Sisterhood(version51)   作:弱い男

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#51

 会場の入口には、私と吹奏楽部の合成写真で作られたポスターが大量に張られていた。いつの間に作られたのかという疑問は生まれたけれど、きっと弦巻さんだろうな――と、どこか諦めにも似た感情が私の中に生まれていた。

 あの子ならやるだろう。しかも、植松先輩もノリノリでそれに乗っかったとみた。盛大に溜息を吐いてから、改めてポスターを見る。プロに作ってもらったものという話しなのは聞いていたけれど、ここまでするかな……。そう思いつつポスターを眺めれば、文章も添えられていた。それを読んでから、私は控室へ向かう。そのポスターに書かれていた言葉を何度も頭の中で反芻させながら。

 

 

『知らない曲もあるでしょうけれど、一緒に音を楽しみましょう――』

 

 

 

 私は控室に入ってから、ついにこの日がやってきたのだと改めて実感した。しかも場所は、プロのアーティストもライブでやってくる市民会館大ホール。収容人数は約三千人らしい。私は、姉さん達(Roselia)とお揃いの衣装に身を纏い、右後ろポケットには、尊敬するあの人がライブで出しているように、青いバンダナをセットする。

 両手を組んでストレッチをしながら、開演時間に向けて準備している私。この後はギターの練習。というか、今日演奏する楽曲の確認をしながらの指の運動。

 

 今日の演奏会には、クラスの皆が駆けつけてくれるという話しだったのには驚いたけれど、アフグロやポピパ、ハロハピの皆まで見に来ることになるだなんて思いもしなかった。ちなみにパスパレの皆さんは、ギターテックに入っている大和先輩を除いて個々に仕事だそうで、彩さんと千聖さん、そして日菜先輩達は、演奏会に来られない事に、凄く悔しそうだったそう。……そこまで悔しがらなくても、と思ったのは私だけでしょうか。

 

 しばらく練習して、ふと時間を確認したらそろそろ開演時間に近くなっていた。小さく息を吐いて、覚悟を決めてギターを持って舞台袖へと移動する。舞台袖には、吹奏楽部の皆さんが揃っていた。遅れたかなと、内心不安に思った私だったけれど、植松先輩が近づいてきて

 

「華那ちゃん、今日は楽しもうね!」

 

「はい!」

 

 満面の笑みでそう言ってくださった。幾分か、緊張もほぐれた……と思いたい。「行くよ」と植松先輩の声が聞こえた。吹奏楽部の皆さんが先に舞台へ向かっていく。私は全員座って、準備ができてから最後に舞台へ一人向かう。

 盛大な拍手の中、舞台を歩いて自分の位置に来た時に客席を見る。客席は満員で、皆の視線が舞台(こっち)に集まっているのが分かる。小さく息を吐いてから、私は頭を下げてギターを構えて、私から見て左側の指揮台に立っている植松先輩に視線を送り、お互いに頷き合う。いつでもいいですよ――

 

「――」

 

 植松先輩が息を吸って、指揮棒を振るう。それとともにオーケストラの演奏が始まる。徐々に盛り上がるような形で音が大きくなっていき、約十秒後に私がボリュームペダルを踏み込む。最初に演奏する楽曲は、とある音楽番組を見た事のある人なら一度は聞いた事のあると思われる「#1090」。

 あの人のソロ楽曲の代表曲でもある「#1090」緊張して手が震えるけれど、丁寧に一音一音奏でていく。途中、ワウペダルを踏むところもあるけれど、そこもスムーズに音を出す事が出来た。

 

 そして演奏が終わった瞬間、盛大な拍手がホールに響き渡る。私は一礼してから、ギターを構え直す。静寂が訪れ、植松先輩が振るう指揮棒に合わせて演奏が始まる。次の曲は「イチブトゼンブ」。この流れにするまで大変だった。

 勢いがいい楽曲を押した植松先輩と、有名曲で観客の心を引き寄せたい明石先輩。そして、どっちでもいいから自分達が演奏したい楽曲を言い始める部員の皆さん。私?私は明石先輩と同意見。やっぱり初っ端から飛ばし過ぎるのもどうかと思ったからね。

