今日は沙綾の誕生。なのだけれど、私は今日もバイトの為、沙綾に会う事が出来なくって、ちょっと落ち込んでいた。沙綾に会ってから、二人してお互いの誕生日は必ず祝ってきたから、今回も私、誕生日プレゼント用意しておいたんだけどね……。
「華那ちゃん?大丈夫?」
「ほへ?あ、はい!まりなさん、だいじょぶです!」
今日は緊急で、受付業務のお手伝いをしていた私の隣にいたまりなさんが、私の様子がおかしい事に気付いたようで、心配した様子で声をかけてきてくださった。私は慌ててだいじょぶと伝えてから、今日は強い雨だから、バンドの皆も練習に来ませんねとまりなさんと会話をする。
「そうだねぇ……やっぱり雨の中、ギターとベース持って移動するって大変だから、仕方ないよ」
「そうですよね。私も、雨の日は出来ればギター持って移動したくないです」
中学時代、姉さんの隣でギターを演奏していた頃、雨の日は憂鬱だった。大切なギターをどうやって持っていこうかと悩んだ。いや、ギターケースに入れるんですけど、その頃は布製だったから、どうしても濡れちゃうんですよ。
「あー分かる分かる。しっかりしたケースって高いから、なかなか買えないからねぇ」
「そうなんですよ。やっと最近、バイトしながら貯めたお金で、一番安いケース買えたんで、もう安心なんですけど……当時は、大きなビニールで布ギター入れを覆って持っていました」
当時の事を思い返しながら、暇なのでまりなさんと談笑する。こう、雨が降っていてはカフェも暇すぎるという事で、私がこっちにいる訳なのです。でも、暇すぎますから、なにか機器の整備でもやってきましょうか?と、提案してみるけれど
「あ、大丈夫だよ華那ちゃん!今日は前、風邪で倒れた社員の男の人もいるから、気にしなくていいよ!ありがとうね」
と、笑みを浮かべて言って下さるまりなさん。そうなんですねと、答えつつ内心ではこれは困ったな、と思っていた。正直暇すぎて、どうしよう。アルバイトだから気にしなくてもいいのだろうけれども、なんだか、ただ立っているだけでお給料もらうのって罪悪感で凄い事になるのだね。あっ、これが社畜化ってやつですか!?
「華那ちゃん、どこでそんな言葉覚えたのかなぁ?お姉さんに言ってごらん?」
「え……あの、まりなさん……?」
と、ジリジリと私に詰め寄るまりなさん。いや、その言葉って結構有名じゃないですか!?よくワイドショーとかでも取り上げられて――ないですね。はい。あの、クラスメイトと談笑している時に話題に出たのです。ええ、それで知った訳で――
「華那ちゃん。華那ちゃんはそうなっちゃダメだからね?いい、約束だよ」
「アッ、ハイ」
両肩に手を置かれ、すさまじいほどのプレッシャーを感じた私は、素直に頷く事しかできなかった。なんで私の周りこんなに過保護の方々ばっかりなのですか!?私気になります!あっ……気になって、調べたら恐ろしい事が起きそうだから、気になる程度にしておこう。何かすさまじいほどの寒気が、今、一瞬したから。ま、まあ。今日雨降っていて、ちょっと涼しいからね。きっとそのせいだ。うん。
と、思い込みながら、まりなさんから学校はどう?最近、どんな曲練習しているの?と、いう質問が矢継ぎ早に飛んできたので、それを何とか一個一個、丁寧に答えていく。と言うか、質問自体が、あまり家にいない父親のような質問なのですが……。
そんな話しをまりなさんとしていたら、入口の扉が開く音がしたので、慌てて営業モードに入って扉の方を見て、さらに慌てた。だって、香澄ちゃんと有咲、そして沙綾が濡れた状態で入ってきたのだもの。
「ちょ、三人とも!?」
「あっ、華那!!雨宿りさせてー!!」
と、体を濡れた猫のようにプルプル震わせながら、元気よく香澄ちゃんが話しかけてきたけれど、それどころじゃないよね!?私とまりなさんは慌てて全員分のタオルを持ってきて、三人をラウンジへと案内する。
「で……なんで皆、濡れているの?」
三人には予備のCiRCLEのTシャツに着替えてもらい、暖かいココアを人数分用意して、テーブルに置きながら皆に問いかける。まりなさんから、三人の相手をしていていいよ!と、言われたのがあるのだけれど、いくら暇でもそれはいいのですか?
