3人のガーディアンーガーリー・エアフォース異聞ー 作:h.hokura
八代通は深い溜息を付くと再び同じ質問を目の前の人物に掛ける。
「名前は?」
「鳴谷 慧・・・です。」
「年は?」
「17歳。」
「・・・性別は?」
「だから男だと何度も言っているじゃないですか。」
その答えに八代通はうんざりした様に首を振ると言う。
「悪いがどう見ても君は13,4歳の・・・女子にしか俺には見えんな。」
八代通の言葉に彼の前でベットに腰掛けている少女は絶望に満ちた表情を浮かべて肩を落とす。
グリペンが帰還後3時間が経っていた。
搭乗して居たペールピンクのストレートロングヘアをした小柄な少女はコクピットから連れ出され、この病室へ移動させられていた。
医療班の診察で身体に異常の無い事を確認された少女が意識を取り戻したのは1時間前の事。
「ここは?いや明華はどうなったんですか?」
意識を取り戻して最初にそう言って八代通に詰め寄った少女は、最初に声、やがて身体に対し戸惑った表情を浮かべると病室に有る鏡に慌てて近寄って、己の姿を確認すると顔を真っ青にしてこう叫んだ。
「わ、私女の子になっているの!?」
少女を取り敢えず落ち着かせ座らせた八代通が上記の質問を行ったのだが・・・未だに認識が一致しない状態が延々と続いているのだった。
「室長、よろしいでしょうか?」
イーグルと共に病室に来てそのやり取りを冷ややかに見ていたファントムが進み出来て言う。
「何だファントム?」
「このままでは埒が明きませんわ。」
不安そうに自分と八代通を見ている少女を一瞥しファントムは言う。
「でどうする気だ?」
「こうします。」
ファントムは少女に向かい合うとその両手を掴み自身の胸に当てさせる。
「!!??」
「これで分かった筈よ・・・元が男性だったかは別にして今は女性だと。」
感じる筈の無い柔らかい胸の感触に少女は狼狽しつつ聞き返す。
「な、何でこんな事に?」
そんな少女に冷たい視線を向けファントムは告げる。
「その姿になった理由は分からないわ・・・ただ貴女が私達と同じガーディアンになったのは確かね。」
「ガーディアン・・・?」
少女がファントムの言葉に動揺している最中、病室に看護師がやって来て八代通に書類を渡す。
その看護師は部屋の異様な様子に戸惑っていたが、八代通の鋭い視線に慌てて出て行く。
「鳴谷 慧、男、17歳、小松出身・・・間違いないか?」
書類を一瞥した八代通が少女に確認する。
「は、はいそうです間違いありません、だから・・・」
「違うわ。」
そう答えた少女を冷たい言葉で制止しファントムは告げる。
「もう貴女は鳴谷 慧では無い、先程言った通りガーディアンであるグリペンになったのよ。」
「いやそんな・・・」
余りにも理不尽なファントムの物言いに少女、グリペンが抗議しようとするが。
「ガーディアンシステムに登録された時点でもう貴女には選択の権利は無くなったのよ、いずれ鳴谷 慧の存在はこの世界から抹消される。」
「・・・・」
目を見開き見つめて来るグリペンにファントムは冷徹に伝える。
「もうグリペンとしてザイと戦ってゆくしか選択肢は残されていない、貴女には最早それ以外の存在意義は無いのよ。」
「そ、そんな私の人権は?」
まだ納得出来なグリペンにファントムは更に恐ろしい現実を突きつけて行く。
「人権?そんなもの人間では無くなった貴女には無いわ・・・」
ファントムの言葉にグリペンは身体をガタガタと震えさせ始める。
「人間で無くなったって?どう言う意味・・・」
「分からないかしら?貴方今日初めてグリペンを操縦したわよね、まったく訓練を受けていないのに、更に耐Gスーツも身に付けずによ、普通の人間にそんな事出来るか・・・理解出来る筈よ。」
自分があの戦闘機を操縦しザイを撃墜した時の事を思い出しグリペンは言葉を失う。
「・・・・・・・」
そんなやり取りを聞きながら八代通は内心苦笑していた。
(ファントムの奴、一切をオブラートに包まず言いやがったな。)
