スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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多才能力の真髄

 

 

 

 

 

 

 

 巻き付いた鎖は、モーリッツの細腕に力ずくで食い込んでいく。

「痛ッ!!」

 束縛の痛みが彼女を苦しめる。

 呆然と立ち尽くす雫。その目の前で、錬太郎が変異した。

 ドーパント。だけど、この形は何?

 コンバットナイフ一本で、銃を持ち出す相手に戦えとでも言うのか。

 いくら喧嘩に慣れて、数々のスキルアウトを渡り歩いて多少の武器の扱いにも知っているモーリッツだとしても。

 勝算の可能性は、高くはない。

 浮遊するガイアメモリが地面に落ちた。慌てて彼女は全て拾い上げる。

 何が起きたかは見えないけれど。

 戦うなど毛頭無理。

 物理的に無理があるものは不可能だ。

 こんな小さな刃で、あの人数に抗えるなど……。

(……違う)

 ……いいや。

 違う。モーリッツは気付く。

 このドーパント、普通じゃない。

 身体が軽く感じる。前に雫が言っていた、武具になるドーパントの一種と見る。

 コンバットナイフなど、明らかに戦争をするためのモノだ。

 モーリッツの能力、精神感応が変異した錬太郎の心を読み解く。

 既に思考すらない。あるのは、強く、純粋な感情。

 烈火の如く燃え盛る……怒り。

 こんな人通りの激しい往来で、怪物に変異して。

 周囲が何事かと見ているなか。

 追っ手は実に清々しく堂々と乗用車で此方に突っ込んでくる。

 口封じも含めて共倒れする気か。自分達も死ねば証拠も減る。

 徹底したプロ意識と言うかここまでくれば最早洗脳の類いとすら思えた。

 アクセル全開で、自爆でも企んでいるのか。

 突っ立つモーリッツ。雫が気付いて逃げろと叫んだ。

 丁度、巡回の警備員も駆けつけているのも視界の端に捉えた。

 ガードレールを貫いて、モーリッツと錬太郎を殺すつもり。

 分かっているとも。例え思考の声が聞こえなくとも。

 モーリッツには錬太郎の怒りは、理解できるものだから。

「分かった。モーリッツ的にも、構わないわ」

 乗用車? ああ、確かにただの人間相手ならば致命傷は免れない。

 でも、やり方をどうも錬太郎は本能的に分かっているようだ。

 モーリッツの精神感応を通じて、流れている。

 聞こえるじゃない、見えるでもない。感じる。

 このコンバットナイフは、こうやって使うのだ。

 突っ込んでくる乗用車。右腕を、突っ込む車に向ける。

「リッツ、危ない!!」

 僅かな時間で雫は自分で離れている。大丈夫。

 じゃあ、先ずは……。

「コイツら、取り敢えずぶっ潰そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何が起きた。

 突っ込んでくる乗用車の軸から逃げずに立っていたモーリッツ。

 あの右腕に絡み付いている鎖とコンバットナイフは錬太郎のドーパントなのは分かる。

 でも、バリアドーパントじゃない。あんな衝撃、堪えられる訳がない。

 突っ立つモーリッツは、左手に何か持っていた。ガイアメモリ?

 何かを呟き、切っ先を向けたナイフを。

 柄に差し込み、指先で触れて押し、軽く一閃した。

 

 ペット! マキシマムドライブ!!

 

 そう聞こえた。あれは、錬太郎のペットガイアメモリ。

 一閃した軌跡から、何か半透明のエネルギーが生まれていた。

 巨大な……ブタ!?

