先に謝罪しておきます。
誠に申し訳ございません。
でも、どうしてもこのシーン書きたかったので、ご理解していただければ……。
シリアスさん「尚、話しはどんどん重くなっていきますぜ、旦那!」
お前は出てくんな!
「先生。やっぱり……状況は……悪いですか?」
十一月も終わり十二月に突入した翌日の月曜日。あっという間に冬の足音が近づいてきている。投薬治療をしては休んでの繰り返しを続け、昨日から再び投薬治療を開始した。その影響で、ベッドに横になった状態の私は、問診を終えたばかりの石田先生に問いかける。自分自身でも、悪化の
姉さんや沙綾。リサ姉と蘭ちゃんは私がかなり痩せた事には触れないでいてくれた。きっと、この四人は
「そう……ね。昨日検査した結果は、今日中には出るけれど、悪い状況には変わりないわ」
「です……よね」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる石田先生。きっと、現状の医学で、今の私の状態から快方に向ける方法はないのだろう。投薬治療に、最近は放射線治療もしているけれど、あまり効果はないみたい。投薬治療や手術に、放射線治療を組み合わせて行うのを集学的治療って呼ぶって、黒瀬看護師長が教えてくれた。いや、なんで私にそんな専門用語教えるんですか……。
それと、最近は薬の強さを一段上げたとの事らしく、髪の毛が抜ける副作用が起きている。枕に結構な量の髪の毛があった時は驚いた。髪の毛……切った方がいいかも。そんな事を考えつつ、次の患者さんのもとへ行く石田先生を見送った。
「……ちょっと……名残惜しいな……」
点滴を打っていない右手で髪の毛に触る。入院してからはケアなんてまともにできていないから、結構バサバサな感覚が手に残る。うん。名残惜しいとか言ってる場合じゃないよね。治ったら、また伸ばせばいいんだ。
ただ、今日は点滴中だし、体動かしたくないほどの倦怠感に襲われているから、今度体調が良くなった日にでも、誰かに切ってもらうか、車椅子を押してもらって、一階にあるっていう美容室にでも行ってみようかな?
今日も平日。学校はいつも通りある。だから、放課後までは独り。苦しい。寂しい。切ない。どうして私が――なんて言葉が頭の中でグルグルグルグル回る。何度も自問自答して、答えなんて出ない事は、分かり切っているのに……。
「早く……放課後に……ならないかなぁ……」
そんな事を呟いて、私は目を閉じた。眠っていれば、少しは苦しさから逃げられるから。でも、その時の私は思いもしなかった。それが本当の意味で私の終わりが近づいている事に――
目が覚めて、少しだけ体を起こして時間を見れば、まだ十一時を少し過ぎたところだった。先生の問診があったのが九時前だから、二時間ぐらいしか寝てない。時間が過ぎるのが遅く感じられる。どうしようかと思った矢先だった。喉が焼けるようなそんな感覚に襲われて、私は右手で口を隠すようにして、何度か咳き込んだ。そして、右手に生暖かい感覚が――
「え……?」
その感触に、見ちゃいけない気がした。きっと見れば、私は――恐る恐る手のひらを見れば、そこにはベッタリと
それを見たと同時に、突然体から力が抜けた。息もしにくくて苦しい。だ、だれか……だれかよばないと。ひっしに右てをのばして、なーすこーるに手をのばす。しかいがぼやけて、うまくとれない。いしきをうしなちょくぜん。うまくおせたかわからないけれど。とおくからこえがきこえたきがした――
「友希那ちゃん。華那ちゃん元気?」
授業と授業の合間の休憩時間の教室。次の授業の準備をしていた私は、誰が話しかけてきたのかと顔を上げる。そこには、少し落ち込んでいるように見える植松さんだった。華那が倒れたのが自分たちの演奏会のせいと思っているようだけれど、それは違うと何度も言っているのだけれど……。
「ええ、元気よ。ただ、まだ時間かかるわ」
嘘は言っていない。数日前からまた投薬治療を始めた華那。入院してから体重がかなり落ちていて、やつれたように見えるのに、本人は『元気だよ』と言うのだから、信じるしかない。
「そっか……。華那ちゃんに、今度演奏会の映像の感想聞きに行こうと思うんだけど、大丈夫かな?」
そういえば、映像貰ったと言っていたわね。まだ観ていないようだから、明日辺りにでも持ち運び用のDVDプレイヤー持っていこうかしらね。私も観たいわね。華那がどんな表情で演奏していたかを観た――
「湊いるか!」
突然、慌てた様子で教室に入ってきたのは華那のクラス担任である上条先生だった。立ち上がって返事をする。上条先生の様子を見る限り、何か嫌な予感がする。上条先生は何か言いかけて、周囲を見て一度口を閉ざして、
「ちょっと来てもらっていいか。確認したい事がある」
「?……分かりました」
上条先生の様子に疑問を抱きながら、私は上条先生の後応用に教室を出る。しばらく無言で歩く上条先生。そして授業開始のチャイムが鳴った。そのチャイムの音が鳴り終わったと同時に、上条先生が口を開いた。
「湊。今すぐ病院に行く。荷物は後で届ける」
「え?」
突然の事に私は瞬時に理解はできなかった。ただ、病院に行くという事は――
「今先ほどお前の保護者から連絡があった。……華那が
「えっ……華那……が?」
突然の事に、私は言葉を失った。昨日まで私と会話していた華那の意識が無い?しかも集中治療室にいる?どういう事――
「湊!?」
「……え?」
上条先生の声に気付いた時には、私は床に座り込んでいた。自分でも気付かないほどショックを受けていたようで、立ち上がろうとするけれど、上手く足に力が入らない。それを見た上条先生が、手を差し出してくれて、それを握って何とか立ち上がらせてもらう。
「ごめんなさい」
「謝る必要はないわ。……正直、私も信じられていないから」
と、下唇を噛みしめながら言う上条先生。私もなんて言っていいか分からず、ただ茫然とする事しかできなかった。その後、上条先生と話していたはずなのに、何を話したのか全く覚えていなかった。ただ、病院へと向かう車の中、私は両手を握って華那の無事を祈る事しかできなかった。
病院について、先生と一緒に急いで集中治療室に向かう。集中治療室の前には石田先生と父さんと母さんが話しをしていた。父さんが私と上条先生に気付いて、私の名前を呼んだ。
「友希那……」
「父さん、母さん!華那は……華那は!?」
状況を知りたい私は、父さんにしがみつくように華那の容態を問う。父さんは、少しの間、考えるように目を瞑っていたけれど、静かに口を開いた。
「いつ目を覚ますか分からない。どう転ぶか分からない危ない状況だ……」
「そん……な………華那……華那っ!!」
集中治療室のガラス越しに華那の名前を呼ぶ。人工呼吸器をつけて、苦しそうに呼吸をしている華那の姿が見えた。どうして……どうして華那がこんなに苦しまなくちゃいけないのよ……どうして……どうして……。私の頬を涙が伝い落ちる。
「友希那……」
私を後ろから抱きしめてくれる母さん。母さんも泣いているのが声だけで分かった。きっと、父さんだって、表に出さないだけで本当なら泣きたい気持ちだと思う。だって、家族だから。
「湊さん。私達医師も看護師達も最善を尽くします」
「先生……華那を……娘をよろしくお願いします」
父さんが石田先生に頭を下げる。その後は、華那が意識を失った時の状況説明を受けた。血を吐いていて、意識を失う前にナースコールを押したようだとの事。苦しかったはずなのに……どうして私は、その時傍にいてあげられなかったのだろう。
状況説明を受けた後、私達家族は集中治療室の前で華那が目を覚ますのを祈る事しかできなかった。
学校も終わった頃の時間になり、私は父さんと母さんに「少し休みなさい」と言われて、華那の病室にきていた。華那が倒れたベッドに腰かけて、華那の温もりを求めるように、左手でシーツを優しく撫でるように触る。そこに華那はいないというのに……ね。
「友希那さん……」
突然、名を呼ばれ、顔を上げれば、そこには紗夜とリサ。そして山吹さんがいた。紗夜は私に近づいてきたかと思うと、いきなり胸ぐらを掴み
「どういう事ですか、友希那さん!!」
と、突然声を荒げる紗夜。リサと山吹さんが驚いた表情を浮かべているのが視界の端に見えた。……分かっている。分かっているわ。紗夜が怒っている理由は。華那の本当の病状を伝えなかった私への怒り。本当の事を黙っていた私が、紗夜に何か言う事は出来ない。いえ、そんな資格はない。私は紗夜の表情を見る事が出来なかった。
「さ、紗夜!?」
リサが紗夜を落ち着かせようとしていたけれど、紗夜は私の胸ぐらを掴んだまま
「華那さんの『病状は初期』だと言いましたよね?なら、なんで華那さんが集中治療室に運ばれているんですか!!」
「紗夜先輩、落ち着いてください!!」
山吹さんとリサが落ち着くように言いながら、紗夜と私を離そうとしている。紗夜が何か言いかけていたようだけれど、私は紗夜の手を掴み
「なら……どう言えばよかったのよ……」
静かに紗夜に問いかける。
「友希那?」
「友希那先輩?」
私の言葉に部屋が静まり返る。顔を上げて紗夜を見ながら、私は想いをぶつけた。
「言えるわけないじゃない!華那が末期癌で、三ヵ月の命だなんて!それを言う覚悟が私には出来なかったのよ!!」
「え……ゆ、友希那さん……末期って……どう……」
私の言葉に狼狽える紗夜。その紗夜を見つめながら
「私だって、全員に言うべきか悩んだわ……でも、皆が華那の事を大切にしていたのを知っていたからこそ、私は本当の事を言えなかった……!全員が平静にいられる訳がない。華那に隠しておく事が出来ないと思ったのよ!!」
「では……華那さんにも隠している――」
「私達家族が華那に『後三ヵ月しか生きれない』なんて言えると思うの、紗夜!?」
逆に紗夜の胸ぐらを掴み、問いただす。もし、日菜が同じ立場になったら、紗夜は言える訳がない。同じ妹を持つ私達だからこそ分かってくれるはず。その時はそう考えていた。紗夜も、私の言葉に何も言い返す事が出来ず、動揺した表情を浮かべながら私を見ていた。
「ゆ、友希那!落ち着いて!紗夜も、一旦落ち着こう。ね、ね?」
私と紗夜を離して落ち着くように必死になるリサ。私は下を向いて、何度も深呼吸をする。私の目には涙が浮かんでいて零れ落ちる前に何度も拭う。さっきも泣いたのに、まだ私の涙は枯れる事が無いみたいね……。こうしている間も、華那は苦しんでいるのに……。
「紗夜……言わなかった事に対しては謝るわ。ごめんなさい。でも……私は言えなかった。それだけは分かって頂戴……」
「いえ……私こそすみませんでした……。あまりにも突然の事だったので……頭に血が上っていました……」
私が紗夜に謝ると、紗夜は自分の行動を冷静に捉えて、紗夜も謝罪の言葉を伝えてきた。華那が運ばれたという事実に、冷静でいられなくなってしまったのだろうと思う。正直、私だって未だに信じたく無い。確かに、薬の影響で横たわっている時間が増えたとはいえ、昨日まで私と話していた華那が突然、集中治療室に運ばれる事態になるだなんて……。
「友希那先輩……華那の状況は……?」
しばらく沈黙が部屋を支配していたけれど、弱々しい声で聞いてきた。もう、ここにいる人間は華那の本当の状態を知っている。もう……隠す事はできない。いえ、隠す必要がない。間違いなく、明日以降にでも、全員に本当の病状を伝えなければいけなくなるのだから――
「どう転ぶか……分からない状態よ」
「そんな……」
「華那……」
「華那さん……」
私の説明に全員言葉を失った。私だって信じたくない。華那がいなくなるだなんて。でも、今の私は何もできない。華那が目を覚ます事を祈る事しか……。
その後も、会話という会話のないまま時間だけが過ぎていった。結局、誰もまともに話す事なく、その日は私以外の三人は家へと帰って行った。ただ、その足取りは重かったように見えたのは、私のみ間違いじゃないはず。
「華那……」
私はまた集中治療室に足を運んでいた。石田先生も私の気持ちを汲んでくれたのか、看護師さん達は何も言わず、案内をしてくれた。華那の表情は、私が来た時に見た苦しそうな表情ではなくなってはいた。……いたけれど、目を覚ます事は無く、静かに呼吸を繰り返していた。
「お願い……お願いだから、また声を聞かせて……」
その私の小さな願いが叶うかどうか分からないまま、一週間という時間が過ぎるのだった――
最初、胸ぐら掴むシーンは蘭にやらせようと考えていました。
でも、華那と同じクラスで、荷物持ってくる役にしてしまったので、話し的におかしくなってしまう。という事で、華那のギターの師である紗夜さんにその役割をしてもらう事にしました。
本当に紗夜さんファンの皆さん申し訳ない……。
あと、作者は医学的な知識は全くありません。なので、おかしいと思われるシーンだったと思いますが、小説内の出来事だという事で一つ……お願いしたいなぁ……と思います。はい。