Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#2

 私、湊友希那には一つ年下の妹がいる。私より身長が低くて、私より感情表現が豊かで、可愛らしい自慢の妹だ。ただ……体の一部分が私よりもあるので、そこは素直に羨ましいと思ってしまう。それについては話す機会は一生無いわね。……その妹――華那(かな)というのだけれど――の透き通るぐらい()()()()()()()()()()()。そう――()()()()()のよ。

 華那の綺麗な歌声を奪ったのは……姉である私だ。

 

 それは今から二年前。私と華那はとあるフェスで父さんの音楽を全否定した人達を見返す為、日々ライブハウスでライブをやり、厳しい練習をしていた。二人で高音パートと低音パートに分かれてハモったり、一番と二番で歌うパートを変えたりして――だ。

 基本的にはメインパートが私で、華那が低音パートとコーラスを担当していた。二人で歌っている時は、本当に音楽に集中する事ができた。純粋に楽しいと感じていた部分もあった。ただ、歌を歌っている時の私の感情は、父さん達の音楽を否定した人達を見返す――というのが大半を占めていたのも事実よ。

 

 

 華那が歌えなくなったあの日――

 

 

 その日もライブで二人でステージに立って、全力で歌ってきた。華那の調子が絶好調だった事もあって、私も負けないわよと思い、マイクを持つ手に力が入った。私達が歌い終えると同時に、盛大な拍手と歓声が巻き起こった。それは今まで二人で歌ってきた中でも一番の拍手と歓声だったのを今でも覚えているわ。

 異変が起きたのは、ライブが終わってからすぐだった。華那が左手で喉を押えながら私の服を右手で引っ張ってきた。

 

「どうしたの華那?」

 

「ねぇさ……こ……でな……」

 

「か、華那!?」

 

 涙を流しながら訴えかけてくる華那。その時点で声は掠れていて、うまく言葉になっていなかった。私は華那を落ち着かせようと、華那の両肩に手を置いて深呼吸するように伝える。頭の中は混乱していたけれど、一番混乱しているのは華那だ。さっきまで歌えていたのに、急に声が出なくなれば混乱するに決まっているわ。華那の姉として、私がしっかりしないと――

 

 私達の異変に気付いたライブハウスのスタッフさんが気を利かせて、急いで喉にいい飲み物を紙コップ入れて持ってきてくれた。声の出ない華那の代わりに私が感謝を伝えて、華那に飲み物が入った紙コップを手渡す。

 

 華那がある程度落ち着くまで待ち、私は華那に病院に行く事を伝えると、涙を流している華那は小さく頷く。私は携帯(当時はまだスマホじゃなかった)で母さん達に連絡を取って、病院へと向かった。

 

「……」

 

「……」

 

 病院の待合室で名前が呼ばれるまで、私と華那は黙ったまま椅子に座っていた。華那は声が出ないからだけれども、私はなんて声をかけていいか分からなかった。あの時――私がFWFに出るためにバンドを組むために動く事を決めた。

 そんな私に「姉さんと一緒にその夢を叶えたい」と言ってくれた華那。生半可な覚悟じゃ置いてくわと言ったけど、華那は私の求めるレベルについてきてくれた。お互い切磋琢磨しあって様々なライブハウスでライブを歌ってきた。

 

 でも――今回、改めて痛感した。私は華那に無理をさせていた事に。じゃなければ、華那が声を出ないなんて事にならなかったはず。私は下を向いて膝の上に置いていた両手を握りしめる。私のせいだ。華那がこんな苦しい想いをしないといけなくなった原因は――

 

 そんな時、誰かの両手が私の右手を優しく包み込むように添えてきた。顔を上げれば涙目の華那が私を見て首を横に振っていた。自分を責めないで――そう言いたいのだろう。

 

「華那……ごめんなさい。私のせいで……」

 

「っ!……!」

 

 私の言葉を聞いた華那は、左手を私の手に添えたまま右手を離して、携帯を取り出して何か入力し始めた。入力が終わったと思ったら、画面を私に見せてきた。

 

「……『姉さんのせいじゃないよ。私の方こそごめんね。姉さんに迷惑かけちゃった』……迷惑だなんて思ってないわよ。私が……私が華那の状態をしっかり把握していれば――痛っ」

 

 突然叩かれた私は右手で叩かれた箇所を抑える。と言ってもそんなに強く叩かれたわけじゃなかったのだけれども、痛かった。

 

『大丈夫だよ、姉さん。もう二度と声が出ないって、まだ決まった訳じゃないから。また歌える日が来るまで、姉さん支えてくれるかな?』

 

「っ……。あ、当たり前じゃない。華那。あなたは私の大切な妹よ。いやだと言っても支えるわよ!」

 

『ありがとう姉さん。大好きだよ!』

 

 携帯画面を私に見せてからニコリと笑みを浮かべる華那。その後、看護師さんに呼ばれて一緒に行く際、華那の手を私は握っていた。華那の震える手から伝わる不安が少しでも和らぐようにと願いを込めて。

