盛り上がっている会場の中、私は大和先輩が持ってきてくださった、レスポールのシグネチャーモデル、アクアブルーにギター交換をしていた。
「凄いっスよ、華那さん!!この調子で後半戦も頑張るッス!」
「ありがとございます、大和先輩。頑張ります。頼りにしていますよ」
「任せてください!」
と、興奮気味の大和先輩に、小さく微笑みながら私は大和先輩にギターを預けた。定位置に戻り、植松先輩に目で合図を送る。植松先輩は小さく頷いて指揮棒を振るった――
次の曲のイントロを聴いた瞬間、後ろにいた巴が驚いた声を上げていた。
「ウルトラマンのイントロだ?」
「いや、巴。なんで疑問形なの……」
呆れた口調の蘭。そう。今オーケストラが演奏したのは、誰もが一度は聴いた事のあるウルトラマンのテーマ曲。オーケストラの演奏がしばらく続いたと思ったら、華那のギターが入ってきて、凄い重厚な演奏が始まった。しかもテンポが速い楽曲。
オーケストラもよくこの速度で演奏できるなと思うと同時に、華那の演奏技術の凄さに私は驚きを隠せなかった。途中アドリブだと思うのだけど、速弾きはするわ、ワウペダルで音歪ませるわ、華那が持っている技術全部出した演奏だった。
「すげぇ……凄すぎる……」
「う、うん。華那の気迫というか全力を見た気がする……」
「華那ちゃん、凄く真剣な表情してた……うち、華那ちゃんの気迫に押しやられそうになった感じやわ……」
「華那凄い……あれだけの技術いつの間に?」
華那の今の演奏に、みんな驚いている様子だった。ギター組は特に思う所があるみたい。中学時代からの付き合いである私ですら、驚いたのだから、後ろにいるアフグロの皆はもっと驚いたんじゃないかな?そう思ってちらりと見れば
「おーこれは、モカちゃんも負けてられませんな~」
「……だね。あたしも、負けてられない」
「おっ、蘭の奴、火がついちまったみてぇだな。ならアタシも負けてられねぇな!」
と、静かに闘志を燃やすギター組と、巴が張り切っていた。うん。良い事だと思うんだけど、巴。もうちょっと声のトーン小さくしようね?そう心の中で呟いていると、次の楽曲が始まった。
次の楽曲もオーケストラから始まる楽曲だったけれども、その同じメロディを途中から華那がユニゾンするように奏でて、一度演奏が止まった。次の瞬間メロディが変わって、ギターが主旋律になった。この曲は、華那が尊敬するギタリストのソロ楽曲である「SACRED FIELD」である事に私は気付いた。
この曲は、喉を痛めて歌えなくなった中学時代から華那が必死になって、何度も何度も練習を重ねてきた楽曲の一つ。それが今、こうやってオーケストラとの共演で演奏できている事に、私は自然と涙が流れた。よかった。華那の努力は報われたんだ――
右手で涙を拭い、演奏に集中しようとしたら、また楽曲が変わっていた。メドレーみたいだ。少しゆったりめの楽曲だったから、なんの楽曲だろうかと首を傾げている間にまた楽曲が変わった。今度はギターとオーケストラのユニゾン。このリフは、夏休みの時に、演奏した「GO FURTHER」!?
