Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#46

 月曜日の放課後。私は植松先輩に会うために、二年生の教室がある階に来ていた。よく漫画や小説などである一年生がいるんだ――という奇妙な目ではなく……

 

「あっ!華那ちゃん!!今日はどしたの?お姉ちゃん迎えに来た?」

 

「あ、先輩。こんにちは。いえ、今日は姉ではなくて――」

 

「湊妹だー!!なになに?お姉さん(先輩)達に甘えに来たって感じ?」

 

「え?湊さんの妹さん来てるの!?どこどこ!?」

 

「華那ちゃん聞いて聞いて!!近くの猫ちゃんがねー」

 

 と、まあ……あっという間に諸先輩方に囲まれてしまった訳ですよ。なんでこんな騒ぎになるんですかね!?あ、先輩。その猫ちゃんの話し詳しく。先輩方の反応に対応しながら今日は別件で来た事を話していると

 

「貴女達……なにやっているかしら?」

 

「あ、姉さん」

 

 呆れた表情の姉さんと、その横に苦笑いを浮かべたリサ姉さんがいた。時々、姉さんやリサ姉さんに用事あって二年生の教室に来た時に、今日みたいに囲まれるという事態が多発。

 で、毎回、姉さんやリサ姉さんに助けられるまでがセットとなっているのだけど、なんでかなぁ……。

 

「はいはーい。みんな、華那が困っているから解散して、ね?」

 

「「「「「はーい……」」」」」

 

 リサ姉さんが丸く収めてくれたのだけれど、諸先輩方。なんでそんな落ち込んでいるのですか!?もう疑問が尽きないよ!?あ、先輩。猫……聞けなかった。

 

「それで、華那。今日は一緒に帰れないと朝、言ったのを忘れているのかしら?」

 

 と、内心落ち込んでいると、姉さんがそう言ってきた。そう。今日は姉さん達、Roseliaで練習があるので、一緒に帰れないと朝言われた。それは忘れていないし、今日は姉さん達じゃなくて植松先輩に用事があって探していた事を伝える。

 

「植松さん?確か、もう部活動の方へ行ったはずよ」

 

「あ、そうなんだ?ありがとう姉さん。ちょっと行ってくるね」

 

 姉さんに礼を言ってから、部活動をしているであろう場所へ向かおうとしたら、姉さんが私を呼び止めた。なに、姉さん?と、聞こうとしたけれど、姉さんの表情を見て私は口を開ける事が出来なかった。

 

「華那……後悔しない決断をしなさい」

 

 真剣な眼差しで、力強いという訳ではないのだけれど、その言葉は私にとってかなり重く伝わった。きっと、姉さんは気付いているんだ。ここ数日、私の様子がおかしかった理由を――

 

「それと……もう一つだけ言っておくわ、華那」

 

 私が返事をする前に、姉さんはそう言って私を抱きしめて

 

「どんな結論を出そうとも、私が華那の事を嫌いになる事はないわ。その事だけは忘れないで頂戴」

 

「姉さん……うん。ありがとう」

 

 本当、姉さんには敵わない。私が何に悩んでいるのかも分かっているかもしれない。でも、自分の意見を押し付けずに、私の決断を尊重してくれると言ってくれた。本当にありがとう、姉さん。

 

「あー……友希那に華那……申し訳ないんだけどさ……周り見た方がいいよ?」

 

「え?」

 

「どういう事、リサ?」

 

 リサ姉さんに言われて、私達が周りを見ると顔を赤くして私達を見ている人や、優しく見守っているもいる……。って、全部見られてた!?は、恥ずかしい!そう思った私は、姉さんから離れて

 

「ね、ね、ね、姉さん!私、ちょっと行ってくるね!!」

 

「あ、華那……全く……」

 

 そう言って、その場から逃げ出すように走る。後ろで姉さんが何か言っているけれど、家に帰ったら聞くからと言って走る。途中、風紀委員の方に捕まって、注意を受けた私でした。うう……。もう少し周り見ておけばよかった……。

 

 

 

 

 一方その頃――

 

「み、湊さん!今の妹さんだよね!?」

 

「なになに?なにを話してたの!?」

 

「友希那ちゃん!妹ちゃん私に頂戴!!」

 

「友希那ちゃん、もしかして禁断の姉妹愛ってやつ!?」

 

「これはキマシタワー!?」

 

「……貴女達……」

 

「アハハ……」

 

 と、先ほどの湊姉妹のやり取りを見ていた同級生らに囲まれてしまった友希那とリサ。その彼女らの勢いに頭痛を覚え、右手で額を抑える友希那と、その横で苦笑いを浮かべるリサの姿があった。

 尚、バンド練習開始時間にはきちんと間に合わせたのは、流石の一言に尽きるだろう――

 

 

 

 

「失礼……します……」

 