「私は傘忘れちゃった!」
「私は折り畳みを持っていたんだけど、香澄が途中で風にあおられた影響で壊れた」
香澄ちゃんが可愛らしく舌を出して答え、呆れた表情を浮かべ、壊れた傘を指さしつつココアを飲みながら有咲が答える。「えー私のせい!?」って、不満そうな香澄ちゃんに、ハイハイと流す有咲。相変わらず仲が良い事で……。で、沙綾は?
「私は、傘間違えて持っていかれたみたいで、置いといた場所に無かったんだよね」
「それは災難だったね……」
でも、各自の家とは違う場所であるCiRCLEに来たのかと問うと
「本当は、ポピパで練習しようってなっていたんだけど、おたえとりみりんの都合がつかなくなって、三人だけでもやろうってなったんだけど……」
「雨に濡れたって訳だ……なんで、あそこで風吹かれて傘壊れるんだよ……」
疲れ切った様子の有咲。まあ、気持ちは分からなくはないけれど、練習は止めといたほうがいいと思うよ?だって、それだけ濡れて体力奪われているし、風邪ひいたら大変だもの。今日は帰る事をお勧めするよ?
「えー!?せっかく来たのにー」
「香澄……お前、ギター濡れたままでやるつもりか?このまま帰ってすぐ、整備しないと壊れるぞ?」
「それはダメ!!」
と、先ほどまで濡れていたギターケースを抱きかかえる香澄ちゃん。本当にギター大切なんだなぁと思いながら、そう言う訳だから、私の傘貸すから、落ち着いたら帰ろうね。ね?
「むー……わかった……」
と、トレードマークの猫耳(本人曰く星形だけど)がションボリしたように見える香澄ちゃん。あらやだ、可愛い。って、違う違う。私はもう一本傘あるから、有咲と香澄ちゃんはそれで帰る方向でいい?
「まあ、私は構わんぞ。でも、華那。お前はどうするんだ?」
渋々といった様子の有咲が、私はどうするかと聞いてきたので、沙綾を送っていくついにで、明日の朝用のパン買ってこないといけないからと言うと
「確かに、華那が沙綾ん
「華那。私大丈夫だよ。このぐらいなら少し濡れる程度で――」
「それで沙綾が風邪ひいたら、私が一日付きっ切りでいいんだね?沙綾。学校休んででも、看病するから、そのつもりでいて」
「……一緒に帰る方向でお願いします」
なんて、私が満面の笑みを浮かべて言ったのだけれど、沙綾はあっさりと陥落してしまった。あれれ?と心の中で呟いていたのだけれど、有咲が後で「お前、顔笑っていたのに、滅茶苦茶怖かったぞ?」なんて伝えてきた。失礼だよ!私は、沙綾が心配だから言っただけなのに!心外だよ!!
「華那ちゃーん。あ、いたいた。カフェの方、早めに閉めるから、今日はもう上がっていいよ~」
「ほへ?……って、まりなさん!?」
その後、皆で談笑していたら、まりなさんがやってきて、そんな発言するから私は驚きのあまり声を荒げてしまったけれど、仕方ないよね!?だって、まだアルバイトして一時間ぐらいしか経ってないんだよ!?いくらなんでもこんな緩々でだいじょぶなんですか!?
「大丈夫大丈夫!華那ちゃん、頑張ってくれているから、スタッフ全員の総意だから心配しなくていいよ~」
「スタッフ全員の総意ってどういう事ですか!?」
そんなやり取りをしていたら、香澄ちゃんと沙綾が笑っていた。でも有咲は頭が痛くなったようで、両手で頭抱えていた。だいじょぶ?頭痛に効く薬飲む?なんて言ったら
「お前のせいだろうが!」
「そんな!?私、ツッコミ入れただけなのに!?」
テーブルを叩いて勢いよく立ち上がりながら言った有咲の言葉に私はショックを受けた。口論にはならなかったけれど、私だってもう少し仕事してでもよかったのに……。そう思ったのだけれども、責任者であるまりなさんからの指示では帰らないといけない。あ、Tシャツは後日洗って返すようにとの事らしいので、今日はこのままTシャツ姿で三人は帰る事になった。
私は帰る準備をして、ロッカーに入れてあった傘を二つ取り出して有咲達に渡す。今度、返してくれればいいからと伝えると
「分かった。サンキュー華那」
「ありがとう!華那!!」
「むきゅ!?」
「あ、おいこら!香澄!!」
「アハハ……香澄らしいね」
香澄ちゃんが勢いよく抱き着いてきたので私は押しつぶされる事になった。沙綾呆れてないでいいから助けてよ!?というやり取りをしてから、有咲と香澄ちゃんと別れ、傘を差して沙綾の家に向かう。
「華那ごめんね。遠回りになっちゃった」
「んーだいじょぶだよ、沙綾。今日のバイト元々短い日だったから、帰りにパン買って来てって、母さんに頼まれていたのは本当だから」
申し訳なさそうに話してくる沙綾に、できるだけ明るく伝える。でも、沙綾の傘どこ行ったんだろうね。結構お気に入りだったよね?確か、中学時代から使っていたはずだよね?
