スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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無能力者の現実

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市に引っ越してきて一週間が経過した。

 幾つか分かったことがある。一つ、この学園都市は治安が非常に悪い。

 特に普通に暮らしている一般人は毎日何かしらの悪事の被害者になっていた。

 ひったくり、恫喝、強盗。果ては殺人、放火……。内部が酷い有り様に開いた口が塞がらない。

 能力者というのは……いや。人間というのは強大な能力を手にすると増大する。

 悪意が弱者を虐げて、居場所を奪う弱肉強食。無力は罪だ。

 学園都市は、科学がありながら本質は無法者の楽園。

 最先端が聞いて呆れる。秩序がない都市。笑えない。

 二つ。妹は風紀委員というその秩序を守るために集った有志の組織に所属している。

 姉はその手伝いをよく駆り出されていると言っていた。

 暴力には暴力を。言って理解しないバカには叩き潰して捕まえる。

 それが、妹の主張。姉も似たようなものだった。

 彼女たちは言った。

「正義ですよ。警備員、風紀委員。あたしたちは、バカに痛みを持って教育する立場。即ち、正義を執行するのです」

「説明して理解できるお利口さんは無能力者には居ないからー。弟君は別だよ? 事情が違うし」

 傲慢にも自らを正義と語る柳と杠。自分は思う。

 ああ、愚かな生き物になってしまった。外の世界を忘れたか、とも。

 正義などどの世界にも存在し得ない。思い上がっている。これが、現実。

 だから言った。近づくな。一緒にいたくない。

 自分まで、学園都市の非常識に呑まれる。そんなものはゴメンだ。

 と、久々にあって変わってしまった姉妹に突きつけた。

「弟、君……? なんで……? なんでそんなこと、お姉ちゃんに言うの……?」

「お兄ちゃん……どうして怒るんですか……?」

 分からないか。お前らだって、強い能力を持って増長している。

 高校生が正義を真顔で、得意気に語るのはお笑い草だと言っていると指摘した。

 自分達は子供。それが答えだ。

 世の中のなんたるかを知らないひよっこが、人よりも優れた自分を見せつけるのがそんなに楽しいのか。

 笑わせるな。正義なんかない。そんなものを言い出したお前らは、外の世界で生きてきた自分からすれば。

 滑稽、とすら言える。箱庭の世界に入って頭までおかしくなったか?

 自分達だけが絶対に正しいと思う……それを、外の世界じゃ盲信と言うのだ。

 頭を冷やせ。じゃないと、家族とすら思いたくない。

 身内の恥。妄想を拗らせるのも大概にしろ。

 嫌がるように、彼は敬遠する。そんな見えない思想に染まった姉妹は、狂っている。

 理解したくもない。する必要もない。

 近寄るな。そんな危険な考えを持つ家族と一緒にいると自分までおかしくなる。

 バッサリと切り捨てた。悲しそうに表情を変える姉妹に、同席していた母が怒った。

 然し、母も半分信じられない顔をしていた。物騒なことを嬉しそうに喋る二人は、最早別人と思うように。

 良くも悪くも、彼は外の感覚が強い。故に学園都市での常識を非常識と嫌悪している。

 その感覚が強く共感してくれるのはやはりなにも持たない弱者……無能力者に近い。

 故に、初日のスキルアウトの事も言った。

 結局、あの金は爆発したマグマドーパントの爆風で吹っ飛び、何枚か燃えたが無事に回収。

 足りないぶんは半殺しの連中が出させたと言った。

 然し、妹は犯人を責めた。他人に言えばいいものを暴力に頼った頭の悪い無能力者。

 無論連中も締め上げたらしいが、彼女はバカにしていたのだ。

「群れるしか脳がないのに相談も出来ないとは……。そりゃ開発を諦めたチンピラの集団ですもの。相談する相手もいませんよねえ。情けない……それで暴れるとか、これだからスキルアウトは最悪なのです。身勝手極まる迷惑な奴らがスキルアウトなんですよ」

