Sisterhood(version51)   作:弱い男

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シリアスさん「HOT SERIOUS~配給過多~」

読者の皆様の一部「B'〇じゃねーか!!」

シリアスさん「(・ω<)」

読者の皆様「(#^ω^)」


では本編どうぞ


#58

 治療を始めてから、私は癌治療への認識を改めていた。癌治療を甘く見ていた――

 

 ここまで辛いだなんて、想像以上。食べた物を全部戻しても、吐き気が襲ってくる。胃の中が空っぽだというのに――だ。それと同時に手足のしびれが若干ある。これも抗がん剤治療の副作用との事らしい。

 戻したせいからか、今の私はとてつもない疲労感に襲われていた。ベッドの上で横になるにしても、楽な姿勢を見つけるまでに、かなりの時間がかかった。正直、姉さんや沙綾達がいなくてよかったと、本気で思っていた。いたら、大騒ぎになっていたのは間違いないから。

 頭だけ動かして、窓から見える空を見る。清々しいほどまでの青空が広がっていて、私の状態と真逆な風景。それを見た私は、自虐的に笑うしかできなかった。

 

 治ると信じてはいるけれど、心のどこかで治らないかもしれないって思っている自分がいる。正直、「これだけやれば必ず治る」という病気じゃないのは、私だって理解しているつもり。下手すれば、手術を行う事だってあるのだから。

 

「……しんどい……」

 

 誰もいないから小さく呟く。誰かがいたらきっと呟かなかった言葉。体が弱っているからか、気持ちもそれに引きずられるように弱気になっていった。ダメよ、華那。気持ちだけでも強く持っていなきゃ。そう自分に言い聞かせるけれど、正直に言って、逃げ出したい。

 気持ちを紛らわせようとイヤホンをして聴いていた音楽。そんな私の気持ちを表したかのような歌詞が出てきた。

 

『逃げ出したくなるような夜に 抱きしめていてくれるのは誰』

 

 この曲、本当は別れた彼女との思い出や後悔を歌った物だと私は思っている。なのに、今この瞬間。その部分だけ聞いてしまうと、弱い気持ちの自分を表現したかのような錯覚をしてしまう。

 

「華那ちゃーん、起きてる?」

 

「はい……」

 

 看護師さんが私の様子を見に来た。イヤホンを外して、返事をするけれど、今まで見たいな元気な声が出せなかった。体全体が重くて、声帯すら上手く動かせないような感覚。本当、この状態でだいじょぶなんだろうかと不安になる。

 

「かなり辛そうだね……お昼ご飯、食べられなそう?」

 

 心配してくださる看護師さん。もうお昼の時間だったらしい。正直、今食べてもすぐに戻すのは確定しているから、私は小さく頷く。

 

「そっか……本当は、栄養取らなきゃいけないんだけど……ちょっと、先生と相談してくるね」

 

「は……い」

 

 そう言って、病室から出ていく看護師さん。この時の私は気付いていなかった。看護師さんが、私の状態を見て、今にも泣きそうな辛そうな表情をしていただなんて――

 

 

 

 華那の治療が始まって約二週間が過ぎた。たった二週間だというのに、華那の体は痩せたように見えた。実際、石田先生に聞いたところ、すでに五キロ以上体重が減っているとの事らしい。本人もそれには気付いてはいるらしいのだけれど、やはり薬の副作用であまり食事をとれていないそうだ。

 本人は私達にきちんと食事していると話していたけれど、そんな嘘をついてまで私達に心配かけないようにとしているののは明白だった。誰が見ても、頬が少しやつれ、疲労の色が濃い表情で言われて、誰が信じられるというの。

 

 華那だって治療していて、精神的にも肉体的にも辛いはず。私が見舞いに行った際。目の前で吐いた事が何度もある。それだけ肉体的に過酷な副作用が華那を襲っているという事。

 最初、その場に居合わせた私は、何もできず、ただ茫然とその様子を見ている事しかできなかった。石田先生からは聞いていたけれど、何もできない自分が情けなかった。

 

「あ、姉さん」

 

 学校が終わり、見舞いに来た私の姿を見て、辛いはずなのに笑みを浮かべて、上半身を起こそうとする華那。私はそれを制止して、寝ていていいと言って、椅子に座る。

 

「体調はどう?」

 

「うーん……良くもなく悪くもなくってところかな?」

 

 苦笑いを浮かべてそう言ってくる華那。これは嘘ね。かなり悪いに決まっている。どちらつかずの状態なら、体を簡単に起こせたはず。でも、私の言葉に甘えて、体を起こさないで横になっているという事は、かなり悪い状態だという事。どうして華那がこんな辛い目に合わなきゃいけないの?

 

「……そう。無理はしちゃダメよ?」

 

「分かっているって……心配性だね……姉さん」

 

 小さく笑う華那。私は優しく華那の手を取って握る。華那も握り返してくれたけれど、その力は今まで色々な場面で手を握ってきた華那の物とは思えないほど弱々しかった。

 

「姉さん……」

 

「なに?」

 

 私の名を呼ぶ華那。その目は不安の色に染まっていたけれど、華那の口から出た言葉は真逆の物だった。

 

「私はだいじょぶだから、そんなに心配しないで。ね?」

 

「華那……」

 

 華那の言葉に泣きそうになる。辛いはずなのに、不安なはずなのに華那は、私の心配をしてくれている。私の目に涙が溜まっているのは、気付いていた。でも、泣く訳にはいかない。だって、一番つらいのは華那なのだから。

 

「だからね……ときには泣いたっていいんだよ?」

 

 辛いはずなのに体を起こして、握っている手とは逆の手で優しく私の頭を撫でる華那。その言葉で私は我慢の限界だった。華那に優しく抱きしめられるように、私は華那の腕の中で泣く。

 

「ごめん、華那……貴女が辛い時に何も……してあげられない……姉で」

 

 華那が辛い時に何もできない自分が情けなくて……今、辛い本人の腕の中で泣いてしまっている事への懺悔。華那は優しく私の背中をさすりながら

 

「そんな事……無いよ。姉さんやみんながいるから、私頑張れるんだから」

 

「華那……ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

 何に対しての謝罪なのか、自分でも分からなくなってしまったけれど、私は謝罪の言葉を何度も繰り返したのだった。

 

「姉さん。私の事が心配なの分かるけど、きちんと学校もRoseliaの活動もしなきゃ怒るからね?」

 

 落ち着きを取り戻した私は、華那にもう大丈夫だと伝えて、華那から離れて、椅子に座り直す。それと同時に弱々しい笑みを浮かべながら、私にそう伝えてきた華那。でも――と、言おうとしたら、華那が私の口に右人差し指を当てて

 

「姉さん。今、私は一旦お休みしているだけ。だからその間も、姉さんやRoseliaは頂点に向けて練習して、私が復帰した時に『私達はここにいるわ。早く追いつきなさい』って、私のずっと前で立っていて欲しいの」

 

「華那……」

 

 華那には言っていない本当の状態の事。それを知らないから言える華那。でも私は――

 

「それにね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ……華那。貴女……」

 

 華那の言葉に、私は言葉の詰まってしまった。華那自身、()()()を覚悟している。それなのに私は――

 

「分かったわ……私も頑張るわ……だから、華那……」

 

「うん。私も頑張る」

 

 笑みを浮かべて、私を優しく抱きしめる華那。その体は小さく震えていた。私も華那の体を優しく抱きしめ返す。お願い。私達から華那を奪わないで。どうか……どうか、華那がまたRoselia(私達)と一緒に演奏する機会が訪れますように。そう願わずにはいられなかった。

その後、二人して落ち着いて、他愛のない話しをして私は帰宅しようと、帰る途中に山吹さんと街中で出会った。どうやら山吹さんは練習の帰りのようで、私と同じで学校の制服姿だった。

 

「友希那先輩……こんにちは」

 

「山吹さん、こんにちは……練習の帰りかしら?」

 

 私に気付いた山吹さんが、笑みを浮かべて挨拶してきたので、私もあいさつを返して問う。私の問いに頷きながらそうですと答える山吹さん。その表情はやや暗い。

 

「少し……時間あるかしら?少し話しをしましょう」

 

 その表情を見た私は、自然とそう提案した。正直に言って、山吹さんの様子から見て、練習もうまくいっていないわね。きっとポピパ全員が落ち込んでいて、まともな演奏は出来ていないはず。山吹さんは、少し驚いた様子だったけれども、私の提案を呑んでくれて、山吹さんの家で少しだけ話す事になった。

 山吹さんの家に来るのは……華那がびしょ濡れで泣いていた時だから、Roselia結成直前ね。あれから五か月近くが経っているのね。本当、この五か月。本当に濃い日々を過ごしていたわね。

 

「それで、山吹さん。練習……あまりうまく言ってないようね」

 

「はい……友希那先輩よく分かりましたね?」

 

 山吹さんの言葉にやっぱりと、心の中で頷く。山吹さん、自分では気を付けていたかもしれないけれど、表情に出ていたわよ。……正直、私も今の状況なら、まともに歌えるかは分からないわ。でも、華那と約束してしまった。()()()()()()()()()()と。

 ああ、強要するつもりはみじんもないわ。ただ、今どういう気持ちか誰かに話すだけでも少しは楽になるんじゃないかしら?それに……

 

「それに?」

 

「山吹さんと私も、華那と同じで付き合いは長いわ。なら、話しやすいと思ったのよ」

 

 そう。華那のお陰で山吹さんとは何度もライブハウスで会っていたし、一時期ドラムを辞めていた時期も、華那に連れられてパンを買いに来た事もあった。他のバンドメンバーに比べれば、私達姉妹と、山吹さんの付き合いは長い部類に入るだろう。

 それに、華那の本当の状況を知っていて、負担は多くのしかかっている。なら、頼んだ私ができる事と言えば、その負担を緩和できるように、話しを聞いてあげたりする事だと思った。……今までの私なら考えもしなかった事ね。

 

「……正直、華那がいなくなったらって、考えたら不安で……」

 

「……」

 

 ぽつりぽつりと話し始めた山吹さん。寝ても、途中で目が覚めて、華那の安否を知りたくなる日もあるとの事らしい。それが影響してか、ここ数日は、学校生活でも些細なミスをする事が増え、練習でもうまくドラムが叩けない状況との事。それに引っ張られるように、Poppin'Partyの演奏事態がガタガタになってしまっているそう。

 山吹さんが華那とは本当に仲が良いのは私も知っている。だから、山吹さんを襲っている不安は私と同等だと思う。ええ、最悪を想像するのは分かるわ。私もそうだから。

 

「そう……ですよね。友希那先輩は、家族だから尚更……」

 

 母親が入院して、バンドを辞めた事のある山吹さん。そのぐらい大切に思っていてくれているのだろう。それは本当にありがたいと思う。でも

 

「華那は今、辛い思いをしながらも闘っているわ。私も、さっき、華那の前で泣いてしまったのだけれど、今は華那が少しでも生きる希望……とでも言えばいいかしら。私達が、前へ進む姿を見せなければいけないわ」

 

「前に進む……」

 

 ええ。そうよ。と、答えてから、私は今日華那から言われた事を山吹さんにも話した。山吹さんも辛いのは百も承知よ。でも……それでも――

 

「華那に、そんな表情見せるつもり?」

 

「それは……」

 

 私の言葉に戸惑う山吹さん。そんな表情を見せたら、間違いなく今日の私の二の舞になる。それは他の人にも言える事なのだけれど、今は華那の親友とも呼べる貴女だから言っておきたいのよ。

 

「……華那は、私達が学校やバンド活動している間も、独り病室にいるわ。その孤独は私達には到底理解できないものよ。なら……私達が会いに行った時ぐらい、華那が笑顔でいられるようにする――それが私達が今できる最大限の事じゃないかしら?」

 

「華那が笑顔でいられる……ようにする……」

 

 今日、華那と話していて私は、華那の不安は独りで病室にいるのも影響しているのだと気付いた。私と話していた最後の方で、華那は笑っていたのだから。本当に、辛いのは分かっているわ。でも……私達が前に進まなければ、華那は自分のせいだって思ってしまうわ。それは……山吹さんも避けたいでしょう?

 

「はい……でも……私にできるか……分かりません」

 

 俯いて、力なく呟くような声で話す山吹さん。それはそうよ。私だって、今こうして話しているけれど、明日になったらうまく立ち回れていないかもしれないわ。私達は感情がある人間よ。そう簡単に割り切れる訳が無いわ。でも――

 

「私は……いえ、私達は華那が追い付くと信じて進むしかないの」

 

「友希那先輩……」

 

 華那の言葉を思い出す。先に進んでいて――その言葉を信じるしかない。華那に嘘をついているのは、確かに後ろめたい気持ちもあるし、罪悪感もあるわ。でも……頑張っている華那が心配だからって、私達が歩みを止めるのは違うと思うのよ。

 

「強制はしないわ。でも、出来る事なら、山吹さんも……Poppin’Partyの皆も、一歩とは言わないわ。半歩でもいいから前に進めるように、歩みを止めないで欲しいのよ」

 

「……そうですね。……分かりました。友希那先輩……ありがとうございます。話し聞いてくださって」

 

 頭を下げる山吹さん。やめて頂戴。私は、貴女に重い枷を与えた人間なのよ?そう簡単に頭を下げるべきじゃないわ。

 

「いえ、友希那先輩と話しをしなかったら、私はまたあの頃と同じ事を繰り返したはずですから。本当にありがとうございます」

 

「そう……」

 

 再び頭を下げる山吹さんを見て、私はなんとも言えない感情が芽生えていた。ただ、山吹さんの方は覚悟を決めたのか、あった時よりもいい表情を浮かべていた。これなら大丈夫そうね。

 その後は、他の人達の様子や、羽丘の方の華那の知り合いの様子など情報交換して、山吹さんの家を後にした。華那に心配かけない……今の私に何ができるかを考えて――

 

 

 

 その翌日。CiRCLEの練習後に会ったAfterglowの美竹さんと宇田川さんと言い争いのような形になってしまい、対バンする事になったのだった。どうしてこうなるのかしらね?本当……。

 

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