確かにファントムの言った事は事実であり、ガーディアンになった時点で鳴谷 慧にそれ以外の道は無くなっている。
だからハッキリと伝えた方が本人の為だ、今の合理的なファントムとしては当然の結論なのだろうと八代通は考える。
(だが・・・まだ何処かに残っているだろう昔の彼女は・・・深い葛藤に襲われているんだろうな。)
ファントムとはそれなりに長い付き合いである八代通はその心情を察し溜息を付く、もっとも彼女はそれを絶対認めないだろうが。
「認めなさいグリペン・・・それが貴女の為よ。」
グリペンは俯いて震えながらその言葉を聞いて居た・・・
「室長、グリペンもう動いても問題は無いのですね?」
そんなグリペンを暫し無表情で見ていたファントムが八代通に聞いて来る。
「・・・ああ身体的には問題無いそうだ。」
八代通の言葉にファントムは頷く。
「それではグリペンに私達が使用する施設を案内したいのですが。」
多分親切心と言うよりその方が早く事実を認識できると考えての事だろうなと八代通は思い頷く。
「分かったグリペンの事はお前達に任せる・・・イーグル、いい加減起きろ。」
ちなみに先程からイーグルが一言も発しなかったのは八代通の座って居る傍に椅子を置いて彼に寄りかかって寝ていたからだ。
「・・・はぁぃお父様。」
伸びをして起き上がったイーグルはファントムとグリペンを見て聞いて来る。
「話しは終わりファントム?」
「ええ、これからグリペンに施設を案内するからイーグルも付いて来なさい。」
「う~ん面倒くさいなぁ・・・ファントム1人で良くない?」
いかにも面倒だと言う様子のイーグルを一瞥したファントムが八代通を見る。
「イーグルお前も一緒に行け・・・後でちゃんと構ってやるから。」
ファントムから無言の圧力を感じた八代通は肩を竦めるとイーグルにそう言う。
「うん任せてお父様。」
一転やる気を起こすイーグルに八代通は苦笑を禁じ得なかった。
(こいつはこいつでファントムに劣らず扱いずらいな。)
「ではグリペン来なさい・・・まずはこれに着替えてもらうわ。」
ファントムは未だ茫然としているグリペンを立ち上がらせ、肩を押して病室の外へ行かせると、自身も紙袋を手にイーグルを伴なって出て行く。
八代通はそんな3人を肩を竦めながら見送ったのだった。
「あの・・・ここってどこなんですか?」
辺りを見渡しながら疲れた顔でそう尋ねる慧いやグリペン。
ちなみに何故そんなに疲れた顔をしているのかと言うと、病室を出た後に女子更衣室に連れ込まれ、着ていた入院服を脱がされ、ファントムのお古らしいサイズの合わない白のワンピースを無理やり着せられたからだ。
慧にとっては女子更衣室に入るのも女子の服を着るのも生まれて初めてなのに、ファントムは情け容赦無かった。
なおイーグルがそんな光景を腹を抱えて笑いながら見ていたのは言うまでも無い。
「航空自衛隊小松基地よ、ああそう貴女の所属と身分を伝えておくわ。」
歩みを止めファントムはグリペンに向き合う。
「貴女は本日付で航空自衛隊小松基地所属の第1特殊戦術飛行隊のパイロットになったわ、階級は3等空佐よ。」
正式に辞令が降りた訳では無いが、自分達と同じ扱いになる事は分かっていたのでファントムはそう説明する。
小松・・・基地、戻って来たのかと慧、それにしても第1特殊戦術飛行隊?3等空佐?
「第1特殊戦術飛行隊はザイに対抗する為に組織された部隊・・・階級については私も知らないわ。」
グリペンの疑問に表情で気付いたのかファントムが説明する。
「階級については、『お前達が特別な存在だからだ。』ってお父様は言っていたけどね。」
ファントムの横でイーグルが気楽そうに言いながら捕捉する。
「あと・・・自己紹介がまだだったわね、私はファントム、貴女と同じガーディアンよ。」
「私はイーグル!まあよろしくね!」
満面の笑みを浮かべイーグルも言って来る、そんな二人を見ながらグリペンは益々混乱してしまう。
今の自分の姿もだがファントムとイーグルはどう見ても10代の少女だ、それが空自のパイロットで3等空佐だと言うのだから。
