「どう考えても、私の出番無さすぎじゃないと思わない!?華那ちゃん!!」
CiRCLE隣接のカフェのテーブルを叩いて私にそう捲し立てたのは、現在話題沸騰中のアイドルグループ「Pastel*Palettes」(通称パスパレ)のボーカルである、まん丸お山のピンク担当、丸山彩さん。この間、日菜先輩と私の三人で、何故か写真撮影をして以来の来店なのだけれど、それにしてもこの荒れよう……どうしたんですか?
「だってだってだって!日菜ちゃんとかイヴちゃん、千聖ちゃんに麻弥ちゃんはセリフあったのに、私だけ会話した事になっていて、全く
「彩さん、今日本当どうしたんですか!?何言っているか私、理解できないんですけど!?」
と、テーブルをバンバン叩きながら
「?どうかしたの華那ちゃん?顔色真っ青だよ?それに体震えてるよ?」
自分の背後に立っている人物に気付いていない彩さんが、私の様子を見て首を傾げる。さて、ここで唐突ではありますが問題です。彩さんの目の前にはショートケーキとマカロン。そしてコーヒーの三品が並んでいます。これを見て彩さんに対して怒る人と言えば?はい、速かった松原さん。
「えっと……私の隣にいる千聖ちゃんかなぁ……」
「え!?……ド、ドーモコンニチハ、チサト=チャン」
私と松原さんのやり取りを聞いて、まるで油が切れた人形のように振り向く彩さんは、真っ青な顔で、満面の笑みを浮かべて立っている千聖さんに挨拶をしたのだった。
「ドーモ、アヤチャン。チサト=デス。どうやら、お説教が必要みたいね?」
「ひぃっ!?」
まるで肉食動物に追い詰められた小動物のように震えあがる彩さん。じ、自業自得だよね?そうだよね?と思いつつ、テーブルを挟んで彩さんの反対側に座った松原さんに注文を確認する。
「うーん……カフェラテとタルトにしようかな」
「カフェラテとタルトですね。千聖さん……は後で聞きに来ますね」
千聖さんと彩さんを見て、私と松原さんは苦笑いを浮かべるしかなかった、いや。だって、まだ説教しているんだもの。アイドルとしての自覚が足りてないから、店員を困らせるような真似をしていた彩さんの言動、そして一般常識についてまで、様々な事を説教していた。
あの、千聖さん。私はだいじょぶなので、そこま……いえ、何でもありません。じ、じゃあ、私。仕事に戻りますね。戻ろうとした時に、彩さんから「助けて」と視線を受けた気がしたけれど、気のせいって事にして、厨房へ戻った。ごめんなさい、彩さん。ああなった千聖さんは私じゃ止められません!
手を一度消毒してから、カフェラテの準備をして、タルトは厨房の中にいる先輩の料理スタッフから声がかかるまで待機。しばらくして「華那ちゃん、準備できたよー」と、陽気な声で先輩スタッフさんからお呼びがかかったので、返事をしてタルトの乗ったお皿を受け取り、お盆にカフェラテとタルトをのせて松原さん達の席へ戻る。あれ?松原さん、彩さんの隣に移ってる?
「本当に分かっているのかしら、彩ちゃん?」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
そのままUターンしたくなった私は悪くないと思うんですよ。って、彩さんが壊れたテープみたいに、下向いて同じセリフ繰り返しているんですけど!?も、戻りたい。で、でも、
「お、お待たせしました。ご注文の商品です」
「あ、華那ちゃん。ありがとう」
そんな状況下なのにマイペースなのか、満面の笑みで私に声をかけてくれる松原さん。いや、マイペースじゃない。慣れなんだろうな。ちょっと、遠い目になっているし……。そんな私に気付いた千聖さんが、柔らかな笑みを浮かべて
「華那ちゃん。私も注文いいかしら?」
「あ、は、はい!」
慌ててオーダーを受ける私。そんな慌てた様子の私を見て、小さく笑いながら「慌てなくていいわよ」と、言ってくださる千聖さん。いや、さっきまでの説教していたのを見ていたから、私の方にまで説教が来るのではないかって思っていたから、身構えたというか慌ててしまった訳で……。いや、そんな事、本人に言える訳ないですけどね?
