悪役令嬢ってなんだよ(哲学)   作:センセンシャル!!

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これで最後の初投稿です。




 ――時はさかのぼり、木曜日。ヒロトがエリカに婚約破棄の意向を伝えた、その日の夜。

 

「……当て馬になれ、ですか?」

 

 少女――神崎コトリは、突然の大伯父からの電話で、そんなことを依頼された。

 

『うむ。頼まれてくれんかの』

「えー……ちょっとそれは、気乗りがしないんですが」

 

 話の内容は、こうだった。彼女の又従兄、大場財閥の跡取りである大場ヒロトが、婚約者とケンカをしてしまったので仲を取り持ってほしい。

 その際、自分は新たな婚約者候補として当て馬となり、二人の絆を強めてほしい。改めて言葉にすると、なかなかむちゃくちゃな依頼内容だった。

 

『そりゃそうじゃろうな。好きでもない男に告白して振られて来い、と言ってるわけじゃし』

「わかってるんならこんな依頼しないでください。そんなことしなくても、ヒロトさんの勘違いを指摘して、婚約破棄を撤回させればいいだけじゃないですか」

 

 少女は、大伯父の話から、大体の背景を想像できた。彼女はヒロトの婚約者とも面識があり、そのために具体的な内容にまで考えが及んだのだ。

 ヒロトの婚約者・大道寺エリカは、少し話しただけでその知性の高さを感じられるような、聡明な少女だ。おまけに貴族の血を引き、強大な魔法の力を持っているという。

 要するにヒロトは、エリカに対してコンプレックスを持ってしまった。自分では彼女の足元にも及ばず、それが原因でただの足かせになってしまっていると、思い込んでいるのだ。

 コトリに言わせればバカバカしい勘違いだ。確かにエリカは聡明ではあるが、天才的というほど飛びぬけてはいない。経営の分野に限るなら、財閥会長の薫陶を受け続けているヒロトの方が、圧倒的に優れているだろう。

 魔法の力も、確かに貴族と一般人では比較にならないほどの力の開きがある。が、それがこの平和な現代において、何の意味を成すというのだ。

 力あるものが優位に立ちやすい幼少期ならともかく、自分たちぐらいの年齢になれば、必要とされる能力は知力や体力、専門技術、そういったものに重きが置かれる。

 それを踏まえて、大道寺エリカは――ただの少女だ。優秀で、将来ヒロトの妻となるにふさわしい、ただの女の子だ。

 そもそもの話として、年末の大場の集まりでも砂糖を吐くほどイチャイチャしてたあの少女以外に、ヒロトが結婚したいと思えるような相手が、コトリにはまるで想像できなかった。

 

 コトリの至極もっともな指摘に対し、しかし歴戦の財閥会長は難なく反駁をする。

 

『今後、孫がこのような阿呆なことで時間を浪費しないためじゃ。言えば気付くじゃろうが、それはあくまで表面的なもの。あやつにとって何が大切か、自覚させねばならん』

「あー……まあ確かに、言われて気付いたことって、案外身になりませんものねぇ……」

 

 『じゃろう?』と老人は電話の先で笑う。……ああこれ、絶対それだけじゃないな。なんだかんだで享楽的な人であることを、コトリは知っていた。

 

「理屈はわかりました。けど、なんだって私なんです? ご存じでしょうけど私、ヒロトさんには全く興味がありませんよ」

『ないからこそ、じゃ。おぬしだから言うが、儂としても、孫の結婚相手はエリカちゃんであってほしいと思っている。利害的な意味でも、心情的な意味でもな』

「……つまり、まかり間違っても変な気を起こす心配がないから、私が抜擢されたということですか」

 

 つまり、コトリにとって全くうま味のない話である。これがヒロトに興味がある、あるいは将来の彼の妻という立場に価値を見出す人間なら、万に、いや京に一つの可能性にかけるメリットがあるかもしれない。