「うん。よく覚えているね、華那は。また今度買いに行くよ」
「なら、その時、私も一緒に行こうか?最近二人で買い物行ってないし」
「あ、それいいね。なら都合、合わせて行こっか」
なんて会話をしているうちに、沙綾の家についた。沙綾が先に入って、私は傘を閉じて、入口に設置されている傘立てに置いてから、中に入る。
「ただいま、母さん」
「お邪魔します」
「お帰り沙綾。あら、華那ちゃん。今日は沙綾と一緒なのね」
と、レジにいた沙綾のお母さんが私達に声をかけてきた。私は挨拶をしてから、パンを買いに来た事を伝えて、手を消毒してから食パンを取りに行って、すぐにレジで会計を済ませる。
「いつもありがとうね、華那ちゃん」
「いえいえ。こちらこそ、美味しいパンありがとうございます。うちの家族全員、山吹ベーカリーのパンが一番だって言っていますよ」
「あらやだ。お世辞にしても嬉しいわ」
と、ニコニコ顔の沙綾のお母さん。お世辞じゃなく本当なんです。バイト帰りに商店街寄って買って来てねと言われても、大体バイト終わるのが閉店している時間だよ、母さん……。あ、そういえば沙綾は?
「あ、今着替えているわよ。時間かかるかもしれないけれど……」
「あ、だいじょぶです。逆に、ここで待たせて頂いていいですか?迷惑じゃありませんか?」
「大丈夫よ。華那ちゃんのような子なら、いくらでも待ってくれていいわよ」
「母さんお待たせ。って、華那?どうしたの?」
そんな会話をしていたら、私服に着替えてエプロンをつけながら沙綾がやってきた。私の姿を見て、不思議そうに首を傾げていたけれど、用事あったから待っていたんだよと伝えて、私はカバンからラッピングされたプレゼントを取り出して、沙綾に渡す。
「誕生日おめでとう、沙綾。これ、私からのプレゼント」
「わあ!ありがとう華那!……開けても?」
沙綾は笑顔で私からのプレゼントを受け取って聞いてきたので、私も笑顔を浮かべて頷く。気に入ってくれるといいんだけど……。そんな不安が無い訳なく、正直に言うと心臓いバクバクしていた。沙綾は丁寧にラッピングを外して、中に入っていたプレゼントを取り出した。
「あ、これ……ミサンガ?」
と、意外なものだったかもしれない。でも、ただのミサンガじゃないんだよね。糸がポピパの皆を意識した色糸を使ってもらって作ってもらったんだ。それと、沙綾のイメージカラーだと思っている黄色と白色のミサンガの二種類を両手ようにと、合計四つ。でも黄色と白のミサンガは――
「うん。黄色と白のミサンガはね……じゃん!」
そう言いながら、私は右手首を沙綾に見せる。沙綾は驚いた様子で
「あっ、華那とお揃い!?」
そうなのです。誕生日プレゼントでお揃いにした事無かったのだけれど、今年はお揃いになるようにしてみました。嫌だった?
「ううん。ありがとう、華那!大切にするね!」
満面の笑みを浮かべる沙綾。よかった。今年も無事に渡せた。沙綾も私とお揃いのミサンガを右手につけて、嬉しそうに見ていた。喜んでもらえてよかった。その後は、沙綾と私でお揃いでって事で、スマホに写真を撮ったのだけれど、その写真がなぜか多くの人に流れたらしく、後日。蘭ちゃんや巴ちゃん。あこちゃんと千聖さん。日菜先輩にも誕生日になったら、私とお揃いがいい!とねだられる羽目になったのだった。
どこからどう写真が流れたのか説明願えますかね!?って聞いても誰も答えてくれなかったので、私が沙綾の腕の中で泣いたのはまた別のお話し。