Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#37

 今日の予定されていた演奏が終わったライブハウスの会場。私は控室に向かう前に、Poppin’Partyの戸山さん達と話をしていた。演奏をしている時にどんな気持ちで演奏していたのかという事を――

 そこで得た話は、今日、華那が歌っていた時に私に伝わってきた気持ちや、華那やPoppin’Partyが演奏していた時に感じた気持ちに通じるものだった。そうね、そうだったわね。Roseliaが好きだから……いえ、あのメンバーでやる音楽が好きだから。その事をいつしか忘れてしまっていたのね。

 

「Roseliaの誇りを取り戻す……それは身近にあったのね」

 

 そう呟いて、私は控室へ向かう。理由は華那がまだいるからと戸山さんに聞いたから。私が戸山さんに話しを聞いた時は、花園さんと牛込さん、そして市ヶ谷さんしかいなかった。山吹さんと華那の姿が見えず、どうしたのかと聞けば

 

「華那と沙綾はまだ控室で帰る準備していますよ」

 

「分かったわ……今日はありがとう、戸山さん」

 

 という事があったのだけれど、どう話しかければいいか悩んでしまう部分があった。あれだけ酷い事を言ったのだ。私がどう声をかけても、華那に届かないかもしれないという不安があった。でも……それでも華那と向き合わない限り、Roseliaと向き合う事は私にはできない。華那のお陰で、やっと気付けたのだから。どうすればいいのかに――だから、私は今日、華那と話さなければいけない。

 

「友希那先輩」

 

「……山吹さん」

 

 控室の扉の前に山吹さんが立っていた。私を……待っていたようね。まるで対峙するように、私と山吹さんは向かい合う。距離にして二メートルほどの距離かしらね。お互い、視線をぶつけ合い、沈黙がその場を支配する。

もしかしたら数十秒だったかもしれないけれど、私にとってその時間は数十分にも感じられた。そんな空気の中、先に口を開いたのは山吹さんだった。

 

「友希那先輩……華那から今回の話しは聞いています。だから、華那の友達とはいえ私は、貴女を許したくありません」

 

「……でしょうね」

 

 華那に酷い事を言ったのは事実なのだから、許される道理はない。特に、山吹さんはPoppin’Party結成前から、私と華那が中学生の頃からの付き合い。華那とは親友とも言える存在なのだから、姉である私が華那に言った言葉というのは、到底、許せるものではないのは間違いない。だから、私は山吹さんの言葉に同意する事しかできなかった。そんな私に「ですが」と山吹さんは続けた。

 

「華那が許すと言うのなら、私も許します。だって、華那が許したのなら問題は解決している訳ですから」

 

 と、笑みを浮かべる山吹さんに、私は呆然とするしかなかった。華那が許したら自分も許すってどんな理論なのよ。あれだけ怒っていたはずなのに、山吹さんは笑みを浮かべていた。あ、貴女はそれで本当にいいの?だって、姉としてあるまじき発言をしたのよ?それを……そう簡単に許せるものかしら。私だったら許せないと思う。それを問うと、

 

「大丈夫です。華那が許したのなら、私も文句は言いません。ただ……有り得ないと思いますけど、華那が『絶対に許さない』って、言った場合……私は友希那先輩に対して、もっとキツイ言葉を言いますから」

 

 笑顔で山吹さんは私に言う。……この子は、本当に華那の事が大切なのだ。姉の私以上かもしれない。だけれど、姉としてそこは譲りたくない。華那の事は私も大切なのだから。華那は私にとって、唯一の妹であり、大切な家族なのだから。

でも……ありがとう。それと、ごめんなさいね。私達姉妹の喧嘩に巻き込んで。そう伝えたのだけれど、山吹さんは大丈夫ですよと言って

 

「後は……お願いしますね。友希那先輩」

 

「ええ……」

 

 扉の前から離れ、道を開けてくれた山吹さんは、そのままバンドメンバーが待っている会場の方へ向かって歩いて行った。私はそれを見送ってから、覚悟を決めて扉を開けた。静かに扉を開けると、椅子に座って下を向いている華那の姿があった。

その表情は、少し暗いようにも見えた。もしかしたら、私に想いが届いていないのではないかという不安に(さいな)まれているのかもしれない。大丈夫よ、華那。貴女の想い。間違いなく届いていたわ。それを私は言葉にして伝えなければいけない。私は扉を閉めて、華那の隣に座りながら声をかけた。

 

「華那……ライブ、お疲れ様」

 

「姉さん……」

 

