「カ・ナ・ちー!!」
「え、日菜せんぱ……むっきゅ!!??」
昼休み。花曇り、校舎の輪郭も――という季節はとうに過ぎているけれど、今日は姉さん達と昼食をとるために私は移動中。だったのだけれど、突然背後から氷川さんの双子の妹である日菜先輩から声をかけられた。
そして、その声に反応した私が振り返った瞬間だった。日菜先輩が私に飛びついてきた。その勢いで私は日菜先輩に潰された。飛びついてきた瞬間に見た日菜先輩の顔は、本当にキラキラしていて、なんだか
「華那ちー?あれ?華那ちー大丈夫ー?」
「キュウ……」
尚、私は日菜先輩に潰されて意識を失う事になった――
「……あれ?ここ……どこ?」
目を開けると、視界に入ってきたのは見知らぬ天井だった――うん。この間、読んだ小説の一節にあったような文章だけど気にしない。起きたばかりの頭で考える。えっと、日菜先輩に飛びつかれて――
「華那、起きたのね?」
「あ、姉さん」
私を覗き込むような形で姉さんが現れた。ここ何処と聞くと「保健室よ」と答えてくれた。そっか。私、日菜先輩に飛びつかれた拍子に潰されて気絶したんだっけ。
「心配したわよ。リサが血相変えて私のクラスに来たと思ったら『友希那、大変!華那の意識がないの!』って言うから私も慌ててきたのよ」
「……ごめん、姉さん。心配かけて」
「華那。貴女が謝らなくていいのよ。貴女は悪い事していないのだから」
と言いながら私を撫でる姉さん。気持ちよくて眠気が襲ってきそうだけど、今何時なんだろう?姉さんがいるって事はもしかしたら放課後かもしれない。となると、姉さん達――Roseliaのバンド練習時間が迫っているかもしれないから。
「姉さん、今何時?」
「今の時間?……もう四時よ」
え、四時って。放課後になってから結構時間経っているよね!?ね、姉さん。私、起きたから練習に行って!私一人で帰れるから!と、私が慌てて起き上がりながら姉さんに言うと、姉さんは不思議そうに首を傾げていた。いや、なんでそんなにゆっくりできるの!?
「?……ああ、今日は練習無い日よ。だからそんなに慌てなくて大丈夫よ、華那」
と、苦笑しながら私の頭を撫でる姉さん。あう。まさか練習が無い日とは思っていなかった。は、恥ずかしい。勝手に早とちりして起き上がって慌てた姿を姉さんに見られた事が。
「それで華那。どこか痛む場所はないかしら?」
「うーん……だいじょぶだと思うんだけど……痛っ!」
「華那!?」
ベッドから降りようとした時に右足に痛みが走った。姉さんが慌ててしゃがみこんで私の右足を確認する。右足首を姉さんが少し触ると痛みが走る。これは捻挫だろうなあ。何もしなければ痛くないから、骨が折れているって事はない――と思いたい。
「日菜に抱き着かれた時に捻挫したみたいね……ちょっと待ってなさい」
「うん……」
歩けないぐらい痛い事で姉さんに迷惑かけてしまっている事に私は落ち込む。日菜先輩が抱き着いてきた理由は不明だけれど、私がうまく対応していれば捻挫しないですんだはず。
「靴下脱がすわよ?」
私が落ち込んでいると、姉さんが湿布と包帯を持ってきて私に確認をとってきたので私は頷く。私が驚くぐらいの見事な手際で右足首を包帯で固定させる姉さん。いつそんな処置の仕方習ったの?
「ライブ前に足首にテーピングするのは当たり前でしょ?」
「でも、前までこんなに正確なテーピングできなかったよね?」
「それは慣れよ、慣れ。で、どうかしら、華那。立てそう?」
確認してくる姉さんに、私は一度立ち上がって何歩か歩いてみる。痛みはあるけれど、これなら家まで帰れそう。そう伝えると、姉さんは右手を顎に当てて何か考えて
「確か保健室に松葉杖あったはずよ。もうじき保健室の大崎先生帰ってくるから、使用許可をもらいましょう」
「え、松葉杖ってまた大袈裟だよ、姉さん。私だいじょ「なわけないでしょ。歩くのもやっとなのに」……あう」
と、姉さんに怒られながら額にデコピンをもらってしまった。そして姉さんは「しばらくベッドに座ってなさい」と私に言って自分も椅子に座った。
「そういえば華那」
椅子に座るなり、姉さんが名前を呼んできたのでどうしたのと聞くと
「貴女、きちんとご飯食べているわよね?あまりにも軽かったからビックリしたのだけれど……」
「はいぃ?」
いきなりうちの姉様は何を言い出すのでしょうか?まるで私を抱きかかえたかのような言い方なんだけど!?
「?私が華那を抱っこしてここまで連れてきたのよ。姉として当然じゃないかしら」
と、小さく首をかしげながら言う姉様。うちの姉様がこんなに可愛い訳あるわよ!……ってボケてないでいいか。で、実際問題本当に姉さんが運んだの?
「ええ、そうよ」
「……明日辺りクラスで弄られそう……」
ガックシと項垂れる私。そうでなくても数日前に私がクラスのマスコット的な存在という事が発覚した――と言っても、自覚は若干あった――ので、明日クラスメイトに囲まれて“お姫様抱っこされていたけど、どうだった!?”って聞かれるだろうなあと諦めの境地に入る私。
回答は既に決まっているよ。「意識無いから覚えてないよ!」って。
「でも実際私より軽いように思えたわ。お昼食べているわよね?」
「食べてるよ。姉さんだって知ってるでしょ?時々だけれど、私が姉さんの分もお昼ご飯作ってる事ぐらい」
そう、学食が豪華なうちの高校なのだけれど、週に一回から二回程度の割合で、姉さんとリサ姉さんと私で屋上や中庭で昼食をとる。その為にお弁当を私が作っている。え?姉さん?……ソンナコトキイチャダメダヨー?
「ええ……。でも華那の事が心配なのよ」
と、頭を撫でてくる姉さん。もう。気を抜いたらすぐ頭撫でてくるんだから。これでも姉さんと同じ高校生なんだけどなあ。と思っていると保健室の扉が開いた。どうやら大崎先生がもどってきたみたいで、姉さんが「しばらく待ってなさい」とだけ私に言って立ち上がって行ってしまった。
しばらくすると話し声が聞こえてきて、捻挫のようで一日だけ松葉杖貸してもらえないかと姉さんが確認をとると、大崎先生がなぜかノリノリで「いいよー。二日でも三日でも貸してあげるよー」と使用許可が下りた。いや、先生軽すぎませんか!?
「華那。松葉杖よ」
姉さんが、松葉杖を持ってきて私に渡してきたので、私は手に持った松葉杖を見て
「……使わなきゃダメ?」
「ダメよ。悪化させないためにも、家に帰るまでは松葉杖使いなさい」
母さんか父さんに迎えに来てもらえばいいんじゃないかな?って言おうと思ったけど、二人とも仕事中なので無理だという事を思い出した私は、渋々松葉杖を使う事にした。
帰宅する為に松葉杖を使いながらゆっくりと歩き、下駄箱から靴を取り出し、大丈夫な足だけ靴を履いて、姉さんに履いていない靴を渡す。持てるって言ったのだけれど、それすら許してもらえなかった。
「あ、友希那に華那!って松葉杖!?」
外に出た時にタオルで額を拭いていたリサ姉さんが私に気付いてやってきて驚いていた。どうやらダンス部の練習をしていたみたい。
「あ、華那さーん!だいじょーぶですかー?」
と、リサ姉さんと一緒にやってきたのは私の一個下で、Roseliaのドラム担当の宇田川あこちゃん。ちょっと中二病入っているけど、とっても元気な中学生。あー……とりあえず、姉さんが大袈裟に松葉杖借りたんだー。って言おうと思ったけど、姉さんに怒られそうなので
「捻挫したみたいだけど、念のため松葉杖使って帰るとこ」
「そっかー……華那、無理しちゃだめだぞ?」
「そうそう。華那さん、結構無理するから、あこも心配なんだよ?」
「ア、 ハイ。無理はしないよ?ホントだよ?」
なぜか年下のあこちゃんにすら心配される私。そこまで信頼無いかなぁ。と考えていると隣にいた姉さんが
「華那。貴女、去年の夏に倒れた事、忘れているのかしら?」
「アハハー。ヤダナーネエサン。ワスレルワケナイジャナイ」
冷や汗を大量に流しつつ答える私。そうだった。去年、内部昇格組とはいっても一応受験はあるわけで、勉強の時間増やしてギターの練習して、隣県のライブハウスに行ってバンドメンバー候補探しに行ってたら、夏の暑さにやられて倒れたんだった。忘れてた。
「まったく……それで日菜はどうなったのかしら?」
姉さんがリサ姉さんに確認をとってる。いや、私が気絶してからなにやったの!?
「だいじょーぶだよ!正座させて昼休み中説教しただけだし☆彡」
と、満面の笑みを浮かべて私にウインクしてくるリサ姉さん。いやいやいや!それだいじょぶじゃないよね!?リサ姉さん!?ってか、説教?説教なんで!?
「いやーちょっとね?」
「リサ姉……やりすぎてないよね?あこ心配になってきたんだけど?」
あこちゃんの言葉に私は頷く。昼休み中って事はお昼食べないで説教したって事だと思うんですけど?って、考えていたら校門のところに花咲川女子学園の制服を着た人が一人こちらに向かってくるのが見えた。あれ?あの姿は――
「湊さん。今井さん。華那さん。宇田川さん。こんにちは」
と、私達の前で立ち止まって小さくお辞儀をして挨拶をする紗夜さん。え、紗夜さんがなんで
「あ、紗夜さん。こんにちは!どうしたんですか?」
「うちの日菜が華那さんに抱き着いて意識無くさせたと連絡がきたので、それの謝罪に来ました」
真面目だと思ってましたけど、そこまでしなくてもいいんじゃないかなと内心焦りながら
「さ、紗夜さん。そ、そこまでしてもらわなくてもだいじょぶですよ!私、無事ですし」
「そうですか?松葉杖ついているところを見ると大丈夫のように見えませんが?」
「あう」
私の両脇にある松葉杖を見ながら、紗夜さんがそう言ってきたので私は言葉に詰まる。いや、確かに足首捻挫しましたけど、ただ姉さんが大袈裟なだけであって――
「湊さん、華那さん。本当に、うちの日菜が迷惑をおかけして申し訳ございません」
と、頭を下げる紗夜さん。いや、だからだいじょぶですって!そこまでしなくてもだいじょぶですって!私がワタワタ慌てていると
「紗ー夜。華那が困ってるからそこまでにしてあげなって。そこまで大きな怪我じゃないしさー。ね、友希那?」
「ええ。日菜には説教したから、紗夜が謝る必要はないわ。あとは華那の判断ね」
と、結局私に振る姉さん。いや、だから最初から私は謝らなくてもいいって言ってるじゃない!?と思いつつ
「さ、紗夜さん。本当に気にしなくてだいじょぶなんで、それ以上謝らないでください!」
「そうですか……華那さんが言うのなら、これ以上は私も言いません。ですが、また日菜で困る事があったら言ってください。私からも注意しますので」
「は、はい」
学校は違うけど、やっぱり姉妹だから心配なんだと思いつつ頷く私。姉さんもリサ姉さんもそれ以上何も言う事なく、ここで解散となるかなと思ったら――
「あ、そうだ。みんなでファミレス行きません?」
とあこちゃんが提案してきた。どうやら何か話したい事があるみたい。わたしはだいじょぶだけど、姉さんたちは?
「あまり華那を無理させたくないけど、華那が良いと言うのなら私も行くわ」
「あたしも大丈夫だよ☆」
「そうですね……今日は練習もありませんし、お互いを知るのもバンドとして必要ですし……私も行きましょう」
「おねーちゃんが行くならあたしもいくー!るんってきたー!」
「「「「「えっ!?」」」」」
突然の声に全員が驚きの声を上げる。と、そこには昼休み私に抱き着いてきた日菜先輩がいた。全員の視線が日菜先輩に向かう。それに首を傾げて「どうしたのー?」と聞いてくる日菜先輩にリサ姉さんが
「えっと、日菜?いつからいたの?」
「おねーちゃんが謝ってたところからー」
「日菜!あれほど人に迷惑を――」
と、いつの間にか日菜先輩の目の前に行って怒り始める紗夜先輩、なんか日菜先輩のお母さんみたいだなぁと思いつつ、結局日菜先輩も含めた六人でファミレスに行く事になったのだった。
尚、昼休み、日菜先輩が私に抱き着いてきた理由は「抱き着けばるんってなるかなぁって思ったんだぁ」との事らしい。それを聞いて紗夜さんが頭を抱えていたので、私は黙って紗夜さんにフライドポテトを差し出すのだった。