午前中バイトだった土曜日の午後。私はCiRCLEのスタジオにてギターの練習をしていた。家でやってもよかったのだけど、やっぱりこういうスタジオで練習する時の音の響きが違うってのがあるし、映像に撮りやすいってのが一番の理由かな。
今、練習しているのは、クラプトンが所属していたデレク・アンド・ザ・ドミノスの「LAYLA」。日本語訳の表題だと「愛しのレイラ」だったかな?お父さんから借りたCDの中に入っていて、有名な楽曲だったからサビは聴いた事あったけど、全部通して聴くのは初めてで、前半と後半のテンポががらりと変わって、前半の激しいギターサウンドから、後半のイントロのピアノの旋律。
ここまで一曲で印象を変えてくる楽曲だったんだ――と、衝撃を受けたのを今でも覚えている。今は前半部分のギターサウンドの部分を弾いている。スピーカーから流れるCD音源に合わせてギターを弾く。歌いたくなる衝動を抑えつつ、ギターの演奏に集中する。
演奏を終えた後、すぐさま違う曲を弾こうと曲を選ぶ。次は……「HOT BLOOD」でもやろうかな。尊敬するギタリストの楽曲じゃなくて、女性アーティストとして尊敬している人の和ロックと言える楽曲。この人の事も尊敬しているのは、みんなには内緒ですよ?内緒ですよ?
って、誰に言っているのだろう私……。頭痛を覚えながら再生ボタンを押してギターを構える。イントロが流れ、すぐギターをかき鳴らす。メインの方のギターパートを弾いていく。ギターソロに入ろうかという所で、
「華那さーん!!」
と、演奏をストップさせて扉の方を見れば、あこちゃんが満面の笑みを浮かべて私の方へ駆けてきているではないですか。その後ろには微笑ましそうに見つめている燐子さん。私はギターを置いてあこちゃんを受け止める準備をしたのだけども――
「にゃふっ!?」
鳩尾にあこちゃんの頭がヒット――
だぁれがそんな状況を想像するでしょうか?いいえ誰もしません。ってかする訳ないよね!?
あこちゃんのこうげき!かなのみぞおちにクリティカルヒット!九千九百九十九のダメージ!!華那は息絶えてしまった!
って、誰が息絶えたですって!?と頭の中でセルフツッコミを入れるも、やはり痛みが強く普通に立ち上がる事ができない。ぐうう……あ、あこちゃんって結構、頭頑丈なのね……。そんなどうでもいいような事を考えるも、ちょっと息がしにくくて、呼吸が整わない。
「あれ?か、華那さんどしたのー?」
「あ、あこちゃん……!あこちゃんの頭が……華那ちゃんの……鳩尾に!」
と、私がうずくまったまま、立ち上がらない事に不思議そうなあこちゃんと、慌てた様子で私に駆け寄ってくれる燐子さん。私の背中をさすりながら大丈夫?って聞いてきた燐子さんに、だいじょぶと何とか返事をするも、まだお腹のあたりが重い。
しばらく私が座って休んでいる間、燐子さんがあこちゃんを叱っているという……非常に珍しい光景を見ることができた。というか、やっぱり説教される側は正座なんだ。私の周りで流行しているのかなぁ?
そんなことを思っている間に何とか痛みとか重い感じは消え去ったので、立ち上がって燐子さんに説教されているあこちゃんを撫でながら
「あこちゃん。元気なのはいい事だけど、相手が怪我したら元も子もないから、そこの所だけは注意してね?」
「はーい……華那さん。ごめんなさい……」
と、下を向いて落ち込んだ様子で謝るあこちゃん。そう言えば前、犬が怒られて落ち込んでいるような動画があったのをあこちゃんを見て思い出してしまった。とりあえずその動画の事は頭から切り離して、どうして
「あのね……私達練習したかったんだけど……」
「他のスタジオ、ぜーんぶ埋まってるって、まりなさんから聞いて、一人で使ってるのが華那さんだって聞いたから……」
「一緒に……できないかなって……あこちゃんが……」
「あー……なるほど。理解しました」
二人の説明を聞いて、私は納得した。確かに、一人でスタジオを使っているのが顔見知りの私で、練習したがっている二人なら譲ってあげたほうがいいだろうな。だって、私バンド組んでいるわけじゃないし。ただの趣味で練習しているだけだからね。うん。
そう思い、あこちゃんと燐子さんにスタジオを譲る為にケーブルとかワウとかを片付けようとしたら、燐子さんに止められた。解せぬ……じゃなくてなんですか?
