【休載】生きたければ飯を食え Ver鬼滅の刃 作:混沌の魔法使い
メニュー44 西瓜料理
五月蝿いくらいの蝉の鳴き声を聞きながら、額に汗を浮かべ山をゆっくりと登る。いや、ゆっくりとしか俺は登れなかった……。
「ふーふーッ」
「んぐうっ!」
「この程度で根を上げるな、これも鍛錬だ」
カワサキさんの所で玄弥が世話になってそろそろ半年経つ、まだ柱には成れていないが玄弥の訓練具合を見るためにカワサキさんの屋敷に向かうと炎柱槇寿郎様とその息子で甲の階級の杏寿郎に会い、どうせ会ったのならと鍛錬をしながらカワサキさんの屋敷に向かっているのだが、背中に篭を背負い、一定時間ごとに重りを増やしながら山を登るのは流石にきつい。
「重石を増やすぞ、しっかりと足を地面につけ、確実に地面を蹴りこむつもりで登るのだ」
「「うっ」」
俺達の倍近い重りを背負い汗1つ無い槇寿郎様の手で篭の中に石を入れられる。その重さにひっくり返りかけるがしっかりと体重移動をして踏み止まる。
「呼吸をしっかりと整えるのだ。身体の、足の、指の先までしっかりと意識し、己の支配下におくのだ」
「「は、はい……」」
滴り落ちる汗と呼吸を使ってはいけないと言う条件が身体を軋ませる――それでもカワサキさんの屋敷はあと少し、俺は気合を入れて一歩一歩ゆっくりと山を登る。カワサキさんの屋敷が視界に入ると何かを叩く音が響いてくる、一体何をしているのかと思いながら屋敷の門を潜ると大木に皮袋を吊るし、玄弥がそれに拳を打ちつけていた。
「うっ」
「踏み込みが甘い上に力を入れすぎだ。疲れてもしっかり腰を入れて、地面をしっかりと蹴りこんで体重移動を確実にだ」
「は、はいッ!! シッ!」
強烈な打撃音を響かせて皮袋が跳ね上がる。見たところ、かなりの重量だ……一貫はあるかもしれない、それを呼吸もなしにあれだけ跳ね上げる光景を見て、どれだけ玄弥が努力したのかが一目で判る。
「カワサキ。来たぞ」
「ん? おう、いらっしゃい。お、槇寿郎だけじゃなくて杏寿郎と実弥も一緒か。お疲れ様」
カワサキさんが俺の名前を呼ぶと一心不乱に皮袋に打撃をしていた玄弥もその手を止めてこちらに顔を向ける。
「槇寿朗様、杏寿郎さん、兄ちゃん。いらっしゃい」
カワサキさんの所で修行を始めてから玄弥の奴随分と背が伸びたな、それにかなり身体が絞まっているのが一目でわかる。それだけ厳しくカワサキさんに訓練を受けているという事だろう。
「カワサキ殿、今日はお呼びして貰いありがとうございます!」
「なーに、西瓜がかなり出来たからな、今日は美味いおやつを食わせてやるから楽しみにしてろよ」
「はいッ!」
おやつ? 俺は玄弥の様子を見に来たのでそれは知らなかったが、来てしまったのは迷惑だったかもしれない。
「迷惑とか思わなくて良いぞ、実弥。準備はちゃんとしてあるからな、じゃあ俺は準備をしてくる。槇寿郎は訓練とかしたかったら、道具は好きに使ってくれて構わないぞ」
「ああ、元よりそのつもりだ。すこし騒がしくなるが良いか?」
「んなもん気にしないぜ。好きに使ってくれ」
そう笑って手を振りカワサキさんは厨に向かって歩いていき、俺達は色んな道具が置かれている庭に残された。
(……なんだありゃあ……)
皮袋だけではなく、麻縄に持ち手をつけたものや、骨のような物の両脇に重石がつけられている物、本当にいろいろな道具が置かれている。
「玄弥君。そのさんどばっぐだったか? 俺も使っても構わないか?」
「あ、はい! どうぞッ! あ、手に包帯を巻きますか?」
「いや、良い。その程度で皮が剥けるほど柔な鍛錬はしていない、杏寿郎、実弥。俺の次はお前達だ、よく見ておけ」