「これって、皆で演奏した楽曲じゃない!?あ、私、演奏してないや……」
「だ、だよな!オーケストラアレンジになるとこんな楽曲になるのか!?」
「華那ちゃん、凄い……」
「オーケストラもよく、あのテンポで弾けるね」
華那の演奏技術もそうだけれど、原曲とほぼ同じテンポを演奏しきる吹奏楽部の演奏技術にみんな驚きを隠せないでいた。演奏は最後に入っていて、スローテンポの部分で、華那は、しっかりと音を伸ばしながら一音一音弾いていた。最後はオーケストラと合わせるようにギターを弾いて楽曲を終わらせた。
既に、十曲以上演奏している華那。疲労の色は若干見える。そもそもだけど、私達は全部で何十曲演奏するのか知らないから、華那の体力が最後まで持つのか不安になってきた。
『ありがとございます』
再び、指揮者の方が指揮台から降りて、マイクを持って挨拶をする。その間に、華那が用意していた水を飲んで、タオルで顔や腕を拭いていた。一度天井を見上げて、盛大に息を吐いて会場を見る華那。大丈夫だよね?不安が私を襲う。
『次に演奏する三曲は、私も華那ちゃんも好きなアーティストの有名楽曲です。歌える人は歌って、歌えない人は隣の人の口に合わせて、口パクや、手拍子などして盛り上がっていただければ幸いです』
頭を下げる指揮者の方。それと同時に拍手が自然と起きて、静かになった瞬間、ギターのアルペジオっぽい演奏が流れた瞬間、どの曲か分かった。「今夜月の見える丘に」だ。それと同時に悲鳴にも似た歓声が上がった。それもそうだと思う。この曲は、二〇〇〇年代の名曲の一つだと私は思っているし、今もまだテレビとかでも流れたりしている楽曲だもんね。
でも、この曲やるだなんて思ってもいなかった。というか、指揮者の方も華那と一緒のアーティスト好きなんだ……。そんな事を思いつつ華那の演奏を観る事に集中する。激しいギターソロが終わってすぐにラストサビに入った際に、華那が険しい表情を一瞬浮かべたけれど、すぐに笑みを浮かべていたから、そんな大した問題じゃないみたい。
演奏が終わって、今までで一番大きいんじゃないかってぐらいの拍手が起きたけれど、すぐさま演奏が始まった途端、再び黄色い悲鳴が発生した。それもそのはず。次に華那達が演奏したのは「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」だったのだから。
この曲は、華那が好きなアーティストの最大ヒットソング。華那はそれをしっとりと、弾いているのだけれど、この曲。本当は結構ポップな感じの曲調だったはずなのに、原曲よりゆっくりとした曲調にしているからか、どこか悲しそうな雰囲気の曲になってしまっている気がした。
華那もそれを意識しているのか、ギターの弾き方や佇まいもどこか哀愁あるように見えた。あれ?他の曲みたいに全コーラスやる訳じゃないんだ?あっという間に楽曲が終わった。
「なんだか、華那。寂しそうに見えたね……」
「ああ……ギターの音色にも華那の感情が乗っているような感じだったしな……」
「うっうっ……」
「あ、りみりん泣いてる」
おたえの言葉に反応してりみりんを見れば、本当に泣いていた。いや、そこまで感動したの!?心の中で驚きながら、私はハンカチを取り出してりみりんの頬を流れる涙を拭ってあげながら、りみりんの頭を撫でる。落ち着いた?
「うん、ありがとね、沙綾ちゃん」
いいよ。凄かったもんね、華那達の演奏。そう言ったら、次の楽曲が始まった。「LOVE PHANTOM」のイントロが流れた瞬間、今までと比べ物にならないぐらいの黄色い悲鳴と歓声が上がった。スタッフの人が華那の前にマイクスタンド用意していたけど、なんだろう?何か嫌な予感しかしないんだけど……。
そう思っている私の気持ちを知らない華那が、イントロの途中からギターを弾き始めた。オーケストラとユニゾンするような形で壮大なイントロを演奏していく。そして、ピアノの旋律が流れ、最初のサビ部分から全力の華那のギタープレイが始まった。まるでオーケストラと対決しているかのような錯覚。
さっき見せた華那の全力を上回るぐらいの演奏。そう表現しても過言ではないと思う。だって、額から汗を流しながら演奏に集中する華那の姿に、私は見惚れていたのだから。
一番サビが終わって二番に入るまでの間奏部分の時だった。華那がギターを弾きながら
『君がいないと生きられない
熱い抱擁なしじゃ意味がない
ねえ、 2人でひとつでしょ yin & yan』
と、ラップ部分をやり始めたから、もう何度目か分からないけれど会場から黄色い悲鳴が上がった。って、華那、喉大丈夫なの!?私の心配をよそに華那は続ける。
『君が僕を支えてくれる
君が僕を自由にしてくれる
月の光がそうするように
君の背中にすべりおちよう
そして私はつぶされる』
この前のライブの時のような事にはならずに、華那は歌い切った。いや、歌うというか語り切ったというべきかもしれない。その勢いのまま演奏を続ける華那。二番に入ってもオーケストラとの対決は終わらない。ギターソロ最後の方はライブアレンジを意識した感じのアレンジで、オーケストラと一緒に音符の階段を駆け下りるような演奏をして、Cメロに入って、最後のサビへと盛り上がっていった。
アウトロ部分も華那はアドリブで演奏していた。安定した速弾き、そして哀愁たっぷりの音色。まるで、歌詞にある「君」を失った主人公の悲しみを表現するかのような、そんな印象を私に与えてくれた。
演奏が終わり、華那と指揮者の方が同時にお辞儀をする。それと同時に拍手と歓声が起きる。凄いよ華那。これだけの人を感動させられる演奏できたんだよ。後で、どういう光景がそっちから見えたか教えてね――
植松先輩とほぼ同時に頭を下げた瞬間、凄い拍手が起きた。「今夜月の見える丘に」の、ギターソロからラスサビ移行する際、少しタイミング遅れたかと思ったけれど、上手くカバーできたみたい。
『ここで……次の楽曲に移る前に、シークレットゲストをお呼びしたいと思います!!』
私が水分補給している際、植松先輩がそう言うと、会場からざわめきが起きだした。それもそうだと思う。ゲストが誰か
それでも……それでも次の二曲は、できれば姉さんとやりたかったなと思ってしまう自分がいた。一曲は、
でも、私の願いなんて叶う訳がない。姉さんはここにはいないし、知らない誰かと演奏する事になっても、私は全力を尽くす――だけなんだ。そう。全力で演奏すればいい。それだけ……。そう考えるのだけれど、自然と視線は下を向いてしまった。そんな時だった。
「何を俯いているの、華那。本番中よ、集中しなさい」
「え?」
「華那、かっこよかったぞー!今から、あたし達も参加するから楽しもう!」
「わぷ!?り、リサ姉さん!?」
私の頭を撫でるリサ姉さん。え、どういうこと?混乱している私にさらに追い打ちをかけるように、アコースティックギターを持った紗夜さんが
「華那さん。素晴らしい演奏でしたよ。私達も負けてられませんね」
「さ、紗夜さんまで!?」
「かっなっさーん!!あこもいますよー!!」
「華那ちゃん……私も……いるからね?」
と、スタッフの方々が推してきた大きい台車?っぽい物の上に置かれたドラムとキーボードへ向かうあこちゃんと燐子さん。ロ、Roselia全員集合しているんだけど、どういう事!?ね、姉さんライブじゃなかったの?
「ええ、ライブよ。私の大切な華那のライブゲストとしてのね」
私の問いに小さく微笑みながら、私の頭を撫でる姉さん。その際に、会場からもう何度目か分からない黄色い悲鳴が上がったけど、今の私にそれを気にしているだけの余裕はなかった。
『では、改めて紹介させてください!今、話題のガールズバンド!Roseliaの皆さんです!!』
植松先輩がそう言うと、姉さん達が一斉に会場にお辞儀をした。今もまだ、現状を理解できていない私は、その様子をどこか遠い所の光景のようにしか思えていなかった。それに気付いたのか、姉さんがやってきて。私に耳打ちしてきた。
「華那。
「……姉さんこそ、私についてきてよね!」
姉さんの言葉に、私はやっとこれが現実なのだと受け入れる事が出来た。だから、姉さんにそう返すと、姉さんは小さく笑って私の頭を一撫でしてから、ステージの中央に立ちマイクを持って挨拶を始めた。
『改めて、Roseliaです。今回、吹奏楽部の植松さんから、お話しがあり、私達がゲストとして演奏させて頂きます。今回ギターを演奏している、妹の華那と共演するのは、Roseliaとしては初めてですが、私達の全てを賭けて演奏します。……聴いてください。Orchestral Fantasia』
姉さんがそう言って一礼する。拍手が起きて静かになった瞬間、紗夜さんがアコースティックギターを奏でる。私はタイミングを合わせてボリュームペダルを踏んでエレキギターをかき鳴らす。
あこちゃんがドラムで疾走感あるリズムを叩いて、一気にイントロが盛り上がっていく。
『粉雪が舞う夜なら 涙も隠しやすくて』
イントロが終わり、姉さんの歌声が響き渡る。本当に、姉さん達と一緒に演奏しているんだ。そう思ったら涙出てきそうになったけど、演奏に集中しなきゃ。ギターを演奏しながら姉さんの後姿を見る。真剣な表情で、しっかりと力強く歌い上げる姉さん。
その歌声を聴きながら、植松先輩の指揮を見て、オーケストラの演奏に合わせる。二番になった時に、リサ姉さんがやってきて私と背中合わせで演奏する形になって、二人で視線を交わして笑みを浮かべる。リサ姉さん……ううん。Roseliaの皆とこうやってライブするのは初めてだったから、どうなるかと思ったけど、そこはやっぱりRoselia。私以上に経験を積んでいる訳で、きちんと合わせてきている。
ついて行くだけで必死になりそうになるけれど、私も負けてられない。ギターソロの時に、今持っている技術全部引っ張り出して、燐子さんのピアノ旋律に合わせるように速弾きをしていく。
『この
最後のサビの『嗚呼苦しいほど』の部分で姉さんが、しゃがみ込むように歌ったから、一瞬何があったのかと思ったけれど、ただ感情を込めて歌っていただけのようで、その後も綺麗な歌声を披露していた。ビックリして演奏止めそうになった。心臓に悪いことしないで欲しいと思う。けど、姉さんがここまで感情を込めて歌うのも珍しいよね?
