ゴンドラの唄(加筆修正して再投稿予定)   作:時緒

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ちっちゃいカルナさんとか絶対かわいい(かわいい)
ところでアルジュナとカルナは十八歳差だったらしいですが他の兄弟はどうなんでしょうね。今のところ細かい年数は資料で見つけられていないので、もしご存知の方がいらっしゃったら教えていただけると嬉しいです。


神代Ⅱ:「他人に変わって欲しければ、自ら率先して変化の原動力となるべきだ」
03.不安


 ヴァスシェーナの衝撃・目からビーム事件から早くも三年が経った。三歳になったヴァスシェーナは昔の私がそうだったように片言を喋りだし、立って歩くのも問題なく育った。貧しい家なのにちゃんと育ってくれて本当に嬉しい。

 

 まあ見た目もやしなんだけど。色が白いのも相まってもやしそのものなんだけど。

 ……もやし食べたくなってきた。一袋十円とかもう庶民の味方すぎてありがたみしかない。私にとってのおふくろの味はもやしの味噌汁です。ちなみに作ったのはババアじゃなく私なんだけど。

 

「あねうえ」

 

 おっと、噂をすれば。

 

「あねうえ、それはなにを?」

 

 とてとてと軽い足音を立ててやってきた弟が、私の手元を覗き込んでくる。かわいい。青緑……うーん、なんていったらいいのかな、この色。大昔に写真で見た湖みたいな両目がじーっとこっちを見てて可愛い。その下のほっぺをつつきたくなる。

 ごはんはあまり食べられない家だけど、この子は太陽神のお陰か病気や怪我とはとんと縁がない。まあそれは何故か私もなんだけど……もしかしたらスーリヤ様がおまけで何かしてくれてんのかな?

 

  ぶっちゃけ私は毎年インフルでも良いから具体的に養育費が欲しいです。うそです。健康が一番。ほんとにね。

 

「何に見える?」

「ぬのやふくをにこんでいる」

「そのままだね」

 

 ヴァスシェーナはくりと首を傾げた。かわいい。頭にクエスチョンマークを浮かべてることがわかるのは身内だからだ。成長して口は回るようになったものの、この子は基本的に無口で無表情だ。無表情はさておき、赤ん坊のころは叫んだりはしゃいだり結構お喋りだったのに不思議なもんだと思う。

 

「これはね、煮沸消毒」

「しゃふつしょうどく」

「そう。私達の周りにはね、目には見えないだけでたくさんのバイキン……ええと、目に見えない病の元がいるの。で、そいつらは強いお酒や熱いお湯に弱いことが多いの。布や服は肌に触れるものだから、きれいにしておけば病気にかかりにくくなる」

 

 使いまわしている家中の布を色ごとに分けて、沸騰させた鍋の中に放り込む。冷めるまでまって、あとは干す。滅茶苦茶手間だけど、これが確実だ。何せ高卒なもんでね。何処かの小説の主人公みたいに石鹸やお酒なんて手軽には作れない。お酒もどぶろくじゃ駄目だろうし……清酒って飲むばかりだったからな。今になって後悔中だ。

 

 そんなわけで当然洗剤なんて便利なものとも縁がない以上、原始的でもこうやって熱消毒するしか方法はない。近所の大人からはいよいよ頭がおかしいと言われるようになったけど背に腹は代えられない。ていうかこの世界の衛生観念ザルすぎてついていけない。両親が寛容でよかった、ホント。

 

 ちなみにこの世界、古風すぎる世界観に違わず「細菌」とか「衛生」の観念はほぼゼロだ。泥で汚れて手を洗うことはするけども、水で流すだけだから雑菌は残るし、傷口を嘗めて悪化させたり、あと何でもよくわからない薬に頼ろうとする。

 だから雨季になると食中毒が流行って結構人が死ぬし、そうでなくても一度感染症が流行ると止めようがない。日本みたいに冬が寒く無くて本当によかったと思う。病の神もこの世にはいるらしいけど、こっちはすぐに医者を呼べる金持ちじゃないんだからすっこんでてほしいってのが本音だ。

 

「ばいきんとは、チャームンダーめがみのしとということか」

「……たぶん?」

 

 誰だ、チャームンダー。私に神様的な教養は求めないでほしい。女神っつーからには女神なんだろうけど。

 

「あねうえのしたかあたまには、よごとナーマギリめがみがよぶんなちえをかきつけていくのだろうか。まいにちまいにち、こまどりのようにせわしなくうごきまわり、ほかはねるかたべるかしかしていないというのに」

「……一応聞くけど、それは褒めてるんだよね?」

 

 きょとん、としてから一つ頷くヴァスシェーナ。いや、わかりにくいよ。それだと私が毎日遊びまわってお腹減ったら食べてあとは寝てるしかしてないクソガキだと取られるよ。余所で言ったら引っ叩くよマジで。