着物の上を肌蹴させ、皮袋の前に立った槇寿郎様が握り拳を作る。そして鋭く踏み込んだと思った瞬間、皮袋が真上に跳ね上げられた。玄弥は後ろだったが、真上に跳ね上げるのにどれだけの筋力と瞬発力がいるのかと俺も煉獄も驚きを隠せなかった。
「あ、兄ちゃん。手出してくれる? 包帯巻かないと手の皮が剥けて痛いから、最初は巻いておいたほうが良いと思う」
「お、おう。すまねえな」
玄弥に手に包帯を巻かれながらも、俺と煉獄の目は皮袋に拳を繰り出している槇寿朗様に向けられていた。1発1発の音が重いのに、その手はまるで見えない。速さと重さの両立――鬼殺隊だから剣術だけを修めればいいという者は多いが、俺はそうではないと思っているし、行冥様も体術の訓練をしている。剣術だけではなく、体術も必要不可欠の技量の1つだ。
「ふんッ!!」
まるで大砲が撃たれたような音が響き、皮袋が大きく揺れる。額だけではなく、全身から汗を流している槇寿朗様が手ぬぐいで汗を拭いこちらを見る。
「杏寿郎来い」
「はいッ!」
「これは皮が固く、そして重い。力任せに打ち込めば、その重さと硬さで己を痛める事になる。打撃を当てる場所をしっかりと見極めるのだ」
「はいッ!!」
杏寿郎が気合を入れた様子で拳を突き出すが皮袋は殆ど動かず、痛みに顔を歪めているのが分かる。
「鬼を殴っていると思うと良い。鬼の身体はこれよりも尚硬いぞ」
「っ……はいッ!!」
玄弥の様子を見に来ただけのつもりだったが、こうして槇寿郎様に鍛錬を見てもらえるとはついている。俺はそんなことを考えながら、ジッと煉獄の鍛錬の様子に目を向けるのだった……。
氷室から取り出した瓶の蓋を開け、その中に並々と注がれているシロップを1口舐める。
「うし、完璧」
夏真っ盛りになり、西瓜も出来たという事で俺はある料理を作る事を決めていた。玄弥から実弥が西瓜とおはぎが好きだって聞いたからその段階で8分決まっていた。
「フルーツ漬けは完璧だな」
メロンと林檎とキウイとパイナップルに苺に葡萄を水と砂糖、そしてレモン汁で作ったシロップに漬け込んで3日――果物本来の甘みと酸味にシロップの甘さが加えられたこれは間違いなく大正時代では高級品と言えるだろう。
「さーてやるか」
ボウルの中に白玉粉を入れ、水を少しずつ加えながら耳たぶくらいの固さになるように混ぜる。丁度良い固さになったら砂糖を加えて全体を良く混ぜ合わせ、1口大の大きさに白玉を丸める。皆かなり物を食べるので大目に作る事にする、残ったら白玉ぜんざいとかにしてカナエ達の所に差し入れすれば良いし、作り過ぎても何の問題も無い。
「よっと」
白玉団子が出来たら沸騰した湯の中に入れて茹でる。浮き上がってきたら、それから更に1~2分茹でたらおたまで掬い冷水の中に入れて冷やす。
「元気良いなあ」
庭から聞こえて来る威勢の良い掛け声を聞きながらアイテムボックスから取り出したナタデココをボウルの中に移す。ユグドラシル時代にお目当ての調理器具や食材が出るまでガチャしまくったのがこんな所で役に立つとか、人生何があるか判らないものだとつくづくそう思う。
「じゃあ取ってくるか」
井戸水で冷やしておいた小玉西瓜を取りに行く、冷たい井戸水で冷やしてあるので皮に触れただけでも冷たいのがよく判る。鍛錬で汗をかいた後に食べれば、汗も引くし、身体も冷える。おやつに最適だよなと心からそう思う。
「よっとッ!」
小玉西瓜を半分に切り、包丁からぺティナイフに持ち替えて西瓜の周りをギザギザに飾り包丁を入れる。
「まぁ本職じゃないしなぁ」
出来ると極めているでは余りにも完成度が違うが……まぁ俺に出来るのはこれくらいという事で許して貰うとしよう。ぺティナイフを置いて今度は軽量スプーンを手に取り、ぐっと果肉に突き入れて丸く円を描くように回転させると西瓜の果肉が真ん丸になる。