 音楽室の閉まっていた扉を私一人通れるぐらいに開けて、演奏の邪魔にならないような声で入る。すると、すぐさまオーケストラの音の圧が私を襲う――という表現は大袈裟かもしれないけれど、音楽室の外に漏れていた音から、まだ全体練習じゃないだろうと思っていたから、意表を突かれたとでも言えばいいのかな……。

 

「この楽曲は――」

 

 扉を静かに閉じて、演奏に耳を傾ける。吹奏楽部の皆さんが演奏していた楽曲は「LOVE PHANTOM」という、あの人達の代表する楽曲の一つだ。それのメイン旋律が無いオーケストラバージョン。ソロアルバム「House Of Strings」に収録された、オーケストラとギターだけのインストゥルメンタルバージョン。

 聴いていて、すぐに気が付いたのはCD音源よりテンポが速い事。アルバムに収録されているバージョンだと、原曲より少し遅くなっていたりするのだけれど、今、吹奏楽部の皆さんが演奏している速度は、ほぼあの二人がライブで演奏しているテンポと同じだと思う。

 

「すごい……」

 

 完成度、楽曲への理解度。色々な言い方をすると思うのだけれど、その時の私は吹奏楽部の演奏に感動を覚えていた。忠実に原曲を再現するだけでなく、自分達の色を出すという事が出来ていたと思う。正直に言って、オーケストラについて私は管轄外というか、全くのド素人だから偉そうな事は言えない。

 でも、音楽(ギター)をしている身からすれば、この演奏の中に入れたらどれだけ凄くて、一緒に演奏出来たらどんな音楽が生まれるのだろうという想いが生まれた。でも、私は――

 

「あ、華那ちゃん!!来てくれたんだ!!」

 

 と、先ほどまで真剣な表情で指揮棒を振っていた植松先輩が私に気付いて、急いで私の所にやってきた。あ、あの、こんにちは。植松先輩。と、頓珍漢(とんちんかん)というか、変な挨拶になってしまったような気がする。それでも、植松先輩は笑みを浮かべたままで、私に話しかけてくれた。

 

「それで、今日はどうしたの?()()()()なら、電話でもよかったんだよ?」

 

「いえ、流石に会わないでお話しするのはどうかと思いまして……」

 

 言い(にく)い。植松先輩はここに私が来た時点で、承諾するって思っているだろう。私が植松先輩の立場だったら、そう思うし、そこで断られるってなれば、どれだけ気持ちが落ち込む事か……。でも……自分で決めたんだ。きちんとお断りしないと。

 緊張するのは当たり前。ただ、どれだけ酷い事を言われる事になるか、想像もつかない。呼吸が出来なくなりそうになる。息を吸い込んで深く吐き出してから、植松先輩の目を見ながら私は口を開いた。

 

「植松先輩。申し訳ないのですが、せっかくのお誘い頂いたのですけど、お断りさせて頂きます」

 

 そう言って頭を下げる。私の発言に沈黙が部屋を支配した。頭を上げると、植松先輩は悲しそうな表情を浮かべていた。それを見て、胸に痛みが走るような錯覚が私の中にあった。

 

「華那ちゃん……理由聞いてもいいかな?」

 

 絞り出すように、私に聞いてくる植松先輩。その横にはバイオリンを持った明石先輩がいた。い、いつの間に。小さく動揺しながらも私は理由を話す。

 

「今の演奏を聞いてもそうなのですけど、私のギターの技術(テクニック)では、皆さんの演奏についていけません。それに……吹奏楽部の演奏は全国でも通用しているって聞きました。その演奏に、私みたいな下手なギタリストが入っても、せっかく吹奏楽部の皆さんがいい演奏しているのに、私のギターでは不協和音になってしまうだけです。ですから、私より上手いギタリストにお願いしてください。だから私は……弾けません」

 

「そんな事っ!!」

 

「分かった……華那の言いたい事は」

 

「ゆかりん!!」

 

 私はもう一度頭を下げる。植松先輩が私の言葉を否定しようとしたみたいだけれど、明石先輩が右手で植松先輩を制して、私の言葉に理解を示してくれた。それを見て内心ホッとしてしまった自分がいた。言葉にして伝えるってのは本当に難しいから、ここで二人に否定されたら、私はどう言葉を絞り出せばいいか分からなくなってしまう。

 

「ミカ。私達も、気軽に考えてた部分はあるでしょ。華那がここまで思いつめた表情してまで、断ってる時点で、()()()()()なんて無理よ」

 

 私に近づいて頭を撫でながらそう言う明石先輩。その言葉に私は何か引っかかるものがあった。でも、その違和感とも言える物はすぐに消えてしまった。なんだったんだろう。今の言葉に引っかかるような事があったのだろうか、と心の中で疑問に思っていると

 

