ある金曜日。今日はバイトが無いので、学校が終わってから私は家に
で、練習しているのは姉さん達の楽曲、BLACK SHOUT。「楽譜見せて!」と姉さんにお願いしたら、「良いわよ」と快く楽譜を貸してくれた。それを見ながら練習をする。気になるじゃない?姉さん達がどんな楽曲を演奏しているかって。
今度、ライブをするそうだから、絶対に見に行くと姉さんと約束した。私達の夢――スタジアムでライブをするという夢と、その先にある、他人に話したら夢物語だと鼻で笑われるだろう夢へ向かっている姉さんを応援したいから。
人に笑われるぐらいの夢――私の
……そのメンバーの中に私が入れる余地はまだあるのかなと淡い期待をしていたのも事実。歌えないけれど、ギタリストとしてなら――
「あっ……」
そんな事を考えていたら、ド派手にミスを犯してしまった。苦笑いを浮かべギターを抱えたままベッドに倒れこむ。分かってる。分かってるって。リズムが速かったり、ヘタクソだったりする私の技量じゃRoseliaのメンバーになんてなれない事ぐらい。だから氷川さんにお願いして、ギタリストとしてRoseliaに入ってもらったんだから。
「はあ……」
暗い気分になった私は盛大に溜息を吐く。倒れこんだままの体勢で部屋の時計に目をやる。気付けば、帰ってきてから一時間以上練習していた。一度休憩しよう。このままじゃ練習しても意味がない。
そう思い体を起こそうとした時、私のスマホが音楽を鳴らした。着信?誰だろうと思いながらスマホを手に取り、画面に表示されている文字を見る。おや?珍しい子からだ――
「もしもし、香澄ちゃん?」
『あ、華那!!今日、有咲の家でお泊り会するんだけど、今から来れる!!??』
「むっきゅう!?」
電話に出た瞬間、元気で大きな声が私の耳を襲った。変な声を出してしまった私は悪くないよね!?ってか、間違ってスピーカーのボタン押しちゃったよ!?
『バ香澄!!そんな大声出したら、華那が気絶するだろ!!』
と、向こう側で有咲ちゃんが怒っている声が聞こえてきた。その後ろでは沙綾の笑い声も聞こえてきた。あ、りみちゃんの困惑した声が聞こえてきた。おたえちゃんは……またウサギのおっちゃんと話してる。って、有咲ちゃんの家にウサギ連れ込んだんかい……あの
「あはは……相変わらずPoppin’Partyのみんなは元気だね。で、有咲ちゃん。私行っても問題ないの?迷惑じゃない?」
お泊り会に行くのはいいのだけれど、今から有咲ちゃんの家に向かえば十八時は過ぎるね。夕食は……コンビニで買って食べていく方向でいいかな。姉さんに知られたら正座して説教コースだけれど。
『華那、お前は私の事を“ちゃん”付けすんなって言ってんだろ!まあ……来たきゃ来たっていいんだぞ?こっちはどっちでも構わねぇし……来た方が華那も楽しんじゃねぇかって思うけどな?あと、来るんなら、華那の分の夕食も用意できるから食べて
と、“ちゃん”をつけた事に怒る有咲ちゃん。そこまではいつも通りなのでスルーするけれど……まさかついに生で有咲ちゃんのデレる声が聴けるなんて……!
『あ、有咲がデレた!』
『デレてねぇよ!!って、沙綾!?おまっ、なに写真撮ってるんだよ!?』
『いやぁー。有咲が顔真っ赤にして否定してるから、その様子を皆に送ろうかなって思って』
『送るんじゃねぇーーーーーー!!!』
『あ、有咲ちゃん。顔真っ赤だよ?』
『え、なに?華那来るの?』
と、有咲ちゃんが怒鳴り散らしている今頃になって、会話に入ってくるおたえちゃん。本当に賑やかなバンド仲間だなぁと内心羨ましく思いながら、りみちゃんに親に泊まり行って良いか確認してから折り返し連絡するねと伝える。
いや……だって、他のメンバー有咲ちゃんいじって楽しんでるんだもの。おたえちゃんに伝言頼んだら「あ、言うの忘れてた」とか言い出すのが目に見えているからね。おたえちゃん、天然娘だから仕方ないね。うん。え?完全に諦め入っているよ?