 言いたい放題見下して、因果応報と病院送りにした姉を褒め称え、その後始末書を書いていた。

 担当する地区以外の場所での能力使用と権利執行。

 でしゃばった罰としての始末書と言うが反省はしていないと見る。

 嘲笑する柳に、酷く嫌気を感じたのを覚えている。

 何時から妹はこんなに偉そうになった。知らない間に随分と調子に乗っている。

 彼は再三言った。近寄るな。もう顔だって見たくない。

 自分の知る姉妹じゃない。自分の存在を過大評価するような家族は家族じゃない。

 あの犯人の言う通りだった。大能力者という上の連中は笑っているという事実。

 よりによって、家族が。風紀委員という秩序の万人がこの有り様。信じられない。

 助けられた……そんな気がしない。寧ろ合法なら人殺しだってしそうで怖い。

 相手が悪いで正当化。大義名分を手にする人殺しと発想が同じ。

「お兄ちゃん……あたし、そんなつもりじゃ……」

「ご、ゴメンね弟君……気に障ったら謝るよ……だから、許して……」

 二人は懇願するように言うが、一度膨れた猜疑心は止まらない。

 とどめに言った。どうせ自分もその嘲笑う無能力者。学校だって違う。

 カースト最底辺のバカしかいない学校に入る奴なんかどうでもいいだろう?

 レベルが全てと聞いたのだ。そして自分で聞いて、感じて、分かった。

 じゃあ無能力者に価値などない。二人はそう言いたいんだ。

 家族だから特別扱い? 同情しているのか? 哀れだから?

「ふざけるのも大概にしろよお前ら。お前のその根付いた差別意識が無くなるまで、金輪際俺に近寄るな。俺まで同類に思われるのなんか冗談じゃない。俺は普通に生きたいんだよ。見下されるのってこんなに不愉快なんだな。初めて知ったよ」

 大能力者と無能力者。

 その間を隔てる壁は途方もなく、大きかった。

 姉妹は仕舞いには泣き出していた。……だが、彼の胸の不快感は消えない。

 呼吸をする如く自然体で見下していた。この無駄に高圧的な態度は共に居るのは不可能。

 あまりにも無神経すぎて、キレる自信があった。

 だから、試験を受けて決まったカースト最底辺の学校の学生寮のアパートの場所は教えない。

 そして、自分には友人も居ない。どうも、誤解が広がっているようだ。

 一泊をあれこれ終えてからホテルで過ごして、翌日には試験になった。

 が、どうもあの事件のせいで能力を保持していると知られたらしい。

 承知の上だったが、普通に学力テストを行い最後に例の開発をするというのだが。

 自分の場合は実践しろと言われた。……何を?

 何を実践しろと言われているのか先ず分からなかった。

 なにができるか、と白衣の科学者に聞かれた。

 言われても困る。自分だって未知数。以前よりただの一発芸としか認識してない。

 試しにメモリをガイアメモリにしてみた。見ていた一同が絶叫した。

 有り得ない、オカルトか、科学的な証明ができない。等々。

 何度か試して出来上がった有象無象のガイアメモリは渡しておいた。サンプルにするそうだ。

 で、次にドーパントに変身。再び絶叫。ブタになったから。

 解き明かすとそのまま少し検査した。科学的にはミニブタだそうだ。

 戻ったら、ペットのガイアメモリも持っていかれた。

 補足程度に誰でも使えるが、副作用などに関してはそもそも使ってなかったので分からない。

 研究に必要なら検査を頼むと言うと身体の隅々まで探られた。異常はないという。

 ガイアメモリも中身のデータが解析できない。どうなっているのか時間がかかる。

 取り敢えず、実験と称して一人がガイアメモリを使ったら山羊になったのは驚いた。本人も。

 どうも大事らしい。学園都市の開発を無しに自然で発芽した超能力。

 そんなものは本来居ないはずなんだそうだ。

 事実として目の前にいるので、科学者たちは然し不可解な事象に頭を抱えていた。

 そんな紆余曲折あって、結果は彼も無能力者。

 最底辺の有象無象。低レベルな学校に押し込まれて、そこに編入した。

 学校初日。見上げた高校は何の面白味もない普通の学校。

 二年生として途中編入した、黒い学ランとスラックスの制服。

 真新しいそれを着て、先生に紹介された。HRの前に。

 それもごく、当たり前の転校生としての範囲かと思ったのに。

 クラスの見知らぬ生徒たちは訝しげに自分を見る。

 なぜここにいる。そういう顔で。

 違和感があったが、そのまま空いている用意された席に着席。

 ……前の席は女の子だった。振り返り、愛らしい笑顔で小声で話しかけてきた。

 周囲は異物を見ているような顔なのに、彼女だけは普通に接してくれた。

「あなたが噂の転校生なんだね。わたし、月川雫。よろしく」

「……」

 セミショートの身内よりももう少し色の濃厚な黒い綺麗な髪の毛。

 右の頬には大きなガーゼをしている怪我をしている女子生徒。

 目鼻立ちの整った幼い顔をしているが、痛々しいガーゼのせいで台無しだった。

 瞳は珍しい澄んだブルー。彼女は唯一友好的に接して、笑った。

 クラスの見知らぬ生徒の訝しげな態度のその理由を、数時間して彼は嫌でも理解するはめになった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。周囲は錬太郎には一切近づかない。