 右手で頭を撫でる。一週間程だろうか。私が華那に酷い事を言って、山吹さんの家に華那が行く事になったのは。まだ一週間しか経っていないというのに、なんだか数か月ぶりに合うぐらいの感覚に陥る。私が自分勝手な感情で華那を傷つけた挙句、喉を痛めた事があるのに歌わせた……それは事実だ。だから――

 

「ごめんなさい、華那」

 

「え……」

 

 華那と向き合い、私は謝りながら頭を下げた。華那が驚いたような声を上げていたけれど、私は頭を下げたまま続ける。

 

「私は、華那の姉で、声を痛めた原因なのに、あの時……あんな言い方をしてしまってごめんなさい。華那がどれだけ辛い思いをしてきたか身近で知っていたはずなのに、自分の事しか考えられなかった……」

 

 そう。私がもっと華那の体調に気をつかっていれば、華那は喉を痛める事も、歌えなくなる事も無かったはず。それに――

 

「華那、貴女が自分の時間を削って、必死になって集めてくれたバンドRoseliaも、私が原因でバラバラになってしまった……謝って許されるような事ではないわ……」

 

 そう。今回の原因であるRoselia内部の不和は、私が引き起こしたと言っていい。

 

「姉さん……だいじょぶ……ううん。私は気にしてないって言ったら嘘だけど、姉さんが本当に悩んでいて、余計な事したんだと思ってた」

 

 悲しそうな表情を浮かべる華那。そんな事無いと伝えようと顔を上げたら、華那に抱きしめられた。

 

「だからね……今日、思い込めて歌った事も無意味になるんじゃないかって、さっきまで不安だった」

 

「……」

 

「でも……姉さんはこうやって私の所に来てくれた。それって私の想い伝わったって事だよね?だから、もう謝らないで、姉さん。私、もう怒っていないから。ただ……あの時の姉さんに、言葉じゃ届かないと思ったから……ポピパの皆と相談し合って、歌に乗せて届けようって思ったの」

 

 そう……だったのね。それでも、私は――

 

「だいじょぶ。まだRoseliaは解散した訳じゃないよ。そっちで起きた事は、私……聞かないでおくね。だって、私が聞いて、何かアドバイスしてしまったら、それは姉さんの意思とかけ離れているかもしれないから」

 

「華那……」

 

「姉さん。もう『()()()()()()()()()()()()。姉さんは私の大切な姉であるけれど、今はR()o()s()e()l()i()a()()()()()()でもあるんだよ」

 

 抱きしめられたままだから、顔が見えないけれど、震えた声から華那は涙を流しているはず。その華那の言葉は、私の心の中に自然と入ってきた。そうか……そうだったのね。華那達のライブと戸山さんの言葉で、全員がRoseliaの事が好きかどうかが、Roseliaの誇りを取り戻す手がかりだとは思っていたのだけれど、何かが足りない――そう思っていた。でも、今の華那の言葉で理解した。

 

「そうだったのね……ありがとう華那。それと、本当にごめんなさい。ダメな姉で……」

 

「そんな事無い!!姉さんは……姉さんは私にとって、どんな事があったとしても大切な家族で、尊敬できる姉さんなんだよ!」

 

 抱きしめていた手を私の両肩に置いて、真っ直ぐ私を見る華那。その目は赤くなっていて、さっきまで涙を流していたことが分かった。

 

「だから、そんな言葉で自分を卑下しないで。だいじょぶ。どんな失敗しても、私は姉さんの事、信じているから。それに……Roseliaの皆も待っているはずだよ。姉さんの言葉を」

 

「私の……言葉……」

 

 うん。と、笑顔を浮かべながら頷く華那。ライブで感じた事。Roseliaの皆の事をどう思っているか……それを言葉にすればいいのね?でも、本当に届くかしら……。

 

「純情に、ストレートな感情をぶつければだいじょぶ!絶対、姉さんの気持ちはRoselia(みんな)に届くから!」

 

「華那……ありがとう」

 

 華那を抱きしめて、感謝の言葉を伝える。華那がいなかったら、本当に私は道を間違っていたかもしれない。華那が必死になって引き留めて、それで様々なバンドと出会わせてくれた。それがなければ、間違いなく私は――

 

「そういえば、華那」

 

「何、姉さん?」

 

 抱きしめていた手を緩め、華那と改めて対面するように座り直して、気になっていた事を聞く為に声をかけた。……喉は大丈夫なのよね?

 

「……うん。もう大丈夫。歌っている途中だけ、ガラガラ声になったけれど、水飲んだら普通に歌えたんだ」

 

 不思議だよね。と苦笑いを浮かべる華那に、私は何も言えなかった。本当なら「そう、良かったわ」と言うべきなのかもしれない。でも、それは違うとその時は思ってしまった。確かに普通に話せる事は喜ぶべきなのだろう。でも……本当なら、華那は――

 

「もう、だいじょぶ!姉さんに私の気持ち届けられたし、私も踏ん切り付いたんだ。今日をもって、ボーカル華那は引退するって」

 

 空元気(からげんき)――という訳ではなさそうね。本当に清々しい笑みを浮かべているように思える。

 

「これからは、本当の意味でギタリスト華那として、練習頑張ろうと思うんだ。今までは、やっぱり『いつかボーカルやるんだ』って思っていたから」

 

「華那……」

 

「だいじょぶ、だいじょぶ!そんな顔しないで姉さん。いつか、Roseliaに追いついて、『あっ!』って言わせるから、覚悟しておいてよ?」

 

 心配する私とは対照的に、悪戯な笑みを浮かべる華那。分かりやすい挑発だったけれども、流石にそれは姉として、(いち)ボーカリストとして看過できないわね。

 

「覚悟?華那、貴女こそRoseliaに並ぶ覚悟はできているのかしら?」

 

「いつになるか分からないけれど……必ず、姉さんの隣に立つから!それまで、しっかり歩き続けてよね?」

 

 私の言葉に、真剣な表情で答える華那。その意気ならもう大丈夫そうね。私ももう大丈夫だから。心配かけてごめんなさい――と、改めて心の中で華那に謝りつつ

 

「ええ。待っているわ。R()o()s()e()l()i()a()()()()()()()()()()()()としてね」

 

 そう言ってから、二人で笑い合う。もう私は、道を間違えない。華那と約束したのだから。いつか……いつの日かRoseliaと華那が、わたしたし姉妹が夢見た「あの舞台」に一緒に立つ日が来る事を心の中で願った。でも……その願いは()()()()()()()()()だなんて、この時の私と華那は知らなかった。

 

 

 

 

 一世一代とまではいかないけれど、私が覚悟を持って臨んだライブが終わってから数日後。リサ姉さんと紗夜さんから聞いた話しによれば、無事にRoseliaは一つにまとまる事が出来たとの事。姉さんが皆に謝り、Roseliaへの想いをぶつけてきたとの事。ああ……安心した……。なんて呟いていたら、テーブルを挟んで私の正面に座るリサ姉さんが

 

「か~な~?無理したんだって?紗夜から聞いたよ」

 

「……あの紗夜さん?」

 

 ちょっとお怒りモードのリサ姉を見て、恐る恐る紗夜さんを見るけれども、優雅にアイスコーヒーを飲んでいた。なんで余裕をもって優雅に飲んでいらっしゃるんですか!?

 

「華那さん。貴女は少し……いえ。かなり自分を過小評価しすぎです。ですので、今井さんとも話して、この機会にきちんとその考えを修正すべきという方向で一致したのです」

 

 それ、紗夜さんもですよね!?とは言えなかった。だって、二人とも笑っているのにすっごい怒っていますってのが、すっごく私に伝わってくるのだもの。正直に言います。今すぐこの場から逃げ出したいです。でも、それも叶いません。その理由というのが――

 

「ええ、そうね。私も紗夜ちゃんから聞いて、お説教が必要だと判断したわ」

 

 そう。私の隣には何故か千聖さんがいらっしゃるのです。アイエエエ!チサトサン!?チサトサンナンデ!?って、バカやってないで……。あの……なんでいらっしゃるんですか?なんて気軽に聞ける状況ではないです。だってこの前、彩さんがCiRCLE隣接カフェ(ここ)で暴走していた時に、説教する前にしていた笑みと一緒なのですもの。

 ごめん、姉さん。私、今日ここでこの世とサヨナラするみたい……。と、心の中で姉さんに謝っていると

 

「きちんと聞いてる?華那?」

 

「華那さん?真面目な話しをしているんですよ?」

 

「もう少し厳しいお説教が必要みたいね」

 

「ききき、聞いています!!聞いていますから!これ以上は許してください!!」

 

 私が涙目になりながら言うも、三人による説教は、たまたまやってきた沙綾によって止められるまで続いたのでした。沙綾ー。怖かったよぉー。と、沙綾の腕の中で頭を撫でられながら私は、本当に無理しないようにしよう。そう心の中で固く誓う私なのでした。

 あ、それと何故か、今回のライブの模様が完全収録されていたらしく、アフグロのメンバーからも後日、お説教を受ける羽目になり、彩さんには泣きながら抱きつかれるわ、日菜先輩とかおちゃん先輩こと瀬田先輩にいじられる羽目になりました。

 なんで私の周りこんなに過保護なの!?と、有咲に聞いたら

 

「自業自得だ、ばーろー」

 

 と言われました。まる。私に味方はいないのか!?と、嘆いた夏のある日でした……。

 

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