注文を受けて、再び厨房へと戻ってオーダーを伝える。商品はコーヒーと松原さんと同じタルト。準備して持っていこうとした時に先輩スタッフさんに声をかけられた。
「華那ちゃん!今暇だから、お友達来てるんでしょ?ちょっと休憩してきていいよー」
「え……でも……」
「大丈夫大丈夫。忙しい時間過ぎたから、ちょっとぐらいならいいよ。怒られるの私だし!」
満面の笑みを浮かべて右手の親指を立てる先輩スタッフさん。それだいじょぶじゃないですよね!?
「いいからいいから!少し休んできてねー!」
持ち場に戻る先輩。どうしようとも思ったけれど、先輩のせっかくのご厚意だし、甘えておこう。というか、甘えておかないと「仕事しすぎ!」と怒られる事が以前あったからね。あくまで私バイトで、下っ端という事をよく理解しておかないといけないからね。
「はい、お待たせしました。コーヒーとタルトです」
「ありがとう、華那ちゃん」
と、柔らかい笑みを浮かべてくださる千聖さん。本当、女優って表情を使い分けられるのだと改めて思った瞬間だった。視界の片隅で、小さくなっている彩さんの事は気にしない。気にしたら、火の粉が私の方に降り注ぎそうだから。
「あれ?華那ちゃん、エプロン脱いでるけど、どうしたの?」
先ほどまで着ていたエプロンが無い事に気付いた松原さんがそう問いかけてきたので、先輩スタッフさんから、ちょっと休憩してきていいよと言われた事を伝えると
「そうなのね。なら、私の隣に座ったらどうかしら。華那ちゃん?」
「え……と……」
千聖さんの誘いにどう反応していいか悩んでしまう私。だって、千聖さんも彩さんも、プライベートで来てるわけだから、友達である松原さんと親交深めた方がいいと思ってしまったから。その為、助けを求めるように松原さんを見れば、笑みを浮かべて
「うん。その方が席のバランス取れるもんね」
「……お邪魔します」
もう座る事前提で話しが進んでいたので、私は会釈をしながら千聖さんの隣に座る。優雅にコーヒーを飲む千聖さんと、ニコニコ満面笑みの松原さんの会話に入りながら、未だに会話にすら復帰できていない彩さんを心配する。
「そうそう、華那ちゃん。ここにあるマカロン食べていいそうよ」
そう、微笑みを浮かべながら、マカロンが五個ほど盛り付けられているお皿を私の前に置く千聖さん。えと、これって彩さんが注文されたものだと思うのですけど……
「彩ちゃん、ちょっと食べきれないって言っていたのよ。ね、花音?」
「う、うん。そ、そう言ってたよ」
松原さん……無理に話し合わせなくても……いえ、その気持ち十分理解できちゃうんで気にしないでください。なら、もらいますね?……彩さんにはあとで代金渡しとこう……。
「そういえば、華那ちゃん。私、気になっていたのだけれど、彩ちゃんとはいつ知り合ったのかしら?」
食べている途中に、千聖さんからの突然の問いかけに私は食べていたマカロンを飲み込んで、しばし考えてから
「あー……彩さんと知り合ったのは、バイト始めて数日後経ってからですよ」
「聞いてもいいかしら?」
「あ、私も聞きたいかな。ダメかな?」
千聖さんは両肘をテーブルにつけて、手を組んで違和感が滲み出てしまっている笑みを浮かべ、松原さんは本当に興味津々な感じの自然な笑み――と、いう対照的な笑みを見せて私に言ってきた。これは話すしかないなと、私は素直に話す事にした。彩さんにこれ以上被害いかないように心掛けながら――
「すみませーん」
「はい!只今伺います!!」
昼のピークが終わって、先輩スタッフの人達と談笑していた時に、注文の声が聞こえたので即座に反応してそのテーブルへと向かう。手を挙げていてくれて、どのテーブルのお客さんかが分かった。気遣いできる人だなぁって思いながら接客をしようとして気付いた。あ、この人――
「お待たせいたしました。ご注文お伺いいたします」
「えっと……アイスコーヒーと、このイチゴのショートケーキと、マカロンを各一皿ずつお願いします」
注文をスラスラ言うピンク色の髪の女性。テレビでよく見た事のある人だったので、驚いてしまったけれど、今は仕事中なので気付いてないフリしとかないと……。それにこれってプライベートだから声かけちゃいけないだろうし……。
