Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#26

 姉さん達が戻ってくるまでの間。私と沙綾は姉さん達が来るまで、色々なバンドの演奏を聴いた感想を言い合っていた。

 曲調がよかったけど、まとまりが全くなかったバンドが一つあって、それがもしかしたら澤野さんの集めたメンバーかも。と、沙綾と私の共通見解になった時に姉さん達がやってきた。

 

「姉さん!」

 

「華那に山吹さん。今日は来てくれてありがとう。……どうだったかしら?」

 

「華ー那っ!ウインクしたの気付いてたでしょー!」

 

「わぷっ!?」

 

 と、聞いてくる姉さんに応える前に勢いよく抱き着いてくるリサ姉さん。いや、ちょっと!?テンション高いのはいいけど、いきなり抱き着いてこないでよ!?と、言う前にリサ姉さんの頭に拳骨を落とす紗夜さん。と言っても、そこまで強いわけじゃなかったのだけど……。

 

「今井さん。演奏終わってテンション高くなっているのは分かりますが、華那さんが怪我でもしたらどうするつもりですか」

 

「あ、アハハ……ゴメンナサイ」

 

 と、紗夜さんに叱られて、すぐさま謝るリサ姉さん。そうなるんだから、最初からやらなければいいのに……と思いながら姉さん達に今回の演奏の感想を素直に伝える。楽しそうに演奏した事も伝えると、姉さんは難しい表情を浮かべながら

 

「そう見えたのね……私達自身も、最初に集まって音合わせした時以上の感覚だったわ……でも、まだ高みを目指せる。そう思っているわ」

 

 腕を組んで納得した様子で頷く姉さん。そうだよね。まだ道の途中だもんね。

 

「はい!あこもそう思いました!ね!りんりんもそう思ったでしょ?」

 

「うん……私も……もっと上手く……演奏したい……って思ったよ」

 

 満面の笑みを浮かべるあこちゃんと、微笑む燐子さん。本当いいバンドメンバーだなあと思いながら結果を待つ私達。しばらくして、審査員の代表者がステージに立ったのが見えた瞬間、騒がしかった会場が静まり返る。

 

『今回参加したバンドの皆さん。素晴らしい演奏、本当にありがとうございました。我々審査員もかなり悩みました。本当なら全バンドを本戦に推薦したいところですが、枠が決まっているのは皆さんもご存じの通りです』

 

 と、前置きの話しをする審査員の方。少し遠いから分からないけれど、どこかで会った事のあるような気がするのは気のせいかな?見た事のあるシルエットで、声も聞き覚えのある声なのだけど確信できないなあ。

 

『さて、前置きはこの程度にして……今回の予選突破バンドの名前を呼び上げます。突破バンド数は三です。まずは――』

 

 私は目を瞑って両手を握りしめて祈る。出たバンド数に対して突破できるバンドは三つという狭き門。名前を呼ばれたバンドの人達が歓声を上げるのが耳に届く。続けて二つ目のバンドが呼ばれて歓喜の声を上げている。あっという間に最後の枠の発表。

 Roseliaならだいじょぶ。絶対通る。そう信じて呼ばれる瞬間を待つ。でも……私の祈りが届く事は無かった。

 

『――です。以上のバンドが今回の予選突破となります。おめでとうございます』

 

「え……」

 

 呼ばれたのはRoseliaじゃなかった。頭が真っ白になった私は、その場に座り込んでしまった。沙綾が慌てた様子で私に声をかけてくれたようだけど、その声すら聞こえなかった。涙で視界が歪む。なんで?なんでRoseliaが選ばれなかったの?

 

「華那!」

 

「なんで……なんでRoseliaが……姉さん達が……突破できないの……?あれだけ……いい……演奏したのに……」

 

「……華那」

 

 泣きながらそう呟く私を優しく抱きしめてくる沙綾。沙綾の腕の中で私は静かに泣き続けた。悔しい。なんであれだけ会場を盛り上げて、アンコールの声まで上がったRoseliaが落ちなきゃいけないの?どうして?どうしてよ?