「……分かったよ」

 

 渋々と頷きながら植松先輩がそう言ってくれた。よかった。これでよかった。そう安堵している私を見て、植松先輩は

 

「ただ……華那ちゃん。これだけは忘れないで欲しいの。私は、華那ちゃんと一緒に音楽を作りたい。一緒に演奏をしたいって、本気で思っていたって事。これだけは私の譲れない想いだから。だから、華那ちゃんの言うような、別のギタリストってのは考えていないから」

 

 真剣な表情で、それでいて私をしっかりと見ながら伝えてくる植松先輩。……それだけ、私と演奏したいという想いをぶつけられた私は、どう反応していいか分からず、固まるしかできなかった。

 

「ミカ!それ、華那に迷惑だってわからない!?」

 

 植松先輩の方に向き直って、怒った口調で話す明石先輩。あ、あの先輩。私迷惑じゃないですよ。ただ、驚いただけですから……って、聞こえてないし!?あ、あの吹奏楽部の皆さん?と、助けを求めるように、私達の様子を見守っていた、他の部員さん達に視線を送る私。え?いつもの事?ええぇ……。

 

「でもでも!私は華那ちゃんと一緒にやりたかったってのは本音だもん!」

 

「だからって、それを今伝えるべき事じゃないだろって言ってるの!」

 

「あの先輩方……あの……」

 

 他の部員さん方が「まぁた始まったよ」という感じで見守っていて、困惑している私をよそに、どんどんヒートアップしていくお二人。ど、どうすればいいんですかこれ!?

 

「それに、ゆかりんだって、華那ちゃんの演奏見て、一緒にやってみたいって言ったじゃん!!」

 

「確かに言ったけど、それはそれ!本人のやりたいって意思がないのに、強制でやらせたって、いい音楽できないのはミカだって理解しているでしょ!」

 

「分かってるよそんな事!!」

 

「だったら、今回は諦めなさいって言ってるの!!」

 

 二人の会話。私、置いてきぼりすぎて泣きそう。そんな時だった。植松先輩と明石先輩の間に入った人物がいた。あれ?あの人は――

 

「はいはい、二人ともそこまで。部活中って事忘れてないよなぁ?」

 

「げっ、かみちゃん!?」

 

「教師を()()()()()()()()()馬鹿者」

 

「暴力はんたぎゃん!」

 

 そう。二人の間に入ったのは私の担任でもある上条先生だった。しかも、あだ名で呼ばれた瞬間、植松先輩に拳骨落とした。に、鈍い音したけれどだいじょぶですか?え?これもいつもの事?……あの、吹奏楽部って本当にだいじょぶな部活なんですか?

 

「毎回すみません……上条先生」

 

「まったくだ。お前たち二人は、部長と副部長なんだから、言い争いとかはやめてくれよ。そうでなくても他の部員に示しつかなくなるんだから」

 

「もう慣れましたー!」

 

 と、他の部員からそんな声が上がって、音楽室が笑い声に包まれる。なんか明るいですね……。あまりの落差に、私は苦笑いを浮かべるしかできなかった。

 

「だ、そうです」

 

「『だ、そうです』じゃないだろうが……。まあ、いい。あ、そうそう。華那。お前がなんでいるかは知らんが、用終わったのなら出てってもらっていいか?今度のコンクールに向けた大切な話しがあるんでな」

 

 と、私がいる事に気付いていたようで、上条先生が伝えてきた。コンクールの話しなら、部外者の私は出ていかなきゃね。先生に分かりましたと伝えてから、私は植松先輩と明石先輩に

 

「あの、植松先輩、明石先輩。本当にすみませんでした」

 

「謝らなくていいのに……」

 

「……華那ちゃん。気持ち変わったらいつでもきていいから!待ってるから!」

 

 複雑そうな表情の明石先輩と、フラフラと立ち上がりながら、笑みを浮かべて伝えてきた植松先輩に、私は頭を下げて音楽室から出た。出てしばらく歩いてから、私は小さく息を吐いた。

 断るってのは勇気が必要なのだと、改めて思い知った。先輩方に伝えた想いは、本心からの言葉だったけれど、きちんと伝わったよね?終わってから不安になる。終わってから、ふと過る明石先輩の言葉。

 

『断ってる時点で、()()()()()なんて無理よ』

 

 あの人達は、あれだけの演奏ができるのに、楽しく演奏する事を追求しようとしていた。その言葉が、今も頭を(よぎ)る。楽しさだけで弾ければ、演奏できればどれだけいいだろう。でも、そのためには技術が必要だ。それは色々なバンドを見てきた私の考え。

 

「……帰ろう」

 

 色々と考えが思い浮かぶけれど、これでよかったと自分に言い聞かせるように呟いてから、下駄箱へ向かう。その足取りはいつもに比べると重く感じた――

 

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