※今回一万文字越えで長いです。時間のある時にお読みください
※また、今回歌詞出てきますが、きちんと使用楽曲登録してあります
その日、私は見事なまでに緊張していた。人前で歌うのは実に三年ぶりぐらい?というのもあるし、ギターをバンド形式で演奏するのが実質初めてだから。いや、バックバンド無しで、音源に合わせて弾くってのは何度も経験してきたけれど、やっぱりバンド形式でやるってなると独特の緊張感がある訳でありまして……。
「華那」
「華那ちーん、きたよー」
と、控室で、ギターの調律をしていたら、蘭ちゃんとモカちゃんがやってきてくれた。この間、助っ人でお願いしたのだけれど、本当に来てくれたんだ。ありがとう二人とも。
「なんであたしなの……」
「こらこら~、蘭。そんな事言わない言わない。本当は楽しみにしてたのは、モカちゃん知っているんだぞ~」
「なっ!?モカ!!」
と、顔を真っ赤にしてモカちゃんに詰め寄る蘭ちゃん。その光景に小さく笑ってしまった。
「あ、蘭ちゃんと、モカちゃんだー!!やっほー!!」
「あ、蘭とモカ。来てくれたんだ」
と、元気よく控室に入るなり挨拶したのは香澄ちゃん。その後に続くように入ってきた沙綾も二人に挨拶をして入ってきた。あ、ポピパのリハ終わったんだ?そう。今の今までポピパの皆は、今回のライブのリハを行っていた。私?私のバンド
と、言っても、本番までまだ時間がある。だから、蘭ちゃんとモカちゃんが控室にやって来られた訳。なんだけど、ポピパの皆もやってきたから、みんなで色々な話題で盛り上がっているので、私は会話に参加しないでおこうとしたら
「華那、大丈夫?」
「ん?だいじょぶだよ、蘭ちゃん。心配してくれてありがとう」
と、ギターのチューニングを終わらせて、軽く弾いていたら蘭ちゃんが心配そうな表情で声をかけてきたので、私は笑顔を浮かべて答えて、すぐに蘭ちゃんに謝った。ごめんね。今日、嫌な
「べ、別に嫌じゃない。ただ、面倒なだけだし」
「と、言いながらも、あの時、華那ちんから電話きて、その話しを聞いた後に、笑み浮かべてたのはどこの蘭ちゃんだったっけ~?」
「モカ!!」
まさかのモカちゃん乱入で、顔を真っ赤にしてモカちゃんを追いかけまわす蘭ちゃん。笑顔浮かべていたってどういう事だろうかと首を傾げていたら
「きっと、華那に頼られて嬉しかったんじゃないかな」
「そうなのかな?」
沙綾が私の様子を見て、そう話しかけてきた。まあ、蘭ちゃんは天邪鬼なところあるからね。それはクラスの皆が知っている事だから、仕方ないね。そんな事を思っていたら
「そう……いえば……。華那……衣装は……Roseliaの……衣装……なんだね」
と、息も絶え絶えに話しかけてくる蘭ちゃん。いや、もう少し落ち着いてからでもいいんだよ?え?モカちゃん。これがいつも通り?……大変だね、蘭ちゃん。それはそうと、私の衣装は燐子さんが作ってくれたRoseliaの皆とお揃いの衣装。
他の衣装というか私服で――と、考えたのだけれど、ポピパの皆、特に沙綾からこの衣装で演奏してと、半分強制に近いお願いをされたのでこうなりました。
「Roseliaと同じ衣装なのに、華那が着るとゴスロリにしか見えないね」
「あ、蘭。それ分かる。Roseliaのメンバーが着ると、大人びた感じに見えるのに、華那が着ると完全にゴスロリだよね」
「わかる。華那、可愛いから、そう見える」
「ちょっと、沙綾におたえちゃん!?」
沙綾とおたえちゃんが会話に入ってきたはいいけれど、私が着るとゴスロリって!?そしたらあこちゃんどうなるの!?って聞いたら
「いや、あこちんは……ゴスロリじゃなくて、黒魔術師的な?」
「私知ってる。あこのような子、中二病って言うんだよね?」
モカちゃんが人差し指を顎に当てながらあこちゃんのイメージを言ったと思ったら、おたえちゃんが爆弾落としてきた。苦笑を浮かべながらりみちゃんが「本人に言わない方がいいよ」と話していたけれど、おたえちゃん理解してくれるかなぁ……。まあ、頑張れあこちゃん。高校生になったら中二病もやってられなくなるよ――と心の中で呟いていたら
「緊張ほぐれた、華那?」
「え……蘭ちゃん?」
そう語りかけてきた蘭ちゃんを見れば、少し安堵したようなそんな表情を浮かべていた。もしかして、蘭ちゃん緊張しているの分かっていてワザと――
「ほら、モカ。そろそろ行くよ」
「はーい。みんな頑張ってねー。モカちゃん、楽しみにしてるよぉ~」
私が問いかける前に、モカちゃんに声をかけて控室から出て行った蘭ちゃん。後でお礼言わなきゃ。その後、しばらくみんなで話しながら、最後の調整やら発声練習をしていたら、そろそろ準備しなきゃいけない時間になった。もうじき……うう、若干緊張してきた。
「あ、そうだ!円陣組もうよ!!」
「……また始まりやがった」
と、私がギターを持とうとした時に、香澄ちゃんが唐突にそんな提案をしてきた。それを聞いてすぐさま反応したのは有咲。流石有咲。ツッコミの反応速度はポピパ
「だって!華那の、KMGの初ライブなんだよ?なら、みんなで一体感高めないと!」
「香澄、メンバーは華那以外ポピパだからな!?」
「アハハ。香澄らしいね。私は賛成だよ」
「ちょ、沙綾!?」
と、まさかの沙綾の発言に驚く有咲だったけれど、正直私もやってもいいかなって思ったので、賛成側なのです。おたえちゃんもりみちゃんも賛成したので、多数決により有咲も渋々といった感じでやる事になったのだけれど、顔ニヤついてますよ有咲さんや。
「華那、うっせえ!!」
「じゃあ、華那!声出しよろしくー!」
有咲のツッコミとほぼ同時に、香澄ちゃんが私に振ってきた。ほへ?私が声出しするの?え?私の名前のバンドなんだから当たり前?あの、みんなそれで……いいのね……分かったよ。円を作って、みんなで手を重ね合ってから、
「えっと……今日のライブ。私の我が儘で、準備段階でみんなにすっごく迷惑かけたと思う」
私の言葉に「そんな事ないよ」とりみちゃんと沙綾が言ってくれた。ありがとうと答えてから続ける。
「今日の演奏、楽しくやって、私の想いを歌に乗せるから、みんなでライブ、最高に楽しもう!」
「「「「「おー!」」」」」
「じゃあ……」
と、大好きな声優さんがライブ前にやる掛け声に、少しだけ掛け声をプラスしたのをやると伝えてから大きな声で音頭を取る。
「せーの!」
「「「「「「一・二・三・四・五・六・七、アクション!!」」」」」」
最後のアクションの時に重ねていた、手を天に向けて上げる。その後、みんなでグータッチして、ステージ裏へと移動する。久々のライブ……想いを伝えるというのも重要だけれど、楽しもう。それが私にできる最大の事だから――
結局、答えの出ないまま、今日を迎えてしまった。正直、こんな状態でライブを見に来ても何も得られないじゃないかという想いも若干あった。でも、私は
「あ、湊さん」
腕を組み、会場の一番後ろで、色々考えていたら見知った顔に声をかけられた。声のした方を見れば、華那と同じクラスの美竹さんと、隣クラスの青葉さんが立っていた。
「……あら、美竹さんに青葉さん。珍しいわね」
「ええ……たまには他のバンドの演奏を観るのも勉強になりますから……」
「どうもー。いつもうち蘭が華那ちんにお世話になってまーす」
「モカ!」
私に右隣りに立ってそう答えた美竹さんと、その奥で頭を下げながら、何故か保護者気取りの青葉さん。顔を真っ赤にしながら、青葉さんに言い寄る美竹さん。相変わらず仲が良いのね。
「ええ、モカちゃんと蘭は、相思相愛の中ですから」
「モカ、次、余計な事言ったら殴るから」
