Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#25

 ついにやってきたFWF予選会。Roseliaの皆の応援の為に私もその会場に足を運んでいた。緊張で足が震えるけれど、姉さん達はもっと緊張しているのだから……しっかりしなきゃと足に力を込めて会場内へと向かう。うう……緊張する。

 

「華那。緊張しすぎ」

 

 と、私の横を歩く沙綾が苦笑いを浮かべながら話してきて、私の両肩に手を置いて緊張をほぐそうと揉んできた。突然の事だったので変な声が出そうになったけれど、場所が場所だったので我慢して、ジト目で沙綾を見る。沙綾は笑いながら私の背中を叩いて

 

「大丈夫だって!友希那先輩達なら絶対予選突破できるって!」

 

「……うん!そうだよね!」

 

 笑顔で励ましてくれる沙綾に、私も笑みを返す。そうだよね。あれだけ練習してきたんだ。姉さん達なら必ずこの予選会を突破してくれる。そう信じよう。会場に入って、沙綾と私はスタッフの人に「Roseliaの関係者です」と姉さんから渡されたチケットを見せながら伝えると、Roseliaの皆が座る席の隣に案内してくれた。二人ぐらいなら関係者として席を用意してくれると聞いたけど、本当なんだなと思いながらついてく。

 

 実は、これ。千聖さんが教えてくれた事。「二人までなら席用意してくれるわよ」って。本当、千聖さんには色々と迷惑かけてばかりだから、今度お礼に何かお手伝いできる事があればいいのだけど……何かできるかな?

 そう思いながら私は、カバンを椅子の下に置いている沙綾の隣に座る。沙綾、何持ってきたんだろう?水とかかな?結構一般の方も見に来ているみたいだし、熱気が凄いもんね。

 実は今日の予選会。本当は私一人で来るつもりだったのだけれど、沙綾にもうじきFWFの予選会なんだよねって連絡してみたら

 

『私も行ってもいいかな?』

 

 と、返信が来た事から沙綾も一緒に来る事になった。沙綾も姉さん達の事を応援してくれている。それに、幼馴染のリサ姉さんを除くと、私達姉妹との付き合いが長いのは沙綾なんだよね。ポピパのみんな(特に香澄ちゃん)も来たがっていたけれど、予選会なので入れる人数が限られているので(なんとか)断念してもらった。

 

 最後は有咲に香澄ちゃんを宥めるのをお願いしてしまったけれど、あの時の香澄ちゃんの駄々っ子さは私と沙綾じゃどうにもできないものだった。うん。今思い出しても頭痛くなるね。

 

「そういえばさ」

 

「?」

 

 席に座るなり沙綾が()()()()()()()()()()()()。あれ?どこか変なところあったかな?と思いながら首を傾げると

 

「今日の華那の服装って、友希那先輩達の衣装と同じなんだよね?」

 

 今日、私が着ている服。これは先日、燐子さんが作るって言っていた衣装。紫を基調としたゴシック風ライブ衣装。本当は着てくるつもりはなかったのだけど、姉さん達に着て来なさいって言われたの。あれは今思い返しても怖かった。

 着て来て欲しいという燐子さんの言葉に困惑する私。その様子を見たRoseliaのメンバーが

 

「華那、当日はそれを着て来なさい。これは姉としての命令よ」

 

「かーなっ。着てこなかったら……分かってるよね?」

 

「華那さん。せっかく白金さんが作ってくれた衣装ですよ?当日着ないで何時着るのですか?」

 

「えー華那さん着てこないんですかー?あこ、華那さんが着てるところ見たーい」

 

「華那ちゃん……着て来て……欲しいな……」

 

 と、一気に攻めてきて、私の退路は断たれてしまったの……。姉さんは淡々と言うし、リサ姉さんは笑顔なのに怖かったし、紗夜さんは「今でしょ!」って言いたくなるし……。あこちゃんはいつも通りだし、最後に燐子さんがトドメと言わんばかりに落ち込み気味に話してこられたら、私断れないし、着てくるしかないじゃん!