一度電話を切り、スマホを操作して母さんにメールを送る。急に友達からお泊り会に誘われたんだけど、行って来てもいい?よし、送信。返信くる前に一泊分の着替えを用意しなきゃ。
と、服を用意しようとした時にスマホの通話アプリの着信音が鳴った。誰だろう?と思いながら確認すると、沙綾からだった。
沙綾【華那、泊りに来れるなら、ギターも持ってきてね!】
ほへ?なんでだろうと思いながら、了解だよって返信する。ギター持って行っても、私弾く事はないと思うんだけどなぁ。と思っていると今度は母さんから連絡が来た。速いよ!?仕事中だよね!?
で、きたばかりのメールを読めば、鍵をかけておいてくれればいいとの事で、外泊許可がアッサリと出た。文章の最後に「彼氏じゃないのは分かってるから、明日の夕方までには帰ってきなさい。」と書かれていた。
……いや、確かに彼氏じゃないけどさ!もう少し娘の事、心配しようよ母さん!?頭痛を覚える私は母さんに返信する。有咲ちゃんの家に泊まり行くからねっと。あ、そうだ姉さんにも送らないと……。練習後に帰って私いないと心配しそうだし。
えっと、姉さんはアプリの方でいいかな?友達にお泊り会に誘われたので行ってきます。母さんには連絡済みだから心配しないでね♪っと。ついでに猫のスタンプも送っておこう。靴下の中に入ってよろしくお願いしますって言ってるやつ選んで送信っと。
着替えやらギターを準備して、香澄ちゃんにアプリで行ける事を報告して家を出る。あ、有咲ちゃんのお祖母ちゃんにお土産用意したほうがいいよね。みんなにもお菓子ぐらいは必要かな?なら、お菓子屋よって行かないといけないね。お饅頭とかでいいかな?そう考えながら私はお菓子屋に向かった。
「一度休憩しましょう。ずっとやってるから集中力切れてきているわ」
と言って私はマグボトルを手に取る。
「あこ、クタクタだよぉー」
「あこちゃん……ずっと頑張ってたもんね……はい飲み物」
「あ、りんりんありがとー!!」
今日の練習もかなりいい感じで入れた。だが、一時間も経てばどこかしら集中力が低下する。特にまだ中学生のあこの集中力低下が目立った。かなり激しい曲を続けていたのだから、疲れが出てくるのは当然。練習で無理をして体を壊す事になってしまえば、あこの将来にも、そしてRoseliaとしても問題となりうる。
そう判断した私は一度休憩時間を作った。休憩時間となった今。みんなそれぞれ思い思いの事をしていた。あこと燐子は二人でまたゲームの話しをしているようだし、紗夜はギターの手入れをしていたけれど、リサがなにか話しかけていた。
「あら?…………リサちょっといいかしら」
そんな風景を見ながらマグボトルに入った喉に優しいハーブティー(華那が私にプレゼントしてくれた)を飲んでいた私は、スマホが震えたのでメールか何かかなと思いながら、内容を確認してリサを呼ぶ。「友希那。どうしたの~」と不思議そうにこっちに来るリサに私は不安を表に出さないように心掛けながら
「リサ、華那の交友関係ってどうなっているか知っているかしら?」
「は?……華那の?」
「華那さんがどうかしたのですか、湊さん」
と、リサに聞いたら紗夜も気になったのか、話しに入ってきた。紗夜も華那とはギターの練習に付き合ってもらっているから、華那の交友関係を知っているかもしれないわね。そう思い、私はスマホの画面を二人に見せながら
「ちょっと華那から通話アプリで連絡が来たのよ。……友人宅へ泊り会に誘われたから行ってくると来たのだけれど……」
この友人が男じゃないかと不安を覚える。いえ、華那の事だからそういった関係になる人はそうそういないとは思うのだけれど、何か悪い男に引っかかって騙されているんじゃないかと思うと不安になるわ。
「あー……確かに、華那なら『お菓子あげるよ~』とか言われたら、ついて行っちゃいけないって言われててもついていくタイプだしなぁ……」
「今井さん。華那さんもそこまで子供じゃないかと思うのですが?」
「ええ。紗夜の言う通りよ。いくら華那でも……無いわ。さすがに」