演奏が終わり、すぐさま燐子さんのピアノソロから楽曲が入って、あこちゃんが力強くドラムを叩く。それからオーケストラと私達の音が重なり合う。次の楽曲は「深愛」。さきほどのシンフォニックロックテイストな楽曲と違い、切ないバラードの楽曲。
『突然走り出した 行く先の違う二人 もう止まらない』
この歌詞の部分。私と姉さんの事のように思ってしまう。姉さんはRoseliaのヴォーカリストとして、私はただのギタリストとして別々の道を歩き始めた。そして、今日……姉さん達と、オーケストラの中心でライブができるだなんて……思いもしなかった。
本当、吹奏楽部の皆さんには感謝しかない。最初断ったのに、私の事を待っていてくれて、そしてこんなサプライズをくれたのだから。本当ありがとうございます。その気持ちを込めて演奏を続ける。
『さて、続いての曲なのですが、友希那ちゃん。お願いしていい?』
『まったく……きちんとそう言うのは先に言っておいて頂戴』
『アハハ……ごめんなさい』
深愛の演奏が終わった後。植松先輩が次の楽曲の説明を姉さんに投げ、会場が笑いに包まれた。紗夜さんが自分のギターに持ち替えて私の隣にやってきて、準備をしているけど、何をするつもりなんだろう?
『次の楽曲は、私達Roseliaの楽曲……「BLACK SHOUT」です。知らな人の方が多いと思います。ですが……私達Roseliaは全力で演奏します。聴いてください。「BLACK SHOUT」』
姉さんがそう言ってから私を見る。その目は「華那、弾けるわよね?」と私に伝えているように思った。だから私は力強く頷いた。演奏が始まり、イントロ部分で私はアドリブで、前あこちゃんと燐子さんと一緒に練習した際にやったアレンジを奏でる。
『不条理を壊し 私は此処に今 生きているから 【SHOUT!】』
紗夜さんと私は同じメロディラインを弾いていく。オーケストラがいるから、いつもの演奏と比べても音の分厚さが違うし、何よりもアレンジが違うから弾いている方も曲の印象が変わる。
間奏部分は紗夜さんと私のギターバトルに発展した。最初は紗夜さんがワウペダルでいつも通りの演奏をしていたのだけれど、途中で入れ替わるように私が本当は燐子さんのピアノ部分と重なるように、フルピッキングで音を奏でていく。
『覚悟で踏み出し 叶えたい夢 勝ち取れ今すぐに!【SHOUT!】』
あこちゃんのドラムの後に、全員で小さくジャンプしながら音を合わせて演奏を終えた。このライブで一番充実した三曲だったかもしれない。そう思っていると姉さんが会場を見渡しながら
『Roseliaでした。ありがとうございました』
と挨拶をして頭を下げていた。それに倣うようにRoseliaの皆も頭を下げて退場する準備に取り掛かっていた。あ、ここまで……なんだ。と、落ち込みそうになっている私に姉さんが近づいてきて
「華那。後は、あなたのステージよ。思い切ってやってきなさい。……私もすぐそこで見ているわ」
「姉さん……うん!頑張るね!」
私の右肩に手を置いて、微笑みかけてくれた姉さん。私は出来る限り笑みを作って答えたのだけれど、自然に笑えていたかな?ちょっと自信ないけれど、次の楽曲は私がやりたいと言った二曲だから集中しなきゃ。
『次の楽曲についてなのですが……華那ちゃん。紹介してもらってもいい?』
と、いきなり話しを振ってくる植松先輩。あ、明石先輩が体振るわせて怒りに耐えている姿が見えた。これは、演奏会終わった後が怖いやつだ。ま、まあ明石先輩が怒る理由も分かる。さっきから曲紹介について、打ち合わせに無いアドリブで進行している植松先輩。それに対して明石先輩が怒らない訳がない。小さく息を吐いてからマイクを右手に持ち
