサキの店では、笛鬼との戦いに杏寿朗が割り込んだ事で生存し、順調に力をつけていた同期の男女から杏寿朗の初陣の話を炭治郎達が聞いていて、信じられないと言う顔をしていた。
「と言う事があったんだ」
「煉獄ってなんか判らないけど、血鬼術効果薄いのよ」
「はっは! 褒められると恥ずかしいな! 俺にも理由は全然判らんからな! ただ血鬼術は俺には効きにくいのだ!」
ええっという顔をしている善逸と、凄いという顔をしている炭治郎、そして飯はまだかなと話半分の伊之助の三者三様の反応を見て、同期は溜め息を吐いた。
「お前も変わらんな」
「そうだろうそうだろう」
「褒めてないからね?」
「ん? そうなのか?」
炎柱となった煉獄杏寿朗、そして同期の2人は甲であり、鬼を50体倒した事で柱の条件は満たしているが、柱程の実力はないと今もまだ甲で鬼殺隊に貢献している。
「さてと、じゃ俺はそろそろ行くわ」
「私も、じゃね」
「うむ! 2人とも気をつけてな。夫婦剣(めおとけん)ッ!!」
「「夫婦剣言うなあ!!」」
杏寿朗にそう怒鳴り、同期の2人は逃げるように店を後にした。
「夫婦? あの2人夫婦なんですか?」
「強固な守りの岩田……男のほうだな。それと雷の呼吸の三山の鋭い攻撃で2人で行動している事から、いつからか、夫婦剣と揶揄されるようになったのだッ! ちなみに、結納は済ませてるそうだ」
「ガチの夫婦じゃねえか!?」
揶揄ではなく本物の夫婦と知り、善逸が声を上げた。その声を聞いて杏寿朗は、はっはっはと楽しそうに笑った。
「無惨を倒せば祝言を上げるそうだ。2人には死なずに無事に戦い抜いて欲しい物だな!」
楽しそうに笑う杏寿朗だったが、ぐううっと言う大きな腹の音が響いた。
「俺様も腹が減ったぞ! ぎょろめ! 早く鬼殺隊にとって最高に美味いものってやつを食わせてくれよ!」
「わーわー!? 馬鹿馬鹿ッ!」
「す、すみません! 煉獄さん!」
炎柱である煉獄に失礼な事を言った伊之助に善逸と炭治郎が慌てて謝る。すると伊之助の物よりも大きな腹の音が響いた。
「俺も腹が減ったから気にするな! 今日は鍛錬で腹が空いてるだろう。カワサキ殿に頼んで特別な物を用意してもらったからな! もう少し待て」
杏寿朗がそう言うとカワサキとカナエと沙代が巨大な盆と丼を持ってきた。
「はい、お待たせカツ丼煉獄盛り」
「はい、炭治郎君達は3人で1つの煉獄盛りよね」
「漬物と味噌汁は欲しかったら声を掛けてね」
向かい側に座っている杏寿朗の姿を完全に隠しているカツ丼煉獄盛り、それよりも少ないが十分に山盛りのカツ丼煉獄盛りを前に炭治郎達は完全に思考が停止した。
「いただきます!」
そしてその反対側で嬉しそうな杏寿朗のいただきますと言う声が響いたのだった。
メニュー40 カツ丼 煉獄盛り へ続く
第一話で出たパワーワード。カツ丼煉獄盛りがついに登場です、次回はかまぼこ隊がカツ丼煉獄盛りと戦います! それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない