Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#31

 水曜日の朝。その日、湊友希那はいつも通りの朝を迎えていた。朝六時に起床し、まだ眠気が残る頭で自室の扉を開け、いつも通り階段を降りてリビングへ向かい、母親に挨拶しようとして思い出した。昨日から、両親は出張で夕食後から家を空けている事に。

 でも、いつもの朝なら友希那が溺愛している妹の華那が朝食の準備をしているはず。なのに今日は華那の姿が見えない。華那が寝坊というのは珍しいと思うと同時に、胸騒ぎがする友希那。なにか嫌な事が現在進行形で起きている。そんな胸騒ぎが――

 

 その後の友希那の行動は素早かった。まだ起きてきていない華那の部屋へ足を向けて、扉の前に立ち、控えめに扉を二回叩いてから華那の名を呼んだ。しばらく待つも返事は無く、時間だけが過ぎていった。もう一度扉を叩き、華那に「入るわよ」と断りを入れて部屋に入る友希那。

 部屋に入った友希那は、まず華那が寝ているはずのベッドに目を向ける。ベッドは部屋に入って左側に設置されており、ベッドには華那が眠っている姿があった。

 

 華那の姿を見た友希那は、華那がいる事にホッとするも、遠目から見ても華那の様子がおかしい事にすぐに気付き、華那を起こさないように近づく。眠っている華那が少し荒い呼吸をしており、かなり苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「華那……触るわよ?」

 

 と、眠っている華那に断りを入れ、自分の右手で華那の額に触れる友希那。異常な熱を感じ、慌てた様子で華那の名を呼ぶ。荒い息をして眠っていた華那がゆっくりと目を開けるが、目の焦点は定まる事はなく、ゆらゆらと揺れており、体調が悪いのは一目瞭然だった。

 

「おねー……ちゃん……?あ、ごめん……今……起きるね」

 

 熱がある状態だというのに起き上がろうとする華那を、止める友希那。だれがどう見ても動くだけでも辛そうなのは明白だった。

 

「大丈夫……なわけないわね。今、体温計持ってくるから、そのまま寝ていなさい。いいわね?」

 

「うん……」

 

 華那は諭すような口調の友希那の言葉に、小さく力なく頷いて目を閉じる。かなり体調が悪いのは自覚しているようで、横になって起きているのも辛いように友希那には見えた。傍にいたいという気持ちを抑え、急いでリビングに戻ってきた友希那は体温計を棚から取り出してから、冷蔵庫のあるキッチンへ向かう。ただの風邪にしては症状が重いように見える華那の状態。病院に連れて行くのは確定にしても、今は水分補給のできる物を持っていくのが先決だという判断を友希那は下していた。

 冷蔵庫を開けて、すぐさま友希那の目に飛び込んできたのは、スポーツドリンクの入ったペットボトルだった。それを取り出して、冷蔵庫を閉めて急いで華那の部屋へ戻る。戻ってすぐに体温計を華那に渡そうとするも、華那の様子を見た友希那は、自分でやった方がいいと判断して動く。

 

「華那、痛かったら言うのよ?」

 

「う……ん」

 

 と、力なく頷く華那に危機感が生まれる友希那。普通の風邪ならここまで酷い状態になるだろうかと。華那が風邪をひく事は、小さい頃から多くあった。幼い頃は、その度に母親と一緒に病院に言った記憶がある友希那。だが、ここまで酷かった記憶はない。

 病院に連れて行くとしても、公共交通機関かタクシーを呼ぶの二択しかない。ただ、できる限り華那に無理させるのだけは避けるべきだと考え、タクシーを呼ぶしかないと友希那が考えていると体温計が「計測、終わったぞ。さっさと結果を見ろー」と催促するように甲高い電子音で友希那を急かす。

 友希那は華那に断りを入れてから、体温計を華那の腋から取り出す。

 

「……39.1℃!?華那、今すぐ病院に行くわよ」

 

「うん……()()()……()()()

 

 と、無理をしたような笑み――いや、実際問題。無理をしているのだが――を浮かべて()()()()()()()()()()つもりの華那。小さくため息を吐いた友希那は、右手を額に当ててどうしたものかと考える。