 と、いう事がありまして……と沙綾に説明をする私。本当、なんであんなに皆して着て来いって言うかな?そう私が疑問に思っていると沙綾が

 

「凄く似合ってるよ!あー、華那は本当に可愛いなあ、もう!!」

 

「わぷっ!?さ、沙綾!?」

 

 満面の笑みを浮かべ、私を抱きしめてきた。私は突然の事だったので、変な声を上げてしまった。というか、沙綾!私を妹と勘違いしているでしょ!?そう抗議の声を上げようとした時、沙綾の後ろに立っている女性と目が合って、無意識的に沙綾を守るように前に出る。

 沙綾が何か言おうとしたのだろうけど、息を飲む声が私にハッキリと聞こえた。多分、沙綾からは見えていたのだと思う。私の表情が怒りに満ちていたのが……。それもそのはず。沙綾の背後に立って()()()()()()()()()()()のは()()()()()()だったのだから――

 

「来ていたのね。生意気な妹さん」

 

「それはこっちのセリフです。事務所の力使って本戦から登場じゃないんですか?」

 

 嫌味ったらしく言ってくる澤野さんに対して、私も嫌味を返す。沙綾が驚いているだろうけれど、ゴメン沙綾。今は沙綾の事まで気を使ってあげられそうもない。だって、これは言わば前哨戦なのだから。

 

「ええ、本当ならそうするつもりだったのだけど……気が変わったの。Roseliaと同じ予選に出て、完膚なきまでに叩き潰す。そう決めたの」

 

「ふふっ……そう簡単に叩き潰せるだなんて、頭の中お花畑なだけありますね」

 

 自信満々に話す澤野さんに、私は鼻で笑ってしまった。Roseliaを叩き潰す?何を言っているの?このおばさん。って、感じで。自分でも、ここまで挑発できるだなんて思ってなかった部分もあるけれど、姉さん達を侮辱するような人間に対して……私は容赦なんてしたくない!

 私の分かりやすい挑発に澤野さんの雰囲気が変わる。って、どれだけ短気なんですか貴女……。と内心呆れる私。

 

「なんですって?」

 

「あれ?聞こえませんでしたか?まさか、そこまで頭の中がお花畑だとは思いませんでした」

 

 怒りに満ちた表情の澤野さんを更に(あお)る。ハッキリ言って、この人のやっている事は好きになれない。千聖さんからあの後、色々と教えてもらった。ヒット出した作曲家を他所の事務所から金で引き抜いたり、手が後ろに回るギリギリのゾーンを攻めたりして無理やり曲を作らせたりしているらしい。

 で、そちらのバンドはボーカル見つかったんですか?姉さん引き抜けなかったのに、よく間に合いましたね?

 

「っ……ええ。友希……いいえ。()()()()()()()より、もっとレベルの高いボーカルを見つけたわよ。あんなボーカル程度、全国探せばいくらでもいるもの」

 

「なっ……ふざけ「沙綾!」……華那!!」

 

 澤野さんの言葉に温厚な沙綾が反応して、言い返そうとしたのを私が右手で制する。どうしてと言いたげに私の名を口にする沙綾を見て小さく頷いて、私はRoseliaが貴女の集めたバンドに負ける訳がないと言って睨む。

 

「そう。あんな低俗なバンドにそうそう負けるわけないわ。結果が楽しみね」

 

「ええ、そうですね。貴女の言う最高のバンドが負ける瞬間、楽しみにしてます」

 

 私も負けずに言い返す。しばらく睨み合いが続いたけれど、去っていく澤野さん。はあ……始まる前から精神的に疲れた。椅子に座り直した私は、持ってきていたマグボトルに口をつける。冷たいお茶が喉を潤してくれた。それから小さく息を吐く。気怠さがあるけれど、私の心の中では怒りが渦巻いていた。だって姉さん達の事を「あんな低俗なバンド」呼ばわりしたんだよ?後で泣いて謝ってきたとしても絶対許したくない。顔も見たくない。そのぐらい、私は怒っていた。

 

「華那……大丈夫だよ」

 

 そんな私の手にそっと両手を乗せてきた沙綾が、優しく声をかけて来てくれた。沙綾?

 

「大丈夫。友希那先輩達、Roseliaの皆は絶対あの人には負けないよ。だから、一緒に応援しよ?ね?」

 

「うん」

 

 目の前であんなやり取りをしたのに、沙綾は気さくに話しかけてくれた。それだけでも私の心は落ち着いた。沙綾の言葉に頷く私を優しく抱きしめてきた沙綾。もう。本当に沙綾?私の事を年下だと思っているでしょ?確かに身長低いけど、同い年だよ!もう!

