【完結】地図から消えた街   作:斎草

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ジルが合流するまでの話。
区切りが微妙なのでいつもより長め。


RE:3軸の話 - ②

 

「俺は市民救助に向かう」

「ああ、気を付けてな」

そんな短いやり取りの後、ニコライは車両を去っていった。応えたミハイルはというと、腹部に大きな傷を負っている。メアリーが目を覚ました時には既にそんな感じで、ニコライはミハイルの傷に手際良く処置を施してしばらく様子を見た後に冒頭のように切り出した。

車両にはミハイルとメアリーだけが残され、2人で隣同士に座ってニコライを見送っていた。

 

明け方、この拠点にゾンビが襲撃してきた。この階段を上がったすぐそこの広間に波のように押し寄せたそれらにいち早く気付いたニコライが無線で隊員達を集め、掃討に取り掛かっていた。長期戦を強いられながらも何とかそのゾンビ達を撃退する事に成功したが、狭い屋内という事もあって苦戦し多数の隊員が犠牲になり、小隊長であるミハイルも深い傷を負ってしまった。

 

時計を見ると既に朝だったが、地下鉄にいるので空模様は見えない。外にいる隊員達からの無線でも、外は分厚い雲に覆われて時間感覚が掴めないと伝えられていた。

薄暗く、重い空気に包まれる車内。隣の車両では気怠そうな生存者の顔が見え、ミハイルは溜息を吐いた。

精神的にも限界が近い。いつまた何が牙を剥くか分からない。生存者達にも余裕がなく、口喧嘩している様子も見受けられる。諫めに行きたいが、今怪我をしているミハイルがその場に出向けば、何を言われるか分からない。

彼は隣にいる少女に視線を向ける。少女には感染の疑いがあるためこうして隔離しているが、生存者達を集めた車両の空気がギスギスしているのを見ると彼女をその中には置けないとも思っていた。

だが、結局この車両の空気だって同じようなものだ。

無理もない、先程までここを守るためにゾンビの波と対峙していたのだから。体勢を崩されれば今まで助けた生存者達をいっぺんに危機に晒すという緊張感と、次々に倒れていく仲間達、そして敵へと変貌する仲間だった者達との戦い。思い出すだけでゾワリとまた背筋が震えた。

今までこんな事はなかった。アンブレラに雇われてからというもの、おかしなウィルスに侵された人間を相手にする場面が増えたが、ここまでの規模の被害は前例がない。

それに己が負った傷。これは——、

「……!」

そこまで思考を巡らせた時トンと腕に何かが当たり、ゆるりと視線を向けるとメアリーが己の二の腕に頭を預けて凭れかかっていた。

気疲れしてしまったのだろうか。己1人ならこのままでも良かったが、独特の緊張感が張り詰める中は少女の精神衛生上よろしくない。

「食べるかい?元気になるぞ」

「……ありがとう」

沈黙が続く中、ミハイルは物資の中から板チョコレートを取り出すとメアリーに手渡す。少女はチョコレートを受け取ると掠れた声で礼を言って会釈のように頭を下げた。

パキパキとチョコレートを折る音と銀紙を破る音を耳にしながらミハイルは目を閉じる。さて、ここからどうするか。己のこの怪我ではまともには動けないだろう。そんな状態でまたゾンビの襲撃があったらどうする?

(……いや、そもそもゾンビに思考能力はないはずだ)

ふと思い返す。統率されたかのようにこの拠点に向かって歩いてくるゾンビ。まるで波状攻撃のようだった。まさに"群れ"と呼ぶのに相応しい数だったが、果たしてあんなにも集まるものなのだろうか?それも、真っ直ぐにこの拠点をめざして。

 

何か。何かがおかしい。あの時は考える余裕なんてなかったが、——そもそも、己のこの怪我は噛み傷なんかじゃない。

 