 とにかく無理矢理にでも華那を病院に連れて行き、診察してもらうのは友希那の中では確定事項だった。ただ、華那がそれを良しとするかどうかと、タクシーを呼ぶにしても、自分一人だけで病人である華那を連れて行けるか、不安になる友希那。

 

 その時、玄関に設置されているチャイムが鳴る音が聞こえた。こんな朝早くから誰だろうかと疑問を抱きながら、友希那は華那に寝ているように伝え、玄関へと急いで向かう。どちら様かと友希那が玄関の扉越しに問うと、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ゆっきなー。おっはよー!アタシだよー」

 

 隣の家に住む今井リサの声に友希那は安堵するも、状況が状況なので、玄関を開ける。そこには制服姿のリサが右手を振って立っていた。リサが朝早くから湊家に来た理由――それは、先日の夕方に友希那たちの母親から朝食と夕食についてお願いされていたからなのだが、それを知らない友希那はリサを家に上げる。リビングまで来た時にリサが不思議そうに口を開いた。

 

「あれ?友希那。華那は?」

 

 友希那はその問いに一瞬戸惑う。本当のことを言うべきか、それとも誤魔化すべきか。ただ、リサに対して誤魔化しは有効な手段ではない事を嫌というほど知っている友希那。考えるのもそこそこに、本当の事を淡々と、それでいて簡潔に伝える事にした。

 

「……風邪でダウンしているわ」

 

「風邪!?大丈夫なんだよね?」

 

 それを聞いたリサは慌てた様子で友希那に問う。リサにとって、血は繋がってはいないが、華那は大切な妹分。その妹が風邪をひいたとなれば心配しないわけがない。

 

「それが……」

 

 友希那にしては珍しく、リサに頼ろうとしていた。いや――華那の事が心配で周りが見えなくなりつつあるのか。友希那の心情は正確には分からない。友希那は、リサに華那を病院に連れて行きたいが、タクシーにしても負担がかかるのではないかという不安を伝える。

 

「友希那。ちょっと待ってて!うちの母さん休みだし、車出してもらえるか頼んでくる!!」

 

「え、あ、ちょっとリサ!?……もう」

 

 友希那が止める前に湊家から出ていくリサ。リサにとって、華那という存在は大切な妹分。その妹分が苦しんでいる。なら何かしないと――と、冷静に考える前にリサは動いてしまったのだった。

 友希那はそのリサの行動の速さに呆然と立っていたが、すぐに再起動し、華那の部屋へと急いで戻る。扉を開けた友希那の視界に入ってきたのは、制服に着替えようとしている華那の姿だった。

 

「華那!?」

 

「あ……おねーちゃん……だいじょぶ……だよ?おねーちゃん……マスクしたほうが……いいよ?」

 

「いいから寝てなさい!」

 

 華那の両肩に手を置いて、ベッドに誘導する友希那。まさか自分がリサと会話している間に起き上って、制服に着替えようとするだなんて、誰が想像するだろうか。そもそもな話し、39.1℃の熱があった華那。立ち上がるだけでもかなり辛いはずだ。それなのに立ち上がって着替えていたのは、姉の友希那に心配をかけたくなかったからか。それとも――

 

「おねーちゃん……ごめんね……」

 

 ベッドに横にしてもらった華那が謝罪の言葉を口にする。やはり熱で意識が朦朧(もうろう)としているのか。いつもは「姉さん」と呼ぶ華那が、小学校頃の呼び方に戻っていた。友希那は華那が安心するように、右手で華那の頭を撫でながら

 

「気にしないでいいわ、華那。だから、今はゆっくり休みなさい」

 

「う……ん」

 

 着替えようとしただけで疲れてしまったのか。華那はゆっくりと目を閉じて眠ってしまった。華那が眠った事に少しだけ安心する友希那。正直、起きているだけでも辛いはずで、体力の消耗を考えたら、横になっていてくれた方が友希那としても安心できるからだ。

 

「でも……どうしたものかしら……」

 

 病院に連れて行くにしても、友希那が華那をおんぶして連れて行くわけにいかない。それでは病院につくまでに時間がかかりすぎる。やはりタクシーか。そう考えていた時に、盛大な音を立てて華那の部屋の扉が開いた。

 

「友希那!母さんオッケーくれたよ!!」

 

「り、リサ!静かに」

 

「え?……あ、ご、ごめん……友希那」

 

 元気よく入ってきたリサに慌てて注意する友希那。リサは最初、状況を把握できなかったが、華那が眠っているのを見て友希那に謝った。いくら慌てていたとは言えど、病人(華那)が眠っている事ぐらい頭に入れておけばよかったと反省するリサ。

リサは友希那に状態を確認して、学校に休む事を連絡しておいた方がいいと伝えつつ、自分自身も病院について行くつもりのリサ。やはり華那の事が心配で、今も眠ってはいるるけれど、苦しそうな表情を浮かべているのを見てしまうと、自分もついて行ってあげたいという気持ちが、リサの中で強くなっていた。

 だが、そんなリサの気持ちを知っていてか、それとも知らずにか友希那はリサに学校に行くように話しを進める。

 

「今日も通常授業よ。なら、クラス違うと言っても、リサには授業内容を取っておいて欲しいのだけれど」

 

「うう……わかったよ。でも、連絡はしてよ?アタシも、華那の事、心配なんだから」

 

「ええ、分かっているわ。それと()()()()()()()()()()のだけれど」

 

 右手人差し指を顎に当て、若干首を傾げるような仕草を見せる友希那。リサも同じように首を傾げる。友希那からお願い事をされるとは思っていもいなかったからだ。身構えるまでとはいかないが、内心で何をお願いされてもいいように心を落ち着かせるリサ。そんなリサの内心を知らない友希那は、淡々とした口調で

 

M()K()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()に止めて欲しいの」

 

「あー……分かったよ。友希那。紗夜と協力して、食い止めて見せるね!」

 

 友希那に言われて、すぐさま湊家に突撃してきそうなメンバーがすぐに思い浮かんでしまったリサ。特にポピパの二人と、アフグロの二名が危険人物としてすぐさま頭をよぎってしまった。それ以外は比較的まだ大人しいかなぁ?と思いつつどう食い止めるか作戦を考える。

 

「ええ、お願いねリサ」

 

 と、真剣な眼差しの友希那。それだけ華那の事が心配なのだろう。見舞いに来てくれたと知れば、華那の事だ。無理をしてでも会おうとするだろう。というのが友希那の考えだった。だから、できる限り見舞いはお断りする方向に持っていきたかったのだった。

 

 その後、リサが作ってくれた朝食を口にしてから、学校に華那が体調不良で休む事、両親が出張中の為、友希那が病院に付き添いで行くので自分も休む事。それらを既に学校に出勤していた自分の担任に伝える友希那。

 授業中の態度(よく歌詞を書いている為)はともかく、学校行事やクラス会等の参加は積極的ではないとはいえ、きちんと参加しているので、担任もすぐ信用してくれたようで、逆に車を出そうかと提案を受けたぐらいだった。

 

 隣の家の今井家母が出してくれる事を伝えると、華那の様子を見てでいいから、明日も休んでも構わないと言って、華那の担任にもきちんと伝えておくと言って、友希那の担任は電話を切った。

 

 八時過ぎ。リサの母の運転する車に眠ったままの華那を乗せるも、ぐったりとして目を閉じて荒い呼吸をしている華那。友希那はその華那の隣に座り、華那の左手を優しく握る。リサの母に「お願いします」と伝えて、病院に向かってもらう友希那。病院に着くまで華那の手を握り続けた。

 

 

 

 友希那と華那がリサの母が運転する車で病院に向かっている同時刻。学校では、いつもならすでに教室にいるはずの華那がいない事に、華那の所属クラス内では大騒ぎになっていた。

 

「ちょっと、山ちゃん。華那ちゃん来てないけど知らない!?」

 

「私も知らないよー!?めぐちーは!?」

 

「めぐちー言うなぁ!!私も知らないよ!美竹さんは!?」

 

「い、いやあたしも知らないし……」

 

