【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー43 カワサキブートキャンプ(玄弥編) その3
カワサキさんが玄弥の面倒を見ると言って約束した一週間後……おれはカワサキさんの屋敷に続く山道を登っていた。
(1週間で玄弥の奴は諦めただろう)
カワサキさんの鍛錬は厳しいと噂だ。数ヶ月で柱になれるほどだと有名ではあるが、それを突破したのは鬼殺隊最強にして最高齢の煉獄槇寿郎さん、それと行冥さんの2人だけだ。希望者は多いが、甲の階級でも途中で諦める・断念する者が多く、更に継子の為の鍛錬は柱の物より優しいとは言え、その鍛錬の厳しさに継子となるのを諦める者もいると聞く……この鍛錬で玄弥が鬼殺隊に入るのを諦めてくれれば、俺も安心出来る。
「来たか、実弥」
「行冥さん……なんで」
柱であるはずの行冥さんが何故此処にと尋ねる。すると行冥さんは手を合わせて念仏を唱える。
「玄弥はカワサキ殿の技術を覚えたぞ」
「なッ!? カワサキさんは諦めさせてくれたんじゃないのか!?」
カワサキさんだって反対していたのにと何故と思わず声を荒げると行冥さんは違うと首を振った。
「何度も何度も気絶し、何度も何度もそれこそ血反吐を吐いて、その身体と頭に覚えこませた。私とて呼吸を使えない玄弥を隊士にするのは反対ではある。だが、その執念を折るのは難しいぞ」
行冥さんとカワサキさんの予想に反して、意地でカワサキさんの技を盗み、見て覚えたとしてもだ。俺は玄弥が隊士になるのを許すわけには行かない。
「なら俺があきらめさせるまでだぁ」
兄として、玄弥が茨の道に踏み込もうとしているのは止めない訳には行かない。お袋だって同じ意見だ……カワサキさんの元で料理の修業をしてくれたほうが良いって皆思ってる。ここで諦めさせてやると拳を鳴らしながら俺はカワサキさんの屋敷の中に足を踏み入れた。
「実弥……来たか。まずはスマン、予想以上に玄弥は物覚えが良かった。覚えさせるつもりはなかったんだが……」
「いや、カワサキさんは悪くねえよ。悪いのはこの石頭のド馬鹿だぁ」
1週間で信じられない事に玄弥の身長は頭半分ほど伸びていた。それに体も随分とがっしりとしているように見えた。
「兄ちゃん……俺はやっぱり兄ちゃんだけを鬼殺隊にしたくないんだ」
「呼吸も使えないのに生意気言ってんじゃねえ! 鬼殺隊なんか諦めろ! 安全な所で待っててくれれば良いんだ!」
「俺はそれが嫌なんだよッ! それじゃあ兄ちゃんばっかり怪我をするじゃないか!」
「うるせえッ! 俺は大丈夫なんだ。兄貴だからなッ! お前には鬼殺隊が無理だって教えてやるぜッ!」
最早言葉で済む段階は済んでしまった。行冥さんもカワサキさんも関係がない。
「兄ちゃんのわからずやッ!!」
「玄弥の判らずやがぁッ!!!」
互いの意志と意地を通す為の兄弟喧嘩しか俺も玄弥も互いの意見を曲げることはないと判っていた。だがそれでもだ、兄として弟を殴るというのはどうしても耐えがたい苦痛だった。だからせめて一発で諦めさせてやると思いっきり踏み込み拳を突き出した瞬間に凄まじい衝撃と共に俺は大きく後方に弾き飛ばされていた。
「がっぐうっ!?」
「俺だって呼吸が使えなくても色々出来るように覚えたんだッ! そう簡単には諦めないッ!」
全然見えなかった所か、足に来ている。それは紛れも無く1週間前にカワサキさんから食らった技だった……それがどれだけ難しいか、それこそ呼吸を覚えるより難しいかもしれない技術を覚えた。玄弥の本気具合が伝わってくる……だがそれでも、それでもだ!
