妻と娘の前で涙を流してしまってから、一日がたった
昨日の様に、無様な姿を二度とさらさない為にも、今日は何としてでも父親のあるべき姿というものを見つけ出さなければ。
そのために、私は今日、ことりとママが通う学校に来たのだ。
有給を取り、ここまで来たのだ、絶対に無駄にはできない。
ちなみに、ことりとママには私が来ていることは内緒だ。
今日の目的は、ことりが属するスクールアイドルのミューズの人たちとコンタクトをとり、家の外でのことりのことについて知ることだからだ。
学校でのことりの様子を見たい気持ちもあるが、ここは我慢だ。
親離れをしないことりとの適切な距離感を保つためには、ことりのことについて、もっと理解しなければ。
そにしても、懐かしいな・・・
時刻は、3時半
既に放課後となったのか、校門からはチラホラと帰路につく生徒の子達が見え始めた。
そして、校庭のほうからは、部活動に精を出している、活気に満ちた元気な声が聞こえてきた。
・・・この雰囲気、私が若い時を思い出すよ。
おっと、いけない。
思い出に浸るのが今日の目的ではない。
ちゃんと、ミューズの人たちが来ていないか監視しなくてはな。
私は、校門から少し離れた―しかし校門はばっちり監視できる―位置にて、待機中である。
ちなみに、ことりは今日、部活は休みだが生徒会の仕事があるらしく、帰りが遅くなると朝に言っていた。
穂乃果ちゃんと海未ちゃんも同様に生徒会らしいから、この三人は、全員帰りが遅くなるのだろう。
本音を言えば、ことりと付き合いが長い、穂乃果ちゃんや海未ちゃんに意見を聞きたかったのだが、仕方がないだろう。
直接会ったことはないが、他の6人に聞くことにしよう。
そう計画を練り、校門を監視し続けるが
・・・ふむ、何やら先ほどから視線を感じるな
そう、校門から出てきた生徒たちが私の方をちらちら見ながら何やらヒソヒソと呟いているのだ。
私が視線を向けると「キャー//」「こっち見た//」なんて言って騒いでいるのだが・・・
・・・まさか
ある一つの可能性が頭に浮かび、冷や汗がたらりと私の顔をなぞる。
いや、しかし・・・だが、この構図
・・・あり得るかもしれない。
変質者と思われているのでは??
・・・まずいな、これで警察になんか通報されれば、父親どころか人としての尊厳を失ってしまう。
しかもこの学校の理事長をしているママに莫大な迷惑がかかるだろう。
非常に困ったね・・・。
・・・出直すか?
非情な現実に私はそんなことを考えるが
いや
ここで諦めては私が真に父親として振舞える日は二度と来ない。
そんな気がする。
もう少し・・・
もう少しだけ粘ろう。
そんな私の決意に応えてくれたように、校門から、見覚えのある生徒が一人、出てくるのが見えた。
あの子は確かにミューズの一員だ。
ライブ映像で見た子と同じだ。
きっちりアイロンがかけられた学校指定の制服である紺色のブレザーとチェック柄のスカートに身を包んだ少女がこちらにやってきた。
ことりの制服と異なるのは、そのリボンの色。
緑色であるから、確か3年生・・・だったかな?
母性を感じさせるおっとりした顔立ちであり、長い紫がかった髪を二つに分けてくくった姿が特徴的だ。
確かあの子の名前は・・・
東條 希さんだ。
間違いない、こう見えても記憶力には自信があるんだ。
しかし
どうしてあの子はあんなにも・・・
―――――――――――――――――――――
・・・はあ
みんな今日は用事あるんか・・・
放課後になり、周りが「この後なにする?」「部活行こう!」などと、元気な声が飛び交う中、その間をすり抜けるように、靴箱に向かい、そのまま帰宅の道につく。
今日は、楽しい部活が休みであり、それならばと、親友であるえりちとにっこちにも声をかけたけど、二人とも今日は用事があるからと断られてしまった。
1年生の子達は3人で遊ぶって言ってたし、2年生の3人も生徒会ときた。
最近のうちは、人生の中でも一番充実していると言っても過言ではないと思っている。
それは、もちろん『ミューズ』の存在が大きい。
大好きなメンバーと同じ目標に向かって切磋琢磨するこの日常がうちはとても大好きだった。
練習は、正直キツイ。
海未ちゃんやえりちが作ってくるメニューは、思わず逃げ出したくなるようなものばかりだが、しかし、それをみんなで乗り越え、ライブを成功させたときのあの喜びを得られることがたまらなく楽しいのだ。
だからこそだ
そんな、充実した毎日を送っているせいだからこそ気付いてしまう
うちは・・・いや、私は一人だと何もできない・・・
現にミューズの人たちがいない私は、今こうして一人寂しく帰宅についている。
転校続きだった為、友達がいないのは昔からのことであり、慣れっこだと思っていた。
でも・・・
あかんなぁ・・・
人は、一度いい思いをしてしまうともう元には戻れないなんて言うけど
ほんまにそうやわ・・・
今、こうして一人でいることがたまらなく寂しいと感じてしまうし、家に帰っても一人暮らしの為、大好きなママもパパもいない・・・。
・・・こんなことやったら、バイトでも入れたらよかったわ。
そんな、負の感情を垂れ流しながら、力なく歩いていた時だった。
前方からザワザワと何やら騒ぎ声が聞こえてきた。
「キャーキャー//」と黄色い声援のようなものが聞こえるが、いったい、何事だろうか?
