Poppin’Partyのお泊り会に誘われた日。有咲の家に着いたのが十八時過ぎ。チャイムを鳴らしたら、有咲のお祖母ちゃんが出てきてくれた。すでに有咲から話が行っていたみたいで、有咲たちは蔵で練習していると言われた。その際、お祖母ちゃんに一晩お世話になるのでこれを――と、途中で買ったお菓子の詰合せを渡した。
「あらあら。別に気にしなくてもいいんだよ?」と言われたけれど、お世話になる人間なので、せめてこのぐらいは――と無理を言って受け取ってもらった。その後に蔵の地下へ向かう。そこがPoppin’Partyの練習場所となっているからね。
「失礼……します」
恐る恐る扉を開ける。すぐに飛んできたのはドラムとベースの重低音。そして、楽しそうに歌う香澄ちゃん達の声だった。ああ。やっぱりバンドっていいなあと思いながら、香澄ちゃん達の歌を静かに聴いた。
「~♪……あ、華那だ!!」
と、歌が終わった後にギターを持ったまま、私に向かって走り出してきたのは香澄ちゃんだった。ってやばっ!?このままだとギターごと香澄ちゃんに抱き着かれて、日菜先輩抱き着き事件の再来になる!?
目を瞑り私は身構えるも、いくら待っても香澄ちゃんによる抱き着かれる衝撃はやってこなかった。恐る恐る目を開けると、有咲ちゃんが香澄ちゃんの首根っこを猫を捕まえるかのように捕まえていた。あら可愛い。
「バ香澄!おまっ、ギター持ったまま突撃するやつがいるか!?」
「そこにいるよー」
「おたえは黙ってろ!」
うわーい。まるでコントのようなやり取りに私は笑うしかないよ。りみちゃんも笑っていたけど、沙綾は苦笑いを浮かべていた。まあ、いつも通りのやり取りじゃないかなぁと思いつつ、背負ってたギターを下して
「みんな、Poppin’Partyのメンバーじゃないのに今日は誘ってくれてありがとう。……で、呼ばれた理由って何かな?」
まずは、Poppin’Partyのみんなにありがとうと言ってから今日呼ばれた理由を聞く。
「うん!華那にちょっとライブアレンジで相談したくって!」
「アレンジ?」
と、元気よく答えてくれたのは香澄ちゃん。アレンジときましたか。しかもライブ用。……報酬を聞こう。(某ゴ〇ゴ13さん風に)
「いや、華那。お前、私達と同世代なんだから、そのネタ分かる人間そうそういないんじゃねぇか?」
「有咲ちゃんが分かってくれれば、私は満足だよ!」
「“ちゃん”付けすんじゃねぇ!!」
何故か私が有咲ちゃんを“ちゃん”付けして呼ぶと有咲ちゃんが怒りだすんだよね。確かに有咲ちゃんより二~三センチ身長低いけどさ!だからって、私だけ“ちゃん”付け禁止は納得できないんですけど!と、言いたいところだったんだけど、香澄ちゃん達(主に香澄ちゃんとおたえちゃん)への
「……私いらないんじゃ?」
「いやいや、いるから」
と、いつの間にか右隣に立っていた沙綾が呆れた表情を浮かべながら話してきた。いやだって、アレンジャーとして来てもらったと言われても、私、そんなにアレンジ得意じゃないからね?
「そう言うけどさ、華那。いろんな楽曲聴いたり弾いたりしているから、『こういう感じでいいんじゃない?』ってアドバイスぐらい出せるでしょ?」
「まあ……そのぐらいなら……できなくもないかな?」
「そうそう。華那には私と一緒におっちゃんの可愛いところ挙げてもらわないと」
「へっ!?」
さっきまで、有咲をいじって遊んでいたはずのおたえちゃんが、いつの間にか左隣に立っていた。腕にはうさぎのおっちゃんが可愛らしく私を見ていた。ジッ――と、見られていたのでつい、おっちゃんを撫でてしまった。
いつも思うのだけど、発音間違えると「おっ(↑)ちゃん」になるよね?知らない人が聞いたら勘違いしそうだよね。おっちゃんを飼っているって。あれ?おたえちゃんが危ない女子高生になっちゃう?
「大丈夫だよ華那。駅前でギターの語り弾きやって、知らないサラリーマンと仲良くなって、その人の家に住み込まないから」
「おたえちゃん、お願いだからそんな事しようとしないでよ!?」
「お、おたえちゃん、そんな事してたの!?」
私とりみちゃんがおたえちゃんの発言に反応する。
「おたえ……華那とりみにそんな冗談通じないからやめなさい」
いや、沙綾。冗談なのは分かってるよ!?でもおたえちゃんならやりそうじゃない。ご飯くれるなら一緒に住むーとか言って。しかもなんかちょっと精神的に病んだ感じで――
「華那……この話しやめない?」
「そう……だね」
りみちゃんと私、沙綾の三人で小さくため息を吐いてから本題に入る。なんでも今度のライブは姉さん達、Roseliaと合同らしく、最初にPoppin’Partyがライブして、その後にRoseliaの番となるとの事。
で、セットリスト(ライブの演奏順の事で略すとセトリ)決めたはいいけれど、どれもこれもアップテンポの曲ばかりで、来てくれた人達が疲れちゃうんじゃないかと不安になったそうで、なにかいいアレンジがあればと案を出し合うも、これといったものが出てこなかったそうで……。そこで頼ったのが私という事らしい。
「そうなんだ。で、セトリ見せて。見てからじゃないと何とも言えないから」
「と言うと思って……はい、これ」
と、沙綾が渡してきたのは一枚の用紙。いつもながら用意がいいね、沙綾。さてさて、どんな曲順だろうかと期待しながら用紙を見る。
「一曲目にTime Lapseね。入りとしてはアリだね。で二曲目が――」
ふむふむ。あ、ティアドロップスもやるんだ。あ、ホシノコドウもか。アップテンポが多いって言っていたけれど、確かに多い。いや、多すぎるような気がする。八曲やるのに全部アップテンポ系の曲だ。
カバーの「千本桜」に「光るなら」もアップテンポ系だし、途中でバラード系挟んだほうがいいね。
「あー……華那もそう思う?」
「“も”って事はみんな理解していたんだね?」
沙綾の言葉に反応して問うと、りみちゃんがコクコクと頷く。結構まじめなやり取りをしている間も、有咲と香澄ちゃんはじゃれあっていた。あ、おたえちゃんも混じった。まあ、こうなるのは目に見えていたので気にしない。
さて、今やる曲の中から一曲外してバラード調の曲をただ入れればいいって問題じゃない。曲ごとのバランスを取らないといけないからね。この曲を外すならこの曲は二番に持って行って、二番目にやる曲は最後――みたいにして動かさないといけない。
曲の流れは見たところ今のPoppin’Partyを表現するには良いと思う。ってなると、この曲をアレンジすればいいかな?そう思い、私はある曲の部分を指さしながら皆に提案する。
「……前から思っていたんだけれど、この曲をアコースティック風バージョンにしてみたら?」
「「「「アコースティック風バージョン?」」」」
「華那ー。レタス持ってない?」
「持ってないから……」
じゃれあっていた香澄達を呼んで、セトリのある曲を指さして提案したら、何故かレタスを持ってないかと聞かれた。イミワカンナイ!
「はいはい、おたえ。華那はまじめに考えてくれているんだから、きちんと聞こう。ね?」
と、沙綾が苦笑交じりにおたえちゃんに注意してくれる。こういう存在はこういう時ありがたいものだね。でも、おたえちゃんは首を傾げて
「うん。きちんと聞いてるよ?ウサギの種類の話しでしょ?」
「……ぜってぇ聞いてなかったろ?」
絞り出すような声で有咲ちゃんがおたえちゃんにツッコミを入れる。ダメだこの子。早くどうにかしないと……。医者に来てもらう?それとも病院に来てもらう?
「華那。それ、ほぼ同じ意味だろ!?」
「ねえねえ、有咲ー。病院が来るってどんな感じになると思うー?」
「だあああ!そこを深く掘り下げるんじゃねええええ!!」
「ねえ、華那ちゃん。病院に来てもらうって、有咲ちゃんの家を病院にするって事でいいの?」
「りみちゃん……冗談だから真面目に聞かないで。ね?」
もう、このカオス空間どうしようかと悩むけれど、いっその事、強制的に話しを元に戻す方向で進めればいいや。となった私は沙綾に耳打ちであるお願いをして、椅子に座ってギターを用意する。まさか、本当に必要になるとは思ってもいなかった。けどやるか。原因の一端は私にあるし。
「ワン・ツー……ワン・ツースリー・フォー」
「果てしなく―――」
私がカウントをとってから、私のギターと同時に沙綾が「走り始めたばかりのキミに」を歌う。テンポは普段よりもかなりゆったりな形。一番サビ終わりまで歌ってもらって、一度演奏を止める。
「凄い凄い凄い!!!!こんなアレンジできるんだ!!」
と、ピョンピョン飛んで、目を輝かせながら香澄ちゃんが騒ぐ。それを有咲が抑えようとしかけるも、すぐさま諦めた表情を浮かべ頭を左右に振っていた。諦めるの早いよ!?
「華那。ギターは一人でやる感じ?」
「え?……うーん二人でもいいと思うんだけど、香澄ちゃんの演奏レベルが分からないから、何とも言えないかな……」
ギターを始めて一年も経っていない香澄ちゃん。バンド練習と個別でギター練習をしているという話は聞いているけれど、どのぐらいのレベルかはわからないのが現状。そもそも私自身、人に教えるレベルに達していないのだけれどね。
「香澄がコード進行のみで、私がメインやれば行ける?」
「そのコードを覚えているかどうか怪しんだけど?でもその方向性でいいと思うよ」
「ちなみに華那。私はどうすればいいと思う?」
おたえちゃんとギターの方のアレンジを話し合っていたのだけれど、沙綾が話に入ってきた。あードラムだもんね。でも、アコースティック風だから、力強くやると他の音が聞こえなくなるから注意だよ。あ、ただ叩く力を弱くしすぎるとリズム崩れるからね。と伝えると、沙綾はかなり難しい表情を浮かべて
「難しい注文するね、華那。……練習しかないね」
「だね。大丈夫。沙綾ならできるよ」
まあ、いざとなったらタンバリンかカスタネットでもいいんじゃないかな?と、提案したのだけれど、やっぱりドラムでやりたいみたいで、細かいアレンジの仕方を演奏しながら相談しあう。
ベース担当りみちゃんも合流してリズム隊だけでアレンジをどうするかを、あーでもないこーでもないと言い合いながらやっていく。その間に、おたえちゃんに、香澄ちゃんと有咲の三人でさっきのテンポでアレンジをするように指示を出す。
音楽の事になれば真剣になるおたえちゃんなので、あんまり心配はしていない。ただアレンジから脱線したら香澄ちゃんだけでは戻ってこない気がしたので、有咲ちゃんには犠牲になってもらおう。これはコラテラルダメージってやつだね。うん。
「だから“ちゃん”付けすんじゃねぇ!!!あと、勝手に私を『やむを得ない犠牲』にすんじゃねぇ!!!」
「有咲、真面目にやるよ」
「誰のせいだ!誰の!!」
賑やかな事でいい事だ。あ、りみちゃん。そこの音はもうちょっと一音づつ伸ばす感じでやってもらっていい?そうそう。そんな感じで。沙綾はそのままでいいかな。あ、シンバル叩くのはちょっと弱めかな?強すぎる感じがするから。
と、やっている間に夕食の時間となり、今日の練習はここまでとなった。ある程度形は見えたので、明日全員で合わせてみて、細かいところを修正していく事になった。尚、私もそれに参加させられる事になりました。マル。
夜、お風呂上がりに部屋に戻ったら顔に枕が飛んできて酷い目にあったけれど、Poppin’Partyのみんなと楽しくお喋りやゲームをしあって眠った――
のだけれど、夜中。午前二時に目が覚めちゃって縁側にやってきて独り空を見上げていた。みんなと話していた時に香澄ちゃんに聞かれた事を思い出していた。
『華那はバンド組まないの?』
なんでそんな話になったか。香澄ちゃんが喉痛める前の私の歌っている映像が見たいと言い出して、何故かスマホに保存していた沙綾がみんなに映像を見せたのが発端だった。その時流れた映像で歌っていたのは「ロストシンフォニー」と「FEARLESS HERO」って曲。「ロストシンフォニー」の時はマイクスタンドを持って歌っていて、沙綾以外のみんなが驚いていたっけ。
今より身長低いのに、マイクスタンドを持ち上げたり、片足を台に乗せたりして完全にロックを歌うボーカルの歌い方していたから。有咲が「ギャップ半端ねえって!」と叫んでた。
その後、姉さんと私のコーラスワークで歌った「One Light」を見て香澄ちゃんが興奮していた。こんなコーラスワークあるんだ!って。でも「One Light」は三人で歌った方が迫力の出る曲なんだよね。中音と低音担当した身としては大変な曲だったなぁ。
「バンド……か」
小さく呟く。私の夢は