無の中、思考を張り巡らせていると、甘い香りが不意に鼻腔を掠めて瞼を開いた。眼前には折ったチョコレートの一欠片があって、思わず目を瞬かせる。

「ミハイルも元気になって?」

隣を見ると、少女が心配そうに己を見上げていた。その表情とチョコレートを視界に入れて、彼は苦笑いを零しながらそれを受け取り彼女の頭を撫でてやる。

「ああ……ありがとう、メアリー。キミは優しい子だな」

その苦笑いは自嘲も含んでいた。そんなに切羽詰まった顔をしていただろうか。いや、己の考えていた事を思い返せば、そんな顔をしていたのは間違いない。仕方のない事だが、元気付けるはずが年端もいかない少女に気を遣わせてしまうとは。

受け取ったチョコレートを口にすると懐かしい甘さが広がる。街中に蔓延る砂と腐った血の臭いに暫くまともな食欲も湧かなかったが、不思議とこのチョコレートだけは胃に収める事が出来た。

 

少女の噛み跡の包帯を取り替えているとニコライが戻ってきた。彼は生存者を連れておらず、2人のいる車両に真っ直ぐに入ってくるとメアリーを見下ろす。

「やあメアリー。具合はどうかな?」

訊きながらまた検温するように少女の頬や首筋に触れ、そのたびに彼女は居心地が悪そうにしていた。

「痒みや熱っぽさはないか?」

「ない、です」

メアリーを見るニコライの表情はどこか含みを持っている。ミハイルはそう感じたが、次いで彼が視線を向けたのはまさにミハイルであり、膝をつくと眉間にシワを寄せたその顔を見上げた。

「嫉妬かな?お前の怪我もちゃんと世話してやるさ。そのために戻ってきたのだからな」

ニコライはそう戯けながらメアリーに包帯を巻き、彼の包帯も解いてから道具箱から薬を出して塗り付けた。

「自分の世話は自分で出来る。本当は何のために戻ってきた?」

しかし、甲斐甲斐しく世話を焼く"フリ"をするニコライをミハイルは鋭く睨んだ。それを受けて彼はピクリと包帯を巻く手を一度止める。

「最初とは随分と態度が変わったな。メアリーに何をするつもりだ?」

"ああ、やはり。"……ニコライは内心でほくそ笑んだ。今、目の前でしっかりと少女の手を握っている小隊長は、己の企みなどとっくに見透かしているのだろう。それが100%でなくとも、核心に近いものである事は確かだ。

やはり、こいつを手負いにしたのは正解と云えよう。

「いいや何も?ただ仲良くしたくなっただけだ」

だが、わざわざここまで勘付いている者を相手に手の内を明かす必要などないだろう。それに、するべき事は他にある。

「なあ、メアリー。今度は俺と話をしようか」

立ち上がり、少女の隣に座って反対の手を取ると甘いガムを握らせる。

「昨晩は突然敵意を向けてすまなかったな。これはその詫びだ」

「ニコライ」

ミハイルがひとつ制止の声を上げ少女を抱え込むように彼から遠ざけると、さすがにニコライも肩を竦めて椅子から立ち上がって後ろに下がった。

「……そのガムは上の売店から拝借したものだ。何も仕掛けていない」

「そんな事は分かっている。お前は市民救助に向かえ。この子の世話は私1人で十分だ」

メアリーに視線を向けてみると本能的に恐怖を感じてしまったらしい、ミハイルにしがみついて不安げにしていた。

やれやれ、子供の扱いにはやはり慣れない。ついでに言えば勘のいい爺も……こいつはどうも一筋縄ではいかない。

もし少女が感染していればこの爺やあの脳無し若造を喰い殺してくれるかもと思ったが、運が良いのか悪いのか、計算がズレてしまった。やはり状況が状況故に、予測がつかない。

「そうかい。メアリー、またな」

しかし諦めるつもりは毛頭ない。必ずこの少女を手中にしてみせる。

去り際に手を振ってみたが小隊長の鋭い眼が刺さるばかりであり、肝心の少女は目を伏せてこちらに視線すらくれなかった。

 