「その……華那ちゃんと……一緒に演奏したいなって……」
「そうですよー!紗夜さんと一緒に練習してるって、あこ達聞いたんですよ!ズルいですよぉ!!あこも華那さんと一緒に練習したいです!!」
と、私の肩に両手を置いて、逃げられないように確保してくる燐子さんと、プンプンという擬音が似合うぐらいに怒っているあこちゃん。いや、一緒に練習って言うか、基礎とかギターテクニックについて教えてもらっている訳で……あ、それを練習というのか……。
しかし、一緒に練習したいって言ってくれるのは嬉しいのだけれど……私、下手だよ?それにバンド組んでないから、あこちゃんや燐子さんの練習相手にはならないと思うんだけどなぁ……。それを言うと
「ううん……そんな事ないよ……。氷川さんが……華那ちゃんのギター……凄く……褒めてたから」
「そうそう!『あれだけ哀愁あるギターを弾ける子ですね。近いうちに私を追い抜いて行く気がします。が……そう簡単には追い抜かせないですよ』って、紗夜さんが言ってましたよ!!」
と、全力で否定してくる二人。ってか紗夜さん、何言ってくれているんですか!?私が紗夜さんを追い抜くだなんて、何十年かかっても無理ですって!!頭痛とめまいを覚えながらも、二人の熱心な説得に折れた私は、二人の練習に付き合う事になった。ってか、あこちゃんの涙目&上目遣いは卑怯。あれやられて拒否したら、私が悪い人みたいじゃん!!
ギターを構えて、チューニングが合っているかを確認してから私はあこちゃんに、何の楽曲をやるのかを確認する。知らない曲いきなりやろう!って言われてもできないからね?それ分かってるよね?だいじょぶだよね?私不安だよ?
「うんとね……とりあえず、BLACK SHOUTとLOUDER、あと……陽だまりロードナイトにRe:birth dayとDetermination Symphonyに「ほとんど全部じゃん!!」あははー。華那さんナイスツッコミ!!」
と、あこちゃんの発言に、私が驚いてツッコミを入れるけれど、本人はしてやったりというような感じで笑っている。燐子さんはそれを微笑ましそうに見ながら小さく笑っていた。いや、燐子さん。
そう心の中で思いつつも、どこまでできるようになったか自分で確認するいい機会だと言い聞かせ、ギターを構える。それと同時にあこちゃんのカウントが始まってBLACK SHOUTのイントロが入る。イントロのメロディラインとハモるような形で、ギターでメロディラインを奏でる。燐子さんが驚きの表情を浮かべつつも、演奏を続けている。
打ち合わせほとんどなかったけど、今回のギターは紗夜さんじゃない。
その後は、イントロ以外はある程度、紗夜さんが弾くメロディラインをなぞるように奏でる。でもそれもここからは違う――ギターソロ入った瞬間のワウを使う場所を、ワウを踏まずに、知ってる楽曲のギターソロを自分なりにアレンジしたのを演奏する。そして燐子さんパートの時はバッキング、最後は燐子さんとユニゾンするようにフルピッキング奏法を駆使して、ソロパートを終わらせる。
演奏を終わってから一息つく。それと同時にミスなく終われた事に安堵する。いや、前からコッソリとRoseliaの楽曲は練習しているけど、ミス多発エリア多くて泣きそうだし、心折れそうだし、目も当てられない惨劇なミスするし……あ、思い出したら頭痛くなってきた。
「……すっごいです、華那さん!!あのギターソロどうやったんですか!!??」
と、ついこの間のミスの事を思い出し、頭痛を覚えていた私に飛び込んできそうな勢いで立ち上がったあこちゃんが聞いてきた。燐子さんも驚きを隠せない様子で「どう……やったの?」と聞いてきたので、簡潔に「フィーリングです」とだけ答える。ってか、演奏してて、「あ、ここでDIVEのソロみたいにワウ使わなくてもいけそう」ってなったんだよね。
で、BLACK SHOUTに合うようにと頭の中でイメージしつつ演奏したから、もう一回やれって言われてもすぐにはできないかも……。映像取ってるから、それを見てコード譜作成すればいけるかな?