 

 ……口が達者になったとはいえ(少なくとも前世の私が三歳だったころの数倍語彙がある。お前こそ何処で覚えた)、何かこの子言葉のチョイスがおかしいというか……なんだろうね。喋ってると凄い違和感がある。表情もこの通り無に近いし、こりゃ友達ができにくそうだ。女の子みたいに綺麗な顔だから無駄に迫力もあるし……。

 

 いや、三年前の目からビームが尾を引いてるってのもあるかな。あれ、どうも本人は全く覚えてないみたいなんだけど。

 

「そろそろ真昼だよ、ヴァスシェーナ、行っておいで」

「ああ」

 

 行っておいで、というのは仕事じゃなく(三歳の子供に仕事なんかさせるわけないじゃないか。危ない)、日課の沐浴だ。二十一世紀ジャパニーズの感性しかない私からすると「なんぞ?」と思う習慣だけど、何故かヴァスシェーナは物心ついた時からこの習慣を身に着けていた。もしかすると赤ん坊のあの子に「お前はスーリヤ様の息子だよ」なんて両親が刷り込んだせいかも知れない。

 

「命短し 恋せよ乙女

 あかき唇 褪せぬ間に

 熱き血潮の 冷えぬ間に

 明日の月日は ないものを」

 

 沐浴っていうと赤ん坊のアレしか私は思い浮かばないが、要するに水で身体を清めながら祈りをささげるらしい。祈りって何だろう。神社に行って縁結びや就職を祈願するのとは違うんだろうか。よくわからない。よくわからないから私はしないし、そんな暇があったら仕事をする。家族四人の洗濯物はそこそこ量があるので。

 

 さて、今日の分はこんなところか。

 

「よい、しょっと」

 

 父親が作ってくれた踏み台を駆使して洗濯物を干し、これで今日は終わり。この方法はどうしても色落ちが激しくなるけど、風邪ひいて寝込むのはこの世界では命取りだ。お陰で私の手は乾燥でガビガビだけど、元々馬の世話や野良作業で傷ついているので今更気にもならない。

 

「おかあさん、これ」

「ありがとうアールシ、お疲れ様」

 

 洗濯物が終わったら掃除をして、買い物をして、夕飯の準備をして、それから針仕事。貧乏暇なしという言葉通り、やることは山のようにある。馬は父親が連れて行ったので今日はまだ暇なほうだ。

 五歳のころからやっと竈に近づかせてもらえるようになったので、火の番もいい加減お手の物。でもそろそろ時間なので、これは母親にお任せする。

 

「いってきまーす」

「はいはい、気を付けて」

 

 そろそろヴァスシェーナの沐浴が終わる時間なので、乾いた布を持って家を出る。本当なら一人で出歩かせずについていきたいくらいなんだけど、ほら溺れたら危ないし。

 だけどあの子自身がどうしてもそれを固辞したのと(「あねうえにそのようないとまがあったとはしらなかった」とかほざいた。流石に引っ叩いた)、あの子を誘拐しようなんて命知らずはこの辺にはいないので涙を呑んだ。

 実際、沐浴を待つ間は何も仕事が出来ないので(針は外で落とすとまず見つからない)、助かっているといえば助かっている。

 

「命短し 恋せよ乙女

 いざ手を取りて かの舟に」

 

 ところで私にはよくわからないんだけど、ヴァスシェーナ本人を含め、周りの人にはあの子が真っ黒い汚れを全身に纏ったとても汚い姿に見えるらしい。ちょっと意味がわからないよね。だって私見えないし。あの子いつでもこっちが心配になるくらい真っ白で綺麗にしてるよ。ていうか赤ん坊のころは私が洗ってたし。

 

「いざ燃ゆる頬を 君が頬に

 ここには誰れも 来ぬものを」

 

 ただこれについては両親もヴァスシェーナの証言を否定しないから、多分おかしいのは私の方なんだろう。何なんだろうねー、ブラコンの欲目? 一応自覚はあるよ。

 

 でもまあ、それなら逆におかしくて良かった。周りが言うようにあの子が汚れて見えてたら、私は赤ん坊のあの子の肌を延々擦り続けてたかも知れないからね。

 

「ヴァス……違った。カルナぁ」

 

 さて、やってきました川です。名前は知らない。いつも馬の飲み水とか生活用水とかでお世話になってます。ヴァスシェーナは此処のあまり人目に付かないところでいつもバシャバシャやってるんだけど……。

 

「カルナ? カルナー?」

 

 返事がない。おかしいな、あの子沐浴の時間は基本厳守するから、時間はかけるけど無駄に無駄にのんびりはしないはずなんだけど。

 

「いないの? カルナ? どうしたの?」

 

 ちょっとちょっとちょっと、返事がない。返事がない。ちょっと待て!