 彼女にとって何よりも重要なのは、縛られない自由。彼女の名が示す通り、自由に羽ばたける環境こそが、何よりも価値のあるものだった。

 ――それ故に、ガチガチの校則で縛られた全寮制高校の生活は耐えがたく、それが遠因となって問題を起こしたがために、今現在編入先もなく半分ニートのような生活を送っているのだが。

 弱みはある。自分一人の退学程度で済まされたのは、この大伯父の力が大きかった。元より断れる立場ではない。

 が、転んでもただでは起きないのが、神崎コトリという少女である。

 

「わかりました。いくつか条件付きでお引き受けします」

『ほう。……聞こうではないか』

「そう難しい話ではないですよ。まず一つは、もし私のミッションがうまくいった暁には、今度こそエリカさんが彼女らしく振舞えるように、彼女へ圧力をかける愚物を抑えてくださいな」

『ふむ?』

 

 それは、コトリの父がやらかしたことだった。彼は大場のパーティで初めてエリカが出席した際、彼女に言った。まるで男の子だ。直系は同性愛者だと。

 エリカは、その言葉をひどく気にして、次に会ったときには言葉づかいを改め……コトリの目には無理をしていることが明らかだった。

 ある意味で、今回のヒロトの暴走の原因は、彼女の父にあると言ってもいい。少なくとも原因の一つにはなっているはずだと、コトリは踏んでいた。

 電話の先で老人がうなる。内容は難しくない。だが、コトリが要求する理由がわからなかった。

 

『おぬしは、エリカちゃんとそこまで親しくはなかったはずじゃが。儂の知らぬところで連絡を取り合っているということでもなかろう?』

「そうですね。大場の集まりで、年に数回。それだけの間柄ですよ。知人ではあっても、友人ではないでしょう」

『では、何故……』

 

 

 

「私って、可愛い女の子を見るのが、大好きなんですよ♪」

 

 

 

 

 

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 コトリさんから告げられた事の真相を聞き、ただただ呆然とした。つまり、彼女が編入してから今日までの言動はすべて、お芝居だったということになる。

 

「まあ、嘘は混ぜてませんよ? もしヒロトさんが血迷ったままだったら、さすがの大伯父様も、処置なしとして切り捨てたでしょうし」

「マジかよ……」

 

 信じられないと、ヒロトがつぶやく。ぼくも、まさかコトリさんがそんな思惑を持って行動しているなんて、全然思わなかった。

 彼女はあまりに自然だった。自然に、「割り切ったヒロトの婚約者候補」を演じていた。まさかそれがカモフラージュだったなんて、ぼくの想像の埒外だ。

 ……いや、でも。言われてみると、確かに一瞬だけ思ったはずだ。彼女は、「ぼくとヒロトのことを応援してるんじゃないか」って。

 ぼくの胸中がわかるはずもないだろうに、コトリさんは見透かしたように、ぼくを見て微笑んだ。

 

「具体的な方法とかは、全部私が考えました。お二人の気持ちを燃え上がらせるためには、やっぱりこれかなーって」

「……実際その通りになったっつーのがまた腹立つ。俺、やっぱお前のこと苦手だわ」

「それは重畳♪ 変な気を起こされても、私も困りますしね」

「あのっ。一応質問なんですけど、どうやってぼくたちのスケジュールを把握したんですか。和菓子屋の前で会ったのって、偶然じゃないんですよね」

「ああ、それ。簡単ですよ。エリカさんがおととい吹っ飛ばした黒服。あれ、私のボディガードです」

 

 種明かしをされ、「あ」と気付く。そういえば金曜日に、誘拐未遂犯だと思って怪しい恰好の男を爆裂で気絶させて、鉄道警察に引き渡していた。

 つまりあれは、ぼくに悪さを働こうとしたのではなく、ぼくとカノンちゃんの会話を聞き、情報を集めていたのか。……なんか、すごく悪いことをしてしまった気が。

 

「エリカさんが貴族であることを伝え忘れて、見つかって吹っ飛ばされたのは誤算でしたけど。すぐに警察に引き渡してくれたおかげで、計画が破綻しなかったので結果オーライです」

