「一度休憩するよー!」
「はーい」
「はい」
本番の会場で一回目のリハーサル(今回の場合、ゲネプロに近いかな)をしていた私達。吹奏楽部の部長である植松先輩の声と共に、吹奏楽部の皆さんが元気よく返事をしている。すごいな。今までぶっ続けで二十曲以上演奏していたとは思えないほど元気だ。かく言う私も、きちんと返事をしたよ。嘘じゃないよ、ホントだよ?
って、誰に言っているの私は。そんな事を思いつつギターをスタンドに置く。今置いたのはお父さんが無理やり買わされた(語弊に
「華那さんお疲れ様です!いやぁ、レスポールの音は色々な場所で聴いてきましたけど、やっぱり物が違うと、ここまで中音域の伸びが変わるもんなんですねぇ」
私に声をかけて来てくれたのは、あのPastel*Palettesのドラマー大和麻弥先輩。どういう裏技を使ったかは聞けなかったけれど、事務所にもスケジュールを抑えてもらって、今回裏方として参加という――アイドルがする仕事じゃないワケダ!?と、私がツッコミを入れたのだけれど、私は悪くない。悪くないと言ったら、悪くないの!
「それで、どうですか?弾き心地?」
「やっぱりプロモデルなだけあって、凄いです。一音一音、私のイメージ通りって言うのも変ですけど、想像通りの音を出してくれるので、すごく弾きやすいです」
やっぱりプロモデルのギターは素材から違うのだと、改めて思い知らされる。あ、でも、そのギターをまりなさんに使うって言った際に、かなり調整してもらった。なんでも「初期設定でもいいけど、調整しておくね」と、調整が入りました。そんな、みんなが一生懸命になって準備してくれたギターで私が演奏するのだから、ギターに恥じないように頑張らないといけない。そう思いつつ、水分補給をしていると植松先輩が私に声をかけてきた。どうなさいました?
「うん。ちょっと相談。アンプどうしよっか?」
「あー……そうですよね。私の後ろに置いといたら、吹奏楽部の皆さんの音が聞こえなくなりますもんね……」
今はまだミニアンプで音合わせしているから、まだそこまで弊害は出ていないけれど、本番はライブで使う大きなアンプを使用する予定だから、音の問題を忘れていた。
困った。どうしたものか――と悩んですぐに、
「なら、アンプは私の後ろに置いておきますけど、実際の音は別の部屋で流して、集音マイクで音拾って、会場のスピーカーで音を出すってどうですか?」
そう。設置しているアンプはあくまで見せるアンプにして、きちんとオーケストラの音が自分に聞こえるようにしていたはずだったから、そうするしかない。
「だねぇ。それが最善か……。ってなると、長いコードとアンプがもう一台いるって事だね。それは
とは、まりなさん。なんで、まりなさんがここにいるかというと……。今回、演奏会でアンプを借りられないかと思って、まりなさんに相談したところ
『そうだねぇー……あ!CiRCLEが後援って訳じゃないけど、サポートで入るってのはどうかな?オーナーに頼んだら、すぐオッケー出ると思うよ!』
という事で、サブギター数本に、ギターの音響などなど、ギターについてのメカニック班はまりなさんとCiRCLEの方々数名がやってくださる事になった。その中に、大和先輩が入っている訳なのです。プロに混じる大和先輩すげぇー……って思っていたのだけど、よくよく考えるとアイドルのプロだもんね。……アイドルってなんだっけ?
「音出すアンプは……別室だから、そのミニアンプで行く?」
「いやいや、そこも用意させてもらうよ!アンプ一つでも音は変わるからね!」
「そうですよ!たかがアンプと舐めると痛い目にあいますよ!」
と、植松先輩にアンプとは――と、講釈を始めるまりなさんと大和先輩。アハハ……。こうなったら止める人いないぞー……。でも、気になっていた事があるから、まりなさんに聞かないといけない。
「あの、まりなさん。その話しはリハ終わった後でも……。それで聞きたい事が……」
「なになに?」
私が質問してきたことが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべてまりなさんが私の方を向いてくれた。後ろの方で私に手を合わせている植松先輩の姿が見えた。あ、やっぱりきつかったんだ……。それはともかく、質問しなきゃ。
「あの、なんで、カメラマンさんいるんですか!?」
そう。ステージ下に、何人かカメラマンさんと思わしき人達がいて、遠くの方にもカメラを台に乗せて撮っている人もいるし……あ、ワイヤーカメラって言うのかな?それもある!?なんで――と、私が疑問に思っているとまりなさんは、かなり疲れた様子で
「あのね……こころちゃんが……」
「あっ……まりなさん。もういいです。本当お疲れ様です……」
申し訳なさそうに話し始めたまりなさんに、私は頭を下げてお疲れ様としか言えなくなってしまった。いや、あの子何やってくれてるのぉ!?あとで
『ごめん、こころを止められなかった……』
あ……。出だしから謝られたら、私は何も言えなくなってしまった。きっと、美咲さんも、美咲さんなりに止めようと必死になってくれたのだろう。でも、それを上回る弦巻さんの暴走があったのだろう……。心中お察し致します……。
で、今回、リハの様子も完全に撮っているそうで、関係者各位に映像化したディスクを無償で配る予定らしい。そこまでするか!?と、私がツッコミを入れたのは悪くないはず。間違いなく、二枚組くらいになるはず。いや、三枚組?そんな事を持っているとカメラを持ったスタッフの方が私に近づいてきた。
