Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#13

 沙綾の家でシャワーを浴びている間も、私の目からは涙が止まらなかった。自分の行動でリサ姉さんをどれだけ傷つけてしまったか。それと覚悟を決めてお願いしに行ったくせに、涙するような覚悟しかできていなかった自分の情けなさに泣いていた。

 

「ひっぐ……えっぐ……」

 

 きっと、姉さんならもっと上手く立ち回れていたと思う。姉さんとリサ姉さんの仲の良さは私が入り込めない時があるから。きっと……ううん。間違いなくリサ姉さんに嫌われた。私の事を本当の妹のように接してくれていたリサ姉さんを傷つけたはずだから……。

 明日からリサ姉さんとどう接していいか分からない。それ以前にどんな表情を浮かべて合えばいいの?もう分からない。

 

「華那?着替え置いとくね。ちょっと大きいかもしれないけど、華那の服が乾くまで我慢してね?」

 

 シャワーを浴びていた私に脱衣所から扉越しに声をかけてきたのは、公園で雨の中泣いていた私を自分の家に連れてきてくれた沙綾だった。あの時、沙綾が声かけてくれなかったら私はずっとあの場所で座ったままだったかもしれない。

 

「……ありがと。それとごめんね、沙綾。迷惑かけて……」

 

「大丈夫だよ。迷惑なんてかかってないから。上がったら私の部屋来てね。飲み物用意しておくから!」

 

 と、沙綾は明るく答えて脱衣所から出て行ってしまった。その後、しばらくしてからシャワーを止めて脱衣所で体を拭いて服を着たのだけれど……。ぶかぶかだね。確かに私より沙綾の方が身長高いけれど、まさか手が服の中に隠れるとは思わなかったなぁ。あ、足も隠れちゃうから気をつけて歩かないとコケるね……。

 結局、足はズボンの裾を捲って転ばないようにして歩くことにした。ジーンズ系じゃなくて動きやすいジャージでよかった。そう思いながら沙綾の部屋へ向かう。扉を二回ノックする

 

「いいよー華那。入って」

 

「失礼……します」

 

 明るい声で返事を返してくれた沙綾に対し、私は恐る恐るといったような形で部屋に入る。いや、だってもうこの時点ですっごく迷惑かけているんだよ?これ以上、迷惑にならないようにしないといけないから……。部屋に入ると沙綾は中央にテーブルを置いて飲み物を用意して待っていてくれていた。私が来ている服が大きいのを見て苦笑を浮かべて

 

「あら。ちょっと服大きすぎたかな?ごめんね、華那」

 

「ううん!だいじょぶだよ!こっちこそゴメンね服借りちゃって……」

 

 私は立ったまま謝る。沙綾が座りなよって促してくれたので、沙綾に対してテーブル越しに正面に座る。「はいっ」と沙綾が私の目の前に置いたのはホットミルクが入ったマグカップだった。

 

「体の中からも温まろう。ね?」

 

「ありがと……沙綾」

 

 と、私を元気づけようとしてくれている笑顔の沙綾。私もできる限りの笑顔を浮かべてカップを手に取る。左手をカップに添えて一口飲む。あつっ。

 

「あはは。華那もしかして猫舌だった?」

 

「うーん……そういう訳じゃないんだけどなぁ」

 

 私の様子を見て笑う沙綾にそう答えつつもう一口飲む。うん。美味しい。ん……なんだか蜂蜜の風味が少しするんだけど……少し入れた?

 

「お、流石華那。そうなんです。蜂蜜を少しだけ入れてみました」

 

 なんでも美容にいいらしいよ、と言いながら沙綾もホットミルクを口にした。しばらく黙ったままホットミルクを飲む音と雨の音だけが聞こえてくる。私があの場所にいた理由を聞いてこないのは沙綾の優しさなんだろうな。それに甘えちゃっている自分に気付いて、情けなくなる。

 だって、今回の事は自分勝手に動いたせいなのに、関係のない沙綾に心配かけてシャワーと服まで借りている。本当にダメな人間だなと思ってカップを持ったまま俯いていると、突然額にデコピンされた。

 

「!?!?!?」

 

 突然の事で、私は言葉にならない困惑の声を上げた。右手で額を抑えるも困惑しかない。ってか、なんでデコピン!?

 

「華ー那。せっかく笑顔になったと思ったのに、そんな暗い表情してたら、『心配してください』って言ってるようなものだよ?私と華那の仲でしょ?悩み……聞かせてくれないかな?」

 

 と、私にデコピンをしてきた沙綾は、少し怒った表情を浮かべていたけれど、最後は柔らかい笑顔を浮かべて、子供を諭すように話しかけてきた。私は額を抑えていた右手を下して、ホットミルクに口をつける。沙綾は話を聞かせてほしいと言っているけれど、こんな話し聞いたら、沙綾にも嫌われるかもしれない。そう思うと、話すのを躊躇ってしまう。

 

 でも、沙綾がそんな人間じゃないって私はよく知っている。それにここまで心配かけて話さないってのも、友達としてどうなんだろうか。様々な葛藤が私の中で生まれては消えていったけれど、最終的には沙綾に話してみようと覚悟を決める。その覚悟を決めるまで沙綾は黙って待っていてくれた。

 本当にごめん。そう沙綾に謝りながら、私は姉さんのバンドの為にリサ姉さんにベースをもう一度やってほしいとお願いした事を話し始めた。本人の想いを考える事をしなかったことを――

 

 

 

 

「珍しい……いえ、何年振りかしらね。リサが(うち)に来るだなんて」

 

「あははー。迷惑だった?」

 

 「大丈夫よ」と答えながら私はリサにお茶を出す。山吹さんから華那の事で連絡があったほぼ直後。リサから「聞きたいことがあるから、友希那の家に来てもいい?」と連絡が来た。リサが聞きたいことがあるというのだから断る理由はない。華那の事は山吹さんにお願いしてあるけれど、山吹さんに華那を迎えに行くから後で連絡もらえるようにお願いしておいた。

 それでどうかしたの、リサ。すこし表情が暗いけれど。

 

「えーそうかなー?アタシはいつも通り元気だよ?」

 

 と笑うリサ。でもその笑顔はどこか無理しているように私には見えた。少し目が赤いのも気になるところだけれど、本人がいつも通りだというのだから無理に聞く訳にはいかないわね。

 

「そういえば、友希那。華那は?」

 

 首を傾げながらリサが華那はどうしているか聞いてきた。どうやら家にいると思っていたようだけれど、本当の事を言ったら心配しそうね。本当なら言うべきなのかもしれないけれど、状況が状況だからリサには悪いけれど――

 

「……華那なら、友人の家に行っているわ。雨で帰れなくなったってさっき連絡が来たわ」

 

「そっかー……。さっきまで晴れていたもんねー。傘持って行かなかったなぁー」

 

 と、本当の事を少し混ぜつつ私はリサに嘘を言う。少し動揺しているリサ。本人はうまく隠せたと思っているようだけれど。まったく……もう、何年付き合っていると思っているのかしら。今の間といい、少し目が泳いでいるじゃない。動揺を隠すならもっとうまくやりなさい。そう思いつつも、声には出さずに私はお茶を飲んでリサに問う。

 

「それで、私に聞きたい事って何かしら?」

 

「あー……」

 

 リサは少しバツが悪そうに、お茶を飲むのをやめて天井を見上げる。どうやら私に聞き辛い質問のようね。リサの心の準備ができるまで気長に待つわ。というか、急かすような真似をしてしまったわね。ごめんなさい、リサ。

 

「いやいや、友希那が謝る事じゃないよ!アタシがきちんと“覚悟して来れば”よかっただけの話しなんだしさ!」

 

 慌てて私が悪くないと言ってくるリサ。覚悟という言葉に何か引っかかるような感覚。気のせいかしら?と思いつつリサの言葉を待つ。屋根に雨が当たる音が静かな部屋に響く。私は再びお茶に口をつける。

 

「友希那はさ……FWFに出るのはやっぱ“復讐”なの?」

 

 長い沈黙の後、リサが紡いだ言葉は私にとって意外なものだった。私がFWF――正式名称『FUTURE WORLD FES.』に出るのは、自分たちの目指す音楽を否定されて、事務所が求めた音楽ですべてを否定された父さんの無念を晴らすため。()()()()()()()。もちろんそこで私の目指す音楽が評価されれば、父さん達の音楽が間違っていなかった事に繋がる。

 

 でも……万が一、FWFで否定されたとしても、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが華那と私の夢である()()()だ。世界で最も権威のある音楽賞の一つであるあの賞で評価されれば、今まで否定してきた人達も評価を改めるに違いない。その為には、頂点を目指すメンバーが必要。だから、華那が紗夜を見つけてきた時は、本当にいいギタリストを連れてきてくれたと喜んだ。

 

 紗夜のように向上心溢れて、努力を惜しまないギタリストはそうそういないわ。最終目標は()()()なのだから、向上心が無い人間では駄目だから。そう考えれば、私にとってFWFはあくまで通過点でしかないわ。でも、FWFで認められるのも目標の一つなのは変わらないから、リサにはそれが“復讐”に見えたのかもしれないわね。

 

「……それもあるのは否定しないわ」

 

「そっか……」

 

 私の言葉を聞いて落ち込んだ様子のリサは俯き呟くようにそう言った。「でも」と私は続ける。それに反応して顔を上げるリサ。

 

「私にとってあくまでFWFは通過点よ。確かにそこで評価されればとう……父の音楽を認められるという想いもあるのは否定できないもの」

 

「え……通過点?」

 

 驚いた表情を浮かべるリサ。そういえばリサにすら言った事なかったわね。私と華那の最終目標の事を。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という夢。

 ――いいえ。華那は間違いなく()()()()()()()()()()。その時、一緒にあの舞台に立つ。私はそう信じているわ。だから、私は立ち止まるわけにはいかない。華那と共に立つためにも。

 

「ええ。通過点よ。最終目標はもっと先――私は“頂点”を目指しているのよ」

 

「頂点……」

 

 リサの問いかけに私は淡々と、それでいて嘘偽りなく答える。私の言葉を聞いてリサは驚いた表情のまま固まっていた。どうやら、私がFWFに固執しているものだと思い込んでいたようね。時々、華那のいない時に「まだバンド組むの諦めていないの?」と聞いてくることがあった。あれはリサなりに私の事を心配してくれていたのだと思っていた。

 

 

 父さんと同じ末路を辿ってしまうのではないか――と

 

 

 私一人だったら、そうなっていたかもしれない。でも、私には華那という最高のサポーターで、最愛の妹がいるのよ?そう簡単に同じ末路を辿る事は無いわ。それに――

 

「それに?」

 

 私の言葉にリサは首を傾げる。私は小さく笑みを作り

 

「私達にはリサがいるもの。リサがいるから私達は音楽へ突き進める。リサがいるから“日常”に戻ってこれる。もしリサがいなかったら……私達は間違った道を進むかもしれないわね」

 

 そう。リサが心配してくれているから、陰で背中を押してくれているから私と華那は前へ進める。音楽だけに集中できるのもリサが心配してくれて、どこかでストップをかけてくれるから。

 

「だから、私達は頂点へ目指せる。それとリサ。これは私の我が儘なのだけれど……時々でいいからまたセッションしましょう。それこそ練習とかじゃなくて、ただ楽しむだけのセッションを」

 

「!……まいったなぁ。友希那から誘われたら断れないじゃん」

 

 と、右手で頬を掻きながら薄っすらと目に涙を浮かべるリサ。リサも気付いているとは思うけれど、リサがベースを辞めた理由を私は理解しているつもり。あの時――私達姉妹が頂点を目指す事を約束した時――今までただ音を奏でて楽しんでいたセッションから、それこそプロを目指すセッション、練習へと変化していった。リサも音楽に対しては情熱はあった。でも、その情熱の温度差が私達姉妹とリサの(あいだ)にあった。

 リサは私達と音楽を楽しみたかった。でも、私達は楽しく音楽する時間はない。そんな状況が続けば、リサがベースを辞めて違う事を始めるのは時間の問題だった。華那はよくリサを誘っていた。「またセッションしようよ」と。私は華那に「リサを無理に誘うのはやめなさい」と注意した。リサにはリサの理由があるのだからと付け加えて。

 

「そっかー。友希那はアタシと音楽したかったんだー」

 