「ひー怖い怖い」
睨む美竹さんにおどけた表情の青葉さん。盛大に溜息を吐いた美竹さんが「そういえば」と私に話しかけてきた。
「湊さんは、今日、
「……ええ。さっき知ったわ。確かKMGだったかしら?」
そう。会場に入る前にパンフレットをもらったのだけれど、そこにはオープニングアクトにKMGと書いてあった。バンドメンバーの紹介も無く、ただ、名前だけ。まるで記載する時間が無かったようにも思えた。
「ポピパがお願いするバンドって、どんなバンドなんですかねぇ?」
「さあ……聞いた事もないバンドだから、実力は分からないわね」
青葉さんに聞かれたが、私はそう答えるしかなかった。今まで、Roseliaとして様々なライブハウスでやってきたけれど、KMGなるバンドなんて聞いた事が無い。いったいどんな演奏をするのか、技術は?どんなジャンルの楽曲を演奏するのか分からない。美竹さんにも聞いてみたが知らないとの事だ。
「あ、始まりますよ」
と、会場の照明が暗くなり、バンドメンバー出てくるシルエットは見えた。?おかしいわね。山吹さんや市ヶ谷さんっぽく見えるのだけれども……。首を傾げながらステージを見ていたら、ステージ中央にスポットライトを浴びて姿を現したのは青いギターを持った花園さんだった。
スポットライトの漏れる光から、ドラムが山吹さんだというのが分かったけれど、ポピパ?と疑問に思っていたら、ドラムの山吹さんがドラムのペダルで一定のリズムを刻んで会場を煽り始めた。花園さんもそれに合わせて手拍子をしていて、会場全体が手拍子に包まれ、ギターの音が鳴り響いた。しかもメロディは「#1090」!?
その時点でどよめきが発生した。それもそのはず。ギターを持っている花園さんは
「!?」
ギターだけのイントロが終わり、全員で演奏となる少し前に、花園さんが私達から見て右へ移動する。そこに現れたのは、髪を後ろで一つにまとめ、私達Roseliaとお揃いの衣装に身を纏い、黒いエピフォンのギターで演奏している、妹の華那だった。
どういう事?と混乱している間にも、演奏は続いていく。イントロが終わり、カッティングの時に、華那は笑みを浮かべていた。その後メインメロディの箇所になったのだけれど、その時は花園さんと目を合わせ、ギターメロディのハモリを演奏していた。
「綺麗……」
誰かがそう呟いた声が聞こえた。確かに楽曲としてのテンポは速いのに、メロディがハモったギター音はとても綺麗だった。そして、最後に近くなり市ヶ谷さんのソロコーナーが入り、一気に演奏は終わりへと向かって加速していく。途中。華那がアドリブだろうか、速弾きを披露した時に、凄い歓声が上がった。あの小さな体で、ここまでパワフルで繊細な演奏をするだなんて誰も思いもしないだろう。それに――
「なんて、楽しそうなのかしら……」
そう。華那の演奏は、音楽を心から楽しんでいる。そう思える演奏だった。それと、このアレンジは「Tour2016"The Voyage"」で披露したのを意識しているわね。あの子が買ったライブ映像を何度も見ていたから、間違いない。
最後は華那が全員の顔を見ながら、バラード調に入らずに全員で音を合わせて演奏を終わらせた。一曲目が終わった後、一瞬だけ静寂が訪れたかと思ったけれど、すぐさま盛大に拍手と歓声が会場を包み込んだ。
「すごっ……」
「華那ちん、あんなにギター弾けたんだ……」
美竹さんも青葉さんも驚きを隠せない様子で、拍手をしながらそう呟いていたのが聞こえた。正直、私も華那がここまで“気持ち”を込めて演奏してくるとは思っていなかった。でも、どうして華那が?
『皆さんこんにちは!KMGです!』
ステージが明るくなり、中央にギターを外してギタースタンドに置いた華那が挨拶をしていた。ギターを外した?どうして?
『えー……ギターを担当させて頂いた華那です。今回、ご覧いただいている通り、メンバーの九割はPoppin’Partyのみなさんで構成されています。今回は、私の我が儘を聞いてくれて、ポピパのボーカル、香澄ちゃんと私が交代するような形でバンドを組んで、カバー曲を三曲演奏させて頂きます』
『交代って言うか、私達が華那と演奏したかったからなんだけどね』
『こらこら、おたえ。華那が話しているんだから、横やり入れない』
『お、おたえちゃん」
華那が申し訳なさそうに話していたら、花園さんがあっけらかんと言ったので、それを注意する山吹さんに、おろおろする牛込さん。そのやりとりに会場が笑いに包まれた。キーボードの市ヶ谷さんは呆れた表情を浮かべて、何か言いたげだったけれど我慢したみたいね。
『アハハ……そういう訳であと二曲。KMGとして演奏させて頂きます。精一杯、心込めて、楽しく、やらせて頂きたいなと思います……で』
と、言って頭を下げた華那。それと同時に拍手が起きた。でも話しは続くみたいね。
『次の曲なのですけど、きっと知らない人の方がい多いと思うのでタイトルを……『ロストシンフォニー』って曲なのですけど、この曲は私がどうしても
……今、華那はなんて言った?華那の言葉に私は思考が停止しかけた。練習した?歌う?だれが?華那が?混乱している私なんて気付いていない華那は続ける。
『この歌の歌詞が、今の私にすごくピッタリだと思っていて、今回KMGとして最初のライブなのですけど、ボーカル華那としては今日が最初で最後です』
その言葉にどよめきが起きる。華那はそのどよめきの中で、自分が何年か前に喉を痛めた事がある事を話し
『もしかしたら、声が出なくなるかもしれない。そんな恐怖はあります。でも、魂込めて全力全開で歌います』
「っ!」
「湊さん!」
華那の言葉を聞いて私が止めに行こうと、走りだそうとした時、美竹さんが私の手を取って、私を止めた。離して!華那を止めないと!
「離しません。華那に頼まれたので」
どうして?どうしてあの子は、二度と声が出なくなるかもしれないのに?それに頼まれたってどういう事?
「華那は湊さんを思って歌おうとしているんです。今Roseliaで何があったかは、あたしは知りません。でも、華那の想い。聴いてあげてください、湊さん!」
美竹さんの私の手を握る手が強くなった。顔を見れば、今にも泣きそうな、そんな様子にも見えた。華那の覚悟……美竹さんは聞いていたのね。でも、あの子の声は――
『では、聴いてください。ロストシンフォニー』
私達がそうこうしている間に、演奏が始まってしまった。花園さんのギターから入り、キーボードの音が入ったと思った瞬間、ドラムが入って曲が始まった。この曲は……華那が歌えていた頃に、ソロで歌った事のある曲――
『I said soキミを悲しませるのはボクだけだとそう想ってたんだ』
華那の綺麗な歌声がマイクに乗って会場に流れる。華那は歌詞の言葉、一つ一つに想いを込めながら歌っていた。サビ前の部分は牛込さんと市ヶ谷さんがコーラスで入る。
『『I will always be』』
『溶ける鼓動』
『『in your bravery heart』』
『シンクロして永久に通じるリズムを』
「リズムを」の所を力強く歌い上げサビに入った。その時に華那が、マイクスタンドからマイクを外して、ステージの先端に設置されている台に右足を乗せ――
『足りない旋律君と奏でたあのシンフォニー書き直せない』
歓声が一段と大きく上がった。あの小さな体なのに、こんな力強い歌声を披露して、尚且つプロがやるようなパフォーマンスを見せれば、歓声は上がるわ。でも、今、私にはそのパフォーマンスより、華那の歌声に込められた想いが伝わってきていた。
『忘れない二度とは失くさないと願う一瞬を音に繋いでいけばいい』
足りない旋律とシンフォニーというのは、華那と私が奏でていた頃の事だ。それは華那が喉を痛めたから
そして、忘れないというのは私が華那の想いを、二度とは失くさない願いというのは……Roseliaの事。その願う一瞬を音楽で表現して――まるでそう華那が言っているかのように聞こえた。
一番が終わり、歓声が上がる。そのまま二番に入った瞬間だった。
『止めてみたんだjust for this time』
最後の部分、痰が絡んだかのように、ガラガラ声に近い声が出ていた。やっぱり、あの子、無理を!?それなのに演奏を止めずに、歌い続ける華那。
『全部自分のせいそんな被害妄想それは偽善の理想論』
『『気付かず涙を見せる自分を愛して』』
『それじゃねキミをね愛せなくて』
そんな状態でも華那は力いっぱい、体を使って歌う。途中髪をまとめていたヘアバンドが切れたのか、髪が広がったというのに、華那はそれを気にせず頭を左右に振りながら
『心に刻まれ続ける永久に響くメロディを!!』
魂が震えるというのはこういう事を言うのか――鬼気迫るものに近い歌い方、パフォーマンスに会場は飲み込まれていた。一部の人が「頑張れ!!」と声を上げていたけれど、その声も歓声――いえ、華那の歌、KMGの演奏でかき消された。
『一瞬を音に繋いでいけばいい!!』
と、ガラガラ声になりながらも歌いきり、最後はシャウトまでしてみせた華那。お願い……お願いだから……これ以上、歌わないで華那。これ以上歌ったら、貴女の声が本当に……壊れてしまう……。私の瞳から、涙が床に零れ落ちた――
華那の異変に気付いたのは二番に入ってからだった。一番の最後までは綺麗な歌声だったのに、突然歌声が掠れるというより、ガラガラ声に近いものになっていた。ステージの脇から心配で見ていたけれど、華那は苦しい姿を見せる事無く、歌いあげようと必死に、気持ちを込めて歌っていた。
「……華那」
お願いです神様。もしいるなら、この時だけでいいです。華那に、最後まで歌わせてあげてください。そうじゃないと、華那の気持ち友希那先輩に届かないんです。気付かないうちに私は祈るように両手を握っていた。二番サビに入ったけれど、華那の声はどんどん酷くなる一方で、歌いきれるかわからない。
何か私にできないの?そう思って、左右を見る。目に入ってきたのは、華那が持ってきた水の入ったペットボトル。歌い終わったら飲むって言っていたやつだ。これだ!と、思った時には私は行動に出ていた。
「華那っ!!」
演奏中だけれど声出して華那を呼ぶ。華那はこっちに気付いた時に、持っていたペットボトルを下から華那に届くように投げた。私が投げたペットボトルは放物線を描いて、華那が伸ばした左手に見事に収まった。
私がペットボトルを投げた瞬間、華那が驚いた表情を浮かべていたけれど、受け取ってから「ありがとう!」って言っているような口の動きに見えた。蓋を開けてステージ上で飲む華那。あと少し、頑張って!!
正直、間奏に入った瞬間、香澄ちゃんがペットボトルを投げてきたのには驚いた。でも、助かった。ありがとうと伝えたけれど、伝わったかな?右手を左右にぶんぶん振っていたから、きっと伝わったと思いたい。
間奏はアレンジして、少しだけギターソロを長くしておいたから今のうちに水を飲む。一呼吸して、左手にペットボトルを持ったままCメロへ入る。
『サヨナラ。振り返ることはもうしないよ。』
歌いだしたら、ガラガラだった声が戻った。会場が一段と盛り上がった気がしたけれど、今は歌に集中。ねえ……姉さん。私、もう歌えなくなった事、あの頃の事、思い返すの止めるよ。
『止まった時を今、動かせるから。』
だから、姉さんもこれから新しく踏み出そうよ。Roseliaで何があったかなんて私、分からない。でも、姉さんも私も、止まっていたら動けなくなっちゃう。それはダメだよ。姉さんにはRoseliaがあるんだよ。
『新しい旋律に“ボク”はいないけれど。』
新しい旋律……本当はここ、“君”なんだけど、敢えて“ボク”と私は歌う。だって、
『ありがとう。この歌を、奏でられるよ。』
そう。だからこそ、今この歌を奏でられるんだ!!歌い切り、ペットボトルに残っていた水を一気に飲み干し、沙綾のドラムフィルに合わせ私はステージ前方へ!ラストのサビに入る直前に空になったペットボトルを観客へと放り投げた――
『音に繋いでいけばいい……Yeah!!』
最後のシャウトまで歌い切り、演奏が終わった瞬間だった。今までに感じた事の無い、盛大な歓声と拍手に会場が包まれた。ところどころから「よく最後までやった!」とか「かこよかったよー!!」という声が聞こえてきて、泣きそうになったけれどまだライブは終わってない。気持ちを切り替えて、ギターを持った時に、沙綾と目が合った。
すごい心配そうな表情浮かべていたから、だいじょぶって伝えてピースサインと笑顔を浮かべてマイクスタンドの立っている場所に戻ろうとしたら、なぜか沙綾が立ち上がって私の所にやってきた。なんで――と、思っていたら、沙綾がしていた右手のリストバンドを外して、私の髪を一つにまとめてくれた。あ……そっか。歌っている途中に切れちゃったんだっけ。
「ほら、華那、動かないの。縛れないでしょ?」
「このぐらい自分でできるよ?」
「いいから」
私に拒否権はないのかな沙綾。って、何故か会場が盛り上がっているのだけどなんで?え?姉妹みたいで可愛い?あの……それってどういう意味ですかね!?と、沙綾が終わったよと言って、定位置に戻っていった。もう……。
『ありがとうございます。えっと、途中、ガラガラ声になってお聴きにくい、歌声でごめんなさい。でも、皆さんの声援のおかげで最後まで歌えました。本当、奇跡ですよね。皆さんの声援が私に力をくれたんです』
本当なら、曲紹介をしてすぐ行く予定だったけれどちょっと変更して、挨拶を入れる。大丈夫だよとか、最高だったよとか好意的な声が聞こえてきた。ありがとうございます。と、改めて一礼してから
『最後、ちょっと感情高まってペットボトル投げちゃったんですけど、怪我無いですか?だいじょぶ?後で回収……え?持って帰る?ゴミだよ!?』
ペットボトルを拾った人と、そんなやり取りをしたら会場が笑いに包まれる。ポピパの皆も笑っていた。小さく深呼吸してから
『次でKMGとして最後の楽曲です。最後は日本語で「もっと遠くへ」「もっと先へ」という意味を持った曲です。今日、最高のライブをさせて頂きましたが、もっと先を目指して、ギタリストとし腕を上げて、いつかまたライブ会場で会える日が来る事を願ってます。では聴いてください……「GO FURTHER」』
会場が暗くなり、私のギターから曲が始まり、すぐ有咲が旋律を奏でる。最初はゆっくりな曲だけれど、すぐに激しい曲へと転調する。おたえちゃんとのユニゾン的なギターメロディで駆け抜けていく。
途中、転調があるのだけれど、その部分がまるで曇っていた空が割れて、青空と光が差す――まるで空が開かれたかのようなイメージで私は演奏する。最後はまたゆっくりな曲調に戻って、静かに演奏を終わらせたら、再び盛大な拍手と歓声が会場を包みこんだ。
『本当にありがとうございました!KMGでした。このまま引き続きポピパの皆さんおねがいします。では、香澄ちゃん!!』
「はーい!!」
と、元気よく出てきたのは、相棒のランダムスターを持った香澄ちゃん。ステージ上でハイタッチをして、今度はポピパにバトンを渡す。一緒に演奏してくれたみんなに頭を下げて、最後に会場に頭を下げて両手を振ってステージ脇へ。
「お疲れ様です、華那さん」
「ふみゅ!?」
と、ステージから戻ってきた瞬間、顔にタオルを当てられたけれど、今の声は――
「紗夜さん!?」
「はい、氷川紗夜です。お疲れ様でした。素晴らしい演奏でしたよ」
と、労いの言葉をかけてくれる紗夜さん。ありがとうございます。演奏はうまくできたと思います。でも……
「歌え……ません……でした」
「華那さん……」
あれだけ練習したのに、練習の時はならなかったのに、どうして本番の時だけ喉がガラガラ声になってしまったのだろう。これじゃあ、姉さんに私の気持ちは届く訳―――
「大丈夫です。華那さんの歌声には気持ちがこもっていましたから、友希那さんには必ず届いているはずです」
と、私を抱きしめて優しく頭を撫でてくれる紗夜さん。本当はステージ上で泣きたかったけれど、我慢していた。涙が私の頬を伝い落ちる。
『聴いてください!Poppin’Partyで「前へススメ!」』
香澄ちゃんの声と共に歓声が聞こえてきた。私は涙を流しながら、ポピパの演奏を紗夜さんと見守る。途中、紗夜さんがいる事に疑問を抱いてしまい聞いてみた。
「あの……紗夜さん。今頃で申し訳ないのですけど、なんで、ここにいたんですか?」
「ああ、それは山吹さん達から連絡があったので。『華那さんの演奏終わったら、一緒にいてあげてください』と」
なるほど。……って、それは沙綾は私が泣く事を前提でお願いしたって事かな!?後で聞かなきゃね……。そう思いながら、ポピパの演奏を見ていたけれど、本当に皆楽しそうに演奏している。いつか……いつかまた本当に、今度は歌わないとしても、ポピパの皆と演奏できる日が来るといいな――
もう少しだけ、バンドストーリー2章続きます。