「セットリストはこれでいいけど、三曲増えて本当にだいじょぶ?」
緊急集合、第一回「華那の気持ちを友希那先輩にどう伝えるか」作戦会議(命名者:香澄ちゃん)から一晩経ち、私達はポピパの練習拠点である蔵に集まっていた。そこで、オープニングアクト用のセットリストを書き出して、ポピパ用のセトリが書き出してある用紙の隣に貼りながら、改めて私はポピパの皆に聞いた。
「私は大丈夫だよ」
「私も大丈夫だよ、華那ちゃん」
「こっちも」
「私も大丈夫だぞ」
「うう……私は大丈夫じゃないよ、華那ぁー」
と、泣きながら(フリ?)私に抱き着いてきたのは香澄ちゃん。昨日の夜、私が演奏したい曲は三曲あって、それを伝えてからギターをどうするかの問題が出てきた。私が一曲目と三曲目がメインギターで演奏して、二曲目は
『あれ?私は?』
『……ごめん、香澄ちゃん』
香澄ちゃんが、自分に割り振りされなかった事に気付き、すっごい純粋な目で私に聞いてきたので、私は頭を下げるしかなかった。
『うっそだろ、お前……』
それを見た有咲が、絶句するしかなかったのは仕方のない事だと思う。実際、
その気持ちを伝えたのだけれど、香澄ちゃんはあまり納得してくれなかった様子で、今先ほどの行動に繋がった訳なのです。という事で……りみちゃん、沙綾助けてー。
「アハハ……香澄、今回はすぐ出番あるから、歌えるように待機って事で……ね?」
「香澄ちゃん。今回は我慢しよう?」
「そもそもだけど、ギター三人体制って、ライブハウスの準備が大変だと思うのは私だけ?」
「うー……分かった。華那!次の機会、絶対私も演奏させて!約束だよ!」
と、りみちゃんと沙綾だけでなく、おたえちゃんも救いの手を差し出してくれたので、なんとか香澄ちゃんを説得でき、練習へと入る事になった。
「まずは一曲目なんだけど、『#1090~Million Dreams~』のバージョンで行こうと思うんだけど、最後のスローテンポはカットするよ」
「って事は……最後はどう終わらせるの?」
おたえちゃんがギターの調律をしながら聞いてきた。おたえちゃん良い質問だね。最後はジャーンって伸ばして、ジャッジャッジャーンって、みんなで合わせて終わらせるの。まあ、よくあるライブアレンジで行こうかなって思っています。
そう言ってから、実際にギターとアンプを繋いで実演してみせると、みんな納得いったようでそれぞれ音を出して確認をしてから合わせてみたら、最初にしてはいい感じになった。
「それじゃあ……一回通してみよっか。あ、#1090ね」
「華那。カウントいる?」
私の発言に全員頷いてから、沙綾がそう聞いてきたので、早めの
「んじゃ、いきますか。ワンツースリーフォー」
カウント後のイントロは私だけの演奏。二回メロディを繰り返してからドラムが入って、全員での演奏が始まる。カッティング演奏からのメロディラインへ。その時に、おたえちゃんが私の主メロディとハモるように演奏する為、私と呼吸を合わせて弾いてくれた。最後に近い所でブレイクがあるのだけど、そこは有咲のソロコーナー出番。途中からおたえちゃんがバッキングで入って、それに合わせるようにベースのりみちゃんが入る。そして、最後は全員で!途中、私がライブであの人がやったようなアドリブの速弾きをする。おたえちゃんもそれに合わせてくれたので、不協和音になる事はなかったと思う。
「……どうだった?」
演奏を終えてから、聴いていた香澄ちゃんに感想を問う。私としては最初をカウントじゃない方がいいかもしれないと、アレンジの方を考えていた。
「すっごい良かったよ!!初めて演奏したと思えないぐらいだったよ!」
大はしゃぎで答えてくれた香澄ちゃんなのだけれど、今はそういうのじゃなくておかしい所を言って欲しいと思ったのは、私だけじゃないよね?