『改めまして湊華那です。皆さん、ここまでお付き合いありがとうございます』
そう言って、一度お辞儀をすると拍手が起きた。頭を上げて
『次の曲なのですが、私の名前の一部にもなっている漢字で読みが違う「華」という曲です。この曲は、私が尊敬するギタリストの楽曲のひとつでして、どうしても今回、演奏したい楽曲でした。なので植松先輩達にお願いをして、演奏させて頂ける事になった曲です。……聴いてください「華」』
再び頭を下げて、マイクをマイクスタンドに戻して演奏する態勢に入る。植松先輩の腕の動きに合わせてオーケストラの演奏が始まる。小さく息を吐いてから、タイミングを合わせてギターを弾く。この曲は、分厚い音よりも少しクリーンというか儚さを意識した音で演奏する。
それと同時に、私の中で日本の四季折々の華が舞っているのをイメージしながら演奏する。四季が変わっていく様子って言えばいいのかな?それをかなり意識した楽曲だと個人的には思っている。春に始まって、夏秋冬と季節が変わって、最後はまた春に戻ってきて桜の花びらが空を舞っている――そんなイメージをしながら最後まで演奏していった。
演奏を終えると、最初は静まり返っていた会場が拍手に包まれた。その様子を見て、少し安堵の息を吐く。あまり有名な曲じゃないから、不安はあったけれどこの反応は、演奏してよかったと思える反応だった。そのまま「恋歌」へと演奏は続いて行ったけれど、それも、演奏後の反応は上々。私の全部を込めて――ってのは大袈裟かもしれないけれど、気持ちを込めて演奏したのは間違いない。
『ありがとうございました!』
植松先輩と私はほぼ同時に会場の皆さんへお辞儀をしてから、一度退場する。この後アンコールの声が起きれば、アンコールを二曲する予定だから。起きなければそのまま演奏会は終了――となるはずなのだけれど、会場からは「アンコール」と「もう一回」という声が上がっていた。
「みんな!もう二曲行ける!?」
「いけまーす」
「やれまーす」
「たぶんできますー」
「やだー……」
「たぶんってなんだたぶんって!?あとだれだ!やだ言ったやつ!?」
と、笑いが起きる。吹奏楽部の体力って凄いなと改めて思いながら、私もまだ行ける事を植松先輩に伝えた……のだけれど、明石先輩が私に近づいてきて両肩をもみ始めた。
「みゅ!?」
「あ、ごめん。ちょっと疲れた様子だったから、マッサージしてあげようかと」
急に肩を揉まれ、変な声が出た私に、謝ってくる明石先輩。あ、いえ、だいじょぶです。はい。お気遣いありがとうございます。と言ってから、ギターを持つ。あと二曲。全力で行きます。
公演開始時と同じように、まずは吹奏楽部の皆さんからステージに入っていき、私が最後に入る形になった。全員入っていったところで、スタッフさんに合図をもらってからアクアブルーのギターを持ってステージへ向かう。
ステージに入った瞬間、歓声が上がった。緊張もしているけれど、どこか心の中で楽しもう――って、思っている自分がいた。ギターの準備をして、植松先輩に視線を送る。植松先輩は小さく頷いて指揮に集中する。それに合わせるように私がギターの演奏に入る。
アンコール一曲目は「ETERNAL BLAZE」!この曲をアンコール一曲目にするって話しはスムーズに決まった。この曲は私の好きな声優アーティストさんの代表曲のひとつで、激しい楽曲かつ熱い曲だ。そんな楽曲をアンコール一曲目に持ってきて、会場に来てくださっている方がついてこられるか不安はあったけど、皆盛り上がっているから問題ないみたい。
というか、お願いだから巴ちゃん、そんな大きな声で歌わないで!!こっちまできちんと届いているから!!