私が接客対応していたお客さんは、今注目のアイドルバンド、Pastel*Palettesのボーカル担当の丸山彩さんだった。あくまで表面上は冷静に対応しながら、心の中では「うわー、本物だー。パスパレの丸山彩さんだー」って、ミーハー丸出しな言葉を呟いていた。先輩スタッフの方々に言うわけにいかないし、プライベートで来ているなら、ファン対応するのも嫌だろうしね。
よし、通常の接客で行こう!と、心の中で決めて、商品を持っていったら、丸山さん若干落ち込んでいた。何かあったのかな?と思いながら、
「お待たせいたしました。アイスコーヒーとショートケーキとマカロンです」
「あ、ありがとうございます!」
さっきと同じような笑みを浮かべてくれた丸山さん。んー……どうしたんだろう?何か嫌な事でもあったのかな?そんな事を思いつつ一礼してから席を離れた。その際、小さな声で
「やっぱ気付かれないかぁ……」
って、聞こえた。うーん……これは声かけてあげた方が本人喜ぶのかなぁ?ファンかと言われれば、ミーハー寄りのファン。デビュー当時から支えている人に比べたら詳しくはないけれど、丸山彩さんってアイドルの事は好きかと聞かれれば、好きなアイドルだと答える。
まあ、心の奥底からファンだ!って言えるのはあの三人だけなのだけれど……。だから、声をかけるのはおこがましいというか、本当のファンの人に失礼だと思うし、丸山彩さん本人にも失礼だと思うんだよね。うん。だから、私が話しかけないのは間違ってない。そう、自分に言い聞かせながら仕事を続けて、終わりの時間を迎えた。
「お疲れ様でしたー」
「はーい。華那ちゃん今日もお疲れー!!」
帰り際、会う先輩スタッフの皆さんにお疲れさまでしたと言いながら、帰ろうとする私。あ、先輩!さりげなく撫でるのやめてください!!私、そこまで子供じゃないですよ!!と、抗議の声を上げるも、笑って誤魔化されてしまった。むー……確かに大人から見れば、高校生も子供って部類ですけど、私にしている事が幼稚園と小学生に対する行動ですよね。もう……。
そう思いながら帰り道を歩いていると、道の端にしゃがみ込んで猫と戯れている丸山彩さんを見つけてしまった。えと……こんなところで猫と戯れていて、だいじょぶなんですかね?パパラッチとか、週刊誌の皆さんとかいないんですか?あ、これもしかして番組の撮影!?
「猫ちゃん……私そんなに芸能人オーラないかなぁ……」
「みゃおん?」
猫を撫でながら呟く丸山さん。あー……これは聞かなかった事にしてあげた方がいいと思うのは私だけでしょうか。そう思いつつ、どうしようかと考えていたら、丸山さんと目が合ってしまった。あー……これは逃げ道無くなったよね!?
「猫、可愛いですね」
「え……あ、うん。猫可愛いよね」
丸山さんの隣にしゃがみ込み、猫の話題で話しかけた。丸山さんが撫でていた猫は、時々CiRCLEの入り口でコロコロ転がっている黒猫ちゃんだった。ああ、君だったのね。と、黒猫ちゃんを一撫でしてから、
「それで、パスパレの丸山彩さん……であってますか?」
「え……あ、うん!丸山彩だよ!って、気付いてくれたの!?」
と、突然手を握ってくる丸山さん。わっ!?そ、そこまで驚く事ですかね!?
「だってだってぇ……誰にも気づかれなかったんだもん……」
ちょっと涙目の丸山さん。あー……確かに芸能人なのに誰にも気付かれないって寂しいかもしれませんけど、とある有名Rockユニットのヴォーカルさん*1なんて、眼鏡かけて都会のど真ん中に行っても誰も気づかなかったという伝説ありますからね?
「そうなの!?でも……やっぱり気付かれたいなって、思うんだよね……」
私が知っている有名人物のエピソード話しを聞いて驚く丸山さん。気持ちは分からなくもないけれど、やっぱり芸能人だから、気付かれた時のリスクを考える、気付かれない方がいいんじゃないかなって伝える。丸山さんが怪我とかしたら、それこそファンの人が悲しむから。
「……そこまで考えてなかった」
目に見えて落ち込む丸山さん。まずい!これじゃあ、一般人の私が説教したような感じだよ!?あ、あくまで、私の考えですから、気にしないでください!