「完璧」
この調子でどんどん西瓜の中身を切り抜き、器を作ったらフルーツのシロップ漬け、西瓜の果肉、白玉、ナタデココをその中に盛り付ける。全員分完成したら1度魔法で氷過ぎない温度に冷やして、サイダーと共にお盆の上に乗せて縁側に出る。
「おーい、おやつが出来たぞー。1回汗を流して休憩だー」
庭で鍛錬している槇寿朗達にそう声を掛けると、井戸水を汲んで手ぬぐいで汗を拭い、槇寿朗達は縁側に向かってゆっくりと歩いてくるのだった。
カワサキさんが今日は珍しいおやつを作ると言っていたけど、縁側に用意されている物を見て思わず声を上げた。
「これは西瓜、はは、西瓜を入れ物にするとは流石はカワサキ殿だな!」
「器用な物だな」
カワサキさんの手伝いをして屋敷の裏の畑で育てていた西瓜、その中身をくり貫いて入れ物にするってその発想に驚いた。
「へえ。こいつぁ美味そうだなぁ……この西瓜はお前が育てた奴か?」
「うん! カワサキさんの手伝いをしただけだけどね」
草むしりとか、水をあげるくらいだったから育てたって言われると正直不安なんだけど、手伝いをしたと言うのは間違いない。
「ではカワサキ殿! いただきます!」
「待て待て。これはまだ完成じゃないんだ」
完成じゃない? 俺達が首を傾げているとカワサキさんは透明な水がはいっているような瓶を取り出した。そしてそれが器の中に入れられるとしゅわーっと言う音を立てて泡が広がる。
「炭酸水か、珍しいな」
「そうだろ? よーっく冷やしてあるから美味いぞ。さ、食べてくれ」
炭酸水なんて珍しい物をこんな風に使うなんて思ってもみなかった。西洋ではこういうおやつが一般的なのだろうかと思いながら匙を手にして、いただきますと言って匙を器の中に入れる。
「美味い! うむ! これは美味いッ!!」
杏寿郎さんが美味いと叫ぶ声にびっくりしながら、1番最初に目に付いたメロンを掬って口に運ぶ。
「んッ」
「ははぁ、この味はおもしれえ」
炭酸水の刺激と果物の甘さが口の中で弾ける様だ。餡子を使ったドラ焼きや饅頭とは違う甘さだけど、その甘さと冷たさが火照った身体に実に心地いい。
「カワサキ、これはなんだ? こんにゃくか?」
「いや違う、ナタデココって言う物だ。ココナッツって言う南国のほうの木の実の果汁を発酵させて作るもんだ」
木の実の果汁がこんな風に固まるのかと驚き、どんな味なのか興味を隠し切れず口に運ぶ。
「ん、んん?」
汁と炭酸水の甘みが中に染みこんでいるが、味はあんまりしない。それなのに美味しいと思う……凄く不思議な味だ。
「味がしないのに美味い! なんだこれは!」
「面白いな、この歯ごたえが癖になる」
「……うめえ」
味が無いのに美味いと思うという未知の味に俺達全員が驚いているとカワサキさんはカカカっと楽しそうに笑う。
「食感も美味いと思うのに重要な要素って事だ。果物も美味いだろ?」
「美味いです。それに丸くて、面白いですね。これ」
兄ちゃんが敬語でカワサキさんに言うとカワサキさんはまた楽しそうに笑いながら無理に敬語じゃなくて良いぞと笑う。
「どうやって丸くしているのですか? これは千寿朗も喜びそうなので作り方を是非!」
「そう難しいもんじゃないさ。匙を果肉の中に突っ込んで丸くくり貫くだけだからな、あと千寿朗と瑠火さんの分は氷を入れた入れ物に用意してあるから」
「む、すまないな。カワサキ、迷惑を掛ける」
「気にするな。実弥も匡近の分を用意してるから、ちゃんと帰りに持って帰ってくれるか?」
「ありがとうございます」
俺達が食べる分だけでは無く、土産も用意してくれているとか本当にカワサキさんは優しくて気が利く人だと思う。
