スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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ドーパント誕生

 

 

 

 

 

 

 

 乗用車から降りてきた人数は、思っていた以上に少なかった。

 運転席、助手席、後部座席から合計四人。

 モーリッツは訝しげにそいつらを見た。

 堤防でガイアメモリを回収していた連中に似ている。

 相変わらず黒いスーツに、グラサンと見分けがつきにくいが、体格までは誤魔化せない。

 帽子を被って極力外見の情報を与えないように全員同じ格好をさせる。

 挙げ句には何処に電磁バリアを仕込んでいるのか分からないが、少なくとも内面の思考は聞こえない。

(一体誰に雇われたんだが……。モーリッツたちは普通のスキルアウトだってのに、武器まで持ち出して。モーリッツたちが邪魔なら迷わずぶっ殺すようなおっかない奴を敵に回した覚えないんですけど)

 モーリッツは自覚する限り、俗に言う危ない連中と一切関わりは持ってない。

 確かに過去には重火器を扱っている真面目にテロリストみたいな人達と知り合っていた。

 然し、それはあくまで外部として。

 単純に情報を寄越せと言われて、探しに代わりに行ったぐらいで、そのお礼に簡単なプラモデルやらのオモチャで使い方を教わっただけである。

 本物の拳銃の扱いなどやったことはないし、武器と言えど刃物の立ち振舞いや、間合いの取り方、チンピラ流儀の喧嘩戦法を教えてもらう程度にしておいた。

 襲われる謂れはモーリッツにはない。詰まりはガイアメモリ目当て。

 錬太郎が目的と推察する。人数が想定よりも少ないのはばら蒔いたそれらを持ち帰ったからか。

 今なら、四人なら勝てるとは思う。校庭と言う広い空間で、基本的に身体能力が向上しているモーリッツならば。

 拳銃なんか怖くない。そう、怯える心を奮い立たせて立ち向かう。

 その様子を、校舎の中から見ているヒーローがいた。

「おい、あの女の子銃を向けられていないか!?」

 黒いウニみたいなツンツン頭の男子生徒は、近くにいた訳ありの友人に聞く。

 あれは、知っているかと。裏側の連中かと。

 此方もグラサンの金髪の彼は首を神妙な顔で振る。

 知り得ている限り、あの連中は此方には全くの無関係。

 即ち、彼の取り巻く厄介な事とは違う方向の騒ぎ。

 ただ、事情は知っている。あれは、ガイアメモリという存在を求めている奴等の事。

「ガイア……メモリ?」

 人混みのできる窓際から離れ、奥でこそこそ二人は話をする。

 金髪が説明すると、あの少女は最近外部から転入してきた生徒の知り合い。

 で、あの恐らく装備している右腕のコンバットナイフはドーパントと呼ばれる怪物。

 ガイアメモリとは、人間を変異させてしまう解析不能の道具の事。

 それを作るのが、星の記憶という生まれつきの能力を持つ、その生徒。

 あの女の子はスキルアウトで、恐らく彼の親しい関係なのだと金髪は予想する。

 スゴいのは、そのガイアメモリというのは金髪のような人間でも使用できる道具。

 受け売りならば誰でも使える能力の付与。

 実際、向き不向きはあるようだが、大抵の人間は何かしらのガイアメモリが使用できる。

 但し、この黒いウニみたいなツンツン頭は不可能だろうが。

 その話を聞いて驚愕するツンツン頭。それは要するに、ある意味万能と言うことか。

 当然、デメリットだってあるとニヤリと腕組みして金髪は笑った。

 一番大事な中身の問題なのだが、そもそも製作者からして使ってみないと分からない。

 あと、かなり大半がしょうもないもので役に立たない。

 日常にあるようなものばかりで、戦闘には役立つものは稀少と言う。

 あるいは、ソイツが役に立たないものを研究に差し出しているか。

 学園都市は基本的には価値がないので狙わないと決めているようだが、興味のあるバカが研究ほしさに狙うかもしれないとは言った。

 彼には本来は関わる理由などないし、助ける義理もない。

 だが、この男……上条当麻という人間は、ピンチになっている奴がいると、損得勘定抜きに、助けに行く。

 因みに相手の心境もあまり気にしない。言ってしまえば余計なお世話になる場合もあった。

 取り合えず助ける。そのあと文句を聞くなり、謝るなりをする。先ずは行動。

 自分の利益などならずとも、自分が危険になろうとも、他人の窮地を無視できない。

 そう言う人物だからこそ、多くの人脈を築き上げてきたのだ。

 まあ、そんなものはあの少女には知ったことではないのだが……。

 金髪は試すように聞いた。彼女を助ける気か? 自分達の陣営にも、なんの意味がなくとも?

 不利益になろうとも?

「助けるに決まってんだろうが!!」

 その問いかけに怒鳴るように叫ぶ上条当麻。

 突然、教室から走って飛び出していく。金髪は行かない。

 彼はあの刃物のドーパントと顔が割れている。

 誤魔化して接触した以上は、安易には接近できない。

 折角、暗部には関係ない小競り合いで終わっていそうなのに、此方から近づけば要らぬ被害が出る。

 それは金髪としても、本意ではない。

 故に見守る、傍観者に徹していく。これ以上の掛け持ちはリスクもあるので控えておこう。

 何より、あの少女。上条当麻との接触でどうなるか興味もあった。

 知っている女は大半が上条当麻と良好な仲を続けているが、彼女はどうだろう?

 たまにはスパイとかそう言うのを関係なく、上条当麻の近くにいる一人として、行方を見ておこう。

 ……もしも彼等にちょっかいを出す阿呆がいた場合は、知らぬ間に消す為に。

 ガイアメモリは彼の組織にもまだまだ使える便利な道具だ。唯一の生産者を殺させる訳にはいかない。

 そんな思惑も、あるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校庭で対峙するモーリッツ。

 エッジドーパントは、相変わらず怒り狂っているままだ。

 拳銃を向けている敵対者。モーリッツは、聞こえるように震える足を踏ん張って強がった。

「い、今更後悔したって遅いわよ! 此方はガイアメモリ使っているんだから! 先輩がいる限り、あんたらなんか怖くないわ! 拳銃なんかでモーリッツを殺せるもんか!」

 ハッタリ、ただの虚勢だ。本当は怖い。

 スキルアウトだって、色々いったが銃口を自分に向けられたことなどない。

 況してや、殺されるような状況なんか在るわけがない。

 殺される理由などないと錬太郎にも言った。

 それはモーリッツの紛れもない本音だ。

 丁度この学校の教師が何人か警備用の武器を持って走ってきた。

 有りがたいが……なんか変なのがいた。

「あ、あなたたちは一体何なのですか!? 乗用車で乗り込むなんて非常識ですよ!?」

 あんたの方が非常識だよ、とモーリッツは内心思った。

 何かちっこい先生みたいなピンク色の髪の毛の幼女が怒っている。

 どう見ても子供。大人に混じって何やら応戦なのか説得なのかをしようとする。

 が、連中も教師たちに反転すると、突然発砲。四人揃って殺意を込めて撃った。

 透明な盾を持っていたジャージ姿のゴリラに似ている教師が防弾のそれで受け止めるが、ヒビが入った。

 教師たちは当然ビビる。既に警備員には通報されているようだが、然し無謀な事をしてくれる。

「ちょっと!! 死にたくないなら引っ込んでて! コイツらは本気で殺しにくるんだよ! 狙いはモーリッツ達だから、悪いけど関わらない方がいい!」

 巻き添えになっている教師を気遣うモーリッツ。

 若干腰が引けているがまだ立ち向かう教師。

 銃弾が暫し、銃声と共に飛び交う。

 全部ありったけ叩き込んだのか、拳銃をしまいこみ、再びこちらに向く。

 そして、まさかの事態になった。

「ちょっ……!?」

 全員、まさかのガイアメモリを取り出した。見たところ、さっき回収したやつか。

 やり方を知らないはずなのに、平然と使おうとしている。

「あんたら、ガイアメモリ使う気なの!?」

 副作用も知らない、効力も分かってないのにいきなり実戦に使うのか。

 正気の沙汰とも思えない。モーリッツもエッジドーパントに振り回されているのは言えないが。

 だが、男たちは当たり前のように使用した。

 ボタンを押し込み、構える。

 

 フィンガー!

 

 マスカレイド!

 

 エッグ、チキン!

 

 クラブ!

 

 それぞれ、自分に躊躇わずに突き刺した。

 そして変異するドーパント。現れる四体は、異形だった。

 マスカレイドはまだいい。

 服装は変異せずに、頭部が黒く変色して、白い百足がへばりついたいような模様の顔になった。

 クラブは上半身が蟹に似たシルエットに変化。

 分かりやすく言えば、茶色の蟹の着ぐるみか。

 下半身はそのまま上半身が蟹になり、腕はハサミに変化している。

 親子丼! と軽快に叫んだそれは雑なもの。

 身体に変化はなく、頭部が大きな顔のある丼になり、お手元と書かれた割り箸を構え、邪悪に舌を出して笑う表情が腹が立つ。

 フィンガーは端的に言えば巨大な左手。そのまま、人間の左手が鎮座して拳を握る。

 これは酷い。ただの怪物になってさえいた。

「原型がマスカレイドしかないんですけど……」

 モーリッツが絞り出した答えがそれだった。

 なんと言うか、やる気が無くなる。またろくでもないガイアメモリを使ってるようだ。

 教師たちも絶句している。

 侵入者が一人は悪の戦闘員に、一人は丼、一人は蟹の着ぐるみ、一人に至っては単なる巨大な手その物なのだ。

 どう、リアクションしろと。弱体化しているようにしか見えない。

 指、仮面舞踏会、親子丼、蟹。これが追跡者の使用したドーパント。

 ……敢えて言おう。彼らの名誉のために。

 決してふざけてなどいない。寧ろ外見に反して危険なものが多かった。

 それを、モーリッツはこれから知る。外見で判断すると、危ないと……嫌でも理解するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドーパント解説。

 フィンガードーパント。

 フィンガーガイアメモリを使用して変異する、巨大なドーパントの一種。

 見た目は完全に人間の左手。乗用車並の大きさがある。

 おおよそ、強そうとは思えないがこう見えて握力が異常に強い。

 その為、握られたら最後生身ではそのままぐしゃっと潰されて即死する程のパワーがある。

 ロケットパンチやデコピンなど指を使った多彩な戦いが得意である。

 

 クラブドーパント。

 クラブガイアメモリで変異したドーパント。

 分かりやすく言うなら蟹の着ぐるみ。

 甲殻類だけあり打撃には滅法強く、ハサミによる切断攻撃が得意。

 口から泡を吹いて襲ってきたりもする。威力は低いが、牽制や目眩ましにはなる。

 弱点として加熱に弱い。熱せられると真っ赤になって倒されてしまう。

 

 解説終了。


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