「ううん。自分の視野の狭さに気付けたよ!ありがとう!……えっと?」
「あっ……私、湊華那です。先ほどまでいらっしゃったCiRCLEのカフェでアルバイトしていた高校生です」
「あっ!さっきの店員さんだったんだ!って、高校生!?」
私をマジマジと見て、気付いた丸山さんは、私が高校生という事に驚いていた。いや、分からなくはないんですけど、やっぱり……その、傷つくというか、ちっちゃいからかなぁ……。と、若干落ち込んでいると、丸山さんが慌てた様子で
「ご、ごめん!その、悪気があって言った訳じゃなくて――」
「あ、だいじょぶですよ。言われ慣れていますから……」
「大丈夫じゃない!?」
黄昏れながら猫を撫でる私を見て、そんな反応をしてくださった、丸山さん。その後、私が丸山さんの事は知っているけれど、本当の意味で、ずっと応援しているようなファンではない事を伝えたのだけれど
「それでも、私の名前知っていてくれた事と、応援してくれているなら、私のファンだよ!」
そう言って、写真を一緒にとって、サインまでくれたのでした。申し訳ない気持ちでいっぱいだったのに、今度一緒にお茶しようね!と言って、連絡先まで教えてくれたのだけれど、ちょっとプライベート緩すぎませんかね!?と、ツッコんだら
「え?だって、華那ちゃんと私、友達でしょ?」
「ちょっと、何言ってるか分かりません」
多分、そう言った時の私の表情は、素の表情になっていたと思う。だって、出会ったばかりなのにもう友人とはこれいかに!?
「うーん。なんて言うか、私のプライベートの事まで考えて、黙っていてくれていたんでしょ?そこまで考えてくれる一個下の子となら、友達になりたいなーって……ダメ?」
「……分かりました。丸山さんがそれでいいなら」
「やった!よろしくね、華那ちゃん!」
と、私の両手を取って喜ぶ丸山さん。それが、私と丸山さん――この後、すぐに彩さんと呼ぶ事になった――の出会いでした。本当、丸山さんのファンが見たら襲われそうな不安が未だにある訳ですが、千聖さんどう思います?
「大丈夫よ。そうならないように、私の方で事務所にお願いしてあるから」
「え……事務所って、どういう事ですか!?」
まさかの発言に驚きを隠せない私は、そう言って頭を抱えた。いや、だっておかしいでしょ!?私一般人。千聖さん、彩さん、芸能人。おかしいと思うよね!?
「アハハ……華那ちゃん……諦めも肝心だよ?」
「松原さん!?」
と、苦笑を浮かべた松原さんが諭すように言ってきたけれど、私にとってはまさかの裏切りですよ!?
「千聖ちゃん、いざという時は事務所の芸能科に所属してる扱いって聞いたけど?」
「ちょっと彩さん!?初耳なんですけど!?」
「うふふ。最初は、そういう話しだったのだけれど、ご家族の方から『うちの華那はアイドルにはさせない』って否定されちゃったのよね」
「……どうして、私の知らないところで話しが進むんですかねぇ!?」
千聖さんの発言に私は頭を抱えるしかなかった。ってか、うちの家族でそんな事を発言するの、姉さんぐらいしか思い浮かばないのですけど!?
「あ、ちなみにさっきの発言者は華那ちゃんのお父様よ」
「お父さん、何に言っているの!?」
そう言ってテーブルに突っ伏す私。そもそも、私。今のところアイドルとかになろうとは思ってないないですからね!?
「えー……華那ちゃんなら、凄いアイドルになれると思うんだけどなぁ」
「そうね。性格は真面目だから、スキャンダルの恐れはない。可愛らしさでも十分芸能界で通用するわね」
「華那ちゃんならできると思うよ?」
と、まさかの三人から、お墨付きを頂くという緊急事態。いや、私なる気全くないですよ!?そう話していると、休んでいていいよと言ってくださった先輩スタッフさんから声がかかったので、私は仕事へ戻ったのだった。あ、仕事終わってから、彩さんにマカロン代をきちんと払うのは忘れなかったよ!
尚、帰ってから、今回千聖さんから聞いた件で、たまたま家にいたお父さんと大いに揉めたのだけれど、姉さんに一喝されて終わった。「華那の言い分は分かるけれど、家族として心配だったのだからそれでいいでしょ?」と言われたらそれまでです。はい……。
私、大学進学とか、将来決める時、家族だけでなく、色々な人と揉めそうだなと思った出来事なのでした……。なんでよ……。