 そのブタが、突っ込んでくる乗用車に突進していく。

 同じサイズのブタと乗用車が正面衝突。轟音を奏で、乗用車のフロントが潰れた。

「……ブタ?」

 思わずすっとんきょうな言葉が漏れた。素直な感想。

 殺し屋にブタで迎撃した。正面衝突して、消える巨大なブタ。

 黒煙を上げて倒れる乗用車。ソコから、黒服が何人か這い出てきた。

「なんだ。やっぱり生きてるんだ。まぁ、いいや」

 軽くナイフを弄くるモーリッツは、見たことないぐらい冷たい目で、車を眺めて言う。

 雫は駆けつけた警備員に真っ先に保護されて、無事を確認されるとモーリッツはこちらに目をくれる。

「警備員! 悪いけど、つっきーの事お願いね。モーリッツたちは、このクソッタレをぶちのめしてくるわ。狙いはこっちだから、なるべく遠ざけてみる」

 保護を頼むモーリッツは簡潔に見た人数、得物の種類、状況を説明して背を向ける。

 まだ別に連中は残っている。ソイツを倒すと背中で語っていた。

「ま、待て! レベル3の精神系能力者じゃ無理だ!! ここは警備員に任せ……」

「警備員は信用しない。事件が終わる頃に駆けつけるような連中でも、組織で被害者守るぐらいはできるでしょ。それぐらいはしなさいよ給料泥棒」

 モーリッツは提案を一蹴した。

 警備員がよく言われる陰口だった。

 事件が終わってから到着する。有事に反応が鈍い。

 挙げ句には逃げ腰のやつもいて頼りに出来ない。要するに宛にしたくない。

 そういう事をモーリッツは言っていた。

「一応治安維持するなら、最低限の仕事はしてよ。これ以上妥協はしないわ。コイツらは、先輩とモーリッツが潰す」

 殺しに来るなら、遠慮はしない。出来ない。自分で撃退してから差し出す。

 そっちの方が、確実。雫に最後にモーリッツは顔だけ振り返って、モーリッツは告げる。

「つっきーは戦っちゃダメだよ。また、副作用悪化して辛くなるじゃん? ここはさ、荒事に慣れているモーリッツとキレた先輩にお任せあれ。マジものの多才能力の活躍、期待してて?」

「リッツ……。うん、分かった。お願いね」

 暗にモーリッツはストレスこそ溜まっているが発散かねて仕返しをすると言っていた。

 雫も自分が足手纏いになると理解して、避難をする。邪魔になりたくない。

「君達……!」

「うっさい! 良いからそこに転がってる殺し屋速く捕まえろ! じゃあね!!」

 そう言って、モーリッツは走り出す。

 もぞもぞ動いていた連中は直ぐに警備員に現行犯で拘束されていた。

 怪我はしているようだが、意識はある。……ある?

 ともかくも、モーリッツと錬太郎は他人を巻き添えにしたいために広い場所に向かう。

 雫が無事なら、最悪怪我させてでも生き残る。その覚悟を決めて。

 走るモーリッツは怒りしか感じない錬太郎……いや、エッジドーパントに問う。

「先輩……これ、結構キツいんだけど……」

 先ほどは格好つけて言っていたが、モーリッツはかなり苦しい。

 どうもこれ、本当に他人を多才能力にするような武器としてのドーパントらしい。

 その分だけ当然、自分の能力じゃないモノを無理矢理後付けにして使用する。

 負担は全部使う人間に来るのか、ブタを発射しただけで、目眩がする。

 マキシマムドライブは最大出力。反動も大きいのは想像できたが、然し辛い。

 なのに走れるのは、装填しているコックローチのお陰か。

 スロットに突っ込んだガイアメモリの特性もそのまま今のモーリッツは使える。

 但し本来は持っている能力に相応しいようにドーパントに変異して使うのを生身で使用した。

 人間の身体にバイクの速度は出ない。出せば骨折するし、耐えきれない。

 でも使えている。恐らくはゴキブリの速度と体液に加えてしぶとさが再生能力として発揮されている。

 消耗したのを初っぱな治して稼働する、ギリギリの均衡。

 高いところから落ちても、負傷しても数秒で治癒する。

 そう言う能力者じゃないのに。体力は消耗するが、動けない訳じゃない。

 目眩がするが、戦えない訳じゃない。殆どエッジドーパントに使役されている。

 モーリッツがナイフに武器にされていた。

 感覚は生きている。詰まり、疲弊するし痛みもある。

 ビルの外壁を跳躍して屋上に着地。そのまま柵を飛び越えて屋根伝いに移動する。

 足が痺れている。負担に軋み始めていた。

「先輩聞いちゃいないよね……」

 相変わらず怒りしか感じないし、そもそも多分意識がない。

 暴走している。エッジドーパントは攻撃衝動に任せて変身したんだろう。

 一応提案は聞いているが苦言は無視。戦いに役立たないものは全部聞いてない。

 周囲を探ると言えば、錬太郎のイメージが伝わる。

 精神感応故に言葉が通じなくとも思考は分かる。

 今度はなんだ。目玉……?

「アイズガイアメモリ? オッケー」

 鞄から器用に左手だけで取り出す。

 いったい何れだけ溜め込んでいたのか、肩掛け鞄がパンパンに膨らんでいる。

 取り出したのは気持ち悪い目玉の描かれたガイアメモリ。

 試しにエッジドーパントに差し込む。

 すると、脳裏に映像として何か見える。

 犯人たちの車。追跡者の様子が上から見下ろすように映された。

 同時に頭痛がしてきた。吐き気もする。

(ヤバッ……! これ、そっちの能力か……!)

 頭の演算処理を増やす能力のようだ。

 後付けに強引な接続で行う能力。思わず立ち止まり、膝をつく。

「うぇっ……!!」

 さっき飲んでいたお茶を嘔吐。胃液も共に結構吐き出す。

 ガンガンと殴るように酷くなる頭痛と吐き気。慌てて引っこ抜く。

(こ、これが多才能力……? こんなん、普通に使えるわけがないわ……。人間のできる範囲を越えてる……)

 ゴキブリのおかげで何とか復活。また立ち上がって走り出す。

 体験して分かった。自分以外の能力を後から付属するもので使うと必ず強烈な反動が来る。

 ゴキブリは言うなれば、身体への負担を自前で補える特性があった。

 他にも辛いならばと変なガイアメモリをイメージされた。

 あくまで続行をするために回復しとけと言う意味か。

 まったく、今の錬太郎は容赦の欠片もない。

 これが、学園都市で言われている幻の能力者。

 人間の頭を複数繋ぎでもしない限りは絶対に実現不能という触れ込みはよく分かった。

 個人で使えるとすれば何れだけ演算能力を高めて脳ミソ自体を巨大化でもさせない限りは行えない。

 エッジドーパントは、ドーパントにその能力を一つに内包するようだし、負担は使用者が背負う。

 今はモーリッツが痛みを我慢している。

 このままいけば消耗でモーリッツが倒れる。それは回避できても、倒しきれない。

 速めに対処しないと。また、回復したら使えばいい。

 モーリッツは地理を思い出す。この辺は無能力者の通っている学校が多い。

 適当に校庭でも間借りして、迎撃してみるか。一般人を巻き添えにするよりかは都合が良さそう。

 モーリッツは無駄に広い交遊関係で、この一帯で知り合いがいる場所を割り出す。

 携帯で軽く探した。知り合い発見。レベル0の女の子。

 アプリ起動、連絡する。追われてる、ちょっと校庭貸してと送った。

 返信が直ぐ様返ってきた。誰も授業で使ってはないが、教師が居るけど大丈夫?

 再度返信、殺されそう。相手警備員でも風紀委員でもない。多分武器持ったチンピラ。

 すると、慌てたように電話が来た。応答すると、スキルアウトか何かかと焦って相手が聞いていた。

「ゴメン、話している暇ないんだ。今も追われててさ。つっきー知ってるじゃん? うちのスキルアウトの仲間。その人、警備員に預けてきたんだけど。向こうの狙い、モーリッツなの。拳銃持ってたし、乗用車で轢き逃げしようとした。警備員じゃ遅れてて間に合わないんだよねえ。ゴメン、マジで校庭行ってもいい? 本気で、死ぬ」

 真面目なトーンで言う。余計なことは言わない。

 最低限伝えると、相手も分かったと言って電話を切った。

 住宅街に入り込み、屋根伝いに走ると並走して黒い乗用車を発見。

 追ってきていた。多少距離があるから撃ってはこない。

 携帯に通知。教師に許可を貰った。受け入れるから早くこいと一報を確認。

(素行は良いからね、あいつは)

 助かった。これで、迷惑かけずに迎撃できる。

「先輩、近くの学校いくよ! そこで全員ブッ飛ばす!」

 エッジドーパントに行き先を示す。

 そこは、ある高校。レベル0が通う、珍しくもない学校。

 屋根を飛び越え加速する。

 数分かけて走り抜き、追っ手も見えている状態で示された正門を目視で確認。

 一気に近くの住宅の屋根から飛び降りて、駆け抜ける。

 追跡者も、問答無用で正門を突っ切る。

 校舎では派手に追いかける車に、何事かと生徒たちが窓から見下ろしていた。

 モーリッツは息が上がっていたが最後の気合いで校庭まで走り込む。

 スライディングするように、校庭に滑り込み。

 ……勢いを殺せずに派手に転んだ。

「ぶべっ!?」

 汚い悲鳴が出てしまった。

 乗用車までそのまま、乗り込む。

 起き上がる頃には、背後に停車していた。

 出た鼻血を乱暴に袖で拭って、強気の笑みで対峙する追っ手の黒服と向き合った。

「ここなら、思う存分暴れてもいいよね……。追い込まれたスキルアウトのやり方、教えてやんよ」

 苛立ちを最大にまで高めたモーリッツが、不敵に笑う。

 彼女は知らないが、実はここ。

 ドーパントとガイアメモリのことを知っている、錬太郎と面識あるグラサンのチャラい生徒が通う学校であり。

 モーリッツや雫は確実に毛嫌いするであろう……ヒーローの通っている高校でもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物解説。

 上条当麻。

 とある魔術の禁書目録の主人公。

 目の前に困っている人がいると己がひどい目にあっても助ける稀に見るお人好しの善人。

 色々な事に自分から関わった結果、豊富な人脈と様々な味方が混在する独自の勢力へと成長したらしい。

 その右手には触れた異能を善悪関係無く打ち消す能力、幻想殺しを備えている。

 次回に案の定、自分の高校に突っ込んできた見知らぬ少女を助けようとするが彼女はどうやら当麻が気に食わない様子。

 尚、チャラい生徒とは知り合いでありそこでガイアメモリとドーパントについて聞いているので概要は知っている。

 口癖と決め台詞は、その幻想をぶち殺す。

 どんな困難でも右手で男女平等にぶん殴る、素手で武器に立ち向かうインファイターであり、徒手空拳では恐らくドーパントよりも強い。

 あと救った女は大半惚れる。モーリッツや雫は無理だったが。

 解説終了。


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