 とさっきまで涙を浮かべていたのにちょっと意地悪そうな笑みを浮かべるリサ。う……だって仕方ないじゃない。リサが楽しそうにベースを弾いているのを見るのが好きで、一緒に音楽をするのはもっと好きなのよ。

 

「え?」

 

「あっ……」

 

 し、しまったわ。リサに伝えてこなかった事をつい口走ってしまったわ。は、恥ずかしい。一気に体中の体温が上がるのが自分でも分かる。目を逸らして窓から外を見る。まだ外は雨が降っていて、時折窓に雨粒がぶつかっている。

 

「友希那……さっきの言葉はさ……嘘じゃないんだよね?」

 

「っ……む、蒸し返さないで頂戴、リサ。結構恥ずかしいのよ」

 

 聞き間違いじゃないかと思ったのか、改めて確認してくるリサに私は恥ずかしさのあまりそういうのが精一杯だった。何とも言えない沈黙が私達の間に流れたけれど、嫌な雰囲気ではないわね。ただ、お互いちょっと恥ずかしいだけ。

 しばらくお互い沈黙。チラリとリサを見れば何か決意したそんな表情を浮かべて息を吐いて

 

「……友希那。友希那の目指す場所()、分かったよ。()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 と笑顔で言った。私は何のことかはわからなかったけれど、できるだけ優しい笑顔を浮かべて

 

「そう。リサ、お互い頑張りましょう」

 

「うん。それとゴメンね。急にこんな話しして」

 

 と言いながら立ち上がるリサ。気にしなくてもいいのにと言いながら私も立ち上がる。リサを見送りに出るついでに、華那を迎えに行く準備をする。そろそろ華那も落ち着いた頃だと思うから。

 

「あれ?友希那、出掛けるの?」

 

 靴を履いて扉を開ける前に私の様子に気付いたリサが不思議そうに聞いてきた。傘を持っていかなかった華那を迎えに行くのよ。いくら友人宅にいるとはいえ、長時間居れば迷惑になるわ。それに、たまには華那と一緒に降りやまない雨の中を散歩するのも悪くないわ。

 

「そっか……。友希那。()()()()()()()()

 

「?……ええ。きちんと迎えにいくわよ」

 

 何か含みのある言い方だったけれど、私はリサの言葉に頷きながら答えてリサと一緒に家を出て別れた。リサは自分の家へ、私は山吹さんの家へと向かったのだった。

 

 

 

 

「――という事があったの……」

 

 沙綾に事のあらましを話した私は残っているホットミルクを飲み干したけれど、既にホットと呼べる代物じゃなくなっていた。結構長い時間話していた事を嫌というほど思い知らされる。それなのに沙綾は時折相槌を打つ程度で、黙って話しを聞いてくれた。

 沙綾もドラムをやっていたけれど、沙綾のお母さんが体を壊して、家族を支えるためにドラムを辞めた。そんな沙綾に誰かがドラムしてほしいとお願いしたら……沙綾はどうするのだろう?

 

「……沙綾は」

 

「うん?」

 

「沙綾はさ、誰かにドラムしてってお願いされたらどうする?」

 

 状況が似ているから、参考になればと聞いてみる。沙綾はしばらく考えてから

 

「間違いなく断るね」

 

「……だよね」

 

 沙綾の言葉に私は俯く。でも――と沙綾が続ける。

 

「本当にその人に熱意があって、何回も来るようなら――心揺さぶられるかもしれないね」

 

 と、最後は笑顔で答えた沙綾の言葉に私は衝撃を受けた。熱意。リサ姉さんがベースしたくなるような熱意が私にはあっただろうか。ううん。無かった。縮こまって、リサ姉さんの表情を伺いながらお願いした。

 それじゃあ私の想いなんて伝わらない。ならやるべき事は何か――分かった気がする。それが間違いかもしれない。でも、リサ姉さんとの関係を悪化させたままにしたくはない。ならやるべきことは?