 

 しばらく私達の周りだけ静まり返る。聴いていた人たちの声が少しだけ耳に届いたけれど、やっぱり他の人も納得している様子ではないみたい。沙綾に支えられるようにして私は立ち上がる。沙綾ごめんね。

 

「ううん。大丈夫だよ。でも……私もショックだよ。Roseliaは、すごくいい演奏していたのに……」

 

「うん……」

 

 沙綾の言葉に再び涙を流す私。リサ姉さんもやってきて私を慰めるように頭を撫でてくれた。本当なら姉さんやリサ姉さん達が泣きたいはずなのに……。ごめん、姉さん達。その想いを私は泣いていたので言葉にする事ができなかった。沈黙が私達の間に流れる。

 

「……総評を聞くわよ」

 

 しばらく沈黙していた姉さんが、短く、それでいてしっかりとした口調で全員に伝えてきた。総評……確か、今回の参加バンドに対して詳しい評価を出してくれる機会があるって言っていたっけ。それを聞いてから判断するつもりなんだ。

 姉さんだって、本当なら泣きたいはずなのに、どうしてそうやって平静を保っていられるのだろう?私が弱すぎるだけなの?確かに私すぐ泣いちゃうから、精神的に弱いのかもしれない。姉さんの事を見習わなくっちゃいけないと思った時に気付いた。姉さんの体が小さく震えている事に。私は沙綾に断りを入れてから、姉さんに近づいて姉さんの左手を握る。突然の行動に驚いた姉さんが私を不思議そうに見てきた。

 

「華那?」

 

「姉さん……こうさせて?」

 

 姉さんの手は小さく震えていた。どうして――という想いと総評を聞く不安が姉さんの中に渦巻いているのだと思う。でも、それを表に出さないのはRoseliaのリーダーとして、妹の私がこの場にいるから。弱い所を見せたくない。その想いが強いから。だから、せめて少しでもその不安が和らぐように心の中で祈りながら、私は姉さんと手を繋ぐ事しかできなかった。

 

 総評の時間がやってきた。聞きに来たのは私達と、澤野さんが連れてきたバンドの二つだけだった。澤野さんのバンドのボーカルの女の子。その子の歌声を聴いた私が抱いた印象は、今回の曲調には合わない声質だなというのが第一印象。声量はあったけれど、きっとバンドじゃなくて、コーラスかオペラ出身の子かなと勝手に思い込んでいた。

 それに……待っている間もどこか落ち着かない様子で周りを見ていた。どこか親近感がわく子だなって思った。

 

 そういえば、さっき沙綾と話していた、曲調は良かったけどバンドとしてまとまりがなかったバンド。やっぱり澤野さんの集めたバンドだという事がこの場で分かった。あ、審査員の方が……え?出てきた初老の女性を見て私は驚きを隠せなかった。だって、あの人は――

 

「おばあちゃん?」

 

「「「「「「おばあちゃん!!??」」」」」」

 

 私の発言に驚くRoseliaメンバーと沙綾。あ、説明してない事に今気付いた。勘違いしちゃうよね。本当のお祖母ちゃんは音楽業界関係者じゃないからね。

 

「おや、華那じゃないかい。数か月ぶりだねぇ。そうかい……集められたんだね?」

 

 優しく、微笑むように私に問いかけてくる窪浦(くぼうら)ヒカルさんに私は頷く。本当のお祖母ちゃんじゃなくて、私が昨年、バンドメンバーを探しに隣県に行った時に出会ったライブハウスのオーナーさん。

 ギターを持って行っていたのだけど、若くてチャラチャラした男性にしつこく話しかけられて困っている時に

 

「うちの孫に何、手を出してるんだい?」

 

 と、助けてくれた事からそのライブハウスでは、私が本当の孫娘だと思われるという状況を作り出した人でもある。そういう経緯を皆に説明する私は疑問に思っていた。どうしておばあちゃんが?と、思っていると、スタッフの方から審査委員長との紹介があって、私は驚きの声を上げた。

 

「さて、つまらない前置きは抜きに、Roseliaからいこうかね。バンドとしてはここ数か月の活動しかないようだけれども……今回の参加者の中では群を抜いた実力があったのは認めます」

 

「なら……なんで!」

 

 それを聞いた私が声を上げてしまった。実力があるなら選んでくれたっていいじゃないか――そんな想いが先行してしまった。姉さんが私に肩に手を置いて「華那、話しは終わってないわ」と言ってきた。けど、姉さん!と私が姉さんに言おうとするも、おばあちゃんが話しをつづけた。

 

「華那が言いたい気持ちも分かる。結成して短いからこそ、Roseliaには本戦で最優秀バンドになれるぐらいの実力をつけてから突破してほしい。今の実力でも予選は勝ち抜けます。ですが、その先……本戦に行けば、今のままでは埋もれてしまう。せっかくバンドの目指す方向性がハッキリしていて、そして将来性があるRoseliaをそんなところで終わらせたくない。そう審査員全員で判断したわけです」

 

「そう……ですか」

 

