娘が可愛いすぎて成す術がない   作:naonakki

8 / 10
第8話 修羅場

 日が暮れはじめ、時折、肌寒い風が吹く中、私と東條さんは、たまたま走った先の近くにあった公園内のベンチに座っていた。

 公園は、そこそこ大きく遊具も充実しているが、時間帯が遅いということもあり、公園内に人影は見えず、要所要所にある街灯が、公園内を優しく照らし、静かで落ち着いた雰囲気が満たしている。

 

 しばらくぶりに思い切り走ったが、ベンチに座って休憩したおかげか大分楽になってきた。

 ・・・少し腰が痛いが、早速本題に入ろう。

 

 「東條さん。」

 

 「は、はいっ//」

 

 私の呼びかけに、少し慌てたように返事をする東條さん。

 ・・・ふむ、まだ少し緊張しているようだね。

顔をうっすらと赤くし、視線を地面に向け、そわそわしている東條さんを見てそう判断する。

 しかし無理もないか。

 友達の父親と話す機会など、そうそうあるものでもないだろうしね。

 まあ、話していくうちに緊張も和らぐだろう。

 

「東條さん、君にとってミューズとは、何か聞いてもいいかな?」

 

 「・・・え? ミューズ??」

 

 私の質問が意外だったのか、顔をあげ、きょとんとした表情を浮かべ、そう聞きなおしくる東條さん。

 

 「そう、ミューズだよ。よければ聞かせてくれないかな?」

 

 当然、ミューズのライブは見たことがある。

 仕事の都合でスケジュールが合わず、直接ライブに行くことは叶っていないが、画面越しには何度も何度も見た。

 そこで見る9人の少女たちは、本当に・・・本当に心から楽しんでいるように見えた。

 そして何より、みんなの絆のようなものを強く感じることができた。

 同時にことりが大きく成長しているという感動と自分の知らないところでことりが遠くへ行ってしまっているような寂しさを覚えたよ・・・。

 だから、知りたくなったんだ。

 ことりを大きく成長させているミューズという存在を。

 何より、それがことりのことをもっと知ることにも繋がる。

 

 そんなことを思っていたからなのだろうか、私はどうも真剣な表情になっていたようで、東條さんも、そんな私を見て、何かを感じ取ってくれたのだろう、少し考えてから、ゆっくりとした口調で話し始めてくれた。

 

 

 

 「――そんなわけで、色々あって苦労はしたんですが、最終的に今の9人になったんです。みんな個性はバラバラだけど、みんないい子で、すっごく仲良しで、本当に毎日が楽しくて・・・。」

 

 希さんは、ミューズがどういうふうに結成され、今に至るのかを、細かく丁寧に説明してくれた。

 そうか、ことりは、私の知らないところでそんな大層なことをやってのけていたのか・・・。

 だめだ、感動して泣きそうだが、流石に東條さんの目の前で泣くわけにはいかない。

 

 ・・・しかし、今日はいい日になった。

 こうして、東條さんから私知らないことりのことを知ることができたのだ。

 仕事を休んだ甲斐があったものだよ。

 東條さんには感謝して感謝しきれない。

 

 「あの~、今のでよかったですか??」

 「ああ、とても助かったよ。本当にありがとう。」

 

 おずおずとそう訊ねてくる、東條さんに笑顔でそう感謝を述べる。

 

 「そ、そうですか// じゃあ、よかったです//」

 

 そう、照れくささそうに返事をする東條さんを見ながら、私はある別のことを考えていた。

 先ほど、ミューズのことについて、語っていてくれている時だ。

 その時の東條さんは、実に楽しそうに話してくれていたのだが、時々寂しそうな表情を浮かべることがあったのだ。

 そう・・・、あの時の表情と同じだ。

 今日、初めて東條さんを見た時と。

 あくまで、他人に近い私がこんなことを聞くのは、間違っているのかもしれないが、放っておくのも違う気がした。

 

 「・・・東條さん、今何か悩んでいることがあるかい?