 怖がっているような、そういう雰囲気だった。

 前の席の女子生徒、月川雫だけは笑って話しかける。

「ごめんね、みんな大山君のこと警戒しているみたいで……」

 苦笑いしている雫。だが一瞬、悲しそうにしているのを錬太郎は見逃さない。

 椅子を反転させて、振り向く彼女に聞いた。

「……俺の話を聞いたか?」

「そうだね。噂になってるよ」

 雫は勿体振らずにストレートに言った。

 綺麗なブルーが、錬太郎を覗く。彼は冷たく彼女に言う。

「成る程。要するにお前がクラスの代表になって、俺に噂の真偽を確かめる役目になったのか」

「…………」

 彼女は笑ったまま沈黙した。肯定と受け取る。

 初日のあの騒ぎのこと。柳が控えろと言ったこと。

 何より科学者が有り得ないと言うほどの事態。

 錬太郎は異常性のある己を自覚はしていた。

「怖いか。俺が有り得ない能力者だから」

「怖いよ。凄い怖い。今にもわたし、この場で殺されるかもしれないって、正直に思うぐらい」

 ストレートな言葉にはストレートに返す雫。

 笑っているが、ブルーの瞳は完全に怯えていた。

 被害妄想のように、勝手に。呆れるように、錬太郎はため息をついた。

「阿呆が。俺は見境のない能力者じゃあない。そもそも、俺はマトモに自分の能力を理解できてないんだ。歴とした無能力者だよ」

「本当かな」

「嘘だと思うなら勝手に思え。最初に言うが、俺は人殺しになる気はない。この頭には、外の世界の常識はちゃんと詰まってる」

 自分の人差し指で、右のこめかみを軽く叩いて彼女に言った。

 雫は笑顔を崩さない。まるで、仮面か能面のように変わらない。

「みんな、最初はそうやって言うんだよ。自分は悪人じゃない、悪いことなんかしないって」

「用心深いなお前。……まあ、大体の事情は察したがな」

 雫の言葉に、一種の確信を得た錬太郎。

 そうするとようやく、雫はハッキリと怯えを見せた。

 表情がみるみる変わって顔色も悪くなる。微かに震えていた。

「ま、まさか……ここに来る前にわたしに何かしたの……!?」

「? どうやって……ああ、違う違う。俺は月川の想像することはしないよ」

 そう言うが、怖がったままの雫。

 恐々彼に聞いた。

「開発受ける前に能力を持っていたって……本当なんだね……」

「ああ、まあな。って、そっちかよ。てっきりもう一個のほうかと思ったのに」

 なんだ、怯えていたのはそっちか。

 錬太郎は雫にそう言った。彼女は驚く。

 怖い理由は、なにもせずに能力が開花していた不気味な能力者。

 皆は後天的なのに、彼は先天的。その違いが恐ろしかった。

 なんかブタに変身する能力らしいが。

「えっ?」

「ん? 俺の能力名だよ。『星の記憶』。それが、俺の能力になるんだと」

 ガイアメモリ? なんだそれは?

 授業でも習わない、聞き覚えのない能力名。

 その危険性をこの時は自覚してない錬太郎は、学園都市の禁句を言った。

 雫の状態は何となく分かったが、これは理解できてなかった。

 自分から、爆弾を撒いてしまう。

 

「俺の能力って、科学者の人が言ってたんだけど……多才能力とかいうのにかなり近いらしい。完全に劣化したとか言われたけど。有り得ないって、そっちじゃなかったのか?」

 

 この一言が、騒動のきっかけになるとは……思っても見なかった錬太郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物解説。

 月川雫。

 本作のオリジナルヒロイン。無能力者。錬太郎の転校してきた席の前の席の女子生徒。

 一応、ある系統の能力は保持している。彼女が選ばれた文字はW。

 彼女も、ガイアメモリに選ばれた一人になってしまっているが、果たして……。

 

 

 

 

 

 ガイアメモリ解説。

 

 バリアガイアメモリ。

 詳細不明。

 

 バリアドーパント。

 詳細不明。

 

 解説終了。


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