 

 オーケストラ演奏に合わせて演奏していくと、イントロ途中から手拍子が始まった。これは、今回の演奏会の特徴の一つと言えると思う。オーケストラのライブってのは、普通は静かに聴くものなのだけれど、今回はどちらかというとコール&レスポンスありのライブ形式に近い物になっている。

 これは、私が大好きな声優アーティストさんのオーケストラ・ライブを参考に、今回の形にしようと植松先輩と、明石先輩が提案してくださった。なので、こういうアップテンポの曲になれば自然発生的に手拍子が起こるって訳なのです。

 

 この曲自体はもう十年近く前の楽曲だけれど、ドラマで使われた楽曲だから知っている人多いのは間違いない……と思いたいな。手拍子している人もいれば、演奏に合わせて歌ってくれている人もいるみたいで、歌声が聞こえてくる。演奏している身としては、私達の演奏に合わせてそこまで盛り上げってくれているのは嬉しい限り。

 ギターソロはあの人達のライブアレンジを参考に、そこはアドリブで演奏する。これについては植松先輩達とも話し合って決めた事だから問題ない。ギターソロ後のCメロ部分の主旋律はギターではなく、オーケストラの音。歌詞で言えば「それも本当の事」からギターが主旋律に戻る形。ギターソロの最後を伸ばすから、私の演奏が間に合わないという判断から、皆で話し合って決めたのがうまくいった。

 

 演奏後。先ほどと同じぐらいの拍手が起きた。一度ここでギターチェンジなので、私はボリュームペダルをオフにして、ギター本体のボリュームもオフにしてから、エピフォンの黒いギターを持ってきてくださった大和先輩にギターを渡して、次の準備をする。

 

「みなさん、こんにちは」

 

 マイクを持った、植松先輩が指揮台から降りて客席の方を向いて挨拶をしていた。あちこちから「こんにちは」と元気な声が返ってきた。特に巴ちゃん……「華那ー!!かっこよかったぞー!!」って、大きな声出さないで!ほら、隣にいる蘭ちゃんが顔真っ赤にしているじゃない。という、アフグロとポピパ、なんで見えやすい中央に陣取っているかな……。香澄ちゃん、こっちに大きく手を振っているし……。隣にいる有咲ー!呆れてないで止めて止めてー!

 

「今二曲演奏しましたけれど、その中でも最高のギター演奏をしてくれた子を紹介させてください!……私達、羽丘学園内最高の妹、湊華那!!」

 

 私の紹介をしてくださった植松さんに呼応するように、私は右手を上げて深々と頭を下げた。学園内最高の妹って、誰が言いだしたんですか!?そしたら、また盛大に拍手が起きるわ、私の名前を呼ぶ子は出てくるわ……あの……ただ、お辞儀しただけですよね?って、巴ちゃん!恥ずかしいから大きな声出すの止めて!!ひまりちゃーんとめ……られないよね……。あ、蘭ちゃん諦めた!?

 

「ライブハウスで演奏していた湊華那ちゃんの姿に惚れて、一緒にやりたい!!と、私の我が儘で始まった今回の演奏会の準備だったのですけれど、最高の準備ができたと私達、吹奏楽部の部員も、湊華那ちゃんも思っている……よね?」

 

 と、唐突に私に話しを振る植松さん。私は慌てて何度も頷く。その時点で会場から笑いが起きた。お願いですから、急に話しを振るのは止めてください!後ろに用意しておいた水飲もうとしてたところなんですから!

