ゴンドラの唄(加筆修正して再投稿予定)   作:時緒

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流石に1話だけで放置するのも申し訳ないのでもう1話。
ちなみに書き手にとって異世界トリップもののバイブルは『彼方から』なんですがちっともリスペクトが光ってませんね。実にすみません。


01.捨子

 馬の世話をしていたら川で赤子を拾いました。

 何を言っているか分からないって顔してるね? 大丈夫私もいまいちわかってないから。

 

「あー、うー」

 

 いや、わかってないってのはあまり正しくない。この子供が恐らく捨子であること、水漏れしない良い箱に入っていたことからそれなりに身分のある女が生んだということは私にもわかる。

 それが何でこんなことに? 大方不義の子か、婚姻前に作っちゃった子なんだろう。この時代、婚前交渉した男はお咎めなしなのに女にはめっちゃ風当たり強いから。

 

 だからって捨てんなよなーマジ捨てんなよなー。つーか婚前交渉とか馬鹿じゃねーのばっかじゃねーの!? 肩身が狭くなるようなこと自分ですんなよ! (多分)いいとこのお嬢さんがさあ! この子どうすんのマジで!!

 

「うー、うー」

 

 しかしまあ……この子のこの身体どうなってるんだろう。

 真っ白な肌に……いや私もこの世界の人間にしてはかなり白いけど、もっと病的な白さで、しかも髪まで真っ白だ。うっすら開いた瞳はどうも青とか緑とかそっちの色だし、何より異質なのはこの手足。

 

 おくるみ脱がせて(赤ん坊相手だからセクハラ呼ばわりは勘弁してほしい)ひっくり返したら背中も金色の硬いもので覆われている。胸元にはルビーのような大きな石が埋まっていて……あとはこの耳飾り。左耳に金色の、太陽のようなモチーフをしたピアスがしっかりついている。ピアスだと思うんだけどこれ……どうやって外すんだろう。

 

 外せる気がしない。寝返り打ったらどっかでひっかけちゃいそうで心配だ。

 

「ってそういうもんだいじゃない」

 

 もしかしなくてもこの子、噂に聞く神様の子ってやつだろうか。この世界の神様は多神教で、だからどいつもこいつも気紛れでわがままで凄く人間臭い。何処かの神様が若い娘をレ○プして、娘がそれを秘匿しようとして生まれた子を川に流した……とかなら納得できる、かもしれない。

 

 ……それでも捨てないでほしいけどなあ。どうすんのホント。私が拾わなかったら幾ら頑丈な箱でもいつかは壊れてただろうし、拾ったのが私じゃあまともな世話なんかできない。少なくとも、この箱を赤ん坊に暮れてやるくらい裕福な家と同じような暮らしなんてとても無理だ。

 

「こどものいないおうち……おとなりさん、こないだ赤んぼが亡くなってたっけ」

 

 下手なことをして偉い人に見つかったら、この子供は殺されてしまうかも知れない。子捨ても姥捨てもこの世界は当たり前だ。だったらせめて大切にしてくれそうな家に引き取って貰えたら、せめて人並みの暮らしは保証されるかも知れない。

 

 あ、でも駄目だな、お隣の旦那さん、基本いい人だけど酒乱なんだ。酒のために家の金盗むタイプなの。こんなキンキラしてる子、酔った拍子に売り払われちゃうかも知れない。

 

「ん、ぅうー」

「ん?」

 

 短い手足をバタバタさせた赤ん坊が、何やらこっちに手を伸ばしてくる。おなかでも空いているのかも知れない。ミルクも何もないんだけど……お、お、力強いなこの子。

 

「きゃ、ぅう」

「おう」

 

 あ。

 

「あー、あー」

「ひえ」

 

 だめ。

 

「うーぁあー」

「あう」

 

 だめだ、

 なんかむり。

 

 むり。

 

「……」

 

 いや、ごめんなさい。やっぱ人に預けるとか無理だわ。

 チョロくてほんとごめん。でもかわいい。

 こんなちっちゃいのに何か必死過ぎていじらしい。ぎゅう、って指を握られるのたまんない。……かわいいなあ。うちのババアがパチンコ三昧で煙草なんて吸わなかったら、私の弟も無事に生まれてたのかな。……あ、前世の話ねこれ。

 

「よしよし、いっしょにいこうね」

「きゃあい、ぅー」

 

 両親には悪いけど、何とか頭を下げてお願いしよう。駄目なら私が最悪身売りすれば事足りる。給食費や教材費のために履いてたパンツ売ったことだってあるんだ。このくらいどうってことないナイ。

 病気移されることだけが心配だけどまあ、コーラで洗えば大丈夫っしょ! コーラなんかないけどこの世界!