リサの発言を私と紗夜の二人で否定する。ただ、不安は消えない。お泊り会という事は複数人で泊まる事になる。その複数人に誰がいるのか、そもそもお泊り会は嘘で、学校でいじめにあっているのではないかと不安を覚えた。
でも、いじめにあっていれば同じクラスの美竹さんが教えてくれるはずね。美竹さんも華那の事は気にかけてくれているようだから。そう考えるといじめの線は無いわね。
「その友人宅が私の知っている人間なら安心できるのだけれど……」
「本人に聞くのは躊躇われる……そういう感じですね?湊さん」
紗夜の言葉に私は頷く。あまり私のせいで華那の生活を縛り付けたくはない。でも心配なのよ。あの子が危険な目に合っていないかどうかって。でも深く聞いて華那を困らせたくない。あの子にだって話したくない事の一つや二つはあるはずだから。
「その気持ちよくわかりますよ、湊さん。
「そう……紗夜でもそうなのね。で、リサはどうおも……リサ?」
「うーん。モカに聞いたけど、Afterglowのメンバーじゃないのは確定みたいだよー?」
と、スマホをいじりながら報告してくるリサ。それを聞いた私は内心動揺した。学校で華那と仲が良いグループと言えばAfterglowのメンバーぐらいしか思い浮かばなかったから。という事は、他の友人関係となると――
「リサ。青葉さんは何か知っている様子は?」
「モカも分からないって……ただ。クラスメイトの家じゃないのは確定っぽいよ?」
リサの言葉に私に衝撃が再び走る。学校のクラスメイトじゃない=部外者。という図式が出来上がるからだ。となると――
「――やっぱり男かしら?」
「……その可能性は否定できませんね」
「いや、友希那に紗夜?その考えは短絡的すぎじゃないかなぁ?」
腕を組んで真剣に悩む私と紗夜に、苦笑いを浮かべたリサがそう言ってくるけれども、まだ可能性は否定できない。もし男だとしたら、一度会わせてもらう事も考えないといけないわね。
「そもそもさぁ、友希那。華那が誰と付き合おうと華那の自由じゃん?そこまで心配しなくてもいいんじゃないかなぁ?」
と、私が真剣に考えていると少し呆れた表情でリサが言ってきた。確かにそうね。華那がどんな人間と付き合おうと、華那の自由だ。でも――
「リサ。私は……華那には幸せになってもらいたいのよ……」
「友希那……」
「湊さん……」
私のせいで歌えなくなった華那。あの子は大切な夢を諦めざる得なくなった。だからこそ、華那には本当の意味で幸せになってもらいたい。そう願うのは姉として駄目なのだろうか。それに――
「華那を悲しませるような男は姉として許せないのよ。あの子には涙は似合わないわ」
そう。華那は笑顔が一番似合う。それは華那を知っている人間なら誰もがそう言うに決まっているわ。誰より一番身近で華那の笑顔を見てきた私が言うのだから間違いないわ。
「そうですね……華那さんを悲しませるような男だった場合、即座に呼び出してその男の根性叩き直しますね。華那さんを泣かせるのは許せませんから」
「確かに。華那泣かせたらアタシでも許せないね。うん。……でも、まだ男って決まった訳じゃないから、様子見る感じでいいんじゃない?」
と、私の言葉に同意してくれる二人。姉としても許せないけれど、二人とも華那の事を大切な妹分と思ってくれているようね。私も二人がいるなら心強いわ。
「そうね。帰ってきたら、華那に聞いてみるわ」
「その方がいいでしょうね。華那さんなら、嘘偽りなくお泊り会の様子を話してくれるはずですから」
と、華那の性格を冷静に分析する紗夜。リサはもう少し知り合いに聞いておくね☆と言ってくれたので、華那の話しはそこで終わりにし、私達は練習を再開した。
尚、次の日帰ってきた華那に、どこに泊まり行っていたのか聞いたらPoppin’Partyのお泊り会だった事が判明し、私は胸を撫で下ろした。もし、男だった場合……リサと紗夜、それと山吹さんを呼んで、即座に華那を問い詰めなくてはいけなくなるところだったわね。
そう考えた時に、山吹さんに聞けばよかった事に、私が気付いたのはその日の夜だった――