 

「この後も、皆さんが知っている曲や、知らない曲もあると思いますが、一つの音楽として楽しんで頂ければ幸いです。では……次の曲に行きたいと思います」

 

 そう言って、一度頭を下げてマイクを台に置いて、指揮台へ上がる植松先輩。そのタイミングで左足をボリュームペダルに乗せる。それと同時に指揮棒を振る植松先輩。

 次の楽曲は、発売後からずっとヒットしていると言っても過言ではない名曲、紅蓮華。メインメロディはギターでやるので、最初はピアノとギターの共演。この曲は有名アニメのオープニング楽曲。楽曲のイメージを壊さないようにしながら、丁寧に弾きあげる。

 消せない夢があった。それはもう叶わない。でも、悲しみを乗り越えて、弱さを知ったからこそ今の私――ギタリストとしての私がいるんだ――頭の中で歌詞を思い浮かべながら弾いていく。

 

 そして、その後は赤繋がりという事で、とあるプロ野球選手*1のウォーキングソング*2となったRED!!天井から幕がステージの左右に一枚ずつ降りてきて、観客の皆さんの周りにはCiRCLE有志の方々と、何故か弦巻さんを護衛する黒服さん達が同じ服を着て旗を持って登場。勿論、観客の皆さんから私達が見えるように心掛けての配置だから、そこは心配していない。

 

 

 唯一の心配は、この曲を知っている人がいるかどうか――

 

 

 

 

 その楽曲のイントロが流れた瞬間だった。ステージ上から旗というか、幕?が二枚降りてきた。なぜかそこにはの上り龍が描かれていた。それと同時に、会場の壁側に幕に描かれた龍の旗を持った人達が、一定の間隔をあけて立っていた。

 

「なんか……プロのライブみたい」

 

「だよなぁ。華那の奴、あんな中でよく冷静に演奏できるよな……」

 

 あたしに同意する巴も、演奏もそうだけれど、演出の凄さに度肝を抜かれているような様子だった。というかこの曲、結構知っている人いるんだ。あたしは作曲の参考に――と、華那から教えてもらったから知っているけれど、この曲をオーケストラアレンジしてくるとは思ってもいなかった。

 一番に入る前に、全員で歌えるようなところがあるのだけれど、会場のあちこちから歌っている人の声が聞こえてきたから。オーケストラの演奏会というよりは、完全にライブだよね。そう思っているあたしに、隣にいた巴が

 

「この曲はアタシでも知ってるから、歌うか!」

 

「巴……ヤメテ」

 

 と、イントロの途中から歌おうとする巴に、あたしはカタコトで止めるしかできなかった。

 

「えー蘭も歌おうよー」

 

「らーん?歌わないの?」

 

「あ、アハハ……」

 

 つぐみ以外が煽ってくるけれど、あたしは華那の演奏を聴きに来たの!と答えてから、華那の方を見ようとして前の席にいる香澄達がノリノリで歌っている姿を見て、頭を抱えるのだった。

 何度か頭を左右に振ってから、改めて華那を見れば、真剣な表情でギター演奏していた。気付けばすでに楽曲はギターソロに入っていて、左足でワウペダルを踏みながら音を紡いでいた。きちんと、オーケストラの演奏に合わせるために、何度か指揮者の方を見ながら――だ。

 

 華那の演奏を観るのは、この夏に頼まれた時と、音楽室で練習していた時を入れて三回だけ。だから、こうやって観客席に座って、しっかりと聴く・観るというのは初めてだった。まだ四曲ぐらいしかしていないけれど、既にあたしは華那とオーケストラが紡ぐ演奏の虜になっていた。それと同時に、こうも思っていた。

 

 

 いつかあたし達も――

 

 

 

 REDが終わってから立て続けにMETANOIAを演奏し終え、次は植松先輩が動画サイトで見てオーケストラでやりたい!と提案してきた怪盗三世のテーマから小学生名探偵のテーマのメドレー。

 イントロが演奏した瞬間、観客から凄い歓声が上がった。まあ、イントロ聴けばあの怪盗三世のテーマだと分かるような楽曲だもんね。ギターは原曲ならコーラスが入る部分から。タイミングを合わせてギターをかき鳴らす。

 そして、途中でいったんブレイクが入り、オーケストラだけの演奏になり、終わりと見せかけ再びギターが入る。フルピッキングでメロディを奏でながら、今度は小学生探偵のテーマを奏でる。

 