 

 気付けば、口が開いていた。

 

 東條さんは、「え」と少し驚いたように反応し、思い当たる部分があったのか、一瞬、考えるような仕草を見せる・・・が、すぐに無理に作ったような笑顔を浮かべると

 

 「・・・あー、あはは、別に悩みなんてないですよ?」

 

 それが彼女なりの強がりなのか、他の人に迷惑をかけまい、とするものなのかは分からないが、どう見ても東條さんは、無理をしている。

 

 だから

 

 「東條さん、本当に嫌だったら言わなくてもいいが、人に話すことで楽になることもあるものだよ? どうだろう、私に思いっきり吐き出してみるというのは。」

 

 東條さんの手をとり、私は極めて真剣にそう提案してみる。

 

 「うえぇ// ちょ、ちょっと・・・// あのぅ、その・・・どうしてそこまで??」

 

 いきなり手を握ったのがいけなかったのか、かなり驚かせてしまったようだ。

 ・・・いけない、つい感情的になってしまったようだ、気を付けなければね。

 そう思い、手を離そうとするが、なぜか東條さんの方からもその小さくほんのり温かい手で、キュッと、私の手を握り返してきているので、離すことが叶わなかった・・・まあいいか。

 

 「うむ・・・どうしてか。それは、君が大切な人だからだよ。」

 「え//// そ、それって//」

 

 そう、東條さんは『ことりの大切な友達』だ、放っておけるものでもない。

 東條さんは、なぜか顔を真っ赤にして、トロンとした目でこちらを見つめてきているが、どうしてだろうか?

 ・・・やはり、熱があるのだろうか?

 

もう一度、熱を測るべきかと思考を巡らせていると、東條さんが先ほどとは打って変わったように、寂しそうに自分の悩みをポツポツと話しくれた。

 

 

 

 東條さんは全て打ち明けてくれた。

 

 ミューズのおかげで毎日が楽しいこと

 しかし、それが逆に一人になった時の寂しさを作っていること

 今まで転校続きで仲の良い友達がミューズ以外にいないこと

 一人暮らしで家でも一人であること

 

 おそらく東條さんは、見た目とは裏腹に甘えん坊さんなのだろう。

 しかし、ことりも言っていたが、普段は冷静で落ち着きがあり、皆のお姉さん的ポジションなのだろう。

 だから、普段もみんなのためにお姉さんを演じ、誰かに甘えたいという欲求が満たされず、裏では寂しを感じていたのだ。

 勿論、ミューズでいる時に楽しいとうのは嘘偽りないだろうがね。

 

 だから、私は、思わずその儚く可憐な少女をそっと、抱きしめた。

 

―ことりにいつもしているように―

 

 「うえぇっ!?////」

 

 私の腕の中で、素っ頓狂な声を出した東條さんは、一瞬、ビクリとしたが、向こうからも、恐る恐ると言った感じで、抱き返してきた。

 ことりも寂しがっている時によく抱き着いてくるから、と思っての行動だったが、よかったようだ。

 

 そのまま頭をよしよしと撫でながら、東條さんを抱きしめ、しばらくたったあと、

 

 「・・・少しは、落ち着いたかな?」

 「・・・はぃ////」

 

 ゆっくりと、東條さんから離れ、そう聞くと、東條さんは、心ここにあらずと言った風に、ぽーとしながら、そう答えてくれた。

 

 「東條さん、確かにつらいこともあるかもしれないが、私でよければいつでも、話を聞くから、どうか元気をだしてくれないだろうか?」

 「・・・はぃ////」

 

 うむ、東條さんもこう言ってくれているし、私も嬉しいよ。

 

 いや、本当に今日はいい日だった。

 ことりのことも知れたし、東條さんの悩みについても多少は力になれたのではないだろうか?

