Sisterhood(version51)   作:弱い男

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シリアスさん「あ、あけましておめでとうございます(震え声
       今年もよろしくお願いします。」

読者の皆さん「もう24日だし、寒中見舞いなのでは?」

シリアスさん「うっせぇわ!」

読者の皆さん「流行に乗ろうとしてるけど、かなり間違ってる!?」


と、言う訳で初投稿です(違う
尚、今回滅茶苦茶長いです。ご注意ください


#67

 年が明けてから、華那ちーの体調はどんどん悪化していた。仕事と学校の合間を見て、おねーちゃんとお見舞いに行った時、あたしもおねーちゃんも気付いた――と言うより、ショックを受けた。

 年明け前、最後に会ったのはクリスマスの翌日だったかな?その時は、上半身だけだけど、華那ちーは起き上がる事が出来ていた。でも――

 

「あ……紗夜さん……日菜先輩……」

 

 弱々しく起き上がろうとする華那ちーを見て、あたしは言葉が出なかった。だって、つい数日前まではまだ……まだ起き上がれていたし、声も今みたいに弱々しくなかったから。それに、咳だってしていなかったのに、何度も咳をしていた。

 

「無理しなくていいですよ、華那さん。そのままでいいですよ」

 

「あはは……お言葉に……甘えま……すね?」

 

 と、起き上がる事を断念して、横になったままの華那ちー。おねーちゃんは平静を保っていたけれど、小さく体が震えていた。あたしは正直、まだ現実を受け入れる事が出来なくて、どう声をかけていいか分からなかった。

 そんなあたしを置いて、おねーちゃんと華那ちーは会話をしていた。なんで……なんで、そんな冷静に話しができるの、おねーちゃん?

 

「最近、寒いですが……無理はしてないですか?」

 

「はい……看護師さん……達が……部屋の温度……調整して……くれるので……」

 

 それって……自分じゃリモコンで調整すら出来ないって事なんじゃ……。あたしはあまりの華那ちーの病状の進行にショックを受けた。でも、今ここであたしが泣いたら、華那ちーおねーちゃんにも迷惑がかかる。華那ちーは、今こうやってあたし達と話している時だって……病気と戦っているんだから。

 

「最近……Roselia……はだいじょぶ……ですか?」

 

「……ええ。大丈夫ですよ。全員、今度こそという意気込みで練習に励んでいますから」

 

「そう……ですか……。安心……しました」

 

 と、おねーちゃんの言葉に笑みを浮かべる華那ちー。その笑みが本当に儚げに見えて、今にも華那ちーが消えてしまうんじゃないかって、あたしは思ってしまった。

 その後、あたしも何とか話しに加わって、学校であった事や、パスパレであった事を華那ちーに話した。でも……正直言って、あたしが平静を保てていたかなんてわからない。華那ちーの状態から、あたしは最悪な結末しか想像できなかった。

 

「あの……紗夜さん」

 

「なんですか、華那さん?」

 

 そろそろ帰ろうかという時間になった時だった。華那ちーが、おねーちゃんをしっかりと見ながら口を開いた。おねーちゃんとあたしは華那ちーの言葉を待った。華那ちーの口から出た言葉は、あたし達が思ってもいなかった事だった。

 それを聞いたあたしは、泣きそうになったけれど、我慢しておねーちゃんの答えを待つ。おねーちゃんは目を瞑って、考えていたけれど小さく息を吐いて

 

「分かりました……()()()()()()()()()しっかり練習してきましょう。それで()()()()()()()()()()()()()。それでいいですね?」

 

「ありがとう……ございます。それと……ごめん……なさい……わがまま……言って……」

 

 華那ちーは、申し訳なさそうにそう言った。おねーちゃんは穏やかな笑みを浮かべて

 

「大丈夫ですよ。華那さん。しっかり()()()()()()()

 

「はい……おねがい……します」

 

 そう二人は約束して、あたしとおねーちゃんは病室を後にした。家に帰ってから、おねーちゃんは部屋に籠ってギターを弾いていた。少し漏れ聞こえてきたけれど、あたしの知らない曲。

 

「おねーちゃん……今……入ってもいい?」

 

 ノックをしながら部屋の中にいるおねーちゃんに問う。ギターの音が止まり、おねーちゃんが入っていいと返ってきたので、あたしは部屋に入る。おねーちゃんはギターを持っていたけれど、ギタースタンドに置いてどうしたのかと聞いてきた。

 

「華那ちーの事なんだけど……」

 

「日菜?」

 

「大丈夫……だよね?華那ちー死なないよね?」

 

「それは――」

 

 突然のあたしの問いかけに、おねーちゃんは言葉を濁した。人間はいつか死ぬ。それはあたしだって十分理解しているつもり。でも……でも華那ちーは……華那ちはー……

 

「なんで辛いはずなのに……笑っていられるのか、あたしには分からないよ……だってこのままじゃ華那ちー……」

 

「日菜……」

 

 わかんない。分かんないよ、華那ちー……。あたし、華那ちーと同じ状況だったら――あたしの目からは涙が流れ落ちて、おねーちゃんをしっかり見て話す事も出来なかった。そんなあたしをおねーちゃんは優しく抱きしめて

 

「日菜……貴女が言いたい事は理解しているつもりよ。でも……華那さんはまだ諦めていない。まだ、病気と戦おうという意思を持っている。だから……私達は信じて待つしかできないの。……華那さんが病気に負けない事を」

 

「おねー……ちゃん……」

 

 おねーちゃんに抱きしめられたまま、あたしは落ち着くまで、おねーちゃんの腕の中で泣くのだった。その頃、華那ちーが無茶をしている事を知る事もなく――

 

 

 

 

 

「華那!?」

 

 あのレスポール・アクアブルーを持って練習していた私は、突然、病室に沙綾の驚いた声が響いた事に驚いた。あれ?沙綾?今日は来ない日じゃなかったっけ?そう問うと、慌てた様子で私に近づいてきて、私からギターを取り上げて、私の背中を支えながら横に座ってから

 

「本当ならポピパの練習だったんだけど……それより、無理しないで!!」

 

 と、私を寝かせようとする沙綾の手を取って、首を横に振る。沙綾が私の名前を呼んで怒っているけれど、お願い。練習させて。ね?

 

「どういう事……なの?」

 

私の隣に座って震えた声で聞いてくる沙綾。ああ……私はまた沙綾を泣かせてしまったのかと、罪悪感に苛まれたけれど、今回の件は私は譲るつもりはない。だって、これがもしかしたら――

 

「ずっと……病院にいるから……演奏……出来てない……でしょ?」

 

「それは……」

 

 沙綾に支えられたまま、私は病気になる前のような、皆と同じペースで話す事が出来ず、途切れ途切れ。それも息を何度も吐いて話す。本当、体が弱くなったのだと改めて思わされる。思考は今までと同じなのに、声を出すという作業がここまで辛くなるだなんて、本当思わなかったな……。

 

「だから……紗夜さんに……お願いして……今度の……土曜日……に演奏……したいって……」

 

 そう。紗夜さんにお願いしたのは、演奏したいから、私の背後からサポートして、一曲だけ演奏するというわがまま。石田先生にも許可は得ている。ただ、呆れた表情を浮かべていたけれど……私のわがままが()()()()()()()頷いたのは……きっと、()()()()()()()()()()()()()()を先生も理解していたからだと思う。

 

「華那……お願い……お願いだから無茶しないで……」

 

「沙綾……ごめん……でも……演奏……したい……んだ」

 

 涙声の沙綾を優しく抱きしめて、私の意思をしっかりと伝える。紗夜さんにお願いしたのは演奏のサポートだけじゃない。()()()()()()()()()()()()()。紗夜さんならうまい具合に理由をつけて連れてきてくれる。そう信じている。ううん。きっと紗夜さんにお願いしなくても、いつも来てくれているのだから、その日も来てくれるはずなんだ。

 でも……確実に来てもらって、紗夜さんのサポートを受けながら演奏する為には必要だったんだ。そう自分に言い聞かせる。

 

「でも……それで体調を崩したら」

 

「だい……じょぶ……この……ぐらいで……崩す……ぐらいなら……もう……前の……段階で……崩れて――」

 

「華那、冗談でもやめて!!」

 

 軽口を叩こうとしたら怒られてしまった。でも、沙綾の表情を見たら何も言えなくなってしまった。今にも泣きそうな表情――ううん。既に泣いていた。だから、私は沙綾の頭を優しく撫でながら

 

「ごめん……ちょっと……軽率……だった……ね」

 

「本当だよ……華那……もっと自分の体大切にしてよ……」

 

 泣きながら私に対して注意する沙綾。本当、沙綾には心配かけてばっかりだな。沙綾だって自分事や、家の事で大変なのに……本当ごめんね。

 しばらくしてから、沙綾も落ち着いたのか、涙声じゃなくて私をしっかりと見つめながら、どうして急に演奏しようと思ったのかと聞いてきた。うん……そうだよね。やっぱり気になるよね。

 

「最近……姉さん……が……元気ない……んだ……」

 

「友希那先輩が?」

 

 私は小さく頷く。そう。クリスマスが過ぎた頃から、私の体調がどんどん悪化していって、咳をするようになって、起き上がる事もままならない状態になった。それを見た姉さんの表情から、笑みが消えたように思う。あくまで私が思うだけだから、何とも言えないんだけれど――と、沙綾に伝える。でも、沙綾も気付いていたようで

 

「最近の友希那先輩……余裕が無いように見えたのは気のせいじゃないんだ……」

 

 と、自分の勘違いと思いたかったのか、そう小さく呟いた。やっぱり姉さん無理しているんだ……。その原因が私なんだ。私が病気になって、どんどん弱々しくなっていく姿を近くで見ているのは――家族である姉さんだ。

 きっと、普段は気丈に振る舞っているだろうけれど、家で独りになればきっと――

 

「だからね……姉さんに……元気……出して……もらえる……ようにって、……ちょっと……チャレンジ……」

 

「でも……分かったよ。でも、私もその演奏に参加するから。それが条件」

 

「え……」

 

 不満そうな沙綾だったけれど、何か閃いたかと思ったらそう言ってきた。唐突な提案というか、条件に私はなんて答えていいか、わらなくなってしまった。だって、私と紗夜さん、そして――だけの本当に小さい小さいセッション。そのつもりだったから。

 

「ど、ドラム……どう……するの?」

 

「ふふふ……無茶しようとしている華那には絶対に教えない」

 

「えー……」

 

 と、悪戯な笑みを浮かべる沙綾でした。本当……どうやって持ってくるんだろう?それ以前に、看護師長の黒瀬さんに許可取っておかなきゃ……。その後、やる楽曲について説明をする。きっと、今の姉さんや私に必要な楽曲だと思うから。

 テンポの事も話しあった私達。最後に沙綾が

 

「もう二人、援軍呼ぶから楽しみにしててね!!」

 

「あの……沙綾?」

 

 すっごく楽しみにしている沙綾だけれど、あの……無理やり連れてくるのは無しだよ?そんな私の不安をよそに、沙綾は「大丈夫大丈夫。華那は心配しなくていいからね」と言って、病室から出て行ってしまった。あの……ほんとにだいじょぶなんでしょうか?

 私の不安をよそに、ちゃくちゃくと準備は進んでいった。私の体調は崩れるどころか、今年に入ってから一番いい状態と言ってもいいぐらい調子が良かった。ただ、それが回復に向かっているかと言われれば違う。これは……蠟燭の灯が最後に輝きを放つように、私の最後が近づいているという事なんだ――そう、私は理解していた。

 

 

 そして、約束の土曜日――

 

 

 

 その日も、練習前に華那の見舞いへ行こうとした私は、家を出てすぐに紗夜とリサと会った。二人とも自分の楽器を持っていた。

 

「おはようございます。友希那さん」

 

「おはよう、友希那。今から華那の所行くんだよね?私達も一緒に行っていいかな?」

 

「おはよう、リサ。ええ、構わないわ」

 

 なんでそんな事を聞いてくるのか疑問に思ったけれど、大勢で行って病院に迷惑にならないかという事を言いたかったのかしらね。でも三人ぐらいなら、問題ないと思うわ。これにあこや戸山さん達がいたら話しは変わってきていたと思うけれど。

 でも、紗夜がいるとは思っていなかったわ。この時間に私の家の前にいるって事は、かなり早く起きてきたわけよね?歩きながら聞くと

 

「準備の時間がありましたが、いつも通りの時間で間に合いましたよ」

 

「紗夜……いつも何時に起きてるの?」

 

 苦笑いを浮かべつつリサが紗夜に聞いていた。紗夜の事だから、六時前には起きていそうな気がするわね。そんな雑談をしながら病院へ向かう私達。その中で、私は二人に……いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()に内心安堵していた。

 ここ最近、自分自身でも無理をしていつも通りを振舞っているのは自覚している。家に帰れば、両親は仕事か病院に言っているから、私以外誰もいない。華那が入院する前は、華那がいたから、まだ話し相手はいた。でも、今、華那は病気と戦っている。だから、私が弱気になってはいけない。そう心を奮い立たせて日常を過ごしていた。

 

「あ、そうだ。友希那。病室行く前に、ちょっと中庭寄ってかない?」

 

「?リサ……どうして?」

 

 突然のリサの提案に、私は首を傾げるしかなかった。まだ、時間的に病室に行くには早いとの事らしい。確かに言われてみれば、土曜日にしては早い時間に家を出たわ。となると、もしかしたらまだ朝食が終わってない可能性もあるわね。……いえ、流石にそれは無いわね。

 

「分かったわ。少し遠回りしていきましょう」

 

「そうですね。他の病室の方々に迷惑になってはいけませんからね」

 

 私と紗夜はリサの提案に賛同し、病院の入口をくぐり中庭へと向かった。そして、中庭に着いた時、私は信じられない光景を目にしたのだった。

 

「友希那先輩、リサさん、紗夜先輩。おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 と、中庭にいたのはドラムをいつでも叩けるような状態の山吹さんと、キーボードの音を確認していた市ヶ谷さん。そして、それを見守るように残りのポピパの三人とAfterglowのメンバー。そしてあこと燐子がいた。なんで貴女達が?

 と、問う前に椅子に座り、ギターを構えて、指を動かしている華那の姿を見て私は慌てた。

 

「華那!?」

 

「おはよう……姉さん……待ってたよ」

 

 と、私の動揺に気付いているはずなのに、笑みを浮かべる華那。どういう事、リサ!?

 

「ごめん、友希那。華那からのお願いは断れなかったんだ」

 

 と、言いながらベースをケースから取り出して準備を始めるリサ。何が起きて――いえ、何をしようとしているの?

 

「姉さん……演奏……するから……歌って」

 

「華那……」

 

 動揺している私に、華那がアクアブルーのギターを愛おしそうに撫でながら、そう伝えてきた。演奏するって……華那、貴女自分がどういう状況か分かっているの?まともにギター持てる訳が――

 

「だいじょぶ……それに……姉さん達に音で……伝えたいんだ。私は……だいじょぶ……だって」

 

 華那は笑みを浮かべたままそう言って、私の言葉を待っていた。演奏するであろう、山吹さん、リサと市ヶ谷さん。華那の後ろに座り、サポートをするのだろう。紗夜も黙って待っていた。でも……もしこれで華那が体調を崩したら……それこそ取り返しのつかない事になる。

 私はどうすればいいの……。色々な考えが浮かんでは消える。そんな私を見かねたのか、美竹さんが近づいてきた。

 

「友希那さん……あたしからもお願いします。華那のお願い聞いてあげてください」

 

 と、美竹さんが頭を下げて私にお願いしてきた。その行動に驚いた私は、思考が停止するぐらいの衝撃を受けていた。あの美竹さんが、頭を下げた?華那の為に?動揺している私に、次々と集まっていた戸山さんや羽沢さん達が頭を下げてきた。

 異様とも言える光景に、私は黙っていたけれど、華那の想いと、私に頭を下げてお願いしてきた皆の想いを受けて、小さく息を吐いてから

 

「華那。私は何を歌えばいいのかしら?」

 

「!……Brotherhood……なんだけど、ちょっと……演奏……速度、遅いから……気を付けて……」

 

 私の言葉に一瞬だけ驚いた表情を浮かべた華那だったけれど、すぐさま笑みを浮かべてそう言ってきた。大丈夫よ。演奏速度が速かろうが遅かろうが、私は最高の歌声を披露する。そうでしょ、華那?

 

「うん……ごめんね……それと……ありがとう……姉さん」

 

「大丈夫よ。華那の我が儘には慣れているわ」

 

「私……姉さんに……そんなに……わがまま……言ってない……もん」

 

 と、頬を膨らませて抗議してくる華那。それを見て、その場にいた全員が笑う。しばらく各自準備をしていたけれど、出来たようだ。というか、スピーカーとかアンプもあるのだけれど、これ本当に歌って大丈夫なのだろうかと思っていたら、看護師の方と医師の方が十数人集まっていた。さすがに許可は……得ているみたいね。

 

 発声練習をしていた私も、バンドの中央に立つ。今回はステージなんてない。だから、いつもなら背中を向けて歌うけれど、今回はバンドメンバーを見るように歌おう。マイクスタンドに手をかけて、いつでも行けると華那に視線を向ける。華那は小さく頷いて、小さく息を吸ってから演奏を始めた。

 弦を抑える手は、紗夜がサポートしていて、原曲よりかなりゆっくりだけれどもしっかりと奏でられていた。イントロのギターコード進行の途中でドラムが入るはずなのに、入らなかった。という事は――

 

 イントロが終わり、華那が私を見る。私は華那と頷きあってから歌い始めた。

 

『朝帰りで疲れ果てた体を』

 

 華那と紗夜の二人で演奏するギターと私の歌声だけが響く。

 

『BROTHER 生きていくだけだよ

 ためらうことなど何もないよ 今更

 どうか教えてほしいんだ

 苦しい時は苦しいって言ってくれていいんだよ』

 

 この曲の意味を嚙みしめるように、私は丁寧に、力強く歌い上げる。一番は華那と紗夜、そして私だけ。このアレンジはライブアレンジだとすぐに気付いた。一番が終わり、二番に入る前に山吹さんがドラムを叩いて二番へ入る。

 

『baby, We'll be alright

 We'll be alright

 We'll be alright』

 

 

 ギターソロ前のCメロに入る前に、私は既に泣きそうだった。でも、華那が必死に弾いていて、他のメンバーだって涙をこらえて演奏している姿を見て、ここで私が泣くわけにはいかないじゃない。

 

『味方がいないと叫んでいる

 みんな生まれも育ちも違ってるし

 ベッタリくっつくのは好きじゃない

 いざという時手をさしのべられるかどうかなんだ

 だからなんとかここまでやってこれたんだ

 You know what I mean』

 

 涙が零れ落ちる。でも、歌声だけはしっかりと。原曲よりかなりテンポが遅いけれど、ドラムの山吹さん、ベースのリサがしっかりと支えてくれているから、市ヶ谷さんも演奏出来ているし、私も歌えている。

 華那……大丈夫よ。そのままでいいわ。紗夜……最後まで頼むわよ。そう思いながら、私は華那が演奏するギターソロを聴いていた。原曲に忠実にいて、華那の演奏が楽しいという想いが込められた切ないギターソロ。

 

『走れなきゃ 歩けばいいんだよ

道は違っても ひとりきりじゃないんだ』

 

 最後のサビを歌い、この歌の大切なコーラスへ入る。市ヶ谷さんとリサ、私で「We'll be alright」と何度も歌う。そして、最後に演奏を一度止めて私が一人でその言葉をシャウトする。

 この英語の意味――私達なら大丈夫――日本語で表現するとこうなる。きっと、華那は私に伝えたかったんだろう。どんな事になっても、私達なら大丈夫だよ――って。

 

演奏が終わり、静まり返る中庭。ぽつぽつと拍手の音が聞こえてきたと思ったら、聴いていた人達全員が盛大な拍手をしてくれた。

 

「華那!」

 

 私はすぐさま華那のもとへ急ぐ。大丈夫かと問うと、華那は笑みを浮かべて

 

「だいじょぶ……すっごい……楽しかった……姉さんは?」

 

「ええ……久々に、華那と演奏出来て楽しかったわ」

 

 華那を優しく抱きしめ、頭を撫でながらきちんと伝える。華那、ありがとう。それとごめんなさい。心配かけて。

 

「ううん……姉さんは……悪く……ないよ。でも……姉さんと……皆と……一緒に……演奏できて……よかった」

 

「ええ……ええ……」

 

 自然と涙が零れる。華那の体は震えていて、無理をした事がすぐ分かったから。紗夜……ありがとう。華那を支えてくれて。

 

「いえ……」

 

 紗夜も言葉少なかったけれど、涙を拭う仕草が見えた。他メンバーも泣いていた。華那が、この楽曲を選んだ意味を理解したからだと私は思う。聴いていた看護師さん達も泣いている人がいた。華那……貴女の演奏はこれだけ人の心を動かす力があるのよ。だから……胸を張りなさい。自分はギターが上手いって。

 

「姉さん……それはちょっと……」

 

 と、恥ずかしそうに頬を赤らめる華那。全くこの子は……。その後は、山吹さんが華那に抱き着いて、泣いてしまって、皆で宥めるのが大変だったり、看護師長の黒瀬さんにもう少し音を小さくしなさいと、全員で怒られたりしたのだった。

 華那……確かに貴女の想い、私に届いたわ。大丈夫よ。何があっても、私は……いえ、私達は頂点()へ向かって行くわ。私はそう心の中で決心したのだった。

 

 

 でも、現実はあまりにも非情だという事を私達が思い知るのはすぐだった。華那の誕生日である一月二十一日が近づいてきた十九日。華那が意識を無くしたと学校に連絡が入ったのだった――




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