「ただいま~今帰ったよ。」
私が少し大きめの声を出しながら玄関に踏み入れるとほぼ同時に満面の笑みを浮かべた愛しのことりが走ってきて
「お帰り~♡」
出迎えの言葉と共に、ボスっという心地よい音を立てて私の胸に飛び込んできた。
この出迎えのスタイルはことりが小さい頃から繰り返されているが、毎度私の心を癒してくれる。
特に抱き着いてきたことりの頭をよしよしと撫でるこの瞬間がとんでもなく幸せを感じるのだ。
しかし最近はことりが大きくなってきた影響もあり、飛び込んできた際に受ける衝撃が腰に来ているということは内緒だ。
このことりの出迎えを毎日見られるのなら腰の一つや二つくれてやるというものだ。
「ただいま、ことり。でも危ないから家の中では走ったらだめだよ? ことりが怪我でもしたら、パパどうにかなっちゃうからね。」
「ごめんなさい・・・でも早くパパに会いたくて。」
なんということだ、ことりがシュンとしてしまったではないか・・・。
しかも、走っていた理由がとんでもなく嬉しいのに逆にことりを悲しませてしまうなんて・・・。
よく、子供を叱るのも教育だなんていうが、そんな教育なんて滅んでしまえばいいとつくづく実感するよ。
しかし、私もことりを立派に育てるためにも心を鬼にしなくては。
・・・許してくれ、ことりよ。
「ことり、パパも早くことりに会いたいけどね、それは元気なことりなんだよ? 辛いかもしれないが、分かってくれ。」
「うぅ・・・でも、ことりパパに早く会いたいよぉ・・・。」
「よし、じゃあ今度からはパパがダッシュでことりのもとに走ろうかな? パパが走る分にはオーケーだ。」
泣きそうな声でそんなことを言われてしまえば何とかしないといけないのが父親というものだ。
それに私だってことりに早く会いたいのだ。
「あなた! 馬鹿なことを言わないで頂戴!」
「ママ、ただいま。」
「・・・おかえりなさい。」
ことりとは対照的に少し怒り気味で私を出迎えてくれたのは、ママだ。
どんなに怒っていても挨拶をしっかり返してくれるところは、毎度愛おしさを感じてしまう。
「あなた、前にも同じこと言って、本当に家の中で走って、思い切り転んだじゃないの! しかもそのせいで、捻挫になっていたでしょう!」
「・・・ママ、分かっているさ。今度はきちんとストレッチを欠かさないつもりさ。」
「そういう問題じゃないわよ!」
だめだな、最近ママを怒らせてばかりだ・・・。
一番の問題は、なぜママが怒っているかが分からない点だ。
もしかしたら、私は父親以前に夫失格なのかもしれない。
「分かったよママ。」
「分かってくれたの?」
「ああ、走るのは諦めて早足スタイルでいくとしよう。」
「全然分かっていないじゃないの!」
「え・・・走らなければオーケーじゃないのかい?」
「あなたは小学生なの?」
・・・だめだ、まったく分からない。
いや、きっとママが怒っているのには理由があるはずなんだ、考えるんだ。
「あ、あなたが怪我をしたら私が、い、嫌なのよ//」
私が一生懸命考えたせいか、ママ言ったことを聞き逃してしまった。
何かを言っていたのには気付いたが何を言われていたかは分からなかった。
愛する妻の言葉を聞き逃すなんて・・・。
「すまない、ママ。今なんて言ったかな?」
「・・・もういいわよっ! 知らないっ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、いったい何をそんなに怒っているんだい? 更年期なのかい?」
「うるさいわね! あなたなんて走って転んじゃえばいいのよ!」
そう言ってママは自分の部屋に行ってしまった。
・・・転んだら、だめじゃないのか?
私が呆然とそこで立ち尽くしていると、ことりが私の胸に顔をうずめてごそごそしていた。
「・・・ことり? 毎回思うんだが、なぜパパの匂いを嗅いでいるんだい?」
そう、ことりは毎日、出迎えた際私に抱き着くのが習慣となっているが、その際必ず匂いを嗅ぐのだ。
・・・もしかして私は臭いのだろうか?
リセッシュを買う必要があるかもしれない、いや、ファブリーズの方がいいだろうか?
