Sisterhood(version51)   作:弱い男

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シリアスさん「この小説がほんわかと言ったな」

読者の皆さん「そ、そうだ。シリアスさん」

シリアスさん「あれは……嘘だ」

読者の皆さん「うわぁぁぁぁぁぁ」


#56

 午前中の検査を終え、病室に戻ってきた私は音楽を聴こうとして、昨日からスマホを見ていなかったことに気付いた。慌ててスマホの電源を入れる。すると、なんてことでしょう。通話アプリの通知がとんでもない数字になっているではありませんか――

 

「……見なかった事に――できないよね……うん」

 

 盛大に溜息を吐いてから、私は恐る恐る通話アプリを開いた。クラスのグループトークの数字がダントツで、次がポピパのグループトーク。後は個別トークだね。とりあえず、クラスの方は心配かけてごめん。ついさっきまで検査していたと送る。

 

「って、既読つくの速すぎ!?」

 

 送った瞬間、「あっ」という間にクラス全員の既読数が表示され、怒涛のトークが送られてきた。全員で一斉に送らないで!?ただ、ほとんどが「大丈夫なの?」やら「しばらく入院するって聞いたけど、本当!?」という重複内容ばかりだった。……うん。とりあえず落ち着こう、皆?

 

 正直、どこまで言え伝えればいいかと考える。みんなに心配かけたくないし、今検査したばかりだから、まだ病気の事分かってないと伝えればいいかな。そこまで考えてから文章を入力していく。

 

『昨日も検査したのだけど、今日改めて精密に検査したばかりだから、まだどういう状態か分からないんだ。ただ、心配しないで。必ず皆の前に元気な姿見せるから!』

 

 これでよし!後でバレたら蘭ちゃん辺りから怒られそうだけれど、今だけはこれで許してもらおう。後の事は将来の私に任せた!そう思っていると、既読はつくけれど、返事がない。あれ?皆、どした?

 どうしたのだろうと疑問に思いつつも、他のグループや個別トークの方にも返していかないといけないから、そっちをやろう。きっと後で通知合戦になるだろうし。クラスのトーク画面から一度離れて、他のグループと個別宛に同じ内容を返していく。

 

 ただ、この時の私は知らなかった。既に、皆が私の状態を知っている事を――

 

 

 

 

 華那からトークアプリで返事が来た瞬間、全員授業そっちのけでスマホを先生から見えないようにして即座に返事を返していた。あたしも華那から言葉を読んで、安堵すると共に、複雑な感情が心の中で渦巻いていた。昨日、湊先輩から聞いた()()()()()()()()の事が頭を過ったからだ。

 本人は初期の癌と聞いているけれど、本当は手遅れな状態。薬で誤魔化したとしても、()()()()()()()()。もちろん多少伸びる見込みもあるだろうと、あたしは家に帰ってからスマホで調べて知った。

 ただ、逆もまたある。そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。その可能性を読んだ瞬間、あたしはスマホを落としかけた。華那がいなくなる……そんなの考えたくないのに、考えてしまう自分がいる事に嫌気を覚える。

 

 それに、華那の病気については、華那にした説明と同じように「初期の癌」である事を今朝のSHRで、湊先輩から説明をクラスの皆で受けた。クラスメイトという事と、皆の目の間で倒れた事を考慮しての説明だった。その時の湊先輩の表情を見て、あたしは何も言えなくなってしまった。

 憔悴しきった――とまではいかないかもしれないけれど、ショックを隠し切れていない表情だった。それに昨日はあまり眠れていないのか、目の下にクマができていた。

 華那の姉である湊先輩からの説明を受けて、クラスの皆は黙り込んだ。そこまで大きい病気とは思っていなかったのもあるだろうし、皆、華那の事を大切なクラスメイトだと思っていたから。

 

「ねえ……蘭ちゃん。華那ちゃん……皆に心配かけないようにって、嘘送ってきたのかな?」

 

 授業が終わり、周りから山ちゃんと呼ばれている山梨(やまなし)紗耶香(さやか)さんが聞いてきた。あたしは頷いて

 

「華那、皆が湊先輩から説明受けた事を知らないと思う」

 

「そっか……そうだよね……」

 

 いつもは騒がしいはずのクラス内も、今日は水を打ったかのように静まり返っていた。ただ、皆は初期の癌という事しか知らない。

 後で知ったのだけれど、担任の上条先生にも本当の状態を話したそうだ。流石に、担任の先生に伝えないでおくのはどうかという判断らしい。……確かにそうだ。上条先生ならそう簡単に言わないだろうという安心感がある。

 問題があるとすれば、あたしだろう。あたしが黙っていれば、そう簡単に本当の容態を知られる事はないだろう。ただ、あたしがいつボロを出してしまうか……不安しかない――

 

 

 

 

 放課後のCiRCLEにあるラウンジは、私達Roseliaをはじめとした五バンドとまりなさんが集まっていた。パスパレの全員も仕事がある中、緊急呼び出しに集まってくれたのには頭が下がるわ。

 流石に二十六人も集まれば、いつもは広いラウンジも今日だけは狭く感じられるわね。それと、保護猫のクロが何故か私の膝上に座って眠ってしまっている。か、可愛いからいいのだけれど……。さて……と。全員集まったようだから始めるわね。

 

「急な招集なのに、全員来てくれた事に感謝するわ。早速だけれど、集まってもらった理由なのだけれど……私の妹、華那の事よ」

 

 次に発せられるであろう私の言葉を、全員固唾を呑んで待っていた。昨日、華那が病院に運ばれた事を全員が知っているかどうか確認する。

 

「リサちーから聞いたよ……」

 

「ワタシとアヤサン、チサトサンとマヤサンはグループトークで知りました」

 

「私は薫さんから聞いて……」

 

「あたしとはぐみと美咲は、薫から聞いた花音からよ」

 

「私達、ポピパはリサさんからです」

 

 それぞれ、誰から聞いたかを話す。Roseliaもリサから連絡が行っているし、Afterglowについては、全員同じ体育の授業中だったから知っている。私は小さく頷いてから

 

「昨日の検査した結果なのだけれど……()()()()が見つかったわ」

 

 私が言った瞬間、部屋の温度が一気に下がった。誰もが信じたくないと言ったような表情を浮かべていた。

 

「友希那さん……それは……本当なんですか?」

 

「そんな……華那ちゃん……」

 

「嘘や……嘘や……華那ちゃんが癌なわけあらへんやん……!」

 

「りみ……」

 

 動揺を隠しきれない紗夜と丸山さん。取り乱して関西弁で話す牛込さんを宥める花園さん。()()()()()()()()()()()リサと山吹さん、そして美竹さんは視線を下に落としていた。私はどんな表情を浮かべればいいか分からず、淡々と話しを続けるしかできなかった。

 

「そこまで悲観的にならないで欲しいわ。初期の癌……つまり、治療すれば治る可能性が高いの。もちろん、全員ショックを受けていると思うけれど、一番ショックを受けているのは華那自身なのよ。でも、華那は病気と闘うという意思を見せているわ。だから……貴女達が出来る範囲でいいから、支えて欲しいの……華那を」

 

「友希那さん……」

 

「友希那先輩……」

 

「友希那ちゃんは……大丈夫なの?」

 

 紗夜と戸山さん、白鷲さんが私の表情を見て大丈夫かと聞いてきた。私?私は大丈夫よ。それより、今日集まってもらったのは、華那の状態と、全員で病院に押しかけないようにという注意をする為よ。

 

「なんで、病院に行っちゃダメなんですか!?」

 

「香澄、落ち着けって!!」

 

「え……華那ちゃんに会いに行っちゃダメなの?え、ええ?」

 

「彩ちゃんも落ち着きましょうね?」

 

 私の言葉で、一気に騒々しくなってしまった。言い方間違えたかしらと、私が頭を痛めていると

 

「はいはい。皆静かに。友希那ちゃんは『行くな』とは言っていないから、とりあえず友希那ちゃんの話しを聞いてからでも遅くないよ……だよね、友希那ちゃん?」

 

 と、まりなさんが両手を三度叩いてから、そう言って全員を静かにさせる。流石、まりなさんね。ライブ時に大勢のスタッフに指示を出しているだけの事はあるわ。それとありがとう。

 

「いえいえ、どういたしまして。で、友希那ちゃんはどういう意図であの発言をしたのかな?」

 

「……華那が今いるのは病院よ。私達だけじゃなく、多くの入院患者の方や家族の方が出入りしているわ。それを考えれば、全員で一気に押しかけたら、他の入院されている方々の家族。そこで働いている看護師さんや医者の皆さんに迷惑をかけてしまうのは明白で、下手すれば緊急の治療が遅れる可能性だってある。そうなってからでは遅いわ。その事を全員、考えて欲しいの」

 

 私の言葉に全員黙り込む。そう。華那だけが入院しているのならば、全員で言っても問題はない。でも、私達とは無関係の患者さんだって入院や通院しているのが病院。この人数がいきなり「華那の見舞いです」と言って、押し掛けてしまえば病院内で騒動が起きるのは明白。

 特にパスパレのような芸能人が突然病院にやってきたとなれば、一騒動どころか二騒動三騒動あるのは火を見るよりも明らか。それに、華那も治療が始まれば、体調を崩す事もあり得る。弱っている姿を華那は見られたくないはずだから。それも含めてお願いしたいのよ。

 私の発言を聞いた皆は、それぞれ理解してくれたようだ。ただ一部を除いて――

 

「華那だけじゃないのなら、華那専用の病院を――」

 

「あー、こころ。ちょっと喉渇いたし、一緒に飲み物買ってこない?」

 

「そうね!」

 

 目で「とりあえず一度席外します」と伝えてくる奥沢さんに、私は小さく頷いた。正直、弦巻さんならやりかねないから、上手く話題を変えてくれて助かったわ。二人が出ていくのを見ながら、私からは以上よと伝える。

 

「あの友希那先輩……大人数で押し掛けなければ、お見舞いに行ってもいいって事ですよね?」

 

 と、不安そうに聞いてくる戸山さん。私は頷きながらそうよと伝える。ただ、華那の体調が優れないように見えたら、滞在時間は短くしてもらえると助かるわとも伝える。

 

「わかりました……有咲、明日辺り行ってみない?」

 

「そうだな……心配だしな」

 

 と、話している声が聞こえたけれど、少人数なら問題はないわね。それと、まりなさん。

 

「何かな、友希那ちゃん?」

 

「華那のバイトですけど……華那と話してからなのだけれど、辞める方向で調整してもらえないかしら」

 

「……そうだね。体調が回復してから――って考えると、年単位になっちゃうもんね……」

 

「ええ……」

 

 癌の治療が上手くいったとしても、五年は再発の恐れがある。そもそもだけれど、学校に行きながらバイトをする体力がすぐに戻る訳がない。ただ、華那の意思を聞かないといけない。

 とりあえず、今日の集会についてはこれで解散となったのだけれど、私とRoseliaのメンバーだけはその場に残ってもらった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

「残ってもらってごめんなさいね……今後の練習スケジュールの確認をしておこうと思ったのよ」

 

「友希那さん……大丈夫……なんですか?」

 

「友希那さん……無理してません?」

 

 燐子とあこが心配して声をかけてきたけれど大丈夫よと言って、今後の練習について話す。学校の後に行う練習は、華那の様子を見に行ってからにしたいと伝えると、皆そうなるだろうと思っていたのか、それでいいとなった。

 次に、土日については各々のスケジュールを確認しながら、練習日を決めていく事で話しはついた。あっさりと話がついてよかったと思う反面、気をつかわせてしまった事に申し訳なく思う。

 

「友希那さん……無理はなさらずに。友希那さんが倒れたら、華那さんが悲しみますよ」

 

「ええ……肝に銘じておくわ」

 

 紗夜からもクギを刺された私は、そんなにひどい表情をしているのかと心の中で自問自答したのだった。帰る途中にリサに聞くと、皆に心配されるぐらい酷い表情だと伝えらえた。そう……だったのね。だから今日、クラスの皆も優しくしてくれたのね。気をつかわせてしまったわね……。

 

「正直、私は信じられません。あれだけ元気だった華那さんが……」

 

「紗夜……」

 

 ポツリと呟くような紗夜の言葉に、私はなんて声をかけていいか分からなかった。家族である私がショックを受けているのと同じぐらいに、華那が病気になった事に全員ショックを隠せていない。

 伝えるべきじゃなかったかもしれないと思ったけれども、伝えなかったら伝えなかったで、後で何を言われるか分かったものではないわね。……正直、本当の病状を黙っているのだから、後で何を言われても仕方ないのだけれど。

 

「友希那……大丈夫だよ。大丈夫だから」

 

「リサ?」

 

 私が何を考えているのか理解したようで、私の手を取って元気づけようとしてくれるリサ。でも、リサ。貴女も泣きそうな表情浮かべているの気付いているかしら?

 その後、話し合いを終えた私とリサは病院へと向かった。華那の様子が気になったからだ。昨日の今日だけれど、本人もショックを受けているはずだし、なによりも不安があるだろうから。

 病室の前に立ち、入ろうとするのだけれど、どんな表情で入ればいいのか分からなくなってしまい、私は立ち止まってしまった。

 

「友希那?」

 

「っ……ええ。今入るわ」

 

 リサが心配そうに声をかけてきた。大丈夫よ。少し考え事をしていただけよと、伝えてからノックをして病室へと入る。

 

「はーい……って、姉さんとリサ姉さん!」

 

 と、入院患者用の服を着た華那が、ベッドで腰掛けて足をプラプラさせていたけれど、私達に気付いて満面の笑みを浮かべた。それを見た私は胸が痛むような感覚に襲われた。でも、それを表に出さないように心掛けつつ

 

「華那、体はどう?」

 

 華那の隣に座り、優しく頭を撫でながら私は問いかけた。華那は気持ちよさそうで、目を細めながら

 

「午前中は検査につぐ検査だったから、結構忙しかったかな?でも、午後は特にこれといって何もなくて、暇だったからお母さん達が持ってきてくれた小説読んでいたよ」

 

 午後の退屈を思い出したのか、頬を少し膨らませる華那。そのいつもと変わらない姿に私とリサはホッとした。華那には初期だとは言ったけれど、ショックを受けているはずだと思っていたから。……いえ、もしかしたら無理して普段通りを演じているだけかもしれない。

 

「そっかー。なんなら今度、アタシが読んでる漫画本とか持ってこよっか?」

 

「いいの!?リサ姉さんありがとう!」

 

 リサが気を利かせて、華那に今度漫画本を貸す約束をする。その会話が終わってから、私は華那に今日の検査について聞く。先生はなんて言っていた?

 

「やっぱり()()()()()()()()()()()って言っていたよ。薬の準備とかもあるから来週から本格的に治療始めるって言っていたよ」

 

 ちょっと、残念そうな表情を浮かべる華那。その発言を聞いて、昨日の検査結果が間違いではなかった事を突き付けられた私。でも、今はそれを表情に出すわけにはいかないわ。だって、華那の前なのよ?気付かれたら――

 

「……そう、なのね。分かったわ。その事、母さんと父さんにも伝えておくわ」

 

「うん、お願いね。あ、お願いついでにもう一つお願いしていい、姉さん?」

 

 何とか絞り出すように出した声だったけれど、華那は気にした様子を見せずにお願いがあると言ってきた。なにかしら?

 

「うんとね、いつでもいいから、ギター持ってきてほしいんだ。やっぱりギター弾いてないと落ち着かなくって……。あ、どっちでもいいよ。姉さんが持ってきやすい方で」

 

 と、苦笑いを浮かべながら話す華那を、私は見ていられなくなった。神様がいるというのならば、なんで……なんで華那の全てを奪うの?そんな考えが私の中に生まれた。でも、華那に気付かれるわけにはいかない。

 

「ええ、分かったわ。明日にでも持ってくるわ」

 

「ありがとう、姉さん!」

 

 平常心で答えたつもりだったけれど、大丈夫だったかしら。そろそろ時間という事もあって、私とリサが帰ると伝えると、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた華那。でも、すぐに笑みを浮かべて

 

「気をつけて帰ってね。また明日ね!」

 

「っ……ええ。華那。また明日」

 

 そう言って、私とリサは病室を出て、病院の入口まで二人黙って歩く。病院から出る前。会計の待合所で、私は我慢していた感情が爆発してしまい、その場にしゃがみ込んで涙を流した。

 

「友希那……いいよ。泣こう。私も泣くから……」

 

 しゃがみ込んで泣く私を支え背中を優しくさすりながら、リサがそう声をかけてきてくれた。会計の待合所の椅子に座り、二人で抱き合うように泣く。華那が私達に一瞬見せた寂しそうな表情。あれは、夜という長い時間、独りで過ごす事への不安。そして、病気への不安が入り混じっていたに違いない。そんな華那を置いて帰るしかできない自分が情けない。

 どうして華那がこんなつらい目に合わなきゃいけないの?その答えを知る人は誰もいない――

 




正直に言います。
ここまで、読者の皆さんに華那が愛されるとは思っていませんでした……
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