 

「なまえは……かいてないかあ。てがかりぜろだねえ」

「ぅゆ」

「だーいじょうぶだよ、おうちかえろうねえ」

 

 とりあえず、この箱とおくるみは帰りがけにとっとと売り払おう。手がかりにはなりそうにないし、多少のお金と一緒なら、両親も少しは検討してくれるかも知れないから。

 

「いのちみじかし こいせよおとめ

 あかきくちびる あせぬまに

 あかきちしおの さめぬまに」

「あー、! あー!」

「んふふ、ごきげんだねえ、いいことだ」

 

 背中に背負った赤ん坊はしっかりずっしり重たくて、身体にくっついた黄金の分だけきつかった。だけど体温がすごくあったかくて、不思議と元気になるような気がした。

 

 

 

「おやアールシ、その白い子は?」

「えっと……」

「まあ、川から? それはかわいそうに……あら見てあなた、この赤ちゃん、こんなに素敵なものを体中に着けているわ!」

「こりゃあ凄い、きっとこの子は神様の子なんだなあ」

 

 ……私が言うのもなんだけどさあ、うちの両親お人好しが過ぎない?

 いや、私の立場からすると有難い限りなんだけどさ。

 

「黄金は太陽の色、白も陽の光の色だ。この子はきっとスーリヤ神の子に違いない」

 

 スーリヤ……って太陽神のアレかあ。詳しくないせいかも知れないけど、インドラとかヴィシュヌと比べるとより影が薄いイメージがある。

 

「よく連れてきてくれたね、アールシ。これはきっと太陽神のお導きだ」

「……ん」

 

 いや、本当に神様ならそもそもこの子捨てさせないでよ、と思ったのは置いておくとして。まあこの子をまた私が捨てに行く羽目にならなかったのは素直に良かった。そんなことになってたら私も一緒に出ていくつもりだったけど。

 え、路銀? ロリコンを誘い出してどうにかしますとも。

 

「名前は何としようか。このように美しい輝きを帯びた子だ。スーリヤ神の威光に相応しい名をつけなければ」

 

 それは確かになあ。見た感じ顔立ちも可愛らしいし、美少年になるだろうし……御者の子にはちょーっとばかし勿体ない。生まれた家できちんと育てて貰えてたら幸せだっただろうにね。

 

 ……そういえば、スーリヤ様も生まれたときに母親からぶん投げられたんだっけ? 説教してるバラモンがそう言ってた気がする。ほら太陽神だから、生まれたときから全身灼熱だから。……かわいそうにね。親子そろって母親から捨てられるとかどんな因果だ。

 

 いや、そもそもこの子が捨てられたのは父親(スーリヤ)がろくでなしだったからって可能性がワンチャンあるんだけど。ていうか出来るだけそうであってほしい気持ちがあるんだけど。

 

「アールシュはどうかしら。太陽の子ならぴったりよ」

「それはだめだ。うちにはもうアールシがいるだろう。間違えてしまう」

「確かにそうね。ではイシャンは?」

「少し捻りがないように感じるなあ。……ううむ、アルジュナはどうだ? この白い肌と髪に似合いだと思うが」

「確かに美しいけれど……でもどうしてかしら、あまりよくない気がするわ」

 

 うん、私もアルジュナはやめた方が良いと思う。なんでかはわからないけど。

 

「アールシ、何かないかしら?」

「わたし?」

「ああ、そうだな。元はお前が連れてきた子だ。お前が名前をつけてやるのが良い」

 

 急に言われましても。

 とはいうものの、両親はもう「アールシが名づけるのが良い」と腰を据えてしまってるし、私がさっきから抱えてる赤ん坊も心なしか期待のこもった目を剥けてくる。赤ん坊のくせにハッキリ感情が出る子だな、これで成長するにつれて無表情になったら笑えるんだけど。

 

「んー……」

 

 ところで現代日本人の感覚が抜けないわたくし、このくっついた黄金が手足の成長を阻害しないかが心配です。あと金属アレルギーとか大丈夫? 神様パワーで全部オーケーな感じ? ほんとに?