「緊張します?」
私の大好きな声優さんのライブ映像の特典に、ついているドキュメンタリーみたいに聞いてくるカメラマンさん。いや、貴方、絶対プロですよね?そんな事を思いつつ、私は小さく頷いて
「これだけすごいオーケストラの演奏の中で、演奏できるのは凄い光栄ですけど、それ以上に緊張はしますね。失敗したらどうしようと考えちゃいますね」
かなり固い口調になってしまったのはご愛敬ってやつでお願いしたいです!そんな事をこころの中で思いつつ、でも楽しみます!とカメラマンさんに言って練習が再開しそうなので、自分の定位置に戻った。
「じゃあ、一回通したから、次は音のバランスが気になる曲やって行くよー!まずはOrchestral Fantasiaで。前も言ったけど、今誰が歌うかは調整中なんだけど……ここボーカルをゲスト参加予定だから、華那ちゃんもそのつもりで演奏お願いね」
分かりました――と、伝えてからギターを構える。でも、私エレキだけど、この曲の最初はアコギなんだけど……どうするんだろう。そんな疑問を抱きつつも、言われた通りギターで演奏する。イントロのアコギもエレキで誤魔化しながら――だ。そんなこんなで、お昼休憩も入れつつ、夕方四時までみっちり練習を続けたのだった。
「疲れたー……」
家に帰ってきて私は、自室の床にギターケース二つを置いて、私はベッドに倒れ込む。一日中の練習。何度も音合わせしながら、最適なアレンジを作り出していくという作業は本当大変なものだ。しかも、慣れないカメラさんとのやり取りも結構あったから尚更。練習が終わってから、三十分ぐらいインタビューに応えなきゃいけないって何!?私の様子見て、まりなさんはニコニコ笑っているし、大和先輩は機材弄って楽しんでいた。あと、植松先輩と明石先輩はスマホで、私のインタビューの様子を動画撮って拡散していたようだし……本当どうかしているよ……皆。
どんな編集されるか分からないのが不安だけれど、演奏時はしっかり撮ってくれるだろうから、そこに不安はない……と思いたいなぁ……。
「あ、そういえば……姉さんに聞かなきゃ」
ふと、思い出して、少し疲労で重い体を起こして、姉さんの部屋へと向かう。十月最初の土曜日に演奏会となったのだけれど、観に来てくれるよね?そう、楽観的な考えをしながら姉さんの部屋の扉を叩く。中から返事が聞こえたので、私だけど用事あると伝えると、入っていいとの許可が出た。
「ごめんね、姉さん。急に」
「大丈夫よ。今は何もしていなかったから。それで、何か用かしら?」
と、椅子に座りながら、私に微笑む姉さん。ああ、姉さんの微笑み見るだけで癒される……。って、そんな事をしに来た訳じゃないでしょ。姉さんに今度、吹奏楽部の方々と演奏会する事を覚えているか確認する。
「ええ、覚えているわよ。それがどうかしたのかしら?」
首を傾げ、何でそんな事を聞いてきたのか思案する姉さん。私はちょっと躊躇ってしまった。姉さんに断られたらどうしようって考えてしまったから。でも、勇気を出してい言おう。言わなきゃ分からないから。
「そのね……。当日、十月の最初の土曜日なんだけど……観に来られる?」
「十月最初の土曜……ちょっと待ちなさい。今、確認するわ」
「あ、うん」
手帳を取り出して確認をする姉さん。しばらく沈黙が部屋を支配する。私は、変に緊張して、肩に力が入った。一分にも満たない時間だったと思う。でも、凄まじいほどの緊張が私を襲っていた。手帳を開いたまま、姉さんは右手を顎に当てて
「十月最初よね?」
「え……あ、うん」
確認してきた姉さんの表情はあまりよろしくないように見えた。あ、これは――
「ごめんなさい。Roseliaのライブ予定が入っているわ」
手帳を閉じて、私に謝ってくる姉さん。そっか……なら仕方ないね。Roseliaのライブ私観に行けないけど、しっかりやってきてね。それで、後でどんな演奏したか教えてね、と私は笑顔で言って、姉さんと会話を続ける。
「それで今日の練習は本番想定の練習だったのよね?」
「うん。そうだったんだけど、弦巻さんがカメラマン用意してその様子完璧に収録して、関係者全員に映像配るとか何とか……。で、インタビューみたいな感じで私が答える事もあって……」
「それは……大変だったわね」
その時の様子をイメージしてくれた姉さんは、苦笑いをしながら私を労わってくれた。まあ、そういう反応になるよね――そう思いつつ、しばらく姉さんと今日あった事や、音楽談義で花を咲かせたのだった。心の中で、姉さんが観に来られない事に落胆していたけれども、姉さんが来られないからって、手を抜くわけにはいかないと、自分に言い聞かせながら――
華那が私の部屋から出て行ってから、しばらく私はそのまま扉を見ていた。華那に私は
「そう思っても……やっぱり
そう呟きながら、椅子の背もたれに体を預けて天井を見上げる。華那の成長の為とは言われたけれども、本当にこんなことで華那が成長できるのだろうかと疑問を抱かずにはいられない。でも……私は私でライブの準備を進めなければいけないのは変わらない。
溜息を吐いて、作詞と作曲の作業へ入ろうと思ったけれども、どうしても華那のあの悲しそうだけれども、無理やりな笑みを浮かべた表情が頭にこびりついて離れなかった。
お久し振りです。
転職の影響で引っ越しをし、ネット環境がスマホしかなく、更新が遅くなりました。
今後も、仕事上で覚えることが多いので、なかなか書く時間確保が難しく、小説の更新が遅れますが、お付き合い頂ければ幸いです。
いや、マジで兼業作家さんすげぇわ……