 不服。褒められてはいるけれど、本戦でどういう評価をされるかはやってみなければわからない部分が大きい。でも……おばあちゃんが言うならそうなのだろうと無理やり思い込む。

 

「ハッキリ言ってしまえば、Roseliaは経験不足だね。演奏技術、バンドとしてのまとまりは、結成して数か月とは思えないものだった。だからこそ、経験が圧倒的に足りていないのが目立った。来年……成長した姿を見せてくれる事を私達は期待しようじゃないか……という結論に至った訳だけれども、何か言いたい事あるかい?」

 

「……分かりました。Roseliaの音楽を認めてくださっている事が分かれば、私からは何も……。みんなは?」

 

 姉さんが代表して答えてから、皆に意見を聞く。他の皆も同じようで言う事は無いようだ。演奏技術、音楽は認められた。後は経験……か。来年まで時間はあるようでない。特にあこちゃんを除いたメンバーは大学受験や進路を考えないといけないから……。それまでにできるだけライブをこなしていくしかないよね。……私にできる事あればいいけど。

 

「それと……これは私個人の感想というよりは願望だけれども……」

 

 と、私をジッと見ながらおばあちゃんが口を開いた。なんで私を見ているのだろう?そんな疑問を抱いている私に、おばあちゃんは優しい笑みを浮かべて

 

「華那。貴女も来年は参加者として、ここに来てくれる事を信じて待っているから、しっかりやるんだよ」

 

「!……うん!!」

 

 おばあちゃんのライブハウスで、何度か時間をつぶしてほしいとお願いされて、演奏した事があったんだけど……それを覚えていてくれたんだ……。来年はバンドで来なさいって私に伝えたんだ……。おばあちゃんの優しさに涙ぐむ私の頭を優しく抱いてくる姉さん。小さな声で「良かったわね、華那」と言ってきたので、私は姉さんの腕の中で小さく頷いた。

 

「次は……アンタかね、澤野嬢。こりないねぇ……」

 

「うっさい耄碌婆さん。どうして、私の集めたバンドが予選落ちなのか、きちんと説明しなさい」

 

 審査委員長に対して高圧的な態度の澤野さん。おばあちゃんは呆れた様子だった。私達は黙ってそれを見ていた。

 

「……まず演奏技術は評価できる。曲全体もいい楽曲だ。……でもバンドとしてのまとまりは全くないね。ただ演奏しに来ているだけ。それだったら誰でもできる。はっきり言えば張りぼてのバンドだね」

 

 Roseliaの時と違って、すごい辛辣な評価を下すおばあちゃん。それを聞いていた澤野さんの表情が凄い事になっていて、あちらのバンドのボーカルの子が凄く怯えていた。

 

「それに……ボーカルの子の歌。とても綺麗だったけれど、やりたくないって感情が込められていたのが気になったね……ボーカルの子。本当はやりたくなかったんじゃないかい?」

 

「え?」

 

 突然話しを振られたボーカルの女の子は困惑した表情を浮かべていた。おばあちゃんが「素直に話していいんだよ」と優しく声を変えると、ボーカルの子はしばらく黙っていたけれど、両手を握りしめて俯いたまま

 

「……私、コーラスワークがやりたかったんです。それで仲の良かった幼馴染の二人と私の三人で、ライブハウスとかで色々な楽曲やっていたんです……」

 

 泣きながら話す女の子。聞いていれば、突然勧誘にやってきて、今日の予選と同じ日に自分のバンドのライブがあったのに、無理やりこっちに連れてこられたそうだ。それを聞いて私はありえないと憤りを覚え、澤野さんに近づこうとして沙綾と姉さん達に止められた。いくらなんでも無茶苦茶だ。あの子がやりたかった事を無茶苦茶にしてまで、自分の評価や売上、Roseliaを潰したいと考えていたの!?だから、離して。姉さん、沙綾!

 

「華那!落ち着いて!!」

 

「華那、暴力はダメよ。お願いだから落ち着いて頂戴」

 

 姉さんと沙綾に引きずられるようにして澤野さんから離されていく私。向こうの女の子が驚いた表情していたけれど関係ない。どうして!?文句の一つぐらい言わせてくれたっていいじゃない!!そんな私の様子を見たおばあちゃんが呆れた口調で

 

「華那が怒るのも納得だね……。澤野嬢。あんたのやっている事は間違ってるよ。……音楽ってのは“音で楽しむから音楽だ”ってのは昔の人が残した言葉でね……。あんたのやっている音楽ってのは、演奏する側が楽しめているのかい?」

 

「はぁ……?音楽なんてビジネスよ?何言ってるの、この老害は」

 

 呆れた口調で返す澤野さんに、流石の私も怒りを隠せずに澤野さんに「ふざけるな」と言おうとしたけど、姉さんに口を塞がれた。なんで!?なんで発言すらさせてくれないの姉さん!!

 

「黙って聞いていなさい。大丈夫よ、あの人なら華那の想いもきちんと言ってくれるわ」

 

 そう言って落ち着くように私に言ってくる姉さん。でも!と反論しようとした時、おばあちゃんの静かに諭すような声が聞こえてきた。

 

「あんたの仕事は確かに楽曲を売る事がメインだ。でもね……このフェスは音楽を売る事を目的としている訳じゃない。音楽を本当に楽しむバンドを探し出す、音楽で人の心を動かすバンドを探し出す……それが目的で始まったフェスだ。それを知らないで参加している澤野嬢……何度挑戦しても、審査員が私じゃなくても予選突破することはないよ」

 

「音楽を……」

 

「楽しむ……」

 

「人の心を動かす……」

 

 私と姉さん、沙綾がその言葉に反応した。確かに、今回の予選突破したバンドの音楽を思い出せば、すごく楽しそうにバンドメンバーが演奏していたっけ。姉さん達も楽しそうだったけれどね……。

 

「それに売れる音楽ってのは、今言った、人の心を動かしているからこそ売れるわけだ。まあ、近年はそうじゃないのもあるがね……もう一度、原点を見つめ直してから挑戦するんだね。それができないうちは、あんたの音楽じゃ、人の心を動かすことはできないよ」

 

「っち。こんなくだらないフェス、もう二度と挑戦なんてしないわよ!今度会うとすればライブハウス借りてやる時ぐらいじゃない!?帰るわ!」

 

 と、なんか負け犬の遠吠えっぽい言葉を残して去っていく澤野さん。残されたバンドメンバーは困惑した表情を浮かべているけれど、ボーカルの子を残して澤野さんと一緒に帰ってしまった。

私は沙綾を見て、アイコンタクトをとってから二人で残された子に近づいて声をかけた。

 

「大丈夫?あ、私、湊華那って言うんだけど……貴女は?」

 

「織田由紀って言います……」

 

 と、泣いている織田さんは答えてくれた。沙綾がハンカチを差し出すと、困惑した表情を浮かべながらそれを受け取った。コーラスワークやっているって事はあのグループと、あの作曲家の曲をやっているの?と聞いてみる。すると少し明るい表情「そうです」と答える織田さん。

 好きな音楽の話しをしている時の織田さんの表情は、さっきまでの思い詰めたようで、暗い表情とは離れたものだった。話していて音楽が好きだって事が伝わってきた。私と沙綾の三人で話していると、入口から二人の女子が走ってやってきた。

 

「由紀!!無事!?」

 

「由紀ちゃんー無事ー?」

 

「香織ちゃん!若菜ちゃん!」

 

 と、織田さんに抱き着く二人。という無事って何。無事って。と一瞬思ってしまったけれど、誘拐まがいの事をされたのだから、心配になるのも仕方ない事かなと思いながら今来た二人に声をかける。

 

「あ、ごめんなさい。アタシは正井香織(まさいかおり)。で、こっちの能天気そうなのが」

 

窪田若菜(くぼたわかな)だよー。よろしくー」

 

 と、自己紹介してくる二人。これはご丁寧にと言ってから私と沙綾も名乗って、状況を説明する。姉さん達もやってきて、何が起きているか不安そうに見守っていたので、話しに入ってきてもらった。

 

 三人でやる予定だったライブは、知り合いのバンドにお願いして急遽出てもらったそうで、急いでこの会場に来たそう。理由は織田さんの奪還との事。奪還は大袈裟な気がしたけれど、姉さんが澤野さんにスカウトされた時、私達が抱いた思いもそれに似た物だったかなと思いつつ話しを進める。

 話していて分かったのは、三人とも本当に仲が良い事。今回の件で壊れるような友人関係じゃないことが分かり、それを聞いた私と沙綾は胸を撫で下ろした。三人ともまた練習してライブしようと話し合っているから安心だね。

 

 それと話していると、織田さん達が私と沙綾と同い年って事が分かった。連絡先を交換し合って、今度時間作って会おうと約束をして別れる。私達もおばあちゃんから「予選会は終わったんだから帰りな」と言われたので帰る支度をする。

R()o()s()e()l()i()a()()()()()()()は控室に行って私服に着替える。尚、私の私服は、何故か姉さんが沙綾に預けていたらしく、私も着替える事になった。姉さんに、なんで沙綾に服持たせたのかを聞くと

 

「その衣装のまま帰ろうとしたら、間違いなくナンパされそうだったからよ」

 

 という、答えが返ってきた。……ぜ、前例があるから否定できない。沙綾もニコニコしているけど、無言のプレッシャーを私に向けるのはやめてくれない!?「着替えなかったらどうなるかわかってるよね?」ってのが凄く伝わってくるから!