 

「カルナ!? カルナ! いないの!? どこ!?」

 

 まさか溺れた? それとも誘拐? 待って待って待って嘘でしょ? え、やだ。うそ。冗談じゃない。なに? 冗談きついって何なのほんと。え? ふざけんな。何でこんな。意味わかんない。やだ。どうして。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそう

 

「あねうえ」

「っていた――――――――――!?」

 

 いた! 生きてた!! よかった!!

 そしてうっかり産地直送待ったなしになるとこだったあぶねえ!

 

「なんですぐ返事しないの! 心配したでしょうが!」

 

 ほんっともう! ほんっとにもう! この子は! あんだけ呼んで何でずっと無反応だったの!? 寝てたの!?

 え? 川辺に行く子供を一人でほったらかしたのが悪い? いや本当にその通り! もう次から嫌がってもついていくからな!

 

「あねうえ……」

「なに?」

 

 しょぼくれたってお姉ちゃんは許しません。ごめんなさい言うまで許しません。

 

「もくよくちゅうに……バラモンのおとこがきて……」

「うん?」

「ほどこしを、もとめられて……」

「……うん?」

「おれは……なにももっていかなかったから……なにもやれなくて……」

「……んんんん?」

 

 おい待て。ちょっと待て。

 

「はずかしい……ほどこしをもとめるものに……もとめられたのに……おれは……」

「待て。待て待て待て待て」

 

 ほんと待て。何言ってんのねえ?

 

「三歳のお前に大の大人がモノを求めたってことに疑問を持ちなさい! 何でお前がそんなだらしない奴に何かやらないといけないの!」

「……? バラモンがもとめるなら、できうるかぎりこたえるものだろう? もっとも、おれにしてやれることはなにもなかったが」

「知らないよそんなの! お前は三歳! 相手は大の大人! どうせオッサンだったんでしょ!? 何か欲しいなら働け! それで買え!」

「…………?」

 

 ああー!! だめだ! 通じない!

 これが! 皆さん見て! これが! ヴァルナ! 私が暮らしてた世界の古代インドがどうだったかは知らないけど! でもこれが! この世界のクソ制度です! 身分の上下で大人か子供かも関係なくなるクソ制度! オッサンが三歳児に堂々と物乞いできるクソったれ制度です!!

 

「とにかく! お前に非は無いんだからそんなに気にするんじゃないの。そんなに悔しかったなら、次から着替え以外の服でも何でも家にあるものを持っていきなさい。お父さんたちには私から言っておくから」

「……ありがとう、あねうえ」

 

 素直にお礼が言える子は良い子です。珍しく微笑んだヴァスシェーナは悔しいけどほんとかわいい。お姉ちゃんこの子の子の顔には弱いの。

 

「だがあねうえ、おれはきめたぞ。おれはこんごいっさい、もくよくちゅうにバラモンからこわれたことはけっしてことわらない」

 

 …………。

 

「………………………………はい?」

 

 おまえは なにを いっているんだ。

 

「こんかいのはじをそそぐには、これしかできることはない。おれはスーリヤのむすことして、ちちのかおにどろをぬってはいけない」

「ばっ、! おまっ、え? は? ……はあ?」

「どうした、あねうえ。しゃっくりでもでたか」

 

 出てねーよ!! しゃっくりどころか内臓が出そうだよ!!

 

「だから! 恥なのはあっちの腐れ物乞いの方だって言ってんだろ!」

 

 三歳児のお前が恥じ入るならあっちは地面に埋まって出て来られないレベルだよ!

 なんなの? ばかなの? この子本当は馬鹿だったの?

 

「いつもおもうが、あねうえはじょうしきがないな」

「引っ叩くぞ! ていうか今のお前にだけはそれ言われたくない!」

 

 ああああああああ訳の分からんことを言いだした! 電波かこの子! でも残念こっちの世界では寧ろこれがスタンダードです! クソが!!

 

「…………家(前世の)に帰りたい」

 

 似たり寄ったりの貧乏暮らしでも、こんなクソ上下関係が存在する世界に比べたら二十一世紀日本は暮らしやすかったんだと改めて痛感する。

 あーもーやだ。これどうなんの。ほんっとーにどうなんの。今後の人生において悪い方向にしか転ばない気がする。

 

「そうか、ならかえろう。じかんがおしい」

「お前のせいだよ!!」




書くにつれてオリ主のキレ芸に磨きがかかっている気がする(そうでもない)
カルナさんの沐浴エピソードがいつごろかもちょっと分からなかったのでこのくらい理不尽な展開にしてみました。
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