「そ、そんなもんなんですか……」

 

 やっぱりコトリさんの価値観はよくわからなかった。割り切りすぎてて、ちょっと怖い。善人ではあるんだけど。

 「情報が私の手元にある、つまりちゃんと引き取り済みなのでご心配なく」と、コトリさんは楽しそうに笑った。……やっぱり、ちょっと怖い。

 

「……本当なんでしょうね。あたしはまだ、あんたのこと疑ってるんだけど」

 

 ここでカノンちゃんから疑いの声が入る。どうやらカノンちゃん的には、コトリさんはまだ警戒対象のようだ。

 コトリさんは、カノンちゃんをしばらくじっと見る。そして表情を真面目なものに直す。

 

「私の血にかけて。今の言葉に嘘偽りはないと誓います」

「……そこまでするなら、嘘ではないのね。わかった、信じる」

 

 カノンちゃんはコトリさんを疑うことはやめた。けど、やっぱりその目は彼女を警戒していた。……一体何がそんなにカノンちゃんの勘に引っかかるんだろう。

 

「さて……もう質問はありませんね? 私から説明できることは以上です。後々わからないことがありましたら、大伯父様に直接掛け合ってください。発端はあの人ですから」

「そうだな。……あー、もう一つだけいいか? 今回の件に直接は関係ないんだが」

 

 「どうぞ」とコトリさんはヒロトに先を促す。ヒロトは興味がなさそうな、だけど「聞いておかなければいけない」という面倒を隠さずに尋ねた。

 

「結局、お前が前の学校を辞めた……退学になった理由って、なんなんだよ」

「ちょ、ヒロトっ」

「いや、これは聞いておかなきゃダメだろ。正直ろくなことじゃねーと思うけど……」

 

 あまりにも不躾な質問だった。けど、気になることは確かであり、ヒロトの「あんまり派手なことしてたら、親戚として注意しなきゃいけない」というのも、その通りではあった。

 コトリさんは……やっぱり話しづらいのか、表情を一気に暗くした。ぼくはあわてて「別に話さなくても」と言おうとして。

 

 

 

「全寮制の学校って……監獄と同義なんですよ」

 

 思わず背筋がゾッとするような、怪談でも語るような悍ましい声で、コトリさんは話し始めた。

 

「閉じた世界で生活するから、教師も生徒も学校の文化に染まりきっちゃうし。少しでもそこから外れていると、まるでそれが悪であるかのように執拗に攻撃するし。それで心を壊してしまった子も、何人かいました」

「あ、あの、コトリさん……」

「私はうまく立ち回ってたんですよ。そういうの得意ですから。でも、狂気の中で正気を失えないって、ほんと苦痛で苦痛で……」

「うわぁ……」

「上級生や教師の言うことは絶対で、どれだけ理不尽な内容でも口答えは許されない。彼女たちの前では常に笑顔でなければいけない。周りの子たちも、悪いのは自分たちなんだって洗脳されてしまって……」

「もういいです、もういいですからっ!」

「それで、私、我慢したんですけど、もう耐えられなくて……

 

 

 

 お酒を持ちこんじゃいました♪」

 

 唐突に空気を変えて。明るくそんなことを告白するコトリさん。ぼくは、ぼくもカノンちゃんも、ヒロトも、目が点になった。

 

「いやー、あれは痛快でした。お酒の力で同級生の心を解放して、酔った勢いのまま全員で杖を取ってクーデター。いきなり攻め込まれては上級生も教師も何もできず、あっさり制圧でした」

 

 途端に誇らしげに武勇伝を語り始めるコトリさん。ぼくたちは、ただ彼女の語りを聞くことしかできなかった。

 

「うまくやったから警察沙汰にはなりませんでしたけど、さすがにそこまでして誰もおとがめなしは無理でしたねー。首謀者の私が退学になって、学校は財閥傘下に、運営に大場の学校部門のメスが入ることになりました。私のおかげで財閥の裾野が広がりましたね!」

「それは尻拭いをしてもらったって言うんだよ。……つまり、あれか。お前が爺さんの頼みを聞かざるを得なかったのは、そのときの借りが残ってたってことか」

「そういうことになりますね」

 

 ヒロトはすべてを理解し、大きなため息をついた。……あ、あれー。コトリさんって、こんなにアグレッシブな人だったの?