バンドを組むにしても、姉さんに必ず追いつく――って今までは思っていた。でも、今年、姉さんがRoseliaを組んで、何回か練習を見に行った時、私がどんなに練習したってRoseliaには追いつけないって思い知らされた。それもそうだよね。たかが二年しかギター弾いていないんだから。
だから――諦めたわけじゃないけれど、姉さんやRoseliaのみんなが良い演奏できるようにサポートだけはしようと決めて、ある程度Roseliaとは距離を置いてきたつもりだ。ギターはうまくなりたいから練習しているけれど、最近は行き詰っていた。これが私の限界なのかも、なんて考えが頭をよぎっていた。
「……そう考えると香澄ちゃんは凄いよなぁ」
「どうした、華那?急に呟いて」
「……有咲」
声がしたので振り向けば有咲が眠そうに目を擦りながら立っていた。どうやら起こしちゃったみたいだ。ごめんね。
「気にすんな。私も急に目が覚めて、ちょっと水でもって思ったら華那の姿なかったからな」
「心配してくれたんだ?」
「ばっ!そんなんじゃねーし!」
慌てる有咲の様子に私はクスクスと笑う。顔を少し赤くしながら有咲は私の隣に座って
「で、香澄がどうしたって?」
「……どんな逆境でも、それを跳ね除けて前に進める力持ってるじゃない?」
「あー……そのせいで私に迷惑かかってるけどな」
と、うんざりした様子の有咲。でも、本当に嫌ならバンドに入っていないだろうし、香澄ちゃんの世話なんてしない。だから、有咲も香澄ちゃんの事を嫌いになれない――というか大切な仲間として認めているんだろうと思う。口には出さないけど。
「あはは……有咲達のような仲間がいるってのもそうだけどさ、香澄ちゃんは――なんだろう……その逆境すら楽しもうとするし、何よりも目的に向かって頑張るって事ができる子だと思うんだよね。もちろん、苦しい時もあると思うけど、それをあんまり表に出さないじゃない?いつも元気いっぱい。そういうのが凄いなって思って」
「確かにな。でも、華那。お前だって頑張ってるじゃねーか」
「え?」
同意してくれていた有咲の突然の言葉に私は戸惑う。私が頑張ってる?何を?という形で有咲を見れば、夜空を見上げながら
「友希那先輩の為にさ、隣の県まで足運んでバンドしてくれそうな人探しに行ったり、ライブハウスで友希那先輩のサポート役でギターやったりさ、自分のできる事を最大限にやってるじゃねぇか。普通ならそんなのできないぞ」
「私なら自室に籠ってゲームしてるな」と付け加えてくる。そんな事ないよ。姉さんの足手まといにならないようにって必死だっただけだから。それに、他の人ならもっとはやくバンドメンバー集められたはずだし……。そう言うと
「だー!華那!お前、この際言っちまうけどな!自分の評価低すぎんだよ!お前が『ギター下手だ』って言いだしたら香澄のやつどうすんだよ!?いまだにコードをしっかり覚えてないし、よく押さえる弦間違えたりするし、テンポずれたりするし……言い出したらキリねえぞ!」
「えっと……有咲?」
と、怒り始める有咲。なんで怒られているのか分からない私は困惑するしかなかった。しかも、堂々と香澄ちゃんの悪口を言い出す有咲。いや、それはそれでどうなのよ?と思っている私を放置して有咲は続ける。
「それにな、今日だって急に呼び出したのに曲のアドバイスきちんとできてたじゃねぇか。私達だけじゃ、あんなアレンジできねぇよ」
「そんな事――」
「あるんだよ馬鹿!ちょっとは自分の事、評価してもいんじゃねぇか?私はお前のギターの音色好きだし」
「えっ?」
有咲の言葉に私は驚きの声を上げた。え、えと。有咲?言葉が出てこなかった私は驚いた表情のまま有咲を見る。有咲は「あっ」といった後、顔を赤く染めて
「わ、私はもう寝る!か、華那!ここにいて風邪ひいたってしらねぇからな!」
と捲し立てて部屋へと戻って行ってしまった。一人残された私はポカンと有咲の後姿を見送って、その姿が見えなくなってから小さく呟いた。
「ありがとう……有咲」
明日きちんと有咲に伝えよう。そう決めて見上げた夜空には綺麗な星々が輝いていた。