お気に入りが減るのが可視化されてるのって中々精神に応えますね。
できれば一言でも感想を聞かせて欲しいです。なんでも改善致す所存であります。
先輩は手にした自分の刀を見つめながら、僕の不躾な質問に答えてくれた。
「ウチの父さんはね、武器を作るのが好きでその熱意でハンターになった人だったんだ。その中でも刀は特別で、自分には扱えないなんて言いながら暇があったら作ってたぐらいだった」
「それで、幼い頃の私は父さんの刀を使えるようになりたいって思ったんだ。父さんが作った最高の刀で私が最高のハンターになれば、父さんも喜ぶだろうって」
「幸運なことに私には才能があったみたいで、自惚れてるかもしれないけど強くなったと思う。それを父さんは自分のことのように喜んでくれたし、私も褒められたのが嬉しくて、もっともっと強くなりたいって思った」
「村1番のハンターになれるだろうって持て囃されて、アカデミーでも最強だって噂されてさらに調子に乗ってた。今年こそトーナメントを優勝して私は1番のハンターでそうなれたのは父さんのおかげなんだ!って伝えたかった」
「...先輩は最高のハンターです。お父様だってそれを分かっていると思いますよ」
紛れもない僕の本心からの言葉だったが、彼女はゆっくりと首を振るだけで
「だけど今日、私は自分がハンターに相応しくないって気づいたの。そしてそれを気づかせてくれたのは貴方達だったの」
「僕たちが...?」
「家に戻って父さんがグリムに殺されたって聞いて、私が思ったのはなんとしても父さんを殺したグリムに復讐したいっていう昏い気持ちだった。今もその気持ちはあるし、私はそれを否定するつもりはない」
先輩の瞳から光が消える。彼女から感じる圧は今までに他人から感じたものの中でも最も強く、これが殺意なのだと実感した。
しかし暫くして先輩はでもね、と話を続ける。その顔は凄く怖いのに今にも泣き出しそうで不安に思えた。
「貴方達がこの村にやって来て、ここの人達を避難させるべきだって訴えたのを見て、ハンターはただグリムを退治するだけの存在じゃないって気づいたの」
「誇り高きハンターであれって先生達もよく言ってたけど私には分からなかった、私にとってはただ強くなることが誇りだったけど他の人はそうじゃなかった、人々を護ることこそ彼らが誇りだったんだ」
先輩は自嘲気味な笑みを浮かべると僕に向かって話す。
「そんなことにも気づかずに最高のハンターになるって言って、お笑いだよ。その上で人に物を教えるつもりだなんて、冗談でも笑えない」
そんなこと、
「違います」
認められるわけがない!
「え?」
「先輩が努力を続けてきたことは、教えられた僕には分かります。そんな先輩を笑うなんて、それこそ馬鹿げてます。それに誇りなんて曖昧なものをハンター全員が持つべきなんて考え方、それを僕は認めたくありません」
「ハンターだって自分に自信や誇りをもって仕事をしている者もいれば、むしろそれらが無いからこそ最善の行動ができる人だっているはずです。そういう人達を蔑ろにするのは許されることではない!」
種族、思想、性別、レムナントでは前世の世界ほど多くの差別があるわけではない。その殆どはファウナスに向けられているが、差別の始まりなんてこれらの価値観を統一しようとする人間のせいだ。これを許す限り、差別が終わりを見せるわけがない。
「そうだな」
思わず熱く語って僕に予想外の援護射撃が飛んでくる。
「それぞれがハンターを目指す理由だって違うのだから、その根底にあるものはみな違うはずだ。そしてそれが誇りと呼ばれるものだと思う。先輩がハンターを目指す理由はそんなつまらないものなのか?」
「アダムくん、シンダーさん...」
ダーさん...まさか僕を肯定してくれるなんて思ってなかった、今まで実は黒いんじゃないかとか疑っててごめん。
ダーさんはあくまで悪い性格なだけで、少なくともまだ悪い人間じゃないんだね!
「...アダム、その顔は凄まじく不愉快だ。私の目の前から消えろ」
「あまりにも辛辣すぎる」
「ふふふ、あはははは!2人は仲が良いんだね!」
先輩がとてもおかしそうに笑い出す。そんなことはないです(確信)
たしかに信頼関係のある友達同士だったら仲良く暴言も吐くような関係もあるけど、ぶっちゃけ僕とシンダーの間に信頼関係なんて無いゾ。
「ふふ、うん元気が出たよ!...そうだ!折角だし、一緒に特訓でもしようよ!夏休み期間はお互い帰省するからできないと思ってたけど、ここでならいくらでも出来るね!」
あっふーん(察し)
「あっどうせならシンダーも一緒にしようぜ」
「私は遠慮しとく」
「遠慮なんてしなくてもいいよ!2人には元気付けられたし、いっぱい恩返ししないとね!」
...あの、その恩返しってヤクザとかが使う系の言葉だったりするんですか...?