 

 ……正直に言うぞ。こんなわけのわからんモンくっつけるならこの子にまともな家庭環境を与えてほしい。

 

 でもスーリヤ神ってどうもあんまり人間に干渉しない神様っぽいしなあ……つったって息子のことでしょ? もっとこう、あれこれやってくれてもいいんじゃないんだろうか。息子だよ? なんなの? 育児放棄なの?

 

 ……なんか考え出したら腹が立ってきた。

 

「じゃあ、ヴァスシェーナ」

 

 ああもうわかったよ! そっちがその気ならもういい! いるかもわからない神様なんて宛にして堪るか! 母親のことだってもう忘れてやる!

 

 この子は、もう、うちの子だ!

 

財宝を帯びた者(ヴァスシェーナ)、か……立派な名前だ。確かにこの子には相応しいが……」

 

 分かってる。御者という身分には不釣り合いな名前だ。でもこれでいい。どんな馬鹿でもわかるような神様の加護をもって生まれた子だ。何処かの英雄譚ならきっと勧善懲悪の物語の末に大国の王様になっていておかしくない。

 だとしたら、このくらい立派な名前じゃなきゃ勿体ないじゃないか。

 

 とはいえ、

 

「それなら、ふだんはべつの名前でよぼうよ。わたしたちだけがヴァスシェーナってよぶの。そしたらだれも文句はないでしょう?」

 

 正直、DQNネームってわけでもないんだから人さまの名づけくらいほっとけって話だけど、生憎ヴァルナとそれで増長した上の連中はなかなか黙ってくれないものだ。不服も不服だけど、私だってこの世界で三年生きてればそのくらいのことは分かる。

 先隣の家の息子が手足が引き千切れるまで馬車に轢かれ続けたのは、暇を持て余したクシャトリヤの馬鹿がほんのちょっと馬車の傍を横切った子供に腹を立てたっていうくだらない理由からだった。

 

「ふむ、ではそうしようか。普段の名はなんとする?」

「てきとうでいいよ。これすごくキレイだからカルナとかどうかな」

 

 これ、と指さしたのは赤ん坊の左耳身で揺れる耳飾りだ。手足の黄金と一緒で耳朶を千切らないと引っぺがせない、不思議な飾り。どうやってつけたんだろう。生まれたときからこうなのかな。それとも、生まれてからくっつけたのかな。

 

 どっちでもいいか。

 

(カルナ)、カルナか。呼びやすいな。よし、では外向きにはこの子はカルナと呼ぼう。ヴァスシェーナは秘密の名だ。ふたりとも、外ではくれぐれも気を付けるように」

「はい、あなた」

「はぁい、おとうさん」

 

 御者のアディラタ、そして妻のラーダー。彼らを両親と呼ぶことにもそろそろ慣れてきた。元々親とは縁が薄い身だった私にとって、生まれて初めて恥ずかしげもなく「親です」と紹介できる人間でもある。

 

「しあわせになろうね、ヴァスシェーナ」

 

 思えば前の人生において、私は兄弟なんてとんと縁が無かった。あの家に私以外の子供はいなかったし、いてもきっと早死にしたことだろう。寧ろ私がまともに成人出来たことさえ奇跡に近い。あの家はそういうクズの巣窟だった。

 

 兄弟姉妹、という響きに憧れはあった。けれどそれは「優しい両親」くらい私にとって縁遠いもので……でも生まれ変わった私に優しい両親は呆気なく与えられて、こんな形であっても弟が出来た。

 

 かわいそうなヴァスシェーナ。こんなに小さい体で捨てられて。

 

「あー、ぅー」

「んふふ、かーわい」

 

 でも、もう大丈夫。

 私がお前を守ってあげる。だからきっと、幸せにおなり。




固有スキル:ブラコン が解放されました。

……うそです。いや嘘でもないんですが。
次はそれなりに遅い更新になります。元の連載を進めるので。

ひとまずお付き合いありがとうございました。
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