「ちなみに先程貴女に色々質問していた男性は八代通 遥、防衛省技術研究本部の特別技術研究室室長、私達の直接の上司よ。」
「防衛省?自衛隊の人なんですか?」
自衛隊の制服では無く白衣を着た八代通の姿を思い出しグリペンは聞く。
「正確には技官よ、第1特殊戦術飛行隊の技術顧問、もっとも事実上指揮官も兼ねているけどね。」
実際には正式な部隊長が居るが名ばかりなのだ、そこにはとある事情があるのだが敢えてファントムは説明しなかった。
(嫌でも理由を知る事になるでしょうからね。)
混乱しているグリペンを見ながらファントムはそう考える。
「それ以外の飛行隊の人間については追々教えるわ、さあ行きましょう。」
「ちょっと待って、その肝心な事を聞いていないんだけど、ガーディアンって一体何?」
そう聞いて来るグリペンを暫く見つめるとファントムが答える。
「詳しい事は後日八代通室長が説明する筈よ・・・まあ簡単に言えばザイと唯一対等に戦える特殊装備の戦闘機、貴女の場合はJAS-39Dを操れる存在よ。」
再び歩き始めながらファントムが続ける。
「私はRF-4EJファントムII、この娘は・・・」
「F-15Jイーグルだよ、二人の戦闘機と比べられない程の高性能機!」
ファントムは兎も角、イーグルの方は悪気は感じられないものの小馬鹿にされている気がグリペンはしてしまう。
「この娘の言う事を気にする必要は無いわ、何時もこんな調子だから。」
肩を竦めファントムは言うとまだ疑問が残って居る様子のグリペンに続けて言う。
「それ以上の事はこんな所では話せないわ、私達の存在は最高機密だから。」
3人がそう話しながら歩いていると、前方から婦人自衛官が2人歩いて来る。
楽しそうに何かを話していた2人はファントム達3人を見ると途端に表情を変える・・・恐怖に。
「・・・?}
その姿にグリペンは戸惑ってしまうがファントムとイーグルは気にした様子も無い。
恐怖に固まったままのその2人をファントムとイーグルは無視して進んで行く。
グリペンはその様子に益々戸惑りながらファントムとイーグルに付いて行く。
ファントムはそんな戸惑っているグリペンに気付いていたが敢えて何も言わない。
やがて暫し歩いた3人は4階建ての建物の前に到着する。
「ここがこれから貴女の住む場所になるわ。」
そう説明しファントムはイーグルとグリペンを伴なって入って行く。
3人が入って行った所はロビーの様だったが、受付を含め人の気配がまったく無かった。
グリペンを伴うファントムも付いて来たイーグルもそれを気にした様子も無く設置されたエレベーターに向かう。
「えっとファントム・・さん、ここって他の人って居るの?」
静かすぎる周りの様子にグリペンは疑問に思いファントムに質問する。
「私の事はファントムで良いわ・・・さん付けは不要よ、イーグルにもだけど。」
エレベーターの呼び出しボタンを押しながらファントムが答える。
「それと・・・ここには私達しか住んで居ないわ、さっき言った通り存在が最高機密だからよ。」
「そう!ここには今まで私とファントム2人しか居なかったんだ、今日からグリペンが住むから3人だね。」
ファントムの言葉にイーグルが微笑みながら無邪気に続ける。
「ここにたった3人ですか?」
外見からかなり広い建物だったのにそこに住んで居るのが3人と言う状況にグリペンは更に戸惑う。
だがファントムはそれ以上説明する事も無くエレベーターにイーグルと共に乗り込んで行く。
「早く乗りなさい。」
エレベーター前で立ち止まって周りを見ているグリペンにファントムは言う。
「あ、はい・・・って何でこんな喋り方に?」
返事をして乗り込みながらグリペンは後半そう呟く、そう目覚めた時から一人称も喋り方もまるで女の子みたいになってしまい困惑していたのだ。
何故か男言葉で喋ろうとしても出て来るのは女の子の言葉遣い、なお本人はまだ気づいていない様だが仕草もそうなっていた。
ファントムはそんなグリペンを見ながら考えていた。
(容姿だけではなく言動までとはね・・・これもガーディアンシステムの所為?)
