・・・よかった
急な誘いであったので、断られる可能性もあると思ったが・・・
何とか、東條さんに時間をもらえたことに内心ほっとする。
それに、ことり以外でこの年頃の女の子と会話をするなんて、久しぶりでつい緊張してしまったよ。
それにしても、周りに学校の生徒であろう女の子たちがたくさんいるのだが・・・
気のせいだと思いたいが、皆こっちを見ているような?
なぜだ・・・やはり変質者だと思われているのだろうか?
私が、視線を向けるたびにその方向から、「きゃー//」と、悲鳴に聞こえなくもない、声があがるのだが・・・まさか本当に変質者だと思われている?
しかしそれ以上に不思議なことが一つ
なぜ東條さんは、こんなにも真っ赤っかなのだろうか?
これから私の為に貴重な時間を割いてくれると約束してくれた目の前の心優しい少女は、顔を朱色に染め、私から目を逸らし、「うぅ~//」と、小さな可愛いうめき声をあげている。
『まんざらでもないけど、絶対それを表に出さまい』、そんな表情とも読み取れたが、真意は本人のみぞ知る。
以前、ことりからミューズのメンバーの人たちについて話を聞いたことがある。
その時、東條さんについては、落ち着きがあり、常に冷静で、しかし、誰よりもミューズのことを考えてくれているお姉さん的ポジションだと聞いていた。
しかし目の前にいるのは、感情を駄々洩れにした、ただの幼く可愛い女の子だった。
・・・可愛いといってもことりの次にだけどね。
すまないが、これだけは譲れない。
まあ、いきなり年の離れた男である私に声をかけられて緊張しているだけかもしれないがね。
・・・うーむ、しかし、それを考えても真っ赤っかだな、まるで熟成したトマトのようだ。
緊張をしているだけとは思えない。
・・・はっ
その瞬間、私はある一つの可能性にたどりつく。
もしかしたら、私はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
・・・もしかして、体調が悪いのだろうか?
だとしたら、大変だ
私も人の親
自分の子供ではないとはいえ、体調が悪いかもしれない少女を放っておけるわけもない。
まして、東條さんは、ことりが大切に思っている仲間の一員。
そう考えをまとめると、さっそく行動に移す。
ことりにいつもやっているように・・・
まずは、熱があるかどうか確かめなくては
私はおでこをむき出しにするように自分の前髪を片手でかき分ける。
そして、
「・・・東條さん少し失礼するよ?」
「・・・ふぇ??」
いきなり声をかけられたことで、びっくりしたのか、舌ったらずのような返事をした希さんの方へ、自分の前髪をかき分けている方とは逆の手をゆっくり伸ばす。
希さんは、状況がよく理解できないのか、そんな私をぽーっと見つめている。
そして
希さんの前髪を、自分の髪でもそうしたように、しかし、自分の時よりも慎重に、割れ物を扱うように優しく、そっとかき分ける。
それにより、前髪があった箇所に、シルクのようなきめ細かい白い肌が露出した。
・・・それにしても綺麗な肌だ、バランスの良い食事をとり、日々のケアを行っている肌だ。
まあ、ことりも同じくらい綺麗だけどね。
「~~~っ///!?!?」
半分夢見心地のような状態になっていた東條さんだったが、今の状況を理解したのか、ボンッという効果音が聞こえてきそうなくらい、一瞬のうちにさらに赤くなってしまった。
「なっ/// ななな、なん、なんえdすか??//」
東條さんは、口をあわあわさせながら、何かを必死に訴えるように言葉を発するが、
もはや、何を喋っているのか分からないレベルの言葉だ。
相当、焦っているのか、手もばたばたとさせている。
・・・大変だ、これは相当重症だ。
ますます、顔の赤みが増してしまったし、上手く喋れないほど体調が悪いのかもしれない。
・・・しかし、こんな緊急事態なのに東條さんを可愛いと思ってしまった、なんて私は罪なことを。
心の中で謝罪しつつ、私は己の顔を東條さんの顔に近づけていく。
おでことおでこをくっつけて、熱があるかどうか、確かめるために
「・・・え// ちょ/// うぇえええっ!!??///」
東條さんは、私が顔を近づけたのを確認すると同時に、今日一の大声をあげ、慌てふためくが、これから行うことは、とても重要なことなのだ。
すまないが、我慢してくれ。
熱があったら大変だ。
そして、私はさらに東條さんに顔を近づけていき―
これは夢や
ちょっと寂しい思いをしてしまったから、こんな夢を見てるんやね、きっと
じゃないとおかしい
こんな、超がつくほどの、イケメンで、紳士で、落ち着きがあって・・・とにかくこんな会ったこともない人がうちに声かけるなんて、ありえへんもん
だから、いきなり、凄く優しい所作で髪をかきあげれることもないやろうし、
ましてや
大勢の人が見てる中で、うちがこの男の人にキスされそうになってるわけないやんな?
・・・・・・。
って、現実逃避しようとしたけど無理やっ!!??