そう思いつつ、あこちゃんと燐子さんの質問攻めに回答して、次の練習へと意識を集中させる。次はLOUDERか。うう。難しい曲続くよぉ……。でも、二人の練習の為だからミスしてでも、やり遂げないと……。そう思いつつギターをかき鳴らす。
で、あっという間に時間は過ぎて、Roseliaの楽曲全曲やって、尚且つ何回か練習した後、終了の時間となった訳で……。
「華那さん、今日はありがとうございました!」
「華那ちゃん……今日は……ありがとうね」
今はCiRCLE隣接のカフェにてお茶をしているところだった。今日は忙しそうもないからだいじょぶそうだね。そうでなくても人員いなくて、アップアップしているからね……。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。おかげでいい練習できましたし」
嘘偽りなく本心を伝える。実際、二人のレベルは高く、途中途中ついて行くので必死になっていた。でも、なんだろう。弾いていてすごく一体感があるというか、「次は二人がこう来るから――こう弾こう」って感覚があった。ああいう感覚は初めてで、正直戸惑いを覚えて演奏を止めそうになった。
あこちゃんとは、Roselia結成前の練習時に一緒に練習していた事もあったけど、燐子さんとは今日が初めてだったから、ここまで息ピッタリに演奏できるだなんて思ってもいなかった。
「それにしても、驚きましたよー!華那さんと演奏してたらすっごく楽しくて、あそこまで感覚が研ぎ澄まされるって言うか……そのスバババーンってできたんですもん!!」
「私も……驚いた……かな。あの感覚は……みんなで演奏している時……ぐらいだけ……だったから」
「ほへ?」
ミルクティーを飲みながら二人の会話を聞いていたけど、二人も私と同じような感覚を持っていたらしく、その言葉に私は驚いてしまった。燐子さんの言葉が本当だとすれば……それはきっと、私がリサ姉さんとあこちゃんがRoselia加入試験の時に聴き手で感じた感覚に似た物なんじゃ――
「ねえねえ、華那さん!また今度、一緒に練習しましょうよ!」
「っ……うん。都合が合えば一緒にやろうね、あこちゃん」
その感覚について深く考えてしまっていた私だったけれど、あこちゃんの声で現実に引き戻されて、そう笑顔で答える。あの感覚については忘れよう。そうじゃないと
「そういえば……華那ちゃん。最近……NFOやってるの……?」
「あ、はい。やっていますよ。最近はバイトも忙しかったので、三十分ぐらい素材集めしているだけですけど……。まだ上位武器作れなくて……」
と、燐子さんが上手く話題を変えてくれたので、私はそれに乗っかるようにして答える。あこちゃんと燐子さんがやっているNFOっていうオンラインゲーム。二人に誘われるようにして私もやっているのだけど、バイトもあるから、なかなかやる時間が取れなくて、装備もまともに強化できなくて困っているのが現状。
「そっか……華那ちゃんは……アーチャーだったよね?」
「あれ?華那さんアーチャーだったんですか!?前、双剣使ってましたよね!?」
燐子さんの発言に驚くあこちゃん。そうなんです。私、ゲーム内での職業はアーチャー……弓を使う職業なのに、武器は双剣と「ふざけんな!」と、某弓兵さんファンと、NFOガチ勢の皆さんに怒られそうな事をやっている。
尚、これには理由がありまして……。主に原因は、モンスター退治をする時に、ソロプレイ中、弓矢で攻撃していると時間かかりすぎて……。それでなんか近戦武器装備できないかなぁ……って、調べたらアーチャーの職業は、サブ武器としてナイフと双剣を装備できるという事が分かった。
