「華那さんをRoseliaに入れる?」
「ええ」
練習の間にとった短い休憩時間。私は紗夜と話していた。突然の私の提案に困惑した表情を浮かべる紗夜に、今すぐではないという事を付け加えてからその理由を話す。
「紗夜が感じたかどうかはわからないけれど、私はこないだの演奏会でゲスト出演して三曲演奏した時、華那の音と一緒になる……そんな感覚があったのよ。まるでRoseliaを正式に組む前の感覚……それに似ていたわ」
「それは……」
どこか言い淀む紗夜。ええ、分かっているわ。これは私だけの感覚かもしれないわ。だから、今すぐという訳じゃないと言ったのよ。そう。私と華那は姉妹だ。だからこそ、他の人が感じなくても、私が華那と共鳴――とでも表現しようかしら。そういう感覚になってもおかしくはないわ。
だから、紗夜。貴女の意見を聞きたくて話したのよ。華那にギターの基礎を叩きこんでいる貴女だから、依怙贔屓せずにきちんとした評価を下せるはずよ。紗夜は私の言葉を着て右手を顎に当てて考える素振を見せた。しばらく黙っていた紗夜だけれども、小さく息を吐いて頷きながら
「……ええ。私もあの時――Roselia結成前の演奏の時と同じような感覚がありました」
「そう……でも、正直に言ってオーケストラという第三者がいたという可能性もあるのよね」
私のその言葉に頷く紗夜。そう。あの時は、吹奏楽部のオーケストラ演奏があったからこそ、また違う感覚だった可能性は否定できない。
「ですから、『今すぐではない』という訳ですか」
「ええ。勿論、華那を入れるのが前提でもないわ」
そう、私は華那をどうしてもRoseliaに入れたいという訳ではない事を伝えておく。あくまでRoseliaが更に先へ進むために、一度一緒に演奏してみるのはどうかと提案してみただけなのよ。それは分かってもらえるかしら?
「それは分かっています。ただ……それだと華那さんが……」
複雑そうな表情を浮かべる紗夜。紗夜の言いたい事は理解しているわ。もし、私達の感覚がオーケストラによるものだとしたら、華那をいたずらに傷つけるだけの行動にしかならない。それは重々理解しているわ。
「……ええ。分かっているわ。だから、練習の手伝いで来てもらって、二曲ぐらい練習で合わせてみるというのはどうかしら?あくまで、ライブに向けた練習前のウォーミングアップ的なセッションなら、華那を傷つけないですむはずよ」
「それなら……ええ。大丈夫かと。しかし……もし、華那さんがRoseliaに入ったら、ギターが分厚くなりますね」
小さく笑みを浮かべる紗夜。そうね。今までの楽曲も、ツインギターでも大丈夫な楽曲ばかりだから、編曲はすぐにできるわね。というより、ライブでも同期させてギター音源流しているぐらいだから、逆に生音になるからいいと思うのだけれど……。紗夜はその点についてはどう思う?
「ええ。私もそれについてはいい方向に影響が出ると思っています。勿論、華那さんには負けるつもりはありませんので」
「ふふ……それでこそ紗夜よ。さて……そろそろ練習再開しましょう」
私は、リサとあこ、燐子に声をかけて練習を再開する事を伝える。三人で何を話していたのかしら。練習が終わったら聞いてみようかしらね。今は練習に集中よ。練習が終わり、今日は羽沢さんの所で反省会をする事となったのだけれど、ちょうどそこにいた美竹さんと口論になってしまった。私としては普通に言ったつもりだったのだけれど……。
そして、そこにいた華那に二人して説教を受けたのだった。いえ、華那?私なにか――いえ、なんでもないわ。続けて頂戴……。
その時の私は翌日、事態が大きく動くだなんて知りもしなかった――
その日の朝。起きてすぐに自覚できるぐらいの体調不良に私は襲われていた。最初は予定よりも早く女性特有の日が来たのだと思って、学校へ行く準備をしながら、それに対応できる準備をした。でも、それとは違う不調だというのに学校に来てから気付いた。お腹と胸が痛い。と言っても我慢できる範囲だったから、学校に来て普通に授業を受けていた。
「華那ちゃん大丈夫ー?」
「華那さん、大丈夫ですか?え?私?いやだなぁ、この沖野奏恵がそう簡単に吐血なんて……こふっ!?」
「吐血したぁぁぁ!!??」
「あー……いつもの事じゃ。放っておけ。で、華那の字。顔色が青を通り越して土色になっておるぞ?」
「
授業の合間合間に、皆が心配して声をかけてくれたけれど、私はだいじょぶと伝える。というかノッブちゃん。土色ってかなりまずい状況なんじゃ……。でも、このぐらいの痛みは特有の日でもよくある痛みだから、我慢できる範囲。だいじょぶだいじょぶ。そう自分に言い聞かせながら授業を受ける。尚、奏ちゃんは保健室に搬送されていきました。
昼休み。ちょっと食欲が無かったので、学食でサンドイッチをもらって保健室に行って、大崎先生に事情を説明してベッドで横になって、昼休みの時間だけ休ませてもらった。午後も授業は受けるつもりだ。
あ、寝る前に姉さんに一応連絡しておかないと。今日は一緒に食べる予定だったから、探しているかもしれないし。そう思い、スマホを操作して姉さんに「保健室でちょっと休むから」と入れる。念のため休むだけだから心配しないでとも付け加えておく。
でも、それが急激に変わったのが体育の授業中の事。今日はバレーボールという事で、チームを組んで試合をしていた最中だった。体調不良という事で、見学しながらクラスメイトを応援していた私だったのだけれど、うちのクラスのチームの子が、相手のサーブを拾おうとした時、お腹が急激に痛くなって、立ってた私は立っていられなくなり、その場に蹲るように倒れ込んだ。
「華那!?」
「華那ちゃん!?」
突然倒れた私に驚く蘭ちゃん達。試合を中断して、みんなが集まっているのは分かっていたのだけれど、あまりの痛さに返事をする余裕もなく、皆の声が遠くに聞こえた。どんどん痛みが増してきて、最終的に私は意識を手放した――
「華那しっかりして!!」
お腹を押さえて苦しんでいる華那に声をかけるけれど、返事すらできないのか、華那は呻き声を上げるしかできていなかった。しかも凄い汗をかいてる。お腹とはいえ、体を激しく揺さぶる訳にはいかず、あたし達は必死に華那の名を呼んでいた。クラスの子の中には泣きだしてしまっている子もいた。
そんな中、体育の先生が他の子に急いで保健室の大崎先生を呼んでくるように冷静に指示を出した。それを聞いた私は、何故か湊先輩を呼ばなきゃと考えてしまい、先生に
「先生。あたし、湊先輩呼んできます!!」
「あ、おい!美竹!!」
「あ、蘭!!」
先生と巴があたしを呼び止める声を無視して、あたしは体育館から全力で二年生の教室へと向かう。急げ。急げ、あたし――
「――――で、あるからして、ここの公式は――」
授業を受けつつ、私は華那大丈夫かしらと心配でいた。朝から調子が悪いのは誰がどう見ても明らかだった。でも、華那が言うには“あの日”が早く来ただけだとの事らしい。私とリサから見てもその“あの日”としては重そうに思えた。だから、何か違う病気なのではないかと心配になっていた。
昼休みも、スマホに「保健室で休むね」と連絡が来たのには焦った。家に帰らせた方がいいのではないかと思ったけれど、休んでよくなったとの連絡が来た。それを信じて、私は授業を受けていた。そう……
「失礼します!!湊先輩はいらっしゃいますか!?」
勢いよく教壇側の扉が開いたかと思えば、息を切らせた体操着姿の美竹さんがいた。しかも私がいるかと確認してきた。私は立ち上がりどうかしたのかと聞こうとしたのだけれど、先に美竹さんの言葉を聞いて、思考が停止した。
「
その言葉にざわつく教室。そのざわめきで何とか復帰した私は、先生に「妹の所へ行きます」とだけ言って、美竹さんに目で「行くわよ」と伝えて走って華那の所へと向かう。
全力で走りながらどういう状況かを、息絶え絶えに美竹さんに問う。美竹さんも息を乱しながらも、突然お腹を押さえて倒れ込んで、声かけても返事がない事を説明してくれた。そして、保健室の大崎先生を呼んでいる最中とも。
「はあはあ……それで華那の……はあ……意識は?」
全力で走りながら会話しているから、息が上がっているのは仕方ない事だと思う。美竹さんも同じ状況でありながらきちんと答えてくれた。