好奇心にかられ、地面に向けていた視線をゆっくりと前方へと移す。
そこには、
・・・え? 何あの人??
180以上は確実にあるであろう高い身長、すらりとした細い足。
清潔感のある無地の白シャツに黒いジャケット、細めのデニムに身を包み、足には、磨かれた黒い艶を出す革靴。
灰色かかった手入れの行き届いた髪、小さな顔、大きな目、そして温和な表情を浮かべるその人は、まるでどこかのモデル雑誌から出てきたような現実離れした存在だった。
め、めっちゃイケメンやん・・・。
そりゃ、まわりの女子も「きゃーきゃー」言うわ・・・。
えりちもモデルみたいやと思ってたけど、なんかレベルが違うな。
それほど目に映る男の人は、なんというのだろう圧倒的なオーラ?を出していた。
・・・でも、何やろ。
あの人、こっちに向かって歩いて来てない??
改めてその男の人を見ると、明らかにこっちを見て、こっちに向かってきているんですが・・・。
え、ちょっと待って!?
なんか周りの生徒も、みんな男の人に注目してるから軽いショーみたいになってるんやけど!?
あまりに急な出来事にわたわたしていると、とうとう男の人が目の前に立ち、
「こんにちは、君は東條希さんだね?」
少し、しゃがみ、うちに目線を合わせたその人は、にっこりと、穏やかで優しさを感じさせる声色で、そう挨拶をしてきた。
「ひゃ、ひゃい///」
当然、こんな映画の主演をはれるような人に声をかけられたら、こうなるだろう。
うん、うちは、おかしくない。
・・・うん、顔めっちゃ赤くなってるのが分かるわ。
いや、そもそも男の人と喋ること自体久しぶりやし・・・。
「ははは、よっかた、間違っていたらどうしようかと思ったよ。」
男の人は、そんな風に楽し気に笑う。
笑った顔も凄くかっこいい・・・って// うちは何を言ってるんや!?
「それで、急で申し訳ないんだが、もしよければ今から少し私に時間を頂けないだろうか?」
「・・・え? ええ//!?」
こ、こここ、これは、もしかしえてナンパというやつ??
い、いやいやいや、考えるんや。
こんなん、絶対おかしい。
そうや、こんな急に放課後に超絶イケメンの人に声かけられるとかあり得へんやろ。
「そ、その・・・ど、どうして、うちを??」
とりあえず、そう質問を投げてみる。
その言葉を聞いた男の人は、温和な表情だったのが、キっと真剣な表情になった。
・・・うわぁ、いちいちかっこいいな//
こちらが、ドキマギしているのを知ってか知らずか、その男の人は、急にうちの手を取り、
「君じゃないと、だめなんだ。少しでいいんだ・・・だめだろうか?」
~~~~っ!!??
よく、小説なんかで、体に電流が流れたような錯覚に陥るといった表現を使われることがあるが、まさにそれだ。
高鳴る鼓動を感じつつ、気付けばこう答えていた。
「ま、まあ・・・少しなら//」
つづく
はい、5話読んで頂いてありがとうございます!
というわけで、しばらく、ことりちゃんにはお休み頂き、ミューズとの関りを描いていこうと思います!
これを通じてことりパパのことも知っていただければなと思います!
では、また次話でお会いしましょう!