「玄弥ぁッ! てめえに鬼殺隊は務まらねえッ! 諦めろぉッ!」
「ぐうっ……嫌だッ!!」
玄弥を殴った嫌な拳の感触に顔を顰める間もなく、玄弥の頭突きが胸に入った。
「駄々を捏ねるんじゃねえ! この馬鹿があッ!」
「う、うわああッ!? いっつうッ!?」
胴に腕を回し、玄弥を後方に向かって投げ飛ばす。受身を取れずに地面に叩きつけられて痛いと呻く玄弥。その姿に俺の胸が痛んだが、それでもだ。玄弥を鬼殺隊に入らせないために、俺は玄弥に嫌われても良い、ここで諦めさせるんだと歯を食いしばり、その頭をつかんで地面に叩きつけた。
「いっ! ぐっ、っくないッ!」
「こんなんで痛いなんて思ってたら鬼となんか戦えるかぁッ! 諦めろ玄弥ぁッ!!」
大きく振りかぶった右拳が玄弥の顔面に当たり、玄弥が苦痛に顔を歪めるのを見て拳も心も張り裂けそうに痛んだ。だがそれでも、俺は玄弥を鬼殺隊にする訳には行かないという決意を持って玄弥の前に立ち塞がるのだった。
実弥が鬼の形相……いや、涙を必死に堪えている。その光景を見て俺も胸が痛んだ、正直玄弥に何も教えないという道もあった。だがその場合だと玄弥は諦めなかっただろう。実弥の為に呼吸の才能がないと判っても鬼殺隊になることを諦めず、自分で動き回るほどの行動力もある玄弥だ。いい加減な事を教えればそれに反発するのは目に見えていた、だから基本的な事は教えた。だが口で教える事は無く、痛みによって諦めさせようとした。だが玄弥は諦めず、カウンターをしっかりと覚え殴られても、蹴られても諦める事無く立ち上がり続けている。
「俺はぁ! 兄ちゃんに怪我をして欲しくないんだよッ!」
「兄ちゃんは大丈夫だって言ってるだろうがぁッ!!」
互いに胸の内を吐き出して、それでその先にしか実弥と玄弥は話し合うという事を出来ないだろう。
「行冥。俺は間違っていると思うか?」
「いえ、これが出来る最善だったと思います」
呼吸を使える実弥と使えない玄弥では喧嘩と言う舞台に立つ事も出来ない。最低限喧嘩になる土壌を作り、呼吸に抗えるだけの力を俺は玄弥に持たせたつもりだ。だがそれはあくまで呼吸に対抗出来るかもしれない程度の可能性で、今後甲にあがり柱になろうとしている実弥を相手にするには余りにも力不足のものだ。
「俺は鬼殺隊になるッ! 兄ちゃんのためにもッ!」
「俺を思うなら後を追ってくるなッ! お前の所には俺が鬼なんか行かせねえッ!」
玄弥はもう一杯一杯で攻撃を出すのがやっとだ。それでも食らい付いてくる、それが実弥を1人にさせない為に、自分の知らない所で兄が怪我をするのを耐えられないから……。
「それだったら兄ちゃんはどうなるんだよッ! 俺は、いや俺だけじゃない! 皆兄ちゃんを心配してるんだッ!!」
「っっ! ぐうっ!」
玄弥のアッパー気味のパンチが良い角度で入ったな、実弥の足が揺れ膝をつきかける。だが実弥はそこで踏み止まり、地面を蹴り砕く勢いで踏みしめて玄弥に向かって飛んだ。
「ッ!」
一歩前に出て実弥を迎えに行った玄弥を見て、俺は目を伏せて溜め息を吐いた。
「ごほおっ!?」
響いたのは玄弥の悲鳴で、地面に倒れこむ音が響いた。倒れているのは玄弥、立っているのは実弥。勝者は立っている実弥……ではなかった。
「……ッ」
苦渋に満ちた顔で立ちすくむ実弥。実弥が飛び掛った瞬間に玄弥は実弥を迎えに行った、あのまま拳を繰り出していれば倒れていたのは実弥だろう。だが玄弥は拳を振り切れなかった、カウンターは相手の力を利用する術――実弥の力が全部跳ね返ればと思った瞬間に玄弥は拳を振れなかった。
「カワサキさん、玄弥の奴をここまで強くしなくても良かっただろうに……」
「自分でそこまで登り詰めたんだ。1週間って言う時間でな」
握りこんだ拳は豆だらけ、足の皮はずる剥けている。それだけ玄弥が自分で考え、鍛錬をした証拠だ。
「カワサキさん、俺はどうすれば良いんだ」
「……実弥。お前はもうじき甲に上がれる、柱になり継子として玄弥を迎えると言う道もあるぞ」
行冥の言葉に実弥は考え込む素振りを見せ、気絶している玄弥を抱き上げる。