 

 そう思った時だった

 

 

 

 

 

 「な・に・し・て・る・の??」

 

 

 

 

 

 感情のこもっていない、底冷えするような、聞くものを震えさせるような、声が聞こえた。

 

 思わず、ゾクリと体を反応させ、声のしたほうをゆっくりと振り返ると、そこには

 

 

 

 「・・・ことり?」

 

 

 

 そこには、すべての感情が抜け落ちてしまったようなことりが立っていた。

 だが、なぜか、まるでさっきまで全力で走っていたようなほど、全身汗だくになっており、自慢の綺麗な艶のある髪も、あちこちにぴょんぴょんとはねてしまっている。

 

・・・なぜだろう、すごく怖いのだが。

 

 

 

 ザッ・・・ザッ・・・

 

 

 

 ことりが、ゆっくりと、こちらに向かってくる。

 

 

 

 ど、どうしたのだろう、ことりは?

 いつも、笑顔を振りまく女神のような、あのことりが、無表情のままこちらに近づいて来る光景は異様としか思えない。誰か別の人が乗り移っているのでは、ないかと疑ってしまうくらいだ。

 最愛の娘を目の前にして、明確な恐怖という感情が溢れてくる。

 

 というより、なぜ、ことりがここに? 

 生徒会ではなかったのだろうか?

 

 そんなことを考えていると、ことりが目の前まで来てしまった。

 

 

 

 私は、どうしたものかと、頭を働かせているとことり方から口を開き、切り出してきた

 

 「・・・ねぇ、パパ? もう一度聞くけど何をしていたの?」

 

 「・・・・・は? パパ??」

 

 ことりの相変わらず冷たい言葉になぜか東條さんが反応するがそちらに意識を向ける余裕はない。

 

 「・・・あぁ、東條さんと大切な話をしていたんだ。」

 

 「大切な話って? どうして抱き合う必要があったの?」

 

 私の回答に、食い気味にそう質問を重ねてくることり。

 そのセリフには、今までとは違い、明確な怒りの感情が含まれていた。

 どうやら私と東條さんのやりとりの一部を見られていたようだ。

 しかし、ことりはなぜ怒っているのだろう? 

 知らないうちにまずいことでもしてしまったのだろうか?

 

 「・・・すまない、それは秘密なんだ。」

 

 東條さんが、悩みを抱えていることを、ことりには、話すことはできない。

 ことりの問いかけに答えられないことに心が痛む。

 許してくれ、ことり。

 

 私がそう答えると、ことりはひどくショックをうけたように、顔をくしゃりと歪め、その場で俯いてしまった。

 どう声をかけたものか、と迷っていると

 

 「・・・う」

 

 う?

 

 なんだ? と思っていると

 

 

 

 

 

「うわあああああんん!!!」

 

 

 

 

 

大号泣である。

大粒の涙をボロボロとその大きな目からこぼし、悲しみの感情を爆発させている。

突然の事態に、対応が追い付かず、その場で固まっていると、ことりが私の方に抱き着いてきた。

 たまらず、抱き着いてきたと言った感じに。

 訳が分からなかったが、いつもの癖で優しく抱き返すと、ことりは私の胸に顔を埋め、

 

 「パパぁぁ~!! ごめんなさいぃ!! ひぐっ・・・、昨日パパを傷つけたのがいけなかったんだよね?? それとも、他に何かいけないことがあった?? 直す、直すから、ことりのことを捨てないでぇ!! 確かに希ちゃんは、優しくて可愛いかもしれないけど、ことりも頑張るから、頑張るから・・・」

 

 ひとしきり、そう言い切ったことりは、私のことを絶対に離さないとばかりに、強く、強く抱きしめて、再び「うわあああん」と、泣き出してしまった。

 

 

 

 

 「いったい何が起こっているんだ??」

 「こっちのセリフや」

 

 突然の事態に、思わず吐いた私のセリフと、それにかぶせるように放ってきた東條さんのセリフが虚しく公園内に消えていった。

 

 つづく

 




ここまで読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、第8話でした。

・・・こんな娘がほしいものです。
結婚してないけど・・・。

はい笑
というわけで、引き続き更新していきますので、次話も読んで頂ければ嬉しいです!

では、また次話でもお会いできることを願っております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。