「ハッキリ……言って……あるか……ないか……分かりません……!」
「そう……急ぐ……わよ……!」
「はい……!」
あまり運動神経はよくないと自覚はしているけれども、この時だけは全力で最短距離を最速で走る。体育館に着くと、華那の級友たちが輪を作って心配そうな表情を浮かべているのが見えた。一部では泣いている子を宥めている子もいた。私は息を整える事もせずにその輪へと向かう。
「あ……友希那先輩」
「え?」
「ほ、ほら皆。道開けて!!」
と、まるでモーゼの十戒に出てくる海割りのように道を開けてくれた、華那のクラスメイト達。私はありがとうと伝えて、華那を診断している大崎先生に声をかける。
「先生……華那の……妹の容態は……!?」
「湊姉か……。今救急車呼んでもらったところだから、あんたもついてきなさい。正直に言って、この状況では私は何もできない」
「そんな……」
保健室の大崎先生が対応できない。つまりそれだけ重症という事なのではないかと私に緊張が走る。大崎先生の隣に座り、私は華那の手を優しく握る。お願い。お願いだから、華那の痛みが和らいで――そう、私は願うしかできなかった。
しばらくして、救急車がやってくる音が聞こえてきて、救急隊の方々が
「誰か、ついてこられる方いっしゃいますか?出来ればご家族の方が――」
「私が行きます。その子の姉です」
救急車に乗せた隊員の方が言い終わる前に私が名乗り出る。それと大崎先生も一緒にいく事が決まり、私と大崎先生は華那と一緒に病院へと向かう。乗っている間、隊員の方に許可を得て、私は華那の左手をずっと握っていた。そうじゃないと、華那がどこか行ってしまいそうな気がしてしまって……。お願いだから、華那。無事でいて。
病院に着いてすぐ、華那の検査が行われた。その結果が出るまでは、私と大崎先生は待つ事しかできなかった。検査している途中、お母さんとお父さんが息を切らせてやってきてくれた。
「友希那……!」
「父さん!母さん!」
椅子に座っていた私は立ち上がる。お母さんが私を抱きしめてくれたけれど、そこまで子供じゃないわ。そう言おうと思ったけれど、母さんの泣きそうな表情を見て、それを言うのも躊躇われた。
「湊華那さんのご両親ですね?私、羽丘学園の保健医を務めさせて頂いている大崎と申します。緊急とはいえ、来ていただいてありがとうございます」
「娘がいつもお世話になっています。いえ、こちらこそ連絡ありがとうございます。それで娘は?」
「ええ――でして――」
父さんと大崎先生が、お父さんに華那が倒れた時の状況を説明していた。私も救急車に乗った際に、救急隊の方に説明していたのを横で聞いていた。体調不良は朝から訴えていた。やっぱり、昼の時点で帰らせておけば――
「湊華那さんのご家族の方いらっしゃいますか」
私が後悔の念に駆られていると、看護師の方が私達を呼んだ。大崎先生はここで待っている事になり、私たち家族だけで呼ばれた診断室に入る。診断室に入ると、看護師の方が一名と、医師だと思う白衣を着た女性の方が一名、険しい表情を浮かべて何かを見ていた。
華那は別室にいるようで、その場にはいなかった。華那に会いたいと、私は思ったけれど、今は華那の状態を知る事が必要よ。我慢しなさい、私。
「湊華那さんのご家族の方ですね。どうぞ、椅子にお座りください」
「……先生、華那の……娘の容態は?」
先生に椅子に座ってすぐに父さんが切り出した。先生は目を瞑って、言い淀んでいるように私には見えた。それが意味する事……。華那の容態が想像以上に重いというのは、容易に想像できてしまった。
「……非常に言いにくいのですが……」
絞り出すように、先生は私達を見る。その言葉を聞いて私は身構える。ただ、心の中で、軽い病気であって欲しいと願う自分がいる。でなければ、あの子の、私達の夢は――
「――――分かりやすく言うと――――です」
しばらく黙り、とても言い難そうにしていた先生が、非常に申し訳なさそうな口調で私達に華那の病状を宣告してきた。その宣告を聞いた私たち家族は言葉を失うのだった。
そう言えば、皆さんが持ってるSisterhoodのイメージソングってなんですかね?
私い、気になります。