で、実際初期装備より強めの双剣はすぐに作れたから、さっそくそれを装備して狩りに行ったら効率が上がる上がる。欲しかった素材集めも、遠くから弓で倒してから、素材拾いに行く必要無くなったというのが大きいかな。でも、弓の方が私の性格上、合っているんだけどね。
それ以来、ソロプレイ時は双剣。グループプレイ時は弓矢と分けていたんだけど、あこちゃんと燐子さんとプレイする際、あこちゃんはネクロマンサーだし、燐子さんはウィザードだから、全員後衛系プレイやーになってしまった。物理攻撃の前衛がいないというアンバランスな状況。その為、私が双剣でプレイしていた訳。
それを説明すると、あこちゃんは納得してくれたようで、「なるほど~」って感心してくれていた。どうやら、弓兵が双剣やナイフを装備できるのは知っている人は多いけど、実際に使う人はほとんどいないとの事らしい。なんでも、双剣の武器スキルのレベルが上がりにくいとか何とか……。そ、そうだったんだ。知らなかった。
「双剣の装備はこの間、あこちゃんと燐子さんのおかげで上位武器に変わったんだけど、問題はメイン武器の弓なんだよね……」
「あれ?弓の上位武器用の素材って、必須レベル高かったよね、りんりん?」
「うん……華那ちゃんのレベルだと……難しいね……。華那ちゃんのレベルより五十は上必須だったと思うよ?」
右手人差し指を顎に当てながら、あこちゃんが燐子さんに聞いた弓の上位武具の事について私は衝撃を隠せなかった。おうふ。まさかの私のレベルが低い問題。いや、確かに二人に比べればかなりレベル低いけどね……まさか、メイン武器の素材必須レベルに到達してないだなんて……。これはまた狩りに行かないといけない。
って、五十も上だと、かなり無茶しないと短期間で作る事は不可能だよね。やっぱりゲームって奥が深いなぁって現実逃避にも似た感情を抱いた私。
「華那さん。今日、レベルアップ作戦やりましょう!!」
「あー……ごめん。今日はポピパの皆に呼び出しされているんだー」
そんな私を見て、勢いよく提案してくるあこちゃん。せっかくの提案だったのだけれども、私はその提案を断る。そう。明日は日曜日で休みなので、香澄ちゃんと沙綾から「土曜日の夜、有咲の家でお泊り会するからきてね」って通話アプリで連絡が来たのが一昨日。私に拒否権はないようで、既に姉さんにも連絡が行っていたのには驚いた。
しかも、二人に許可を出したのも姉さんという事実。なに?私に人権なんてないの!?ってか、なんで姉さんが私に予定を決めちゃうのかな!?って、問い詰めたら
『華那……この間、自分で予定をきちんとコントロールできなくて、風邪ひいたのはどこの誰かしら?』
と、言われてしまっては、私は反論する事も出来ずに黙っているしかなかった。というか、まさかそこから説教が始まるだなんて思いもしませんでした。い、一時間も説教受けるだなんて……でも、自分の予定ぐらいは自分で決めたいなというのが本音です。
「そう……なんだ。……なら……明日は……どうかな?」
と、私が姉さんから説教受けていた時の事を思い出していると、燐子さんが明日はどうかと聞いてこられたので、明日の夜ならだいじょぶだと伝える。それを聞いた瞬間、あこちゃんが満面の笑みになったので、燐子さんと私は顔を見合わせて小さく笑った。
燐子さん、チャット上だとタイピング滅茶苦茶速いから、読んでいる間に次の文章飛んできて「あ!流れないで!!」って言ってしまう時がある。だって、かなり重要な情報とか、これからどうすればいいかって教えてくれるから、燐子さんの文章は私にとって重要なんだもん。
しばらく二人と