 結論から言えば、喉の声帯を酷使しすぎた事による声帯の炎症だった。二週間は声を出す事を禁止させられた華那の表情は、まるでこの世の終わりでも来たのではないかと思うぐらいだった。でも、その時の私は安心した。炎症なら治る。また華那と歌えると信じていいのだと。

 

 でも……その期待は見事に裏切られる事になった――

 

 

 

 二週間。華那は部屋の中でもマスクをして、声を出さないようにかなり努力をしていた。くしゃみやあくびをする時ですら声を出さないようにしていた。私自身、華那を驚かさないようにと、細心の注意を払った。そして華那の努力の結果、日常生活で普通に話すまでには回復した。――そう、()()()()()()()()()()()――

 

「~♪っ……ごめん。姉さんもう一回やらせ「ダメよ」……姉さんっ!」

 

 華那の喉が治ってからとあるスタジオで練習していた私達。華那は曲の一番サビ終わり部分で声が掠れてしまう状態を何度も繰り返していた。まだ練習をしようとしていたので、私は華那をストップさせる。これ以上続けたら華那が本当に壊れてしまうと思ったから。

 

「華那。これ以上やっても、また喉を痛めるだけよ。お願いだから自分の体を大切にして頂戴……」

 

「姉さん……ごめんね。……本当にごめんなさい」

 

 ポタリポタリと涙を流す華那。私は突然の事で驚きを隠せなかったけれど、あの子が泣く理由は分かっているつもりだ。私と一緒に歌えないという現実と、私達の夢を叶えられないという不安。そして――私に迷惑をかけてしまっていると思っているのだろう。迷惑なんかじゃない。華那のあの綺麗な歌声を奪ったのは私だ。私があの時、一緒にやりましょうって言わなければ――

 

「華那、謝らなくていいわ。悪いのは私よ。あなたの大切な歌声を奪ってしまった……私の方こそごめんなさい。華那」

 

 私は涙を流して体を震わせている華那を優しく抱きしめながら、私は華那に謝る。

 

「そんなっ!姉さんが悪いわけじゃない!!私が、もっとしっかりしてれば……」

 

「いいえ、私のせいよ。私の練習量やスケジュール管理不足も影響しているもの。だから、そんなに自分を責めないで華那」

 

「姉さん……ごめんね。ごめん……」

 

 私の腕の中で泣きじゃくる華那を抱きしめて頭を撫でながら私は華那の分まで歌う事を心の中で誓った。華那のような綺麗な声は出せない。でも、華那の想いを私が背負って歌う事はできる。覚悟は決まった。この想いは華那への贖罪かもしれない。それでも私は前に進む。それによって華那が笑ってくれるなら――

 

 

 

 その後、華那は歌う事を止めて、代わりにギターを始めた。ある日、ギターを始めた理由を聞いたら

 

「姉さんの隣で歌うのはできないけど、楽器弾ければ隣に立てるでしょ?」

 

 と、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて答えてくれた。その際、私が華那を抱きしめたのは悪くない。だって、これだけ私の事を想ってくれている妹よ。抱きしめたくなるじゃない。

 

 それから二年間、華那はギターを練習して、見る見るうちに上達していった。元々ギターの才能があったのではないかと思うぐらいだった。本人は「まだまだ下手だよ」と謙遜しているけれど、そう簡単に華那の大好きなギタリストの楽曲を弾けるようになるわけがない。

 あの長寿音楽番組のテーマ曲のバラード版とか、どれだけ練習すればあのトーンを出せるのだろうかと思うぐらいだ。……姉だから甘く見ているって事はないわ。ないわよ。他にもそのギタリストの激しいロック曲や、好きな女性声優アーティストの楽曲も弾けるようになってきている。これは姉としてうかうかしていられないわね。

 

 そして、今年。私はRoseliaというバンドを結成した。ギターは華那が見つけてきてくれた紗夜。ドラムは華那が私に内緒でスコアを渡した中学生ドラマーあこ。あの子は私が気付いていないと思っているだろうけど、そこは()よ。華那の動きに気付かないわけがない。そのあこの友人、燐子もキーボードとして加入してくれた。

 そして……私と華那にとって大切な幼馴染であるリサ。ベースを弾くのを復帰したリサを説得したのも華那だって事も知っているわ。あの子のおかげでバンドを組むという最初の関門はクリアできた。私一人だったら無理だったわ。

 

「姉さん」

 

 そんな、つい先月のRoselia結成の事を思い出していた学校帰り。私と華那は、リサに誘われて猫カフェに向かっていた。その途中で華那が話しかけてきた。どうかしたの、華那?

 

「猫カフェ楽しみだね!」

 

 と、満面の笑みを浮かべてくる華那に私は笑みを浮かべて同意するのだった。ああ、やっぱり華那は笑顔が似合うわ。この子をもう二度と泣かせたくない――

 

「友希那、華那!!道こっちだよ!!」

 

 ……リサより先に歩いていたため道を間違えたみたいね。リサを見れば呆れた表情を浮かべていた。私達姉妹はリサに謝りながら猫カフェへと向かった。猫カフェで華那が猫と遊んでいる中で浮かべた笑顔を何枚も写真に収めたのは華那には内緒よ。

 

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