あたしと華那が出会ったのは……高校入学してからだ。クラス分けの表を見て、あたしは「ああ、またか」って、諦めにも似た感情を抱いている時に、ぶつかってしまった相手。それが華那だった。
その時は、お互い謝ってその場を後にしたんだけど、同じクラスで、隣の席になった。確か自己紹介受けた気がしたけれど、あたしにとっては隣の席にいるクラスメイトっていう認識でしかなかった。あの時までは――
「……ってなると、ここはいらないか……」
授業中なのに、あたしはサボって屋上に来ていた。家の方でまた色々と言われて、イライラしていたってのもあったけど、今は楽曲作りに集中したかった。あたし達のバンド、Afterglowの新曲の歌詞を考えていた。
「ってなると……いや違う」
ノートに今まで書いた文字に二重線を引いて、後ろに倒れ込むような感じで寝っ転がって、あたしは空を見上げた。ここ最近、家に帰れば華道の話しで父さんとぶつかり合っている。それにイライラして、幼馴染のバンドメンバーである皆に怒りをぶつけてしまう事が多くなっていた。
そしてここ数日、それらが重なった影響からか、新しく作ろうとしている曲の歌詞で行き詰ってしまっていた。はあ……あたしどうすればいいんだろ……。
綺麗に澄んだ青空を見たからって、考えなんて出てくるはずが無く、ただ静かに時間は流れた。たまにはボーっとしながら、眠気が襲ってきたら寝ればいいか――と、思った時だった。突然、見覚えがあるようでないような、銀髪の女子が覗き込んできた。
「美竹・
「……はぁ!?っ!!??いったぁ……」
「ふみゃん!!??」
あたしの名前を呼んだ女子の言葉を聞いて、素っ頓狂な声を上げて体を勢いよく起こした為、あたしの頭と女子の頭が勢いよくぶつかった。ゴチンって凄い音がした。痛い……痛い!お互い頭を押さえて声にならない声を上げる事、数分。
「……その……大丈夫?」
何とか話せるようになったあたしは、未だに座り込みながら頭を押さえている女子に近寄って声をかけた。長い銀色の髪が地面につきそうだけど、いいのかな。女子はゆっくりと顔をあげて
「だい……じょぶ」
と、目元に涙を浮かべながら言った。そこであたしは、この子が隣の席の子だと気付いた。よく山ちゃんとか、めぐちーとかいう子達と話しているのをあたしはよく横目で見てた。まあ、クラスメイトの皆から小動物みたいって可愛がられているみたい。え?……あたし、ボッチじゃないし。
「それで………………ごめん、名前なんだっけ?」
どうしてここに来たのかと聞こうと思って、名前を思い出そうとしたけれど、よくよく考えたら知らない事に気付いた。だからボッチ言うな。
「ほぇ?……って、
「ちょっと待って!あたし、そんな名前じゃないし!!」
と、あたしの言葉にキョトンとした表情を浮かべた後に、驚愕の表情を浮かべる女子一名の発言に、あたしは速攻で否定する。ってか、アカメッシュってなに!?
「え?隣のクラスの青葉さんが『蘭はね~、ミドルネーム持ってるんだよぉ~。でも、ミドルネーム入れると長いから、美竹蘭で通してるんだよ~。で、そのミドルネームに合わせて、赤メッシュを髪の毛に入れてるんだ~』って、教えてくれたんだけど……」
「モォーカァー!!??」
「ぴっ!?」
やっぱり犯人はモカか!どうして、全く知らない人に、そうやってウソを教えるの!?はぁ……。どうしてあたしがモカの嘘を訂正しなきゃいけないの?……?……なんで、アンタそんなに震えてるの?
「だ、だって……めっちゃくちゃ怖い表情しているよ?美竹さん」
「え、マジで?」
自分では全く気付いてなかった。確かに瞬間的には怒ったけど、まさか今も怖い表情しているだなんて思ってもいなかった。……誰?何時も怖い表情してるって言ったヤツ?