 すさまじい勢いで聞いてくる山ちゃん(本名山梨(やまなし)紗耶香(さやか))達に、二歩三歩と後退りしながら答える美竹蘭。蘭も先ほどからスマホのアプリで華那に連絡を入れてはいるが、既読も返信も電話も無く困惑していた。バイトしている時を除いて、華那なら数分内に既読や返事をしてくるからだ。

 だが、いくら待ってもそれが無いという事は何かあったのか――と、不安を覚える蘭のスマホが震える。華那からかと思って画面を見れば、MKMのグループメッセージが届いた通知だった。送った人間が誰かを確認すればリサからで、華那が高熱でダウンしたので、学校を休んで姉の友希那が連れ添って病院に行く――との事が書かれていた。それを読んだ直後に新たなメッセージをリサが送ってきて、華那の容体が安定するまでは見舞いしないようにとの事だった。

 尚、破った場合はMKMからの強制脱退を示唆する内容だったのだが、そこまでするか――と蘭が思ってしまうのは仕方ない事だろう。

 

「蘭ちゃんどしたー?」

 

「……華那、風邪で病院行くみたいで学校休むって」

 

 スマホを見て、眉間にしわを寄せていた蘭の様子を見ていたクラスメイトの山ちゃんが呑気な声で聞いてきた。蘭はリサのメッセージに頭痛を覚えつつも、山ちゃん達に華那が風邪ひいて病院に行くから、今日来ない事を伝えると教室内に悲鳴にも似た声が響き渡った。

 蘭は手で耳を塞ぐも、若干塞ぐのが遅れてしまい、響き割った教室内の声で頭痛がひどくなった。

 

「華那ちゃん休み!?しかも風邪で病院!?みんな見舞いに行くよ!」

 

「ちょっ、めぐちー!全員で行ったら迷惑でしょ!」

 

「私、代表で行ってくる!」

 

「あ、山ちゃん抜け駆け使用だなんてズルい!!」

 

 と、あっという間に教室内が混沌(カオス)に包まれた。誰が見舞いに行くのか、果物とかかってきた方がいいか、それ以前に病院に突撃すべきじゃない?と、過激な発言まで飛び出しており、この混沌を止められる人間はいないのではないかと蘭が思った時だった。

 

「はーい、騒がしいのはいいけどホームルーム始めるからねー。自分の席に戻りなさーい!」

 

 と、クラスの担任教師である上条教員が入ってきた事によって、この混沌は急速に収束する事となった。全員が各々(おのおの)の席に座ったことを確認し、出席を取り始める上条教員。出席を取り終えてから、華那が病気の為欠席する事を全員に伝え

 

「ただの風邪みたいだけど、無理すると悪化する恐れもあるので、今日はお見舞いに行こうとか考えないように。明日以降なら連絡があったら許可出すからね。いい、わかった?もし破ったら、大量の課題出すからね!」

 

「かみやん、横暴だぁ!!」

 

「かみやん、それはないよぉ!!」

 

 と、上条教員の大量の課題についてブーイングが起きる。が、それ以外の上条教員が言っている事は全員納得していた為、すぐさまブーイングは収まった。そのやり取りを見ながら蘭は、病院へ行っているであろう華那の事を心配しつつ、今日は真面目に授業を受けて、華那の分もノート取っておかないと――と心に決めていた。

 後に、青葉モカは語る。「その日のらんはねー。気が立っていたーってわけじゃないんだけどー……かなり集中してたみたいだよー」と……。

 

 

 その頃、病院へ向かった友希那と華那は――

 

「それじゃあ、華那ちゃん。点滴するからねー。ちょっとチクッとするけど我慢ね?」

 

「はい……」

 

 ベッドに寝かされた華那の左手に点滴用の針が刺さり、薬が華那の体へ徐々に入っていく。点滴をする前に、華那が診断を受けた結果。ただの疲れからくる発熱との診断だったが、熱が高い事から点滴をする事となり今に至る。