巴ちゃんの暴走は蘭ちゃんとつぐみちゃんに任せて、演奏に集中しなきゃね。ギターでこの歌詞を表現していく。これはアニメの主題歌だったのだけれど、この歌詞は個人的には主人公の女の子を守りたいと、もう一人の主人公格の女の子――この主題歌の前の作品だとライバルだった位置にいた子なんだけど、その子の想いだと勝手に思っている。
声優アーティストさんが書いた歌詞だから、きちんと調べたら違うかもしれないけれど、今はそんな気持ちを抱いて演奏を続ける。勿論、オーケストラとの演奏を楽しむのは忘れない。
ギターソロは完全にアレンジして、アドリブに近い形で演奏してしまったけれど、そこはご愛敬でお願いしたい。演奏を終えると、本編終えた時よりも更に一段と大きい拍手の音が会場を包み込んだ。
凄い。凄く綺麗。この光景をずっと見ていたい。みんなが私達の演奏で盛り上がってくれていて、それで私の名前を呼んでくれて、応援してくれている。
そんな光景が綺麗なのは当たり前だよね?姉さん達はこの光景を何度も見ていたのだと思うと、羨ましいなと思う反面、今この瞬間のこの光景は、私達だけのものなんだ。
『アンコールありがとうございます!』
植松先輩の声で私はハッとして、ギターを構え直す。感動している場面じゃない。まだもう一曲残っているのだから。もう一曲が凄い難しい曲だし、演出もド派手だから、しっかりしなきゃ!
『本当に、楽しい時間というのはあっという間で、次の曲で最後となります』
植松先輩がそう言った瞬間、会場から「えー」や「まだやってー」などの声が上がった。本当……演奏してよかったって思え瞬間だよね。植松先輩が会場の人達を宥めつつ続ける。
『今回の演奏会は、本当に色々と学ぶ事が多かった演奏会でした。ですが、ゴールはここじゃありません。私達吹奏楽部は全国大会を目指していますし、華那ちゃんも、もっと先を目指して……るよね?』
『は、はい!』
だから、急に話しを振らないでください!!と、言いたい私は植松先輩に抗議の視線を送る。会場からは笑いが起きていた。もう!頬を膨らませようかと思ったけれど、そうしたらまた何かされそうだから耐える。
『では、次の目的地目指して、私達は走り続けたいと思います。最後の曲。歌える人は思いっきり歌っちゃってください。「
歓声が上がる。この曲はラグビーの代表応援ソングとしてCMで流れている曲。植松先輩が私を見ながら、指揮棒を振るう。最初は私のギターだけで始まるから、私はそれに合わせて演奏を始める。ギターだけのイントロが終わり、一瞬の静寂の後にオーケストラとギターが同時に入る。
「エイエイエイオーエイエイオー」
歌ってくれている人の声が聞こえる。その声を聞きながら演奏に集中していく。ギターを弾くのが楽しい。二十曲以上やってきて、疲れはある。でも、この中で演奏できる事の楽しさの方が上回っていた。そして、
『ゴールはここじゃない まだ終わりじゃない』
その部分を私が弾いた瞬間。ステージ下から会場に向けて、桜の花びらを意識した紙吹雪が舞いだした。歓声が上がる。私も演奏しながら自分の上を舞う紙吹雪を見て笑う。綺麗な光景。ずっとこの場所にいたい。そう思ってしまうほどの景色。
これを考えてやれるように調整してくださった、まりなさん達CiRCLEの皆さんには感謝しかない。
『今日を生きるため
明日を迎えるため
誇り高きスピードでTRY』
最後の歌詞の部分で、会場全体で「TRY」の声が響き渡る。最後の「エイエイエイオーエイエイオー」は演奏しながら、私もマイクに声が拾われるように歌う。これは予定に無かった事だけれど、そのぐらいは許してもらおう。会場全体で盛り上がっていき、最後はオーケストラの皆さんと一緒に音を合わせて終わらせた。その際、私だけジャンプして演奏を終わらせたから、少し恥ずかしくなってしまった。つい、勢いで……。
『本当にありがとうございます!改めて紹介させてください!!最高のギターを弾いてくれたギタリスト……湊華那!!』