 混乱するぼくに、コトリさんは視線を合わせた。思わずビクッとして、彼女はまるで気にしないと言わんばかりに笑みを湛えた。

 悪人ではなかった。コトリさんは、間違いなく善人の部類だ。だけど……やっぱり怖いよこの人!?

 

「……ごめんなさい。ぼくも、コトリさんのこと、ちょっと苦手になっちゃいました」

「あらら、怖がらせちゃいましたか。私が素を出すとみんなそう言うんですよねー。なんででしょう?」

「笑顔で寝首をかかれるかもしれないって思ったら、誰でもそうなるわ……」

 

 ああ、うん。まさにそんな感じだ。ヒロトの言うとおり、コトリさんはこう……思い切りが良すぎる。ブレーキが壊れてるっていうか、そもそもないっていうか。

 「心外ですねー」と頬を膨らませるコトリさんの姿は愛らしいけど、ハムスターというよりはハムスターを頬張る蛇だった。

 

「まあ、みなさんの学校はそんな閉鎖的でない明るい学校ですから、私ものびのびやらせてもらいます。ほんと、歴史だけの自称名門校はあてになりませんよ。大事なのは実績ですよ、実績」

「え? あんた、仕事終わったからいなくなるんじゃないの?」

 

 カノンちゃんが嫌そうな顔を隠さず、驚いて尋ねた。……そういえばぼくも勝手に、コトリさんはどこかの名門校に編入し直すものだと思ってたけど。

 コトリさんは、「まあ、ひどい」と言って目を潤ませて、カノンちゃんを真正面から見る。カノンちゃんの方は、持ち前の直感で危険を察知したのか、後ずさって半身になった。

 

「これで終わりだなんて、あんまりじゃないですか。私だって、みなさんと一緒に青春を楽しみたいのに……」

「……なんだろう。あんたの口から青春って聞くと、ものすごくコレジャナイ感がするんだけど」

「私だって、花の女子高生なんですよ? このお二人みたいな、燃え上がるような恋愛とか、したいんです!」

「そういう恥ずかしいこと言うなよ……」

「ぅぅ~……」

 

 ちなみにぼくはさっきからずっとヒロトに抱きしめられており、今更どの口が恥ずかしいと言うのかって感じだけど……改めて言葉にされると、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 二人そろって顔を真っ赤にするぼくとヒロト。だけどコトリさんは、言及するだけしておいて、ぼくたちには取り合わず、カノンちゃんだけを見ていた。

 

 

 

 すっと、彼女はカノンちゃんの手を取り。

 

「その……一目見たときから、お慕い申し上げておりました……」

 

 頬を朱に染め、恥じらいながら、見惚れるほどの微笑みを湛え――それはまさに、恋する乙女の表情だった。

 

 ………………。

 

「は?」

「こんなこと突然申しましても、ご迷惑だとは思います。だけど……もう、この気持ちは抑えられないんです!」

「いや、ちょ、ま、」

「その強いまなざしも、たくましい腕も、母性あふれる体も、友を想う優しい心も、すべてが愛おしいんです! 私と、結婚を前提にお付き合いしてください!」

「ちょっと待てええええ!? あんたホモかよぉ!?」

 

 衝撃的なカミングアウトをするコトリさん。カノンちゃんは彼女の手を振り払い、大慌てで距離を取った。

 ぼくとヒロトは、あまりの衝撃で凍り付いて、何を言うこともできなかった。――ああ、子供の頃ぼくが女の子の方が好きって言ったとき、パパとママはこんな気持ちだったんだ。

 