喉まで出かかった言葉はギリギリ飲み込んだ。
こうして折角の美少女の家に泊まるという、一生に一度しか体験できないと断言できるイベントを、僕は碌に満喫できずほぼ死に掛けの状態で終えたのだった。
「それで2人はぐったりしてるわけね」
「ご主人様に会えて良かったと心の底から思ったよ」
「ハンナ、次は交代だ」
「えっまさか俺は固定なんです?」
翌日、僕らは避難者の手伝いと呼びかけを行うために集合した。先輩は今は避難のために荷物を纏めたりしてて、カラバの主人は仕事のため一緒に行動はできないらしい。なので暫くはこの面子で、追加に先輩が来て行動することになる。
「だけど、僕らの呼びかけで避難者は増えると良いけど...」
「カラバの主人はオニユリを襲ったグリムが出ればどうなるか最悪の事態にもなるって言ってたわ」
ハンター側にも危機感を覚えている人がいるなら、なんとかなるかもしれないが...いや楽観はよそう。いまの時点でのイレギュラーなんて些細なもので、あの惨劇がなんとかなるとは思えない。
「じゃあハンナとシンダーは避難者の手伝いをしてくれ。カラバは避難の呼び掛けを頼む」
「...確かにファウナスに見える僕たちが荷物を運ぶって言っても信用してもらえないかもしれないしね」
「...そういうことだ。俺はまずバスの人に避難者が集まるまで待ってくれないか頼みにいってくる」
ここの人達は諸手を挙げてファウナスを差別しているわけではないが、それでも無条件で自分の家に招き持ち物を触らせるほど信頼しているわけではないだろう。
ハンナもファウナスではあるが外見から判断すると全くファウナスに見えないため、問題は起きない筈だ。
負の感情はグリムを呼び寄せる。余計なイザコザを起こしてグリムに襲撃される最悪だけは避けなければ。
☆☆☆
昨日から父さまが忙しそうだ。父さまだけじゃなく、村のみんなもいつもより騒がしい。ぼくは騒がしいのは好きだ。父さまが帰ってこないから今日のは好きじゃないけど。
「ライ、お父さんは昨日から仕事なの。今日もいつ帰るかは分からないの」
「じゃあ父さまに会えるのはいつ?」
そう母さまに聞くと、ちょっと困ったような顔をして考え、その後いいことを思いついた顔になり
「じゃあライ、お父さんにこれを渡しに行って貰える?昨日は忙しくてお弁当を渡せなかったから」
「はい、母さま」
早速ぼくは家を出て父さまの仕事場に行く。今父さまはハンターとして、仕事をするみんなを守る仕事をしているらしい。
ハンターである父さまはカッコいい。そう言うと母さまはぼくもハンターになりたいかと聞かれるけど、ぼくはハンターは怖いからイヤなんだよね。母さまにしか言ったことはないけど。
父さまの仕事場はちょっと遠いから歩くのだけど、その途中で男の子たちが女の子をいじめているのを見た。
「逃げんなよ!そのパンどこから盗んだんだよ!」
「オマエみたいなのをドロボーって言うんだぜ!」
「やーいドロボー!」
女の子は必死にパンを抱えていて、男の子たちは彼女からパンを奪おうとしている。
「そのパンを返せっていってんだよ!」
「これ、カビ生えてるぞ!」
「じゃあゴミ箱から盗んできたんだ!」
「コイツ、変な服着てるぞ!」
「どこから来たんだ?」
「パンと同じだ!捨てられたんだ!」
女の子はいまにも泣きそうになり、ぼくは彼女を助けようとした。だけど足が動かない。ぼくよりも大きい子が怖くて動くことができなかった。
「何をしている!」
そこで聞こえた声はずっと聞きたかったけど、いまだけは聞きたくなかった。
「と、父さま...」
「うわっ!逃げろ!」
男の子達や女の子は逃げて、ぼくと父さまだけが残される。
「えっと、ぼくはお弁当を届けにきて、それで」
「お前はあの女の子を助けようとしたのか?」
父さまが聞いてくる。父さまは優しいけどこういうときは厳しい。だからぼくは泣き出さないように答える。
「うん。だけど怖くて動けなかった」
「そうか」
父さまは優しい顔になり、ぼくを抱きしめた。ぼくはさっきまでとは別の意味で泣きそうになる。
「ライ、助けようとしたのは立派だ。だが、動かないことは時に最悪な行動にもなる。だから動くんだ。これからは私がいないときはお前がみんなを助けるんだ」
「そんなこと、ぼくには無理です!」
父さまはぼくを離してじっと目を見つめると、腰からナイフを取り出し、ぼくに渡してくる。
「勇気を持つんだ、ライ。怖くてもお前ならできる!何故ならお前は私と母さんが愛した子供だからだ。私たちを信じろ!」
「...うん」
「良い子だ、私もこれから動いて市長に相談しにいく。私がいない間はお前に任せるぞ」
☆☆☆
そうやって始まった僕たちの活動は順調に進んではいるものの、完璧とは言えるものではなかった。それは避難すべきだというまだハンターの卵である僕らの判断と、ここは安全だという現役のハンターの判断では、後者の方が説得力が高いのもあるだろう。
それに急に避難しろと言われて中々できるものでもない。ましてや避難する期間や避難先での生活の保証だって不透明なのが事実である。頼れる人が別の場所に住んでいるとかならまだしも、そうではない場合は受け入れづらい話だろう。
しかし、全員がそうではなく、上手くいったこともあった。バスの方は会社に連絡してくれて、何台かこちらで待機してくれるように手配してくれたし、こういった避難するという動きが大々的に見えれば、避難した方がいいのではないかと思わせられるため、より効果的であろう。
途中からは先輩も参加し、この動きはさらに大きくなる。地元の子であれば呼び掛けられても無視しづらいだろうし、こういう動きは知り合いが動けば自分も動こうといった集団心理が働くものだ。
ハンターの中でも妻や息子を避難させる者も中には出て、レンさんの妻子らしき人物も見かけた。
その結果、村全体で見て少なく見積もって3割の住民が避難することになった。
それだけでは少なく感じるかもしれないが、避難者には特に高齢の方や女性や子供が多く、もしも残された人達がグリムの襲撃があっても対応しやすくはなったんじゃないかと感じた。
原作では唐突に始まったように描写されたグリムの襲撃だったが、これだけ危機感が煽られればハンターの対応が間に合い、村から逃げられる人も出て全滅することはないかもしれない。
バスに続々と乗っていく避難希望者を見て感慨深い気分になる。
この人達は僕が助けることができた人なんだ。残った人だってもしかしたら生き残れるかもしれない。
良かった、本当に良かった。もしかしたら原作で起きることは既に確定していて、僕が何をしようとも変えられない未来なのではないかとずっと思ってた。
クロユリのことを思い出すことができなかったかもしれないし、みんなが集まらなければここまで行動することはできなかったかもしれない。そうでなくても修正力が働いてここまででなにか失敗していたかもしれない。
だけど未来は変えられるんだ!原作で起きた悲劇は回避可能で、それは僕の運命もまた決まってないということ。それだけ分かっただけでもここに来てよかった。サンクタムに入学して良かった。
「...みんなと会えて良かった」
「どうしたのさ、いきなり」
「みんながいなかったらこんなこと出来なかった。ありがとう」
「何言ってるのよ、むしろ貴方が言い出したから私達が集まったのよ」
そうか、僕があの時動き出したから変えられた未来なのか。
「シンダー、勇気づけてくれてありがとう。君のおかげだ」
「...ふん。ただ私はお前が情けなく悩んでいたのが不快だっただけだ」
そういうと彼女は手を組んで明後日の方向を向いた。おまえベジータみたいだな。
「それでもさ、俺がお前から勇気を貰ったのは事実だから。この借りはいつか返すよ」
「じゃあ協力したのも合わせて2つ分だぞ」
コイツ、ちゃっかりしてんな。
「それだったら私達も1つ貸しがあることになるわね、ねぇカラバ?」
「...え、何これ...?」
「...カラバ?」
カラバは身体を震わせていて、何かを恐れているような、とにかくこの場面では異常な様子だった。
「どうしたんだ?どこか痛いのか?」
「ち、違うんだ!なにかが...なにかが来る!」
もう夕方にもなって涼しくなっているのにも関わらず、彼の顔には尋常でない量の汗が浮いていて、その顔色は髪や瞳の色と同じ灰色になっていた。
「...違う、灰色ではなく、銀色?」
長い間生きたグリムは知恵を手に入れる。そして自分が死ぬ可能性を最大限排除し、より効率的に多くの人間を殺せるようにその知恵と力を振るう。
だから原作においてナックラヴィーは人間が動きづらい夜を狙ってクロユリを鳥型のグリムであるネヴァーモアと一緒に襲撃。村の人間を誰も逃さずに全滅させた。
だが、もしその前に大勢が避難することになったら?その動きを察知したグリムはそのまま逃すだろうか?
「今すぐバスを出発させろ!早く!」
「アダム!?」
その時バスから1人の子供が飛び出す。彼はそのまま村の方に走り出す。
「ライ!どうしたの!?戻って来なさい!」
「まさか...ノーラ?」
「どういうことだ?カラバも様子が変だし、今すぐ出発させろとは...」
「だから、グリムが襲ってくる!手遅れになる前にバスを出発させろ!俺はあの子と避難して後から合流する!」
まずいまずいまずいまずい、もしここでレンとノーラを殺したら原作崩壊なんてレベルじゃなくなる!
僕の命に代えても彼らは助けないと!
焦る僕を嘲笑するかの様にグリムの咆哮が村を木霊した。
このままやって僕はいつ原作にたどり着けるんだ...?