「確かに、最初にしてはかなりまとまってた印象だな。ただ、練習はまだ必要だけどな」
「そうだね。入りがカウントってのもなんか違う気がするんだよねぇ……」
「確かに……でも、他にいい入り方ってあるかな?」
と、有咲と沙綾、りみちゃんが話し合っている声が聞こえた。案は一つあるけど、どうしようかと考えていたら、おたえちゃんに声をかけられた。どったの?
「華那。さっきのアドリブの箇所なんだけど……」
「あ、まずかった?」
「ううん。逆。あの速弾きでいいと思うよ。そのアドリブの時、私どう演奏すればいい?」
あ、ごめん。言ってなかったね。その前のおたえちゃんが弾いていたメロディのままで行ってくれればいいよ。それと、イントロの時なんだけど……。と、おたえちゃんに耳を貸してと手招きして、耳元で私が考えていた案を伝える。
「それ、面白い。良いと思うよ華那」
「本当?」
「おーい。ギター組。なぁに、こそこそ話してんだー」
「そうだよ。華那。みんなで考えなきゃいけないでしょ」
不満そうな声の有咲と沙綾が、私達に話しかけてきたので、私は慌ててごめんと言いながら、おたえちゃんに言った案を全員に伝える。今回のライブは、ポピパの皆がメイン。でも、オープニングアクトもポピパの皆が演奏するから、何か驚きみたいなものが必要な訳で……。
「なるほど……なら、私はペダルで一定のリズムやって、観客煽ればいいね?」
「華那の身長なら……確かにできそうだな」
「有咲、気にしてる事、言わないでよぉ!!」
と、真剣に考えてくれているのだろうけれど、私の伸長を出してきた有咲に私は泣きつくような真似をする。尚、泣きつく真似の参考文献は香澄ちゃんである。
「だぁぁぁ!!ひっつくんじゃねぇ!!香澄だけで十分だっての!!」
「と、言いながら嬉しそうな有咲なのでした」
「嬉しかねぇぇぇぇぇ!!」
と、大きな声で否定する有咲だけれど、無理やり離さないのはやっぱり嬉しいのでは?と思いながら、引っ付いたままではいられないので離れる。その後、もう一曲だけ最後に演奏するインストゥルメンタル(楽器だけの曲の事)を通してみたけれど、みんな楽曲への理解度が高すぎる。なんで?
「うーん。私は華那といつか演奏できるように練習してたから」
「私は沙綾が音楽に合わせて叩いてたから、気になってどんな曲って聞いて練習したたから」
「私もおたえちゃんと同じだよ」
「私は……華那が聴いてるって聞いたから、気になって……って、おい!何、私に言わせるんだ!!しかも、そんな暖かい目で
最後に有咲が大暴れしそうになっていたけれど、香澄ちゃんと沙綾に宥められていた。さて、元凶が分かったところで、“本命”の練習に入らないとね。勿論、インストゥルメンタル楽曲をやる事にも理由はあるのだけれど、この曲は歌詞も今の私と姉さんに相応しいと思っている。その意味が伝わるかどうかは別問題だけど……。
「じゃあ、みんな一度楽器下してもらっていい?今から私、CD音源に合わせて
「華那……大丈夫なんだよね?」
私の言葉に不安そうな沙綾。だいじょぶだって。軽く流す程度だし、それに私が歌った方が、みんなも楽曲への理解度増すと思うし、アレンジの相談もしやすくなると思うから。
「そうだけど……」
「沙綾、諦めろ。昨日の時点で、華那の覚悟は梃子でも動かねえよ……」
「華那の歌声楽しみだね!ね、りみりん、おたえ」
「うん。映像で聴いた事あるけど、目の前で歌声聴いた事なかったもんね」
「どんな感じの曲かな?」
沙綾の肩に手を置いて左右に首を振る有咲。凄い不満そうな沙綾に心の中で謝りつつ、香澄ちゃん達の落差にちょっと笑みが零れてしまった。まあ、沙綾は私が歌えなくなった原因というか要因を知っているから、凄い心配するのは分かる。でも、今回は
「じゃあ、歌います……」
スマホで音源を再生させる。イントロはギターから入り、ドラムのフィルとシンセが後を追うように入って曲が始まった。香澄ちゃん達の様子を見れば、一音も聴き逃さないってぐらい集中しているのが分かる。自然と歌う私の体に力が入る。一音一音、感情を込めて、丁寧に、それでいて想いを伝えるように、時に力強いシャウトを入れながら歌い上げる。
「……って感じだね」
音楽が終わったのでスマホを操作して再生を停止させる。最後まで歌いきれた。しかも、
「……」
「あ、あれ?みんな?」
と、思っていたのですが、みんなの反応が無い事に不安を覚えた。一言ぐらいほしいのですけど!?なんて思っていたら、沙綾に抱きしめられた。ナンデ!?と混乱していたら
「良かった。良かったよ……華那の歌声また聞けて……」
と、私の頭を撫でながら、沙綾が震えた声で私に話しかけてくれた。沙綾……本当ごめんね。でも、だいじょぶだったでしょ?