 と、とにかく着替えた私達は会場を出る。おばあちゃんは審査委員長で忙しいから、もういなかったけど、今度の休みにでも会いにライブハウスに行こうと心に決める。

 

 

 帰り。地元に戻ってきた私達は、全員でよく利用するファミレスへ足を運んだ。理由は反省会をするためだけど、夜の七時を回っていたので、お腹がすいたとあこちゃんが騒いだのが理由だ。

 結局、反省会という反省会ではなく、おばあちゃんの言った予選落ちの理由への愚痴の言い合いと、Roselia(自分達)の音楽の良さを再確認して、来年の予選までにさらに高みを目指すという話しをして解散となった。途中、私と沙綾がいる必要があるのかなと疑問に思ったけれど、改めて今回の予選会の感想と反省点をあげて欲しいと姉さんに言われて、沙綾と私は改めて感想を伝えたのだった。

 

 

 帰宅後。自室に戻った私はベッドにうつぶせに倒れこむ。みんなの前で泣いたのは、発表された瞬間だけだったけれど、本当はずっと泣きたかった。おばあちゃん……窪浦さんの言った事も理解しているつもり。でも、それでも、私の中の悔しさは消えなかった。涙で枕を濡らしながら、静かに嗚咽を漏らす。

 なんで、あれだけいい演奏した姉さん達が落ちなきゃいけないの?どうして?一年後もきちんと評価してくれる保証なんてないのに……。色々な考えが私の中で生まれては消えていく。そんな時、部屋の扉を叩く音が聞こえた。

 

「華那?入るわよ?」

 

「え……ね、姉さん!?」

 

 え、今入ってこられたら困る。姉さんに心配かける!慌てて入ってこないでと言おうと体を起こすも、既に姉さんが部屋に入ってくるところだった。姉さんは泣いている私を見て、やっぱりといった表情を浮かべていた。ゆっくりと私に近づいて、姉さんは私を抱きしめてきた。

 最初は、私が泣いていたから、姉さんに心配かけてしまったのだろうと思った。だけど、少し姉さんの様子が違ったので、私は困惑しながらも姉さんの名を呼んだ。しばらく黙って私を抱きしめていた姉さんは静かに話してきた。

 

「ごめんなさい。せっかく華那がメンバーを集めてくれて、応援してくれていたのに……あんな結果になってしまって……」

 

 申し訳なさそうに話す姉さんに、私は慌ててそんな事ないと伝える。

 

「そんな……事ないよ……!姉さん達は……ヒッグ……最高の……演奏したもん……」

 

「ありがとう、華那。でも、本当にごめんなさい……」

 

 泣きながら話す私の頭を、あやすように優しく撫でる姉さん。姉さんの顔は見えないけれど、姉さんの優しさに私はただ小さく首を横に振るだけしかできなかった。しばらく姉さんの腕の中で泣く私。しばらくしてから、姉さんが口を開いた。

 

「華那。今年はこんな結果になってしまったけれど……来年は必ず本戦に出て認めさせてみせるわ。だから……」

 

 

 華那には近くで見ていて欲しいの。Roseliaが頂点に立つところを――

 

 

 それを聞いた私は、頷きながらさらに涙を流した。姉さんの想いが伝わったから。姉さんは優しく私を撫で続けてくれた。しばらくして、落ち着いた私は姉さんから少しだけ離れて

 

「姉さん……来年、また頑張ろう。私もできる事やるから」

 

「ええ……お願いね、華那」

 

 と、二人で笑顔を浮かべる。今は姉さんと一緒に頂点を目指す事だけを考えて前に進もう。それが私のできる最大限の事だから。だから、今日の事で泣くのはもう終わり。明日からは、もっと上手くなるように、少しでもRoseliaに近づけるように頑張らないと。そう決意した私は、姉さんと一緒に、Roseliaの新曲について遅くまで話し合うのだった。

 

 ただ、この時の私と姉さんは知らなかった。来年のFWFの本戦を私が見れないという事を――

 

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