 華那が寝かされているベッドの横に椅子に座り、心配そうに見守る友希那。リサの母は「点滴が終わる頃に迎えに来るからね」と言って、一度自宅へ戻っていった。仕事もしているのに申し訳なく思い、謝罪する友希那だったが、リサの母は「気にしなくていいわよぉ。お隣さんなんだし、華那ちゃんも友希那ちゃんも私にとっては娘みたいなものなのよ。本当、友希那ちゃんは気にしないでいいからね」と言って去っていった。本当に申し訳ない気持ちになる友希那。

 

「華那……」

 

「おねぇーちゃん?……ごめんね?」

 

 まだしんどい様子の華那だが、朝の状態からすれば少しまともになったようで、目の焦点が定まらないという事はなく、しっかりと友希那を視界に捉えて華那は謝る。自分のせいで学校に行けない、バンド活動に影響が出ると考えたからだろう。友希那はそんな華那の言葉に小さく首を横に振って

 

「華那、気にしなくていいわ。私がしたいからしているのだから」

 

「でも……」

 

「妹が熱出してるのに、心配しない姉なんていないわ。だから……今はゆっくり休みなさい」

 

 と、優しく声をかけながら華那の頭を撫でる友希那。撫でられるのが気持ちいのか、それとも熱で体が休めと訴えているからか、眠気が華那を襲ったかと思えば、数秒後には目を瞑って寝息が聞こえてきた。

 それを見て、安心して息を小さく吐く友希那。それと同時に昔の事を思い出していた。小さい頃の華那は、体が弱く、母親も仕事で一時的にいない時にこうやって一緒の部屋で手を握ってあげていた事を。少しでも早く華那の容態が良くなるよう祈っていた事を。

 

 昨年の疲労で倒れたといっても、高熱を出したわけでも病院騒ぎになった訳でもないし、女性特有の日もカウントしないにしても、ここ数年は病院に来る事はなかった。それに、ここ二年から三年はお互い、目標に向けて音楽活動をしていたので、華那が元々病弱だった事を失念していた友希那。

 

 きっと、今回はRoselia結成の為に駆け抜けて来て、新しい環境の高校生活に、慣れないバイトの疲れ――それらが一気に華那の体を襲ったのだろうというのが友希那個人の見解だった。もっと早く華那の容態に気付いてあげられていれば――自分がもう少し華那に無理をさせないようにしてあげられていれば――と、考えてふと友希那は気付く。華那のバイト先であるCiRCLEの月島まりなにしばらくバイトを休む事を連絡しなければいけない事に。

 華那がこんな状態なので、代わりに連絡をしようと立ち上がろうとしするが、華那の事が心配な友希那はどうしたものかと考える。点滴が終わるのは二時間後。今の時間は十時前。まだ、CiRCLEの方も開店準備で忙しいだろうから、点滴終わってから連絡したほうがいいと判断した友希那は椅子に座り直す。

 点滴が終わるまでの二時間。友希那は色々と考える。今作っている楽曲の事。Roseliaの事。華那を無理させない事。そして自分と華那の夢の事……。様々な考えが浮かんでは消えていく。

 

 その状態で二時間。長いようであっという間に時間は過ぎ、点滴は無事に終わった。華那の容態が唐突に良くなるという事はないが、それでも病院に来る前に比べれば、いくらかよくなったように見受けられた事に、安堵する友希那。

 治療費やら診察料の精算を終え、迎えに来てくれたリサの母の運転する車に乗り込んで自宅へ向かう友希那と華那。少し容体がよくなった華那がリサの母に感謝の言葉と謝罪の言葉を伝えていた。リサの母は笑いながら気にしなくていいと伝え、前を向いて運転していた。

 

「姉さんもゴメンね……学校あるのに」

 

「気にしなくていいわ、華那。お医者様にも言われたけれど、今はしっかりと休養する事。それだけ考えてなさい」

 

「……うん。分かった」

 

 渋々と言ったような感じで友希那の言葉に頷く華那の様子に小さく笑う友希那。正直、疲れからくる発熱でよかったと、診察を受けた時に友希那は思っていた。ただこの時、きちんとした検査を華那にさせなかった事。それを後悔する事になるだなんて、この時友希那は思いもしなかった――

 

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