「うん……」
沙綾の背中に手を回して優しくさすってあげる。本当に心配だったんだ。私が練習とはいえ、声が出なくなるかもしれないって事に。本当にごめんね、沙綾。
「すっごい……華那の迫力に圧倒されちゃった」
「う、うん。うちも凄すぎて、なんて言っていいか分からへん」
「歌に華那の感情が込められていたよ。まるで自分の歌みたいな、そんなイメージ?」
「歌声、すげぇ綺麗だった……それに気持ちが歌に乗ってぶつかってくるってのはこういう事を言うんだな……」
と、香澄ちゃんから順々に感想を述べてくれたのはいいけれど、褒めても何も出ないからね!?というか、歌声を誉められるのは慣れてないってのが本音。姉さんとやっている時は、本当にひたすら上だけを見てやってきたから、直さなきゃいけない所ばっかり言われてきたからね。
「さて、みんな曲のイメージは、今ので少しは理解できたと思うから、今からアレンジの話し合いしよう」
「そうだね……ごめんね、華那。急に抱きついちゃって」
と、私から離れて謝ってくる沙綾。沙綾、気にしてないし、逆にありがとうと笑みを浮かべて伝えてから、みんなでアレンジについて話し合う。ある程度の方向性がまとまったら、今日は合わせないで、後日通して合わせる事に。
その後は、何回かインストゥルメンタル楽曲の方を練習してから、ポピパの練習に入った。私はそれを聴いて、ここをこうした方がいいとアドバイス出す役になったのだけど……ポピパの楽曲を聴いて、本当に楽しそうに演奏しているなぁって改めて思いながら、真剣にアドバイスを出す為にみんなの演奏に集中したのだった。
で、午前中の練習が終わり、昼食をみんなで食べた後の休憩中におたえちゃんが
「そういえば華那。バンド名どうするの?」
「ほへ?」
「『ほへ?』じゃねぇだろ。華那のバンドなんだから、名前決めなきゃだろ?」
と、ハーブティーを飲んでいた私が変な声を上げたのは悪くないと思ったのだけれど、有咲が呆れた表情を浮かべていた。え?でも、オープニングアクトって言っても、まんまポピパだから、ポピパwith華那でよくない?
「いやぁ……それはどうかと思うよ?華那」
「華那ちゃん……さすがに、それはない……よ?」
と、沙綾とりみちゃんに否定されてしまった。しかも、完全に呆れられた!そんな!?私としてはそれでいいと思ったのに!?
「おい、香澄。華那の奴、本気で言っているみたいだから何とかしろ」
「えー、有咲も一緒に考えようよー!華那だけじゃなくて、みんなのバンド名なんだからー」
「だぁぁぁぁ!!香澄、おまっ、毎回毎回ひっつくんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
と、毎度の事が発生しておりますが、真面目にどうしようか……。バンド名については全く考えていなかった。有咲、ちょっとそこに置いてある英和辞書借りるよ?あ、今忙しいから別に構わない?じゃあ、遠慮なく借ります。さて……英和辞典広げたはいいけど、何かいい案あげないとね……。曲名から持ってくるのもありかな?