 

「アハハ!ごめんごめん。華那って本当に抱き心地良くてさ!」

 

「抱き心地良いって、私は人形か何かかな!?ってか他の人にも言われたんだけど、それ!?」

 

 笑う沙綾に私はツッコミを入れつつ、心の中で沙綾に感謝していた。もし一人だったら、澤野さんと対峙した時点で暴力に走っていたかもしれないから。それに、澤野さんの言葉に沙綾が怒ってくれた事。それだけでも私は嬉しかった。沙綾もポピパで一生懸命にバンド活動しているから、あの言葉には思うところがあったのだと思う。

 だからありがとう、沙綾。そう言葉にして伝えると、沙綾は笑みを浮かべながら再び私を抱きしめたのだった。予選まであと少し。姉さん達……頑張って――

 

 

 

 FWF予選会場の控室に私達Roseliaは待機していた。みんな緊張している様子だけれど、大丈夫だと信じている私は一人本番に向けて喉を温めていた。温めると言っても、物理的に温めるのではなく、発声練習をしている。

 私達Roseliaの出番はくじ引きの結果、最後となった。それまでは待機している時間が長いので、さっきまでは他のバンドを見に行ったりしていた。だけれど、あまり印象に残るようなバンドはいなかった。いいえ、違うわね。()()()()()()()()()()()()。情けない事に私も緊張しているようね。

 

 小さくため息を吐いてから、他のメンバーの様子を見る。リサは紗夜からスプレー借りながら、何か言われているけれど、表情が明るいから大丈夫そうね。燐子は……あこがうまく緊張ほぐしているわね。……色々とあったけれど、やっとスタート地点に立てた。

 それに華那が応援に来てくれている。それなのにダメな姿を見せる訳にはいかない。緊張している場合じゃないわね。そろそろ出番が来る頃ね。私は全員に声をかける。

 

「そろそろ準備するわよ」

 

「オッケー、友希那」

 

「はい、友希那さん」

 

「はーい!りんりん、頑張ろうね!!」

 

「うん……頑張ろう……あこちゃん」

 

 全員緊張しすぎてはいないようね。自然と私達は円を作る。いつもライブ前にやっている掛け声がある。最初は何もせずにライブに入っていたのだけれど、それを見た華那が「やった方がいいんじゃない?」とアドバイスをもらってから、私達で考えて掛け声をやるようになったのよ。

 全員中心に右手を差し出して重ね合う。私は全員の顔を見ながら

 

「今日、みんな緊張しているかもしれないけれど、Roseliaとして恥のない演奏をするわよ。……行くわよ!Roselia!」

 

「「「「「ファイティーン!!」」」」」

 

 重ねていた右手を上げる。リサが中心となってメンバー一人一人とハイタッチしていく。私にもしようとしてきたので、躊躇いつつもハイタッチをする。いつもの事だけれどハイタッチは恥ずかしいわ、リサ。でも意外なのは、紗夜も無表情だけれどハイタッチしている事ね。紗夜もこれは嫌ではなさそうね。耳が赤くなっているわよ。

 それは言わないでおこうと決めながら、私達はスタッフの方に促されて移動する。既に前のバンドの演奏は終わったようで、まばらな拍手が聞こえてきた。改めてみんなを見る。みんな私の視線に気付いて小さく頷いてくれた。全員の想いは一つだと私は信じている。このメンバーで行くわよ。頂点へ――

 

「Roseliaの皆さんお願いします!」

 

「はい」

 

 私が代表して返事をして舞台へ向かう。まだスポットライトも照明もついていないステージは暗い。各々、自分の楽器の位置や細かい調整を行う。準備ができたのを確認してから私がマイクを持って挨拶をする。

 

「Roseliaです。さっそく聴いてください。BLACK SHOUT」

 

 

 

 

 姉さん達、Roseliaの演奏が始まった。私は胸の位置で両手を握りしめて祈るように姉さん達の演奏を見ていた。今回の予選会で各バンドに割り当てられた曲数は三曲。一曲目は今演奏しているRoseliaの代表曲と言える「BLACK SHOUT」。二曲目は今回のライブの為に書き下ろした新曲「Re:birth day」。三曲目は父さんの楽曲だった「LOUDER」。

 「BLACK SHOUT」のイントロでスローテンポと思わせてからの、あこちゃんの激しいドラムと、紗夜さんの見事なまでのギターテクで、一気に会場の一般で見に来た人達をRoseliaの世界観へ惹き込んでいた。

 凄い。私自身、姉さん達の演奏が更にバンドサウンドとして、まとまりのあるものになっていた事に驚きを隠せなかった。今までは技術面で他のバンドを圧倒していたけれど、それにプラスして心に残るバンドサウンドになっている。

 

 姉さんがいつも以上に感情的にメロディを口ずさみ、紗夜さんが感情に訴えるようなギターサウンド。それを支えるようなリサ姉さんのベース。全体の音を意識して奏でられる燐子さんのキーボード旋律。そして、そのRoseliaの勢いをつけるあこちゃんの全力のドラム。全部がうまく融合して会場がRoseliaの単独ライブ会場と化していた。

 「BLACK SHOUT」の演奏が終わった瞬間、割れんばかりの歓声と拍手。私も沙綾も拍手をしていた。そしてRoseliaは一曲目の勢いのまま「Re:birth day」へ。「BLACK SHOUT」に比べれば激しいサウンドではない楽曲だけど、会場の雰囲気はよかった。姉さん達も楽しそうに演奏している。あ、リサ姉さんが私にウインクしてきた。お願いだから演奏に集中して!