それなりにシステムと長く付き合っているファントムにも真意は分からなかった、男を女にしてまで何をしたいのかと。
エレベーターが4階で止まり3人は降り立つ。
「こっちよ、部屋は何処を使っても基本的には自由だけど、室長の指示で一応固まって居る様に言われているから。」
そう説明しながらファントムはグリペンをある部屋の扉前に連れて行く。
「隣がイーグル、前の部屋が私よ。」
自分達の部屋を簡単に紹介しファントムはドアを開けて室内に入って行く。
「さあさあ入って入って、今日からここがグリペンの部屋なんだから。」
イーグルがそう言ってドア前で動かないグリペンを押して室内に入って行く。
その部屋はベットとパソコンを乗せた机だけと言うシンプルな物だった、そこには使われていた形跡が無く真新しかった。
「必要な物、服や下着は後でサイズを測って用意するわ、どうせ分からないでしょうし。」
「服や下着って、やっぱり女の子の?」
言われたグリペンが真っ赤になって聞き返す。
「当たり前でしょう・・・女なんだから。」
今更何を言っているのかと言う顔をしてファントムは続ける。
「何も着飾れとは言わないわ・・・でも必要最低限の服装はしてもらうわ。」
逆らい難いファントムの言葉にグリペンは溜息を付く。
「ひひひ・・・グリペンはお人形さんみたいだからどうなるか楽しみだね。」
2人の会話を聞いていたイーグルが興味深げに言う、そして密かにグリペンを着せ替え人形にしてやろうと考えていたりする。
「その他必要な物はそこにあるパソコンで頼む事になるわ、そうすればここに届けてくれるわ。」
「パソコンでって、自分で店に買いに行くとかは・・・」
聞き返すグリペンにファントムは肩を竦めて言う。
「私達は特別な事情が無い限り基地外には出られないわ、基地内もこことさっきの格納庫以外出入り出来ないし。」
それって軟禁されているんじゃないかとグリペンは思ってしまう。
「貴女の考えている通りよ・・・私達は外部には絶対知られてはいけない存在、基地の人間達も口外する事は禁じられているわ。」
グリペンをじっと見つめながらファントムは淡々と話す。
「基地の人間達にとって私達は禁忌の存在なの。」
先程の婦人自衛官達が見せた恐怖の表情の意味をグリペンは理解する、考えてみればまだ10代にしか見えない少女が居る事自体異様だ。
しかもその少女達が戦闘機の乗っているのだから・・・
今更ながらグリペンは自分の置かれた状況に困惑と恐怖を覚える・・・俺は一体これからどうなるのかと。
「・・・食事時間は1800からよ、後で呼びに来るわ、それまでじっとしてなさい。」
グリペンの心境を知りつつファントムは事務的に予定を伝える、同情は無意味な事は明白だからだ。
むしろ早く状況に慣れて貰わなければこれからの対ザイ戦に於いて支障が出るのだからとファントム、沸き上がって来る葛藤を無視しそう考える。
「じゃねえグリペン。」
茫然とするグリペンを置いてファントムとイーグルは出て行くのだった。
グリペン暫し茫然としていたが何とか気を取り直し、自分の部屋になった場所を見渡す。
長く使われていないのにかかわらず掃除の行き届いているのだが、今のグリペンにとってはそれは寒々とした光景にしか見えなかった。
ふと壁に掛けてある時計を見ると14:30だった、ファントムが言った夕食時間までは大分あった。
それまで置いてあるパソコンでも触っても思ったが、やはり気が進まず溜息を付いたグリペンは部屋を見て回る事にする。
とは言えベットと机のある部屋以外にはトイレと風呂場しか無く直ぐに終わってしまったが。
「シャワーでも浴びるかな。」
今になって身体がベトベトしている事に気付きグリペンはそう呟く。
意識を失っている間に看護師が一応身体を拭いてくれたとファントムが言っていたが、やはりそれだけでは付いた不快感は消えなかった様だった。
先程確かめた脱衣所に入り服を脱ごうとして・・・グリペンはそこで固まる、今の己の姿に気付いて。
「えっと・・・良いのかな?」
例え自分の姿であっても少女の身体を見てしまう事にグリペン、いや慧は躊躇してしまう、何か罪を犯すような気がして。
暫くその場に佇んで居たグリペンは深呼吸すると着ているワンピースに手を掛ける・・・目を瞑りながら。
「見なければ良いんだわ、さっと脱いで、シャワーを浴びて、また服を着れば・・・」
そう呟き服を脱ごうとするのだが、女性の服を着るのも初めてなら脱ぐのも初めてのグリペンにスムーズに出来る訳も無く。
「あれ?これって、いやこっちが・・・」
直ぐににっちもさっちもいかなくなり・・・
「わぁっ!?」
半脱ぎの状態でこけてしまうグリペンだった。
「いてて・・・何でこうも女性の服って面倒くさいのかしら・・・えっ・・・」
仕方なく目を開けて立ち上がろうとしたグリペンの目に映る1人の少女の姿。
それが脱衣所の壁にある鏡に映っている今の自分の姿だと気付くのにグリペンは暫し時間が掛かってしまった。
「・・・・」
そして認識した途端、その鏡に映るどう見ても幼い少女にしか見えない姿に、自分がもう鳴谷 慧ではないのだとグリペンは思い知らされる。
「うう・・・うう・・・」
座り込みながら涙が溢れ嗚咽が漏れるのをグリペンは止められなかった。
(何でこんな事になったんだよ?)
だがそんなグリペンの問いに答えてくれる者は誰もおらず、ただ聞く者の無い嗚咽だけが脱衣所から無人の部屋に漏れて響くだけだった。
我ながら鬱な話を書いたものだと思ってます。
設定的には前に書いた女神物に近いのですが、あっちが人々に崇拝され、キャラ同士の関係も良好だったのですが。
それでは。