—二日目—
この世界に来てから既に二日目を迎えた。
そう、迎えたのだ。
興奮で手の震えが止まらない。俺はあの地獄の一日を乗り越える事が出来たのだ。本当に。いつ終わるかも分からないあの一日を。俺はあのクソどもから逃げ切る事が出来たのだ。
—三日目―
今日、先日の日記を読んでみたが、あまりにも興奮しすぎて何を書いているのか分からなかった。したがって、初日に何があったのかをもう少し詳しく書いてみようと思う。
まず、俺は今見知らぬ国にいる。日本語は通じるが、ここは日本ではなくセーグルッド王国という名前の首都らしい。建物は石造りの物が多く、よくSNSや教科書などで見るヨーロッパ的な印象を受けた。
だがそんな事はどうでもいい。本題に移ろう。
俺は既に何十回も、何百回も死んでいる。これは本当に言葉通りの意味である。
ああ、その前に何故俺がこんな名前も聞いたことない土地にいるかを説明した方がいいのかもしれない。誰に対してこんな説明するのかって話だが。
でもこうして何かしてないと気が触れてしまう。それに、文字におこすと状況を整理できるから、あながちこの手記というのは悪くないかもしれない。
まず初めに。俺が大学の食堂で友達と談笑している最中、意識がぷつりと切れた。次に目を覚ましたら俺はその場所にいた。その場所というのは、少し説明し辛いが恐らくは『やばい奴ら』のたまり場か何かだったのだと思う。
そのやばい奴らというのは日本で言う所のテロリスト、もしくは武装勢力。とにかく奴らが何者であるかは今も分からないが、ナイフや剣といった凶器を平気で携帯していた。俺はそんな奴らが屯している建物にいつの間にか立っていたのだ。
そして彼らにとっても俺は予想外の人間だったのだと思う。俺に気づいたそのやばい奴らは大声で「何者だ」と声をあげながら、剣だのナイフだのを抜いてきた。俺も何が何だか分からなくて、「ここはどこだ!」と怒鳴ってしまった。当時、まさかその凶器が本物だとは夢にも思わなかったのだ。
だがそれがいけなかった。今思えば、なんでそんなことをしたのかと思わなくもない。
向こうからしたら、俺は不審者だ。尤も、その時の俺からすれば奴らの方が不審者なのだが、それはいい。大きな声なんて出したら、それはもう立派な威嚇行動なのだろう。
俺は殺された。一歩踏み出した瞬間に頭を割られたのだ。凄まじく痛かった事を覚えている。
そして俺はまた同じ場所に立っていた。そんでもって、目の前の剣を構える男がまた「何者だ」と声をかけてきたのである。何が起こったのか理解できなかった俺は、ただ激痛のみを覚えていたので叫んでしまい、また殺された。
その後も何度も殺された。その時の俺はマジで何が起きていたのか分からなかったのだ。そもそも最初の内は殺されたことにすら気づいてなかった。
何度も死んでいくうちにようやく俺は、『死んだらその死んだ五秒ほど前にタイムスリップする』ということが分かった。このルールに気づくのに軽く十回以上死んだと思う。混乱していたのだから仕方がないと思いたい。
そして、それからは色々試した。
まず、何故俺は殺されなければいけないのか分からなかった。なので、初めは対話を試みた。だがそもそも奴らは会話が通じるような相手ではない。最初から殺す気でいるため、まるで意味がなかったのである。
したがって今度は逃げる事にした。だがそれも十回試したあたりでやめた。というのも、そのたまり場と言うのがかなり広く、武装している奴らの数も尋常ではなかったのだ。
本当に色々やってみて一番可能性が見えたのが、ただ逃げるのではなく、戦いながら逃げるといういわばゴリ押しだった。
というのもこれは単純な話で。五秒後に死ぬのだから、その死ぬ原因を何とかして回避する。もしくは何とかしてそいつを倒す。今でこそ簡単に書いているが、その時は本当に死ぬかと思った。まぁ実際、数えるのも億劫なほど死んだ訳だが。
またゴリ押しに頼らざるを得なかった。何かと試行錯誤するうちに、五秒後に戻っても回避行動に移らないとすぐ死ぬという状況になっていたからである。
そうして、もしかしたら千を超える程死んだ果てに。俺は何とかそのやばい溜まり場から抜け出すことが出来た。その達成感は二日目の日記からも分かると思う。
さて、ここまで書いて少し手が痛くなってきたので、今日の分はここで止めようと思う。というか、かなり時間を使った。
—三日目―
今日、先日の日記を読んでみたが文量が多くて良く分からなかった。だから今度は簡潔にまとめようと思う。
1:俺、推定異世界に転移する。
2:俺、やばい奴らに絡まれる。
3:俺、やばい奴らに殺されまくって『死んだら五秒前にタイムスリップ』する事に気づく。
4:俺、上記のルールを駆使してなんとか逃げ切る。
とまぁこんな感じか。なんか昨日馬鹿みたいに時間使ったが、これ位にまとめた方が見やすいな。一つ勉強になった。
さて、二日目と三日目は何とか見つけた安全地帯という名の廃屋で過ごしていたが、今日は流石に腹が減った。だから奴らに見つからないように、なるべく人ゴミに紛れつつスリで金を増やして食料を調達した。もしスリにバレたら死ねばいいので、楽ちんである。因みに一番確実に死ねるのは首をスパッとやることである。凄まじく痛いが。
で、銭を稼ぎつつ情報も集めた。二日目にも書いたが、ここはセーグルッド王国の首都、ブリゲンス。そして昨日までずっと奴らと呼称していた者たちはどうやら、この国の裏世界を取り仕切っている連中の一部らしい。俺に分かりやすく言えば、893さんとかマフィアといった手合いだろうか。
そして当然と言うべきか、やはり俺は目をつけられたらしい。今日、街中で血眼になって俺を探す奴らを見つけた。今日は見つからずに済んだが、それもいつまでもつか分かったものではない。何かしら対策しなければ。
—四日目―
今日、とんでもない女と出くわした。とりあえず三日目と同じように要点だけまとめると、以下の通りだ。
1:俺、昨日と同じように街中で情報を集める。
2:俺、いきなり死ぬ。
3:俺、それが暗殺によるものだと気づく。
4:俺、相手がプロ過ぎてマジで手も足も出ない。
5:俺、ようやく殺される前に暗殺者を組み伏せる。
6:俺、そのままその暗殺者を殺そうとするも、王国警備隊に見つかりトンズラする。
昨日と同じく情報というか、この国から脱出する手段を探していた俺は、何が何だか分からないうちに殺されまくった。死ぬ直前、首や左胸のあたりに痛みを感じた。だからそれが暗殺であるという事には割とすぐに気づいた。具体的には4回死んだくらいで。
手口が鮮やかとはまさにあの事を言うのだろう。初日ほどではないが、最初はマジで手も足も出ずに死んだ。だがそれでも、流石に何度も殺されれば向こうの手口も分かる訳で。暗殺される瞬間に振り向き、暗殺者の女を組み伏せる事に成功した。
流石にこの女は危険だと感じたので殺そうと思ったが、王国の警備隊に見つかってしまった。口惜しいが、逃げざるを得ない状況になってしまったのである。奴らだけでなくこの国の警備隊にすら追われるようになったら、いよいよ居場所がなくなるからな。
とはいえ、早くこの国からは離れた方がいいだろう。毎日あんな殺し屋に狙われたらしんどいし。
—五日目―
朝起きたら、昨日の暗殺者の女が俺の廃屋の前で立っていた。
色々あったので少し端折る。話を纏めると、その女はどうやら俺を仕留め損ねたので、彼女も奴らから追われる立場になったらしい。ざまぁ。
ただこれだけ優秀な暗殺者を即切り捨てるってのも勿体ない話だなぁと思った。実際この『死に戻り』の力がなければ、俺ではどうしようもなかった。というか背後からの奇襲なんて初日で慣れた俺の背後を、常に取り続けたこの暗殺者はマジモンですよ。
で、そんな風に話を聞いてたら、その女なんかいきなり頭を下げて「配下にしてほしい」みたいなことを宣った。
無論、断った。単独なら俺を最も殺した女である(因みに二番目はスキンヘッドの大男、クッソ強い)。信用できないと思うのは当然だ。そしてその懇願があまりにもしつこかったので、思わず俺は「そんなに役に立ちたいなら死ね、それが俺にとって一番役に立つ」的な事を言ったら本当に自死したのである。
マジでビビったのでとりあえず俺も死んだ。幸い、この厄介な暗殺者のせいで効率良く死ねる方法は憶えていたので、彼女が刃を己の喉に突き立てるよりも早く『死に戻り』する事が出来た。ホント、殺意がないのに厄介ってどういうこった。
仕方がないので、飯や買い物を始めとした雑用を押し付けた。それで喜ぶんだからもう何も言わん。因みに名前はハルと言うらしい。
・主人公
初っ端からハードモードを押し付けられる。ただそのおかげでクッソ強くなる。死んだ回数は五日目までで850回ほど。因みに初日だけで700回死んでる。ハルちゃんには150回殺された。
死にまくったせいで既に精神は崩壊している。因みに20歳。
・ハル
主人公を狙っていた女暗殺者、たぶん黒いフードとか被ってる。今は主人公の下僕(少なくとも本人はそのつもり)。
どのような暗殺でも失敗したことがない凄腕。普通に戦っても強い。使えるべき主を探しながら暗殺家業に勤しむ24歳。
一族に伝わるなんかすごい初見殺しの技を使うが、150回もその技で死んだ主人公についに看破される(初見殺しとは)。しかし本人からすれば奥義を初見で見切られた上に、命も奪われなかったので完全に屈服する。