———

 

それから暫くミハイルとメアリーはポツポツと会話を始めては沈黙を繰り返していた。

上にある売店にメアリーが行き、お菓子や新聞を持ってきては現状について話す。その過程でスクラップ帳にまとめた今までの記事を広げ、2人でそれらを指でなぞりながらまた話し込む。

事件の予兆はこれまでもあった。だが裏で暗躍していた"何か"が住民や外部への情報漏洩を徹底的に阻止していた。報道していたのはラクーンのローカル誌や地方チャンネルのみ。更に言えば、これだけ大規模な災害にも関わらず、救助部隊はアンブレラお抱えのU.B.C.S.のみ。その部隊だってすぐに壊滅したが、追加の救助部隊が投入される気配はない。

 

ここから導き出される暗躍する"何か"とは。

恐らくこの街にも、そしてミハイル達にとっても馴染み深いものである。

 

だが、それを口に出す事はなかった。まだ確信しているわけでもないし、信じたくもない。

「ジルに会わなきゃならないの。でも、どうしたら会えるのかな……」

スクラップ帳を閉じて、メアリーは溜息を吐いた。

ジル・バレンタイン。ラクーン市警の特殊部隊、S.T.A.R.S.に所属する女性の名だ。メアリーは彼女と知り合いのようで、彼女を罵った事を謝りたい思いでこの惨状の中に飛び込んできたらしい。そして、親友の事も気掛かりだと言っていた。

本当は今すぐにでも探しに行きたい。だが、ミハイルには少女と一緒にその特殊部隊の女性や親友を探す事は出来ない。だからといって少女を1人で行かせるわけにはいかない。ニコライに頼むだなんて以ての外だ。せめてカルロスが戻ってきてくれればと思うが、彼からの連絡はゾンビの襲撃から途絶えたままだった。

「ジルは全部知ってた、分かってた……でも私、あまりにも現実的じゃなくて、信じられなくて、ひどい事言っちゃって……」

少女はぽつぽつと話し始める。

あの日。ウェスカーの死亡が報道されたあの日。メアリーは公園に併設された墓地でジルと出会い、彼女が山奥の洋館で見てきた全てを話された。

だが、ウェスカーを敵だと言い切ったジルの話はあまりにも突飛で受け入れる事が出来ず、彼女を嘘吐きだと罵って突き放してしまったのだという。

もしそのジルが言った通りだとすれば、そして自分達が導き出した答えが真実だとしたら。

(ならばこの状況、我々はアンブレラのモルモットという事か)

アンブレラはこの事態をひた隠し、自社の不祥事すら利用してラクーンシティを広大な試験場に仕立て上げた。民間人を巻き添え、自社の部隊を投入し戦闘データを取り、それで何人、何万人と犠牲にしても顔色ひとつ変えない。

想像しただけでゾッとする。同じ人間の所業とは思えない。

ミハイルは隣で震える少女を見る。犠牲者の中には彼女と同じような子供もたくさんいたはずだ。もしかすれば、彼女が探している親友も既に——。

 

「隊長」

そこに彼を呼ぶ声と足音が響いた。慌てて顔を上げるとそこには何時間かぶりに見るカルロスの姿があり、次いで女性が車両に乗り込んでくる。

「このレディが助けがいるそうだ」

カルロスが指し示す女性はゆっくりと車内を見回し、そしてミハイルの隣にいる少女を視界に入れれば僅かに目を見張る。少女の方も女性を視界に入れ、その姿に確信を持ったのかゆるりと立ち上がると彼女に向かって駆け出した。

「ジル!!」

「メアリー!無事だったのね!」

ぎゅっと抱き締め合う様子を見て、ミハイルとカルロスは唖然としていた。特にミハイルは"噂をすれば何とやら"をこんな形で体験して驚きを隠せていない。

「……なんだ、知り合いだったのか。良かった」

それでもカルロスは、己が助けた2人がまさかの奇跡の再会を目の前で果たした事にホッと安堵していた。

知り合いなら話が早い。少女にジルの自分達への誤解を解いてもらおう。そんな事すら考えていた。

「良かった、じゃないわ。あなた達、この子に何をしていたの?場合によってはタダじゃ済まないわよ」

しかし、ジルはやはりカルロス達に敵意を向け、少女を己の背後に隠す。それは彼らがアンブレラの関係者であるという単純明快な理由で、ジルやアークレイの洋館事件に関わったS.T.A.R.S.メンバーなら誰しも憎悪を抱く相手だからであった。

「ジル、違うよ。この人達は私を助けてくれたし、何も……」

メアリーは彼女の背後から抗議の声を静かに上げるが、僅かに言い淀む。今この場にいない銀髪の男の事が不意に頭に過り、彼にされた事を思い返して背筋が震える。それと同時に少しだけ彼女の誤解が解けるかと思ったカルロス達の顔も僅かに曇った。少女が口籠った理由がすぐに思い当たったから。

「ほらやっぱり……助けるフリをして騙そうとしたのね」

「ち、違うよ!ジル、この2人は本当にいい人なの!悪い人から助けてくれたんだよ!」

「悪い人がいるのね?」

「ジル〜!!」

尖るジルと地団駄を踏むメアリー。これは説得が難しそうだ。カルロスはひとつ息を吐くと2人に歩み寄る。

「メアリー、俺達を庇ってくれてありがとうな」

ぽんぽんと優しく少女の頭を撫で叩いてジルと向き合うが、依然彼女はカルロス達を鋭く睨んでいた。

「俺達の事はどう思っててもいい。けど、ここにはこの子を含めた生存者がいる。そいつらの事は信じてやってくれないか」

奥の車両を指し示されれば、そこには気怠そうに項垂れた生存者達の姿があった。誰もが希望が見えない顔をしている。

生まれ育った街が血生臭い戦場と化し、何気ない日常を奪われた。それはこの街が故郷であるジルにとっても絶望そのものであり、信じたくない現実だった。戦う力を持たない民間人には成す術もなく、ラクーン市警も壊滅し、こうしてU.B.C.S.を頼りにするしかない。

「ジル、キミも生き残るのに精一杯かもしれない。だが我々としても、生存者を守るための戦力が足りていない」

ミハイルが痛む傷を押さえながら3人に近付く。その傷を一瞥し、ジルは呆れたように息を吐いた。

「ご立派な雇い主のおかげね」

大方彼らも外にいるゾンビに手を焼いているのだろう。自社のウィルスのせいなのに、随分と間抜けな事だ。

そういった皮肉も含んだ言い様にミハイルは僅かに眉を顰めたが、「まぁ……」と言い淀むように間を置く事で気を取り直す。

「我々も手を尽くしている。今も生存者の救出を外にいる隊員達が行なっている……キミもこのカルロスに助けられたのだろう?」

突然隊長に指名されたカルロスは戸惑ったように視線を右往左往させたが、やがてジルを真っ直ぐに見つめた。

「S.T.A.R.S.隊員としても"市民救助"は大切な任務のはずだ。……協力し合う事は出来ないだろうか」

ミハイルも、メアリーも、懇願するように真っ直ぐにジルを見つめていた。

ジルは考える。確かに市民救助は大切だが己1人ではそれも出来ない。その点、形だけでも彼らと手を組めば戦力も増幅出来るし、何かあった時に身代わりにするくらいは出来るはず。

……なんて、少しずるい事を考えた自分がおかしくて自嘲気味に笑いを零した。

それに、彼らが市民救助を目的としているのはカルロスの行動や、メアリーからの信用具合で読み取る事が出来た。それだけは信じてあげてもいい。

「分かった。協力するわ」

その言葉にパッと表情を明るめた隊員2人に対して釘も刺しておく。

「市民のために、よ。あなた達のためじゃない」

「それでいい。大事なのは市民だ」

だが隊員達は自分達が完全に信用されていない事をちゃんと分かっていたようだ。

「ありがとう、ジル。この列車さえ動けば生存者達を安全な場所まで移送する事が出来るはずだ。だが、そのための電力が供給されていない」

ミハイルが一度椅子に戻ろうとするがよろめき、それをカルロスが支えながら一緒に戻ると地図を広げる。ペンを滑らせる音を響かせながら変電所にマーキングして、それを正面に立っているジルに見せた。

「そうね。変電所までなら私も行けるわ。ここからそんなに遠くなかったはず」

レッドストーン駅から変電所までの道を指でなぞるが、カルロスが首を横に振る。

「ところが市民達が作ったバリケードや瓦礫で、思ったように道を辿れないんだ。だから地上に出たら俺がナビゲートしてやるよ、スーパーコップさん」

彼は無線機をジルの手に握らせると、まじまじとそれを見つめる彼女におどけたように小首を傾げてみせた。

「おいおい、突然記憶喪失か?」

「まさか。無線くらい知ってる」

ただ、本当に手渡されると思ってなかっただけだ。随分と信用されたものである。

 

「ジル」

やがてカルロスがミハイルの怪我の面倒を見始めたのを確認して、ジルが列車を降りようとすると不意に幼い声に呼び止められた。振り向くとやはりメアリーがいて、心配そうにジルを見ている。

「その……あの時ジルの事、嘘吐きなんて言って……ごめんなさい」

深く頭を下げた少女にほんの少し驚いていたが、ジルは優しい微笑みを見せながら彼女に歩み寄って下げられている頭を撫でた。

「逆の立場なら、私もそうだったと思う。あなたは悪くなんてない……私の方こそごめんね」

あんな話、受け入れてもらう方が難しい。それも彼女の想い人を否定したのだ。事実とはいえ、まだ幼い少女には酷すぎる。

だからこそウェスカーがこの少女の事すら騙そうとしていたなら腹わたが煮え繰り返るところだが、今はそうしている時間も惜しい。

「そういえばメアリー。リリィはどうしたの?一緒じゃないのかしら?」

ふとジルは彼女の親友の姿が見当たらない事に気付き、その顔を覗き込むように膝を折って屈む。メアリーとリリィはジルにとってセットのような組み合わせだ。その片割れがいないのはやはり心配になる。

だが頭を上げたメアリーがその問いにも曇った表情を見せたので、事態は良くない事を悟った。

「リリィの家にも行けたら良かったんだけど、余裕なくて……」

「そう……そうよね。ねえ、地図を貸してくれる?」

ジルは2人の隊員のところまでもう一度歩みミハイルから地図を受け取って少女のところまで戻り、それを広げレッドストーン駅を指し示す。

「リリィの家はどの辺?電車を動かすついでに見てくる」

「えっと……駅がそこだから、この辺かな」

メアリーが指した場所は駅からさほど遠くない。バリケードや瓦礫が心配だが、いざとなれば乗り越えてしまえばいい。

「仕事増やしてごめんね」

作戦を考えているとメアリーが申し訳なさそうにまた見つめていた。ジルはその心配そうな顔を見て柔らかく笑みを作り、少女の両頬を手で包み込む。

「どうって事ないわ。リリィの事もちゃんと連れてくるから、心配しないで?」

そのまま解すようにうりうりと揉んでやれば、堪らず「うー!」と少女は声を上げた。

「んん……ありがとう、ジル。気を付けて行ってきてね」

幾分緊張が解れたか、そう言うメアリーの顔には笑顔が浮かんでいた。ジルはそれを見て安心したように地図を少女の手に握らせ、車両を後にする。

「ええ。行ってくるわ」

それが思ったより長い道のりになる事を、彼女は知らない。

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