 

「沙綾、ありがとう。答え見えた気がする」

 

「……よかった。やっぱり華那は悲しい表情より今みたいに笑っている表情の方が似合ってる」

 

「え、沙綾!?何言ってるの!?」

 

「アハハ!」

 

 急にそんな事言われると恥ずかしいんですけど!?そう思っていたら下の階から沙綾のお父さんが沙綾を呼ぶ声が聞こえた。沙綾が私に断りを入れて部屋から出ていく。どうしたんだろう。パン屋の方忙しくなったのかな?しばらくしてから沙綾が誰かと話しながら上がってくる声が聞こえてきた。ん?お客さんかな?そう私は部屋の扉が開いた瞬間、そこに立っていたのは腕を組んで仁王立ちに近い体勢の姉さんだった。

 

「ね、姉さん……?」

 

「華那……ふっ……服がブカブカじゃない……ふふふっ」

 

 と、怒ったというより私の服装を見て笑い出す姉さん。いや、確かにこの服、沙綾の服だから大きいけど、そこまで笑う!?と少しショックを受けている私をしり目に、沙綾も姉さんの後ろで笑ってるし……。なんでよ!?

 

「いや、だって。改めて見ると今の華那はさ、小さい子が大人の服着ているような感じなんだよ?」

 

「子供!?沙綾と私、同い年だよ!?」

 

「アハハっ!そうだったね」

 

「フフッ。それだけ元気なら風邪の心配はなさそう、華那」

 

 と言って私に近づいて頭を撫でてきた姉さん。うう、姉さんにこんな格好見られるだなんて思ってもいなかったから恥ずかしい。でも姉さんがなんで沙綾の家に?

 

「あ、私連絡したの。そろそろ迎え来てもらえますかって」

 

 沙綾が姉さんに連絡とったのか。まったく気付かなかったよ。でも姉さんは午前中氷川さんと練習だったはず。疲れているのに……。

 

「大丈夫よ。それに華那の珍しい姿見れたわ。あ、山吹さん。写真のデータ後で送ってもらえるかしら?」

 

「はい!あとで必ず!」

 

「ちょっと姉さんに沙綾!?なにやってるの!?」

 

 と目の前で私の今の服装の写真を送る段取りをつける二人。ちょっと待って!?いつの間に取ったの沙綾!?私全く気付かなかったんだけど!?その後、乾燥機で乾かしていた私の服も無事に乾き、姉さんと一緒の傘で帰る事になった。

 帰宅途中、姉さんは今日あった事を聞いてはこなかった。間違いなく沙綾からどういう状況だったかは連絡行っているはずなのに――だ。きっと姉さんなりの気遣いなのだろうと思って、姉さんと音楽や猫の話しをして家に帰ったのだった。

 

 

 翌日。私はあこちゃんの練習を見るためにスタジオにやってきていた。リサ姉さんとは結局話す事はできなかった。でも、練習終わったら家に行ってみよう。それでもう一度謝って、いつも通りに接してもらえるようにお願いしてみよう。

 そう決めてスタジオの扉を開ける。すると、そこにはあこちゃんと一緒に音楽を奏でる真紅のベースを持ったリサ姉さんの姿があった。え、え?ど、どうしてリサ姉さんがいるの?困惑している私に気付いたリサ姉さんは、演奏を止めて悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべて

 

「こら、華那ー。遅刻するだなんて悪い先生だぞー?」

 

「な、なんで……?だって昨日……」

 

 そう。昨日、ベースはできないって私に言ったのに、次の日に目の前でベース弾いてる姿なんて想像できるわけがない。

 

「あー……アタシもさ、()()()()()()()。もう一度やってみようって」

 

「り、リサ姉さん!!」

 

「わっ!?」

 

 恥ずかしそうに言うリサ姉さんに感極まって私は抱き着いた。リサ姉さんは驚きはしたようだけれど、嫌な顔せずに私を受け止めてくれて、頭を撫でながら

 

「結果はどうなるか分からないけどさ、アタシもあこと一緒にテスト受けてみるから。だから、華那。応援してよ?」

 

「うん……うん!」

 

 と私は涙を拭いながらリサ姉さんの言葉に頷く。

 

「よーし!リサ姉も華那さんも揃ったから、ズバババーンって練習するよ!」

 

「クスッ……そうだね、あこちゃん。厳しくいくからそのつもりで!」

 

「えー!?今まで以上に厳しくされたらあこ、腕ちぎれちゃうよー!」

 

「ふふっ!さあ……やろっか!」

 

 そうして私達は練習を始めた。必ず姉さん達のバンドのメンバーになると想いを一つにしながら――

 

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