「冷たい白玉も美味しいですね」
「暑いからさ。暑い時に良く冷えた果物ほど美味い物はない」
蝉の鳴き声を聞きながら縁側に座って冷たい果物を使ったおやつを食べる……確かに寒い時に食べてもこれほど美味いとは思わないだろうなあと思いながら黄色い果物を口に運ぶ……甘酸っぱいその独特な味は少し苦手な味と言っても良いのだが、炭酸水のほのかな甘みと口の中ではじける食感が合わさると物凄く美味く感じる。
「こんなに美味くて贅沢な物を食えるとは思ってなかったなあ」
「美味いッ!!!」
これだけの果物と炭酸水、丸のままの西瓜――確かにこれを食べようと思うと凄い高いのではないだろうか? そんな不安を感じて口に運んでいた手が止まる。
「馬鹿、んなもん気にしないで食えば良いんだよ。お代わりの分だってまだあるんだからな」
「ではおかわりを!」
おかわりの分があると聞くと即座におかわりを頼む杏寿郎さん。俺と兄ちゃんは揃って空の西瓜の入れ物の中を見て、少し悩んだ後に口を開いた。
「もう一杯貰っても良いですか?」
「少なめで良いので……お願いします」
俺達の言葉にカワサキさんは柔らかく微笑み、次の分の準備を始めてくれるのだった……。カワサキの作ったフルーツポンチは夏場の鬼殺隊の風物詩の1つとなった。
「おら、しっかり畑を耕すんだ」
「分かってるって、ふー……」
「よいしょおッ!!」
まだ呼吸の扱いが未熟な若い隊士、隠等が一丸となり畑を耕し種を植える。そこに隊士や隠、階級といった違いはなく、みな等しく泥に紛れ、腕捲りをして畑作業に集中する。
「うむ! みな頑張っているようだな! 感心感心!」
「地味な仕事だが、この祭りの神も手伝うとするか!」
「南無阿弥陀仏」
「はーい、皆さん頑張ってくださいねー」
柱達も混じり行なわれるこの畑仕事は、自分は呼吸が使えるから隠よりも偉いんだと思い違いをしている若い、それこそ入隊したばかりの隊士の勘違いを矯正する為の物であり、鬼を倒すという願いと思いの前に階級の差などはなく、ましてや差別などはしてはならないという事を教える為の物だ。なんで俺達が畑仕事なんてと言っていた若い隊士達は柱達が作業している姿に驚き、睨まれてその身体をびくりと竦める。
「おいてめぇら何をさぼってやがるんだぁ?」
「鬼をまともに倒してもいないくせに自分達は隠とは違うとでも驕っているのか? 隠がいて俺達が鬼殺を出来るという事さえも判らないのか貴様らは」
「……早くやれ」
「自分達が助けられている事すらも分からないのか! そんな驕りは捨ててしまえ!」
「「「は、はいッ!!!」」」
何も言わず当然のように畑仕事を手伝っている有一郎、無一郎に加えて柱が全員揃って手伝っていると言う光景を見て、作業をさぼっていた隊士達も慌てて畑仕事の手伝いを始める。
「♪~」
そんな光景を前にカワサキは手伝ってくれた隊士に振舞う為の料理の準備を続け、みなが一丸になって畑仕事をしているのを見てお館様が畑に突撃しようとするのをあまね達が止めたりと、鬼殺の合間の穏やかな時間がゆっくりと流れているのだった……。
メニュー45 蝶屋敷への差し入れ へと続く
柱も隠も隊士も関係なく畑仕事をすれば、みな一丸になる(暴論)。隠を見下すとか駄目絶対ってことですね、近代式トレーニングで風柱の大胸筋が更に大変な事になってるかもしれませんが、うん、きっと大丈夫ですね。次回は蝶屋敷の面子を出して、また穏やかな感じで話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
カワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない