ゴンドラの唄(加筆修正して再投稿予定)   作:時緒

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カルナさん以外のFateキャラが未だにほぼ出てないってマジ怖いですね。


10.落下

 王族どころか王族の武術指南役に過ぎないバラモンの我侭で始まったクソッタレ戦争が終わったのは良かったものの、今度は代わりに国内がますます不穏な感じになってきていい加減うんざりしてるアールシさんです、こんばんは。突然のメタごめんね。

 

 国内が不穏ってのはずーっとこの方囁かれてきている王位継承問題が最近ますます活発になってきてるってことだ。ドゥリーヨダナ王子とユディシュティラ王子の仲が更に険悪になってきているらしく、お陰で宮廷は随分ピリピリしてるらしい。まあ私の知ったことじゃないんだが、この身内の諍いが内乱に発展してしまうのは困る。とても困る。食い扶持と安全という意味でね。

 

 個人的な意見を言わせたらあのクソ女の息子なんか問題外と思うものの、まあでも子供に罪はないしなあとも思う次第。そもそも彼ら、自分達に上にもう一人兄貴がいるなんざ知りもしないだろう。ビーマとかいう第二王子は相当乱暴者の困ったチャンらしいが、長兄(次兄だけど)は法の神の息子だけあってそれなりに理性的で公正だとかなんとか。そんな奴が母親の一存で川に流された兄の存在を知ったら多分放っては置かないんじゃないかなと思う。保護するにしろ揉み消すにしろね。知らんけど。

 

 ちなみに五人いるパーンドゥ前国王の息子のうち、一番良い評判を聞くのは長男でも次男でもなく、実は三男。

 名前はアルジュナ。「白色」という意味の名前。名前の通り清廉潔白、弓を扱わせたら天下一品、真面目で心優しく眉目秀麗、兄を敬い弟を可愛がり、父母を大切にするそりゃあもうよくできた男だそうで。

 

 ……どこのチートだよ。

 

 漫画のキャラだったら担当編集に「主人公にするには何でも出来すぎてるから設定を削るかライバルキャラに転身させろ」って言われる奴だよ。多分だけど。

 まあ確かに遠めに見たことがある王子はどいつもこいつもキラキラしてたけど、真ん中を歩いてた白い服のアルジュナ王子は確かに一際目を引いた覚えがある。客観的に一番顔がキレイなのは弟の方だったけど、何だろうね、姿勢? オーラ? まあああいうのを持って生まれる人はいるよね。たとえ特別美形じゃなくても、大女優とか王族って何かそこにいるだけで何か出てるの、あれに近い感じ。

 

 って、そんなことはどうでもいいとして。

 

 とにもかくにも、今この国の上層部は不穏、その一言に尽きる。下々には関係ないと思ったら大間違い。内乱に直接巻き込まれるだけでもアウトだし、うちは現国王側の御者だからドンパチ始まったら絶対に駆り出されてしまう。ドゥリーヨダナ王子のとこは総勢100人兄弟がいるし、パーンダヴァは全員父親が神様だからどいつもこいつも人間離れしてるって噂だ。本気でぶつかるとなったら絶対にただじゃすまないし、こっちに来る余波もとんでもないだろう。

 

 逃げたい。隣の国より更に遠くに逃げたい。神の威光も何もかも届かない場所に逃げたい。具体的に言うなら日本に帰りたい。

 一度はヴァスシェーナの為に放出したへそくりもまた貯まってきたし、家族を上手いことだまくらかして国外逃亡できんかなーなんてちょっと考えていた今日この頃。まあ無理なんだけどね。両親はまだしもヴァスシェーナは恐ろしく勘が良いから。最近は殊更武芸にのめり込んでるし、夜逃げみたいに国境を越えることには流石にいい顔をしないだろう。

 

 つーかあの愚弟、例の戦争からすっかり同じ陣営にいた「誰かさん」に夢中なのだ。面倒くさくて詳細は聞いちゃいないけど、これが可愛い女の子だったらどんなに良かったか。前も言ったけど私はお前に武芸のライバルを見つけてこいとは一度たりとも言ってねーからな、ったく。

 

 それにしても。

 

 国外逃亡にしろ隠遁にしろ、私一人ならどうとでもなるけど、老いた両親と放っておいたら身ぐるみ剥がされそうな弟をほっぽり出すなんて流石に無理だ。なお身ぐるみ剥がされるってのはお人好しの度が過ぎる弟が何でもかんでも持ってるモンを人にやってしまうって意味。お前本当いい加減にしろ。私はお前が使ったり食べたりするのを前提に渡してるのであって見ず知らずの奴にくれてやらせるつもりで渡したんじゃないってのに。

 

「いのち短し 恋せよ乙女

 あかき唇 褪せぬ間に」

 

 あーあ!

 

 しんどいなあ。心配事が沢山あって、でも自分じゃどうしようもないしどうしていいのかも分からない。その日暮らしに近いってのは前世でも変わらないのに、自分一人だけしかなかったあの時とは比べものにならないくらい重たい。

 投げ出すつもりは全然無いけど、たまに、すごくたまーに、叫び出したくなる。

 

「熱き血潮の 冷めぬ間に

 明日の月日は ないもの、――をっっ」

 

 馬に水を飲ませる傍ら、粗末の一言以上に語る要素も無い服を脱いで川に飛び込む。沐浴なんてもんじゃなく、単に気分転換だ。元々は生理の血をいちいち拭うのが面倒で家の水を使いたくなかったから始めたものぐさ習慣だけども、存外快適だったのでこの年になってもこっそり楽しんでいる。何せ娯楽も何もない家ですし? この程度のはっちゃけくらいは許して貰いたいもんだ。

 水着も何も無しに泳ぎ回るのって流石に最初は抵抗はあったけど、この辺りに来る人間なんてせいぜい探しに来る弟くらいなので特に問題は無い。なおヴァスシェーナに見つかると普段の淡泊っぷりが嘘のようにやけにくどくど叱られるので、あんまり長居しないのがコツだ。

 

 あの説教臭さ誰に似たんだかね、まったく。

 

「いのち短し 恋せよ乙女

 いざ手をとりて かの舟に

 いざ燃ゆる頬を 君が頬に

 ここには誰れも 来ぬものを」

 

 あー、きもちい。

 この国は一年中大体あったかいから、いつ水を浴びても肌寒くないのが有り難い。

 お湯を沸かすのも一苦労だからね、ほんと。まあうちはかなり頻繁に火を焚いてるけど。主に私の入れ知恵で。

 

 とはいえ日本みたいに一つの家に湯船があるわけでもなく、せいぜい頭から水を被るのが精一杯なのがこの国の衛生事情。川の水には微生物がーとかバクテリアがーとか言っても当然通用しないのが頭の痛い問題だ。まあ今現在進行形でその川に飛び込んでるんですが。いいじゃん気分転換に川で泳ぐくらい許してよ。ちゃんとあとで洗い流しますんでね。

 

 ……お、馬がそろそろ飽き始めてるな。帰るか。

 

「いのち短し 恋せよ乙女」

 

 んんっ、髪が重い……!

 前も何だかんだ面倒で伸ばしっぱなしにしてたけど、今は習慣とか刃物の問題もあってもっとおいそれと切れないから私の髪はかなり長い。白髪の一本も見つかったことがないし、手入れも出来ない割にしっかりコシも艶もあるから見苦しくはない、はず。でもこうやって水を吸うとおっそろしく重い。乾くのも時間がかかるしね。

 

「波にただよい 波のよに

 君が柔わ手を 我が肩に」

 

 ぎゅーっと水気を絞ってボロ布で拭いて、身体も伸ばす。昔は水着も買って貰えなかったからろくろく知らなかったけど、水泳ってのは存外体力を使う。そりゃダイエットにもなるわけだ。

 

 ま、今はどっちかっつーとスレンダー体型、悪く言うなら貧相なスタイルなんでダイエットなんぞ要らないくらいだけど。この世界の美女の判定は、顔もそうだけど「肉感的」……ようするにマリ○ン・モン○ーみたいなグラマラスだから。或いはぽっちゃり系。ふくよかな女の方が豊かな感じがしていいらしい。思い返せば確かにクンティーも痩せてはいなかったな、うん。

 

「ここには人目も 無いものを」

 

 あ、だめだ。あの女のこと思い出したらまた腹立ってきた。

 あれから何年経ったと思ってやがるまーたテメエが捨てた長男忘れてんじゃねえだろうな。もっぺん宮廷潜り込んで思い知らせてやろうか。

 

「いのち短し 恋せよ乙女

 黒髪の色 褪せぬ間に」

 

 ……流石にむずかしいか。ていうか馬鹿馬鹿しいし、何よりリスクばっかで金にもならん。

 

「心のほのお 消えぬ間に」

 

 さて、そろそろ帰るとしますか

 

「今日はふたたび 来ぬも――」

 

 ……ね?

 

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 

 ………………………………。

 

 

「……ぶはっ!!」

 

 ええと、取り敢えずざっくり説明すると。

 頭上に突然影が差したと思ったら、足を滑らせた男が川に落ちてきたでござる。

 

 以上。

 

「……」

 

 泳げないわけじゃないらしいが、荷物がやたらと多いのと身に纏った布が身体にまとわりついて流されかけている不審者。見たところ托鉢の帰りらしい……ってことはバラモンかクシャトリヤか。助ける義理もないけど流石に目の前で溺れ死なれると寝覚め悪いな。此処明日もどうせ来るし、そこで死体が浮いてたら流石に笑えない。水死体ってキモいらしいし。

 

「あーもう……っ」

 

 まだ服を着る前で良かった。取り敢えずバタバタしてる腕を引っ張って、背負った荷物を適当に岸に放り投げる。重たいなこれ托鉢中のやつが持つ荷物か? まさか全部喜捨されたやつ? ンな馬鹿な。

 ついでに布一枚も剥ぎ取ってこれも岸に投げた。私と違ってちゃんとこの国の人間らしい、しっかり黒い肌が露わになる。……が、生憎とこの程度でドキッとするような柔な神経はしていない。男の裸なら弟のせいで見慣れているのでね、残念ながら。

 

 一応付け加えると変な意味では無い。アイツの日課(沐浴)のせいだ。あしからず。

 

「っげほ! げほげほっ!」

 

 あれまあ。

 爺かと思ったが髪は黒い。若い男みたいだ。気管に入り込んだ水で咳き込む背中を取り敢えず叩いてさすってやる。あーあ、こりゃいい手入れされてる。ニキビの一つもありゃしない。バラモンじゃなくてクシャトリヤだなこれは。

 クンティーは隣国の王族だから直接の血縁は息子達しかいないらしいけど……多分姻族だろうな。助けて損したかも。いや逆恨みか流石に。

 

「大丈夫、……ですか?」

 

 うっかりため口で話しかけそうになった。いかんいかん。相手はクシャトリヤ様クシャトリヤ様。って、だったらこうやって背中をさするのもヤバいかひょっとして。やべえどうしよう。因縁付けられて首ちょんぱとかされたら目も当てられないんですけど。

 

「だ、だいじょうぶ……です……ごほっ、その、失礼を…………」

 

 んあ?

 

 ちょっと待て、この顔どっかで。

 何か涙目になっててなっさけねー表情だけど、この一度見たら忘れられないイケメンぶりは、うん、何年か前に凱旋で見た白い衣装の……

 

 うん、間違いないな。

 

「アルジュナ王子?」

 

 クンティーの親族どころか実の息子じゃねーか。

 何この偶然。意味分からん誰か出てきて説明しろ。




結構無理矢理ですがアルジュナさん出してみました。ウルーピーの祝福を貰う前ならこういうこともあると思いまして。
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