ど、どどどどどうしたらいいの??////
う、うち、まだキスどころか男の人と手を繋いだことだってないのに・・・
そんなことを考えている間にも、シミ一つない小さく整った顔はどんどん迫ってくる。
視線がつい、その男の人の唇に向き、
・・・っ!!??///
キスをしてしまう、想像を頭の中で描いてしまう。
当然、そんなことを考えて、余裕を保てるわけもなく、さらに頭が真っ白になっていく。
周りからも生徒たちの「きゃー//」というどこか興奮を混じらせた声も、どんどんと自分の中で遠ざかっていくような感覚に陥る。
うぅ、もうわけわからん・・・//
状況が分からなくて、怖がっている自分がいる反面、この状況に少なからず興奮を覚え、期待している自分がいるのも事実。
というより、後者の方が感情の大きさとしては、大きいような気もする。
結果、取った行動は、
ギュウッ
力強く、目を瞑り、すべてを流れのままに身を任せる
もう、全部受け入れよう・・・
大きな期待と少しの不安だけを携え、うちは待つ
そして
ピトッ
ほんのり温かく、ぬくもりを持った何かがうちの『おでこ』にくっつけられる感触がする。
ビクリと、体が反応してしまう。
うぅ・・・緊張で死にそうや。
でも・・・いい匂い。
汗なのか体臭なのかは分からないけど、いわゆる男性特有のにおいが、鼻孔をくすぐり、まるで麻薬かのように、頭をくらくらさせてくる。
・・・って、『おでこ』?
思考の余地も許されていないくらい、追い詰められていたが、うっすらと浮かんだ違和感がきっかけとなり、水に落とした絵の具の様に徐々に脳内を伝播していき、思考能力が復活していく。
キス・・・じゃない?
そんなことを、思った時
「・・・う~む、熱はないようだね」
と、男の人がそんなことを言うのがはっきりと聞こえた。
それから、ほどなくしておでこに感じていたぬくもりと、良い香りも遠ざかっていくのが感じた。
目を
うっすらと開けてみる。
するとそこには、
「ふむ、熱が原因でないとすると・・・だめだ、さっぱり分からない。なぜ東條さんはこんなにも真っ赤っかになってしまったのか・・・。」
と、顎に手を当て、大真面目な顔をして考え事をしながらそんなことを言っていた。
・・・・・。
よ~し、おっけ~、整理しよう。
びっくりするほど、冷え切った脳内で状況の整理にかかる。
まず、うちは、キスをされると思っていたわけやけど、間違いやったと・・・。
この時点で恥ずかし過ぎて死ねるんやけど・・・//
ていうか何っ!?
うちが顔を赤くしてたから、体調悪いと思ったってこと??
自分の顔が女性受けすることを理解していないのだろうか?
まあ、さっきの発言を聞いた感じ、かなり天然っぽいもんな・・・。
でも、今時おでこ同士をくっつけて熱測る人とか初めて見たんやけど!?
・・・うちも髪をかき分けられた時点でおかしいって気付くべきやったけど。
目の前の、未だに真剣にどうでもいいことで思考を続ける男の人をジト目で見るが、男の人は、その視線には気付かない。
自分の純情な心を弄んだ男の人に対し(本人は自覚なしだろうが)、沸々と怒りの感情が湧き出てくる中、ここで、ある、とても重大な失態を犯したことに気付く
それに気づいたのは、周りの声
「ねえねえ、あれ副会長よね?」
「本当ね、普段凄い落ち着いているのに、凄い慌てふためいていたわよね?」
「確かにw ちょっと可愛かったよねw」
「ねw 手をバタバタさせてねw」
「ていうか、あの男の人誰かしら// 私もおでこぴたってされたい//」
「ねえ、副会長が羨ましいわ・・・」
「こっち向いてくれないかしら」
・・・・・・。
男の人に向き直り、
「用事あるんですよね? 場所を変えましょう。」
「・・・え? あ、あぁ。それは構わないが、体調は大丈夫なのかい?」
「全く問題ないので、早く行きましょう。」
「え、と・・・なんだか怒っているかい?」
「いえ、まったく、これっぽっちも、全然怒っていませんよ? 早くいきますよ。」
「・・・はい。」
そんな短いやり取りをすませ、大勢の視線を感じつつ足早にその場を去った。
自分の顔が見えなかったので確信はないが、恐らく今のうちの表情は、無だろう、すなわち無表情。
心はびっくりするくらい、完全に冷え切っており、今ならこの男の人にだって、何をされても冷静に対処できる自信があるくらいだ。
男の人もそんなうちの雰囲気に押されてか遠くに反論することもなく、おとなしくついて来てくれている。
しばらく歩き、ようやく人気がいないところまで来ることができた。
あたりは住宅街だが、この時間帯は人通りが少ないのか、辺りは静かで人気は感じられなかった。
「はあはあ、大分遠くまで来たね? さすがは、体力があるね。」
そんな風に、男の人は爽やかな笑顔を浮かべ、ハンカチで汗を拭っているが、どうでもよかった。
そんなことよりも
・・・え?
もう、学校に行きたくないんやけど・・・。
あんな大勢の前で乙女全開になってしまって、うち明日からどんな顔して学校行けばいいの??
それもこれも、全部この人のせいや
そう結論付けて、キッと睨みながら男の人の方へ視線を向けようとしたとき
「・・・東條さん、先ほどは何やら怒らせてしまって申し訳なかった。でも私は女心というものがどうも苦手でね・・・。そんな私だが許してくれるかい? ・・・私個人的には東條さんと仲良くしたいと思っているんだ・・・。」
と、目を伏せ、本当に申し訳なさそうに、そう謝罪してくる。
「・・・っ、あぁ、もうっ! 何なんですか!?//」
そんな風に言われたら、許すしかないやんっ
ちょろい女だなと自分で感じつつもそう思ってしまうのだった
つづく
6話読んで頂いてありがとうございます!
というわけで、希ちゃんを中心としたお話です!
まだまだ、希ちゃん以外も登場させていこうと思っているので引き続き読んで頂ければな・・・と。
では、また次話お会いしましょう!