「本気と書いてマジと読むぐらいには……」
と、壊れた機械のようにコクコクと頷く女子。また、涙目になってるし……。とりあえず、あたしは女子の前に座って、騙されている事を教えてあげる。というか、ミドルネームがアカメッシュってなに?モカは後で怒るの決定。って、その前にお互いの自己紹介をしておかないと……。
「モカ……アンタにあたしの名前を教えた青葉から聞いてると思うけど、あたしの名前は美竹蘭。アカメッシュとか、ミドルネームなんてないから」
「う、うん。本当ゴメン。私の名前は湊華那。あ、二年に姉さんがいるから、華那って気軽に呼んでくれていいよ。混合しちゃうから」
「分かったよ、華那」
あたしの言葉を聞いて一度謝ってから、笑みを浮かべて自己紹介をしてくれる華那。姉……ね。確かにどこかで見た事あるような顔だけど、気のせいだと思いたい。華那、お願いだから今度はアカメッシュとか言わないでよ?
「うん。本当に気を付けるね。そっか……。だから教えてもらった時に、青葉さんの後ろにいた宇田川さんと、上原さんが笑い堪えてて、羽沢さんがオロオロしていたんだね?」
「……そこまで気付いているなら、嘘だと気付いてよ……」
「本当そうだよね……返す言葉もありません……」
その光景を右手で額を抑えるあたしに、土下座でもするかの勢いで正座をして頭を下げる華那。いやいや、そこまで謝る必要ないから。悪いのはモカだから。こっちこそ、幼馴染が……その、ごめん。
「いやいや、美竹さんは悪くないよ……あっ。私、先生に言われて美竹さん呼びに来たんだった!!」
と、両手を左右に振って慌てながら、私に言ったかと思ったら、華那は慌てて立ち上がって私の手を引っ張る。痛い痛い痛い!!え、ちょっと待って。華那、思ったより力ある!?
「美竹さん、もう授業終わっちゃうよ!!急いで!」
「わ、分かったから。そんなに引っ張らないで!」
完全にサボる予定が、まさかの華那が呼びに来て事によって、授業に途中から出る事になってしまった。はあ。本当に嫌な事って続くんだな――と、思ったあたしは盛大に溜息を吐いた。
一日の授業が終わり、放課後。速攻でモカの所に行って、あたしはモカの机を叩いた。
「モカァ?」
「おお、愛しの蘭じゃないですか~。その様子だと……華那ちんと話したね~?」
「お、蘭!まだホームルーム終わったばっかなのに、今日は早かったな」
「あ、蘭。どったの?そんなに怒って?」
と、あたしの様子に気付いて、つぐみ以外のいつものメンバーが集まってきた。つぐみは生徒会の用事が終わり次第、あたし達と合流するらしい。って、それより先に、モカ。アンタ変な事、吹き込まないで。
「え……華那ちん。本当に蘭の事『アカメッシュ』って呼んじゃった感じ~?」
「マジか、蘭?」
驚きの表情を浮かべる二人に、あたしは小さく頷くしかなかった。それを見たひまりが少し怒った様子で
「ほら!モカ!私が言った通りになったじゃない!『華那はそういう嘘には弱そうだよ』って!」
「いや、ひまり……確かにそうひまりは言ったけどさ……信じるだなんて普通、思わないだろ?」
と、腕を組んで呆れた表情の巴。いや、二人とも同罪だからね?華那から、二人とも笑うの堪えていたって聞いてるから。そう言った瞬間二人ともあたしから目を逸らした。モカを見れば「はんせい、はんせい~」っていって笑ってるし。はあ……怒ったあたしがバカみたい。