「STARDUST TRAINってのはどう思う?」
と、パッと閃いた楽曲がそれだったので言ってみるけれど、反応はよろしくない。
「星屑列車……なんか、華那のイメージと違う……?」
と、腕を組んで首を傾げながら言ったのはおたえちゃん。まあ、そうだよねぇ……あの人達の楽曲から持ってきただけだから意味はないし。これは結構難航しそうだと思った矢先に、おたえちゃんが
「華那のバンド……華那……グループ……!KMGってどうかな?」
「KMG?」
「おたえ、何の略?」
おたえちゃんに全員の視線が集中する。おたえちゃんは右手を顎に当てて
「KanaMinatoGroupの略称」
「まんまだねぇ……」
「おたえちゃんらしいね」
と、沙綾とりみちゃんが苦笑を浮かべていたけれど、私はどこかその名称に引っかかっていてなんだろうと考え込む。どこだっけ……、どこで聞いたんだろう、その略称のようなグループいたはず。後で沙綾に聞いた話によると、その時考えこんでいた私の姿は、まるで某特命係の刑事さんが考え込んでいるような感じだったとの事。どういう事!?
それはともかく、必死に考える事五分弱。やっとの事でたどり着いた答えが――
「MSG*1とTMGと同じだ!」
答えを得た私はテーブルを叩いて立ち上がってしまったので、有咲からありがたいお説教を受ける事になってしまった。行儀が悪いというのと、人の家の物を壊す気かと。ごめんなさい。でも、よく思い浮かんだねおたえちゃん。
「ん?そっちのグループ名からヒントは得てないよ?」
「すげぇ偶然だな……」
「さっすがおたえ!!」
あっけらかんと言ってのけるおたえちゃんに、呆れた口調の有咲。何がどう流石なのかと香澄ちゃんに突っ込みたくなったけれど、バンド名はこれで行こうという事を皆に伝える。私自身、尊敬する
「華那がそれでいいなら、私は問題ないかな」
「私はいいグループ名だと思うよ、華那ちゃん」
「まあ、華那がそれでいいならいいんじゃねぇか」
「決定だね、華那!!」
と、みんなそれぞれ反応を示してくれた。よし!グループ名も決まったし、午後も練習頑張ろうね、みんな!
「「「「「おー!」」」」」
「人ん
と、有咲ちゃんが怒ったのだけれど、表情は笑っていた。午後の練習を始める前に、私はある人物に連絡を入れる。きっと、私が歌うってなったら、姉さんは止めに来ると思うから、そうならない為に助っ人が必要だからね。ただ、問題は助っ人が天邪鬼なところあるからなぁ……。そうなったら、
自室で盛大に溜息を吐く。華那と喧嘩して数日が経った。今、華那は家にはいない。母さんから「しばらく、顔合わせない方がいいでしょ?」と、山吹さんの家にしばらく泊まるという話しになった――と、喧嘩した当日の夜に聞かされた。
山吹さんに迷惑かけてしまった事に罪悪感を覚え、電話をしたのだけれど
『私は迷惑じゃないです。友希那先輩……謝る相手が違いますよね?』
と、叱責されてしまった。山吹さんにも「しばらく会わない方がいいです。今、華那に何言っても届かないと思いますから」とまで言われてしまった。華那の歌声を奪っておきながら、華那をさらに傷つけただなんて……最低な姉ね。
Roseliaがバラバラになって、自分自身どうすればいいか分からなくなって、八つ当たりに近い……いえ、八つ当たりね。本当……どうすればいいのよ。
「今週末……ライブって言っていたわね」
机の上にはPoppin’Partyの戸山さんからもらった一枚のチケットが置いてある。出口の見えないこの状況……何かしらヒントになるものがあれば……。
「そう都合よく、答えなんて見つかる訳が無いじゃない」
自分の頭の中に浮かんだ言葉を、自嘲気味に否定する。そう簡単に見るかれば、Roseliaはバラバラになんてならなかっただろうし、私が八つ当たりで華那に酷い言葉をぶつけたりなんてしなかっただろう。
そう……今となっては「たら、れば」でしかない。これからどうするべきか……自分で答えを出さない限り、Roseliaも、私が姉として進む事が出来ない。考えるしかない。できる限り早く。そう考えるも、答えがすぐ出る事はなく、ライブ当日になってしまうのだった――
天邪鬼な助っ人……いったいなに竹蘭なんだ……