 怪盗を追う名探偵のようなメドレーに、会場からは驚きの声が上がっていた。このテーマ曲は、私が尊敬する人も劇場版のテーマで演奏した事がある。そのアレンジにしようかと思ったけれど、植松先輩達と相談して、私の色を前面に出す方向でアレンジをしたので、速弾きの箇所が多くなった。

 そして、そのテーマが終わったと思わせてすぐに怪盗のテーマに戻ってオーケストラに合わせて楽曲を終わらせた。演奏が終わってから私と植松先輩は、会場に向かって頭を一度下げる。盛大な拍手が起きた。その光景を見た私は凄い充実感に包まれていた。

 

 まだ、ライブも序盤なのに、ここまで盛り上がっている。ねえ、姉さん。私、凄く充実していて楽しんでいるよ。姉さんに、この光景見せられないのは寂しいけれど、帰ったら、自慢するからね――

 

 

 

 メドレーが終わり、華那と指揮者の人が会場に頭を下げた。私はそれを見て拍手をした。だって、これだけすごい演奏を魅せて、聴かせてくれた華那と羽丘学園の吹奏楽部の演奏力に拍手しないだなんて、失礼だと思ったから。

 

「すげぇな……華那の奴、あんなに楽しそうに弾いていやがる……」

 

「だよね、有咲!!華那、すっごくキラキラしてるもん!!私もいつかオーケストラと共演してみたい!!」

 

 と、私の隣にいる有咲がそう呟くと、香澄が目を輝かせながらはしゃいでいた。りみりんも同意するように、「うちもオーケストラと共演したいわぁ」と、素の口調で言っていた。それだけ、華那達の演奏が凄いという事だと思う。で、おたえはどう?

 

「華那、技術もそうなんだけど、音に感情が凄いこもってる」

 

「あ、おたえ、分かる!演奏してて楽しいって感情が、私達にも伝わってくるよね!」

 

 おたえの言葉に反応する香澄。みんなで、今までの演奏について話していたら、次の演奏についての説明が入った。

 

『次の楽曲は、アニソンの中でも有名曲の一つだと思う「魂のルフラン」という曲です。この曲をオーケストラアレンジにするのは本当に難しく、部員と華那ちゃん。そして顧問の先生と何度も話し合って、作り上げた楽曲です。最初のギターにも注目してください』

 

 そう言った指揮者の方が頭を下げて、指揮台へ向かう。華那を見れば、かなり緊張した表情を浮かべていたけれど、私と目が合って、小さく笑った。「だいじょぶだよ、沙綾」と言っているように思えた。私は頑張れと小さく右手を胸のあたりで拳を作る。華那から見えるか不安だったけれど、小さく華那が頷いたから見えていたのだと思う。

 華那が指揮者の振るう指揮棒に合わせて、演奏を始めた。ギターだけの音が会場に鳴り響く。目を閉じて、メロディを奏でる華那。この曲は、Roseliaがカバーした事のある曲でもあるから、華那はかなり緊張しているのでは?と、思ったけれど、演奏をしている華那を見て、本当に心の奥底から楽しんでいるみたい。本当……華那の演奏は心がこもっていて好きだな。

 

 魂のルフランが終わると、すぐさま私達もカバーした事のある楽曲である千本桜の演奏に入った。かなり速いテンポの曲だから、ギターでメインメロディを奏でるのは難しいと私が思っていると、やはり華那ですら難しいのか、楽曲の途中でかなり険しい表情を浮かべながらもメロディを奏でていく華那。

 頑張れ。頑張って華那。と、心の中で応援しながら華那の演奏を見守る。最終的には無事に弾き終えた華那。演奏が終わった瞬間、ホッとしたのか、盛大に息を吐いていた。見ているこっちも自然と力入ったよ。

 一息ついてからすぐさま、次の楽曲が始まった。怒涛の演奏の流れに華那の体力が持つのは不安になった。本人を見れば、笑みを浮かべて演奏していたから、大丈夫だと信じたい。

 

「華那……頑張れ……」

 

 その私の呟きは、華那達の演奏によってかき消されるのだった――

 

*1
既に引退済

*2
登板する際に流れる曲の事

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