その後、つぐみがやってきて、全員で帰ろうかと話になった時にギターの音が聞こえてきた。あたしは知らないメロディだったけれど、ギターをやっているモカは知っていたようで
「?あ、これは、JAZZY BULLETSのメロだ~」
と、言って音のする方へと行ってしまった。
「あ、モカちゃん!……ど、どうしよう蘭ちゃん」
つぐみがオロオロとしているけれど、帰るだけだし、少しぐらい寄り道してもいいかと思い、モカの後について行く事にして、全員でモカの後を追った。モカの後をついて行ったあたし達がついた場所は、音楽室だった。
「部活かな?」
「さあ?でも、音楽室なら、合唱部とか使ってそうなイメージだよなぁ」
「だよねぇ。誰だろ?」
「入ってみよっか?」
つぐみの提案に全員賛成して、静かにあたし達は音楽室に入った。そこでは持ち運びに便利なミニアンプにケーブルを挿して、黒いエレキギターで演奏している、クラスメイトの華那の姿があった。あたし達には全く気付いていない様子で、演奏している華那。さっきまで引いていた楽曲ではなく、あたしですら知っている楽曲のメロディラインを演奏していた。確かタイトルは――
「LOVE PHANTOM――」
誰かが呟いた声は、華那の奏でるギターの音でかき消された。華那の表情は真剣そのもの。さっき見た、ほんわかしたような、小動物チックな可愛らしい表情はどこへ消えたのかあたしが知りたいぐらいの表情だった。
それ以上にあたしとモカのギター組は、華那のギターテクニックに驚いていた。あたし達もまだまだとはいえ、同い年でここまで正確に弾けるだろうかと言うぐらいに上手かった。それと、どこかギター演奏で人を惹きつける何かが、華那の演奏にあった。
「……凄い」
演奏が終わって、あたしはそう呟いた。華那がその言葉に気付いて、こちらを見て驚いた表情を浮かべた。完全に演奏に集中していたみたいだ。凄い集中力。ってか、華那ギター弾けたんだ。
「え、美竹さんに青葉さん。宇田川さん、上原さん、羽沢さん!?え、え、ど、どうして!?」
と、混乱している様子の華那。あたし達は華那に音が聞こえたから、興味本位でここに来た事を伝えると
「そ、そうなんだ……音楽の先生に今日だけ使わせてもらっているんだけど……外まで聞こえちゃっていたんだ……」
と、恥ずかしそうに呟く華那。いや、そこまで恥ずかしい演奏じゃなったと思うんだけど?と言うと、自分はまだまだだから――と、言って苦笑いを浮かべる華那。華那の目標ってどこなのか気になったけれど、そこまで弾けるのならバンドをやっているのかと思って聞いてみたら
「ううん。私、バンド組んでないよ」
「えーもったいない!!華那ちゃんなら、良い演奏できると思うよ!」
と、ひまりが華那の両手を取って上下に振りながら言っているけれど、華那が凄く困惑した表情を浮かべて、あたし達に助けを求めるように視線を送ってきた。あー……ひまり、少し落ち着きなって。華那が困惑してるから。
「あ、ごめん。……でも、本当もったいないなぁ。良い演奏なのに」
「そうだよ!華那ちゃん!絶対、華那ちゃんならいいギタリストになれるよ!」
と、今度はつぐみが勢い良く華那に話しかけてる。ってか、皆、いつの間にそこまで仲良くなったんだ?
「仲良くってか、華那の場合、なんか妹が増えた感じがしてさ……」
「宇田川さん。妹って、あこちゃんと同レベルって事!?」
腕を組んで、少しだけ首を傾げながら言う巴に、ショックを受けた感じでツッコミを入れる華那。喜怒哀楽が激しいね、華那は……。ん?華那。巴の妹、あこの事知ってるの?