「部屋を借りても良いですか?」
「ああ、布団を用意しよう。こっちだ」
玄弥と実弥が殴りあう理由になったのは俺だ。看病の道具や布団を用意し、玄弥と実弥だけにする。
「行冥。どうなると思う?」
「実弥が折れるでしょうね。誰でもない実弥が判っているでしょうから」
かなりの荒療治になったが、これで実弥と玄弥のわだかまりがなくなれば良いんだけどなと思いながら玄弥が寝ている部屋の前から俺と行冥は移動するのだった……。
目を覚ました時俺が感じたのは全身に走る凄まじい痛みだった。その痛みに顔を歪めながら身体を起こそうとすると肩に手を置かれ布団に戻された。
「寝てろぉ、玄弥」
「……兄ちゃん」
近くに兄ちゃんが座っているのにも気付かないほどに俺は疲労していた様だ。額からずり落ちた手ぬぐいを見て、兄ちゃんが俺を看病してくれていたのがすぐに判った。
「……俺は玄弥、お前だけじゃあねえ、寿美、貞子、弘、こと、就也……お前達がどこかで所帯を持って家族をたくさん作って爺や婆になるまで生きてくれりゃあそれで良かったんだぁ……そこには俺が鬼なんか絶対に近寄らせねえから……なのになんで、俺を追いかけてきちまうんだ……馬鹿野郎」
「……だってそこに兄ちゃんがいないじゃないか、兄ちゃんがいなかったら……俺達は絶対幸せになんかなれないんだ」
兄ちゃんがどこかで俺達を守ってくれている、どこかで戦っていると思うだけで胸が張り裂けそうなくらいに痛んだ。どこかで死んでしまうんじゃないかと思うと手が震えるほどに怖かった。
「俺の事は良いんだぁ、お前達が幸せなら」
「だから兄ちゃんがいないと俺達は幸せじゃないんだよッ!」
兄ちゃんが誰よりも優しくて強いのを俺達は知ってる。だけどその優しさと強さで誰かを庇ったりして、死んでしまうんじゃないかと言うのが怖くて怖くてしかたなかった。
「鬼殺隊になったら兄貴と弟じゃねえ、それでも良いのか?」
「良いよ、兄ちゃんが1人でどっかで怪我をするくらいなら、それで良い」
きっと兄ちゃんは柱になるだろう、それはカワサキさんと行冥さんが言っていた。俺が鬼と戦えるだけの力を身につける頃には、きっと兄ちゃんは柱になっている。柱になっていれば、一隊士にそこまで気を割くことも出来ない。兄と弟の関係ではなくなると言われても、どこかで兄ちゃんが怪我をするかもしれないのなら、部下でも何でも良い……俺は兄ちゃんの側にいたかった。俺の返答を聞いた兄ちゃんは額に手を当てて、深く深く溜め息を吐いてから顔を上げた。
「……玄弥。俺は柱になる……柱になって、文句を言う奴を全部黙らせて……玄弥を迎えに行く。お袋にも話をする……それまで待てるか?」
「待つよ、俺もっと強くなって待つよ、ううん、追いかけれるだけ強くなるよ」
「……俺の負けだぁ……玄弥、約束だ。俺は絶対に迎えに行くからな」
鬼殺隊の事は口にしなかった。だけど兄ちゃんは俺の意志を尊重し、そして鬼殺隊に入る事を認めてくれた。俺はそれが嬉しくて、でも嬉しいだけでは駄目だ。久しぶりの兄ちゃんとの会話をしながら、もっともっと強くなろうと心に誓うのだった……。
メニュー44 西瓜料理 へ続く
今回は料理描写なしで実弥さんと玄弥のやり取りと見ていたカワサキと行冥さんの話でした。そして次回はパンドン様のリクエストでまだまだ実弥、玄弥押しで行こうと思います。今回は短い話でしたので、次回はもっとボリュームを増やして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
PS カワサキさんがオラリオにいるのはのアンケートについて
アンケートは1ヶ月くらいで考えておりますが、期間が終わる前に1度読み切りを投稿したいと思っていますのでそれも判断材料にしてもらえるととてもありがたいです。
来週までには準備したいと思っていますので、もう少しお待ちください。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない