書き下ろし。
んー……私と華那が出会ったのは、中学の頃だったね。あの時はまだCHiSPAでドラムしていた頃で、どこのライブハウスだったかは忘れちゃったけど……あの時、CHiSPAのみんなで見に行っていた時に、ライブをしていた華那を見たのが最初だね。友希那先輩と一緒にステージに立って、歌っているのを見た時に私より見た目、年齢低いのに凄い上手い子がいるな――って、思ったのが最初かな。
あの時の華那ってね、今よりもう少し小さかったんだよ?ホントホント。今も百五十あるかないかだと思うけど、百四十ギリギリだったと思うよ。だから、見ていて本当にお人形さんが歌っている――そんな感じに見えたんだよね。
で、友希那先輩とコーラスでやっていて本当に惹き込まれるっていうかな……歌声が好きになって、CHiSPAのみんなで、ライブが終わって話しかけようとしたんだ。でも、二人で真剣にダメだったところと、良かったところを話し合っていて、話しかけるどころじゃなかったんだ。
注意されていたのは……確か、ほんの少しだけ華那のコーラスが遅れた事と、ブレスがマイクに入った事だったかな。タイミングは、ほんの少しだけだよ?でも、それを悪かったところだと言える二人が目指している場所が、私達が思っている以上に遠い所にあるんだなって、思った瞬間だったね。
それだけでも十分衝撃的だったんだけど、翌週だったと思うんだけど……私たちが出演したライブにも二人が出演していて、その時はソロで一曲ずつ歌っていたんだよね。その時の華那の歌い方が本当に衝撃的だったんだ。
「解き放てすべてを 信じる
って、歌いながら自分と同じぐらいの高さのマイクスタンドを、プロのヴォーカリストがやるように左手でクルクル回転させたりしていたんだよ?それ見て衝撃受けないわけないよね。それと、目つきだね。いつもはほんわか笑顔が似合ってるんだけど、その一人で歌っている時の華那って、本当真剣で鋭い目つきで歌っていたんだよね。
んー……そうそう。友希那先輩のようなクールなイメージでいいと思うよ。正直、そんなパフォーマンスしなくても、歌声だけで十分人を惹きつけられると思うのに、そんなパフォーマンスするもんだから観客の方はどよめきと歓声半々だったかな。私達も驚いたもん。
「その微笑みは離さない……Exterminate!!」
って、最後はステージの前に置いてある台に片足だけ乗せてシャウトしたんだよ?あの小さい体からどれだけの力あるんだろうって、その曲だけで何度も衝撃受けた事を今でも覚えてるよ。
ライブが終わった後、私達も前回二人がやっていた反省会をするようにしてみたんだ。良かった点と悪かった点をあげて、次の練習で直すようにしようって話し合ったんだ。それが終わって帰ろうかと思ったら、入口で話しながら歩いている華那と友希那先輩がいた。
ライブの話しではなく何か違う話しをしているようだったみたいで、華那が笑顔で友希那先輩と喋っていたんだ。その笑顔が本当可愛くて見惚れて、声をかけるのも忘れたんだ。
「?……あ、姉さん先行っていてもらっていい?ちょっと気になるバンドの子に話しかけてきたいから」
「……?ああ……CHiSPAだったかしら?ええ。私はあっちで待っているから、話してきなさい。ただ、華那……」
私たちの視線に気付いたのか、華那が私たちの方を見ながら友希那先輩に何か喋っている。友希那先輩は腕を組んで
「分かっているよ。
と、友希那先輩に何か笑顔で答えてから、華那が私たちの方へ向かって歩いてきた。その時私がどうしたのかって?うーん……動かなかったのは確かなんだよね。ううん。動けなかった……って言うのが正しいかな?華那に目を奪われていたんだと思う。
「こんにちは。確かCHiSPAの皆さんであってますか?あ、私。湊華那って言います」
「え、あ、うん。私達CHiSPAであってます。えっと、私がドラムの山吹沙綾で、こっちが――」
って、華那は満面の笑みを浮かべて挨拶してきたんだ。本当その笑顔が可愛くて、なんで自分たちに挨拶してきたんだろうって思っちゃったから、一瞬返事を返すのが遅れちゃったんだけど、私から順々にメンバーを紹介したんだ。で、その時同い年って事を知って、お互い驚いたんだよ。だって、こんなに小さい子が同い年って思わなかったから。
「同い年なんだ!演奏上手いから年上だと思ってたよ」
「華那だって、歌上手いじゃん!あのマイクスタンドのパフォーマンス何!?プロかと思ったよ?」
「そうそう。小さくて、年下なのに歌声凄いなって思っていたんだから」
「ちっちゃい言わないで!気にしているんだから!!」
と、皆で話して笑いあって、最後は友希那先輩に呼ばれた華那が、連絡先を交換しようって言って、連絡先を交換したのが私と華那の付き合いの始まりだね。
その後、ライブハウスで会わない時は、メールでやり取りしたり電話したりして話していたんだ。で、ちょくちょく
純は最初、華那が小さいから反発っていうか、華那に対してあんまり懐かなかったんだけど、紗南はもうベッタリくっついてね。華那お姉ちゃんって言って甘えてね。それも純は気に入らなかったみたい。まあ、異性ってのもあったと思うんだよね。何回か会っていく中で、だんだんと純も華那に打ち解けて、最後は華那姉って呼ぶようになったんだ。初めて言った時は、純はね顔真っ赤にしながら言ったんだよ?笑えるでしょ?
友希那先輩と音楽活動をしながら、華那は同い年でバンド活動している私と仲良くなっていって、私はずっとこういう日々が続くと信じていたんだ。華那が喉を痛めるまでは――
「声が……だせ……ない?」
ある日の夜。華那からメールが来てなんだろうと思って携帯を見れば、喉を痛めた事の報告だった。声が出ない状態で診てもらった結果、喉の炎症との診断を受けた事。それと、二週間程度、声帯を極力使わないようにするように言われた事が書かれていて、しばらく
私の方は気にしないでいいから、華那大丈夫なんだよね?って送ったら、「だいじょぶ!二週間後にはレベルアップして帰ってくるから、期待していてね!」って返ってきたのをはっきりと覚えているよ。今でもその文章、前の携帯に残ってるはずだよ。
私も、CHiSPAの皆も心配していたんだけど、華那の言葉を信じて待っていたんだ。でも……二度と華那の歌声を聴く事はできなかったんだ。
華那から喉を痛めた三週間経ったある日。山吹ベーカリーに華那がやってきたんだ。華那の姿を見て私は笑顔で迎えようとして気付いちゃったんだ。華那の様子がおかしい事に。母さんもそれに気付いて、私と華那を二人だけで話しておいでって言ってくれて、私は華那を自分の部屋に招いて、華那が口を開くの待った。
「沙綾……私……歌えなくなっちゃた……」
ポロポロと涙を流しながら、曲の一番途中で声が掠れる状態になってしまって、歌えなくなった事を話してくれた。どんなに練習しても、どんなに喉を負担のかからないように気をつけながら歌っても、歌声が掠れる――って。私は、話しながら泣き続ける華那を抱きしめて、華那が泣き止むまで頭を撫で続けた。
華那の夢。友希那先輩と一緒にスタジアム級の会場でライブする――という夢を華那から聞いていたから、その夢が叶わなくなってしまった事への悲しみは理解できるつもりだったし、その夢を話している時の華那の本当に楽しそうな笑顔が消えちゃうんじゃないかっていう不安が私の中にあった。だから、華那を抱きしめて、華那の体温を確かに感じながらその不安を消し去りたかったんだ。
しばらく私の腕の中で泣いていた華那だったけれど、落ち着いてから純と紗南と遊んでくれて、それからいつも通りの笑顔で帰ったんだ。それからしばらくしてから、ギター始めた事を報告してくれて、「音楽は止めないよ」って笑顔を見せてくれた。
それからしばらく経ってから、私の母さんが倒れて、今度は私がCHiSPAを辞めたんだ。それでも華那は今まで通りに私に接してくれた。CHiSPAの皆に私からは何も説明しないで、一方的に辞めたのに、華那はその事を何も聞かずにだよ?華那は、ギターの練習や、友希那先輩のバンドメンバー探しの合間を縫っては来てくれて、純達の相手や店の手伝いをしてくれたんだ。
それで、高校に入ってから香澄達に会って、バンドに誘われて……。本当はバンド……私、ドラム叩きたかったんだ。でも、母さん達に迷惑かけちゃいけないって考えていたし、長女の私が我慢しなきゃいけない――って思って、その想いは封印していたんだ。
そんな私に、香澄は諦めずに声をかけてくれた。その声に、想いに心動かされたけれど、一歩踏み出すのが怖かった。だって、それでまた母さんが倒れたら――今度は父さんかもしれない――って考えたら踏み出せなかった。
文化祭の前に、母さんが倒れて、やっぱり私はバンドやらない方がいいんだって思っていた時に、華那が背中押してくれたんだ。
病院で母さんから「本当にやりたい事をやりなさい」って言われたんだけど、どうしても行くのが怖くてね……。私の決断のせいで母さん達に迷惑かけたら……何も説明しなかったCHiSPAの皆がどう思うか――って、考えている時だったんだ。
「沙綾!今、行かなかったら絶対後悔するよ!!」
「華那!?どうしてここに!?」
病院を出てすぐのところで、華那が息を切らせながら私を待っていたんだ。華那は両手を膝に当てていて、足は小さく震えていたのをハッキリと覚えてる。私は華那に駆け寄った。華那は、足がふらついていて、ここまで全力で走ってきたって事が一目で分かった。
「私の事はいい……から!沙綾は、私と違って
「華那……私……」
その言葉に躊躇った。手伝いをしてくれていた華那はね、私の家の事情は知っていた。だから、私を支えてくれていたんだ。私が再びドラムを叩く日が来る事を信じて。でも、私は一歩踏み出すのが怖かった。でも、次の言葉を聞いて私は――
「CHiSPAの皆も会場で待っているんだよ!!沙綾が来るのを!!」
「!?」
華那が私の両肩を掴んで、怒気を込めて捲し立てた。その言葉に驚きを隠せない私を見上げるように見ながら
「沙綾には黙っていたけれど、CHiSPAの皆には沙綾がどうしてバンド辞めたかは説明させてもらった!それで、沙綾から事情を話すまで待ってあげてってお願いしたの!!」
「どう……して……」
華那の言葉に自然と私の口は震えた。どうして華那は他人である私の為に、そこまでしてくれたのか分からなかった。華那は涙を浮かべながら
「私と沙綾は友達でしょ?それなのに、私は何もできないって思っていたけれど、沙綾がいつか戻る場所を用意してあげる事はできるって思ってね。CHiSPAのみんなも怒ってはいない……ううん。沙綾が事情を説明しなかった事には怒ってはいるけれど、ドラムを叩いてほしいって思っている!みんな沙綾が帰ってくる事……またドラムをする事を願っているんだよ!」
「!」
私の知らないところで、CHiSPAの皆と話していた華那の行動に驚きと、自分の思っていた事と違う事実に衝撃を受けた。みんな怒っていないの?って――
「だから……沙綾の事を待っている香澄ちゃん達の所に行ってよ、沙綾!私に、CHiSPAのみんなに沙綾がドラム叩いているところを……もう一度見せてよ!!」
最後は涙を流しながら私の胸を叩く華那。ここまでしてくれている華那の想い、それに背中を押してくれた母さん。私にバンドやろうよって手を差し伸べてくれた香澄達……。ねえ、私……本当に少しだけ我が儘になっていいと思う?……華那?
「いいんだよ。沙綾のお母さんだってそう言っていたでしょ?」
「うん……」
「なら、沙綾が今、やりたい事。やらなきゃ……沙綾を待ってる人がいるんだから……!」
涙声で答えてくれた華那。決意は固まった。なら、私がやる事は――
「沙綾。純君達の事は任せて、きちんと面倒見ておくから、行ってきて……ね?」
「ありがとう華那。じゃあ……行ってきます!」
と笑顔で華那に言ってから、私は駆け出した――
「それからは、皆も知っている通りだよ。これが華那と私の関係だね」
「ほへぇー……華那って、結構行動力あるね。ね、有咲」
「だな……あいつの行動力、どこから出てくるんだよ……私より小さいのに」
と、ポピパの皆でお泊り会をすることになったある日の夜。香澄が私と華那の付き合いについて知りたい!!って言い出したのが事の始まり。まあ、ポピパの皆より付き合いが長い華那と私の仲が良いのは当たり前だし、大切な友達だからね。それに……私を救ってくれた恩人。
「だからさ、今度。華那が困った状態になったら、私は華那を助けてあげたいんだ」
「なら、その時はポピパの皆で助けようよ!ね、有咲。りみりん、おたえ!」
「うん!私も手伝うよ、香澄ちゃん」
「だね」
私の言葉に香澄がそんな事を提案してきたけれど、りみもおたえもその提案に好意的な意見。みんな……ありがとう。……ん?有咲?
「香澄……私まで巻き込むな!!……ま、まあ。手伝ってやるぐらいなら私はいいけどな」
「ありしゃー!!」
「だぁぁ!!香澄!お前、すぐ私にひっつくなぁぁぁぁぁ!!」
と、いつものツンデレ(華那から教えてもらった)を発動させる有咲に、抱き着く香澄を見て、皆笑いあう。一人だけ真面目に助けてと言っているけれど、それはそれって事で。
でも……今度は私の番。華那が助けを求めた時に、手を差し伸べてあげられるようにしておきたい。あの時、決めたんだ。
「そうだ!今度、華那もお泊り会に誘おうよ!!」
有咲に引っ付いていた香澄が、閃いたと言わんばかりに提案してくる。あ、いいね、それ。華那呼ぼうよ。
「……おい、バ香澄。そのお泊り会の場所はどこでやるつもりだ?」
「あ、有咲ちゃん……顔が引き攣ってるよ?」
りみが有咲の表情を見て、あわあわしながら宥めようとしているけれど、あまり効果が無いみたい。香澄はきょとんとした表情を浮かべながら
「
「やっぱしかぁぁぁぁ!!」
と、当然じゃないと言いたげに答える香澄に、頭を抱えて布団の上をゴロゴロと転がりまわる有咲。それを見て私とりみは小さく笑ってしまった。有咲には悪いけれど、いいよね。華那も来たら楽しそうだよね。ね、おたえ?
「そうだね。華那が来たら一緒にギター弾けるし、おっちゃん達の可愛い所を言ってもらわないといけないしね」
「ギターはともかく、ウサギの可愛い所かよ!?」
おたえの発言にツッコミを入れる有咲。それを見た私と香澄、りみは笑いあう。きっと華那が来てくれたら本当に楽しいだろうな。そう思いながら、私はみんなとお喋りを続けるのだった。