「ふぅ・・・、この僅かに服に染みついているちょっと匂う加齢臭は穂乃果ちゃんのお父さんと会ってたんだね?」
「そうだが、よくわかったね?」
「うん、穂乃果ちゃんのお父さんはちょっと匂うからね。」
「・・・そうなのか、本人は気にしているらしいから、絶対に言わないでやってくれ。」
「うん♪ でもよかった、女性と会ってたわけじゃなくて・・・。」
後半の方にことりがボソッと喋った気がしたが小さな声で聞きとれなかった。
そのため、ことりに何を言ったのか聞き返すが、
「ううん? 別になんでもないよ♪」
とのことだ。
ことりがそう言うのならいいのだろう。
「ところで、ことり。パパはその・・・匂うかい?」
「うん♪ でもとってもいい匂いだよ! 私はパパの匂い大好き♪」
「ははは、そうかそうか。ファブリーズはなしだな。」
うん♪ と言われた瞬間、心臓が握り潰されるかと思ったよ。
しかし世の中の父親はこういう時、臭いと言わているのか・・・。
世の中の父親の皆さんには顔が上がらないよ、まったく。
「ふぅ、じゃあパパはお風呂に入ろうかな。」
「うん♪ じゃあ早速お風呂に行こう?」
当然のように一緒にお風呂に入ろうとしてくることり。
今までの私ならそのままことりといつもと同じようにお風呂に入っていただろうが・・・。
今日、高坂さんと喋って、高校2年生の娘とお風呂に入ることは普通ではないという情報を得たのだ。
ことりとお風呂に入れなくなることは、とてま悲しいことだが、これもことりを親離れさせるため・・・。
「ことり、残念なことを伝えなければいけないんだ・・・。」
「どうしたの?」
「今日からことりと一緒にお風呂に入ることができないんだ。」
「やっ!」
困ったことにことりは可愛く否定の意思を告げると私に抱き着いている腕に力を込めてきて、絶対に一緒にお風呂に入るぞと言わんばかりの姿勢を見せてきた。
個人的には、とても嬉しいのだがこれもことりのため、そう、ことりのため・・・。
「ことり・・・つらいだろうが、我慢してくれないか? 高校2年生の娘とお風呂に入ることは、もはや犯罪らしいんだよ。パパ、知らない間に犯罪者になっていたらしいんだ。」
「・・・それって誰に聞いたの?」
「高坂さんだが、それがどうかしたのかい?」
急に、いつもの声より低く、どことなく凄みを感じさせることりに怖じ気つつも努めて冷静を装う。
時々、ことりはこうなってしまうんだが、何なのだろうか?
・・・はっ、もしかしたら反抗期なのか?
そうであったら何かお祝いをしなくちゃいけないな・・・。
ようやくことりに反抗期が来たのだから。
「パパ♪ ことり用事を思い出したからちょっとだけお風呂に入るのを待ってもらってもいい?」
「それは、構わないがどうしたんだい?」
「ううん、別に大したことじゃないよ?」
そう言うと、ことりは何やらスマホを操作しながら自分の部屋に入って行ってしまった。
・・・一体どうしたのだろうか?
~5分後~
「・・・すまん、今日高校2年生の娘とお風呂に入るのは犯罪とか言ったが、あれは撤回する。」
「・・・それは分かりましたが、なぜ泣いているのですか?」
部屋から出てきたことりはなぜか、穂乃果ちゃんのお父さんから話があるみたいだよ、と言ってスマホを渡してきた。
既に通話状態になっていたスマホを耳に当てると、先ほどまで一緒に飲んでいた高坂さんが、泣きながら先ほどのセリフを突然言ってきたのだ。
・・・一体何があったんだ。
というより、なぜことりが高坂さんと電話を・・・。
「・・・いや、気にしないでくれ。加齢臭がキツイ俺は今から一人で二次会にでも行ってくるよ。」
「・・・あの、そこまで気になるならファブリーズとか買ったらいかがですか?」
「うるせぇっ!!」
そう怒鳴られて電話は切られてしまった。
・・・まったく、今日は怒られてばかりだな。
「穂乃果ちゃんのお父さんなんだって??」
にこにことした笑顔を浮かべることりが私にそう問いかけてくる。
今の一連の流れは謎が多いが、一つだけはっきりしたことがある。
「ことり・・・どうやら、お風呂には一緒に入っていいらしいぞ?」
「やった~♪ じゃあこれで問題なく一緒にお風呂に入れるね♡」
「ああ、よし、今日は贅沢にバブ二つ入れちゃおうか。」
「わ~い♪」
その後、ことりと楽しい入浴を満喫した。
しかし、高坂さんも人が悪い。
勘違いとはいえ、お風呂に一緒に入るのはダメなんて嘘を言ってくるのだから。
だが、これからは安心してことりとお風呂を楽しめるのだからよしとしよう。
しかしママを怒らせているのは、どうにかしないといけないな。
後、ことりの親離れについても色々と対策をしなければ。
色々調べて試していくか・・・。
つづく
というわけで第二話でした!
結構、話を考えるのが面白くなってきたので続きを更新していこうと思います。
また、早速お気に入り登録して頂いた方ありがとうございます!
では、また次話でお会いしましょう!