「うん、知ってるよ。すっごく元気な子だよね」
「ああ。あこは元気だし、可愛い妹だぜ!……って、華那。アタシ達が名前で呼んでるんだし、華那もアタシたちの事名前呼びでいいんだぞ?」
「そうだよ!私も、華那ちゃんに名前で呼んでもらいたいよ!」
「モカちゃん的にも~、名前で呼んでくれた方がいいかな~」
「私も……華那ちゃんに名前で呼んでもらいたいかな?」
「え?ええ??」
と、あたしを除いた四人が、華那に名前で呼ぶように迫っていた。どことなく、名字で呼ばれると他人行儀な感じがしてもどかしい。まあ、あたしはそこまで仲が良い感じじゃないから、別にどっちでもいいんだけど……。
「それに、蘭と同じクラスだし、蘭の事任せたいから!」
「ちょっと、ひまり!なんであたしの事が出てくるの!?しかも任せたいって、ひまりはあたしの母さんか何か!?」
「ひまりちゃん、良いアイディアだと思ってるだろうけど、蘭ちゃんに失礼だよ!?」
と、華那の両手をまた握って、あたしの事を頼むひまりに、あたしはツッコミを入れるしかなかった。いや、そこまであたしボッチじゃない!と思って反論しようとした時に、巴が右手をあたしの左肩に置いて
「いや、蘭……高校始まって、クラスメイトと談笑してる姿を、アタシ見た事ないぞ?」
「巴、お願いだから言わないで。自覚は一応しているから……」
呆れた表情の巴に、あたしはそう返すしかなかった。実際、高校始まって以来、いつものメンバー以外でまともに話したのが華那ぐらいなのは自覚してるつもり。でも、まだこれからだし……!
「そう言って、中学時代あっという間に終わったよな?」
「……」
巴の言葉に、あたしは黙って横を見るしかできなかった。確かにそれは事実だけれど、今言わなくたっていいじゃん。と思っていると、華那との話しはとんとん拍子で進んだみたいで、名前で呼ぶ事になったようだ。というか、皆なんでそんなにすぐに仲良くなれるの?華那が可愛いから?あたしには関係ないと思っていると、華那があたしを見ていた。何?
「えっと……美竹さんの事も、名前で呼んでいいのかなって……」
「……」
チョコンと首を傾げる華那。その仕草がとても可愛らしく、その場にいたあたし以外の全員が華那に悶絶していた。あたし自身も、その仕草があまりにも可愛らしくて、口を押えて悶絶しそうになったけれど、なんとか堪えていつも通りふるまう。というか、無意識でやってるだと思うんだけど、本当に可愛らしくてヤバい。
「勝手にすれば」
どう答えればいいか分からなくなって、横を向いてぶっきらぼうに答えてしまった。嫌われたかなと思って、横目で華那を見れば嬉しそうに微笑んでいた。本当、感情が表情によく出る子だな思いつつ、みんなの会話に参加する。
今日はもうギターを弾くのをやめて、華那も帰るようだから、皆で帰る事になった。その帰り道で、華那のお姉さんもバンド活動しているって話しになって、今度そのバンドを見る約束をした。
でも、まさか湊さんが華那のお姉さんだなんて思わなかった。いや、名字同じだし、よく見れば姉妹そっくりなのだけれど、どうしても湊さんと華那がイコールにならなかった。湊さんは冷たくて口数が少ない印象で、華那はその正反対の性格だから、あたし達は驚きの方が大きかった。
で、その時もあたしと湊さんの間で、言い争いみたいな事が起きたのだけれど、華那が一喝してその場は収まった。いや、華那が怒ると怖いってよくわかった。普段、怒らない人が怒ると怖いって本当だったんだと、Afterglowの皆で話して、華那を怒らせないようにしようと話し合ったのだった。
次の日。クラスで名前で呼び合って、音楽の話しをしていたら山ちゃんなる子と、めぐちーなる子達が乱入してきて、賑やかな朝になった挙句、休み時間でもあたしにも話しかけるようになってきたのはまた別の話し。あたし……ボッチじゃないし!
\美竹・アカメッシュ・蘭/
美竹蘭ファンの皆様、本当ゴメンナサイ。
あと、私より先に思いついていた方いらっしゃいましたらごめんなさい……