 

「……いいなぁ」

 

「華那?」

 

 姉さん達が楽しそうに演奏している姿を見て、私が自然に呟いた声が沙綾に聞こえていたみたいで、私の名を呼ぶ沙綾。私はステージで演奏する姉さん達を見ながら素直に自分の想いを沙綾に伝えた。

 

「あれだけ、楽しそうに姉さん達が演奏しているでしょ?それが羨ましくなって」

 

「……そうだね。私も羨ましいかな。こんな舞台であれだけ楽しそうに演奏できるって凄いよね」

 

 私なら緊張でガチガチになってるね、ってお茶目に笑いながら言う沙綾。そうかな。沙綾なら、ポピパの皆と楽しそうに演奏できると思うけどなと伝えながら、姉さん達の演奏を見守る。

 あっという間に最後である「LOUDER」に入った瞬間、会場のボルテージがまた一段と上がった。今までのバンドも技術がよかったり、楽曲が良かったりしたバンドはあったけれど、私としてはなにか一つ物足りないという感じのバンドばかりだった。もちろん姉さん達のバンドだからという贔屓目で見ている部分も否定はしないけれど、ここまで盛り上がったバンドはいなかったはず。

 

「私がいたんだ~♪」

 

 歌詞に合わせて右手をオーディエンスの方へと向ける姉さんと目が合った。その目から姉さんが私に問いかけているように思えた。『私達の音楽はどうかしら?』って。私は大きく頷いて「最高だよ」と口を動かす。それを見た姉さんが一瞬だけ微笑みを浮かべたように見えた。

 

 その微笑みを見て、私の中には今まで色々とあったなと改めて思った。父さん達の音楽を否定した人達への復讐から始まった私と姉さんの音楽活動。途中、リサ姉さんが離れて、私も喉痛めちゃって……。姉さんと一緒に歩む事ができなくなって、それならバンドメンバー探そうと決めて今までやってきた。

 それが形になって、今こうやってその姉さん達のバンドサウンドを聞いて、間違ってなかったんだなって思っていた。だって、姉さん達の音楽がこれだけ多くの人達の心に届いているんだよ?始まりは不純な動機だったけれど、今は違うってハッキリ言えるよね?だから、そのまま……頂点へバンド名の由来となったBLUE ROSE(青バラ)のように咲き誇って――

 

 

「Roseliaでした。ありがとうございました」

 

 演奏が終わり、盛大な拍手と歓声が上がる中、姉さんが冷静にそう言って深々と頭を下げる。一部の人から「アンコール」の合唱が起きて、会場中に響き渡るぐらいにその声が大きくなっていった。いや、予選会でアンコールとかないでしょ!?と思っていると

 

「アハハ。流石だね友希那先輩達!予選会場を自分たちのライブ会場にしちゃったね」

 

 と、沙綾が本当に嬉しそうに私に話しかけてきた。私も笑顔を浮かべて頷いて「そうだね」って答える。ステージを見れば姉さん達がスタッフの方に誘導されて下がっていた。それを見た観客の人たちが残念そうな声を上げていたけれど、予選会場だかね。仕方ないよね。

 

「後は……結果発表だね」

 

「うん……」

 

 スタッフさんから結果発表まで時間がかかるから、しばらく待つようにとのアナウンスがあって、私と沙綾は緊張していた。あれだけ歓声が上がったのだからきっと審査員の人にもいいイメージがあるはずだと思うのだけれど、不安の方が大きかった。結局、音楽の評価というのは、聴き手側の好みが大きく左右する。だから、姉さん達がいくらいい音楽を奏でたとしても、それが好きじゃない人が聴いたら評価しない事もあり得る。クラシック聴く人にロックを聴いてもらえるかって言えばそうじゃないってのと同じかな?

 不安のせいで、自分でもよくわからない理論を頭の中で考えてしまい、沙綾が優しく頭を撫でているのに気付くのが遅れた。いや、沙綾。なんで撫でているの?

 

「華那がすごく難しそうな表情していたからさ。大丈夫だって。友希那先輩達Roseliaなら、必ず突破できるって!」

 

「そう……だよね」

 

 私を元気づけようと明るく振舞ってくれる沙綾。沙綾の心遣いに感謝しながら、そう言って姉さん達が来るのを待つのだった。

 

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