植松先輩の言葉に合わせて、右手を上げて深々とお辞儀をする。巴ちゃんの声が最初に聞こえて、その後に香澄ちゃん達の声が聞こえた。いや、本当、最後まで聞いてくれてありがとうね。途中恥ずかしかったけど……。
え?植松先輩なんです……一言?また急ですね!?私と植松先輩のやりとりで会場が笑いに包まれる中、私はマイクを持って
『最後までお付き合いいただきありがとうございました!本当に今この空間、この瞬間、この景色を見ていて、本当凄い綺麗だなって思っています』
私の言葉を誰もが一言一句聞き逃すまいと聞き入っていた――と、言うのは大袈裟かな?でも、皆静かに私の言葉を聞いてくれている。
『ずっと、この景色を見ていた気持ちもありますけれど、今演奏した「兵、走る」の歌詞でもあり、植松先輩が仰られていた「ゴールはここじゃない」。その言葉を忘れずに、これからも一生懸命練習して、またいつか、皆さんの前で演奏できる日が来ることを楽しみにしています!今日は、本当にありがとうございました!!』
最後にもう一度、深々と頭を下げる。拍手が自然と起きて、私の名前を呼ぶ人の声が聞こえる。……本当やってよかった。演奏中も楽しかったし、なによりも凄く貴重な経験が出来た。
吹奏楽部の皆さんも立ち上がって、植松先輩の合図とともに会場に来てくださった皆さんへ頭を下げて、退場していく。私は、植松先輩に向かって歩いていき、舞台の中央で植松先輩と向き合って、右手を差し出した。植松先輩も意図を理解してくれて、私と握手してくださった。
「植松先輩、ありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとう。楽しかったよ、華那ちゃん」
二人して笑顔で、言って手を離す。本当いい演奏会だった。最後に、植松先輩と二人でもう一度、会場へ頭を下げてからステージから退場した。退場してすぐに明石先輩から渡されたのは、大きな花束。なんでも、今回の主役だから受け取って欲しいとの事らしい。いや、私おまけじゃ……そう言いかけたけれど、せっかくのご厚意だから受け取っておこう。
「吹奏楽部の皆さん、本当にありがとうございました。楽しい、楽しい時間を過ごせました!それと、スタッフの皆さん。本当に支えてくださり、ありがとうございました。皆さんがいなければ、ここまでいい演奏できなかったと思います。本当にありがとうございました!」
と言って頭を下げると、なぜか吹奏楽部の皆さんにもみくちゃにされたのでした。最終的には胴上げされたし。いや、優勝とかしてないヨネ!?って、リサ姉さんとあこちゃんまで何混ざってるの!?
本当、酷い目にあった。最終的には姉さんと紗夜さんが十回目辺りで止めてくれたから何とかなった。いや、本当はもう少し早めに止めて欲しかったです……はい。
え、さっきの花束持った状態で、みんなで写真撮る!?え、ちょ、待てよ!?そんな事を言っている間に、植松先輩と明石先輩に挟まれるように中央に陣取る形で、写真撮影となった。あの、姉さん?なんでスマホ構え……いやもういいです。ハイハイ笑顔笑顔……。
演奏後に色々とあったけれど、最高の演奏会だったのは間違いない。この後も、いっぱい練習して色々な場所に立ちたいな。
――でも、私はこの時思いもしなかった。これが私の――――になるだなんて――
セットリスト
1.#1090
2.イチブトゼンブ
3.紅蓮華
4.RED
5.METANOIA
6.ルパン三世のテーマ~コナンのテーマ~ルパン三世のテーマ
7.魂のルフラン
8.千本桜
9.BRIGHT STREAM
10.Theme from ULTRAMAN
11.SACRED FIELD~RED SUN~GO FURTHER
12.今夜月の見える丘に
13.愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない
14.LOVE PHANTOM
15.Orchestral Fantasia(Roselia登場)
16.深愛
17.BLACK SHOUT(Roseliaここで退場)
18.華
19.恋歌
~アンコール~
20.ETERNAL BLAZE
21.兵、走る