「違うんです! 確かに私は、可愛い女の子が性的に大好きですけど! カノン様への想いは、純粋なんです!」

「信じられるかぁ!? いやそもそも! あたし、ノンケ! 女の子と恋愛はできないから!」

「任せてください! 私の愛の力で、カノン様を振り向かせてみせますから!」

「やめろバカ!? そんなことしなくていいから! ち、近寄らないで!? 近づいたら殴るからな!? 本気だからな!?」

「カノン様からの愛撫なら、喜んで受けますわ!!」

「ひっ! も、もうやだー!!」

 

 コトリさんの一転攻勢に耐えきれなくなったカノンちゃんは、とうとう背中を向けて逃げ出してしまった。

 そんなカノンちゃんをコトリさんは「待ってくださいましー!」と情熱的に追いかける。二人の声は、遠すぎて聞こえなくなるまで、続いた。

 いつの間にかすっかり暗くなっていた公園には、ぼくとヒロトだけが残された。

 

 なんというか、なんというか……。

 

「コトリさんって、実は……」

「大変な変態、だったんだな……」

 

 ぼくとヒロトの心は――こういう形を望んでいたわけじゃないんだけど――間違いなく一つになった。

 

 しばらく呆然としていると、ぼくとヒロトの前に黒い影がヌッとあらわれた。

 ! 風の探知を張るのを忘れてた! 接近に気付かなかった!

 ぼくがあわてて左手をかざすよりも先に、ヒロトがステッキをポケットから取り出し、構えていた。ぼくは、ヒロトの左腕に力強く抱きしめられ、守られた。

 

「お待ちください。怪しい者ではありません」

 

 ヒロトがステッキの先に火の光を灯し始めると、影は両手を上げて害意がないことを示した。……あれ、この声どこかで。

 魔法の光に照らされ、影の姿が明瞭になる。黒服姿の男性で、顔にばんそうこうを貼っていた。

 

「あ、おとといの誘拐未遂犯さん……」

「その節はどうも、誤解をさせてしまったようで、大変失礼致しました。大道寺エリカ様」

「……コトリのボディガードってやつか。あんたの主なら、女の尻を追っかけてどっか行ったぜ」

「存じ上げております。……一部始終を、公園の外で見ておりましたので」

 

 彼は、顔に深い疲労の色を滲ませており、こっそりため息をついた。その姿は何となく……ユキさんや会長さんから無茶ぶりされているアキトさんを思わせた。

 もしかしなくとも、コトリさんに普段から無茶ぶりされてるんだろうなぁ。

 彼の表情が弱くなっていたのはほんの数瞬のことで、すぐに元のキリっとした表情を作る。

 

「勝手な判断ではございますが、お嬢様の私物を私の方で回収しに参りました。若様も、その方が気兼ねをしなくて済むかと」

「そういやそうだな。助かる」

 

 公園のベンチには、コトリさんが大量購入してヒロトに持たせていた荷物が置き去りになっていた。そうだ、すっかり忘れてた。

 黒服さんは「では失礼致します」と丁寧にお辞儀をし、大量の荷物を軽々片手で持ちあげた。ボディガードというだけあって、力はヒロトよりもありそうだ。……当たり前か。

 

「……あまり職務上褒められたことではないのですが、私からも祝福を述べさせてください。おめでとうございます、若様、エリカ様。大場スタッフを代表して、心よりお祝い申し上げます」

 

 「それでは」と、彼は去って行った。……いろんな人に、支えられていたんだなぁ。

 

 

 

「……蒸し返す気はねえんだけどさ」

 

 黒服さんを見送ったあと、ヒロトがポツリと語り出した。彼の腕の中で、彼の言葉を聞く。

 

「俺って、ほんとダメダメだったんだなって、思ってさ。結局今回も、一人で思い悩んだ挙句暴走して、爺さんとコトリに尻拭いをしてもらった形だし。……俺から言うべき言葉も、お前に言わせちまった」

「……うん」

 

 ぼくは気にしていない。だけど、それは言わない。多分、ヒロトが言いたいのはそういうことじゃない。

 

「俺は、皆から助けられてるのに、言われないと気付かないバカ御曹司だ。俺一人でお前を守るなんて、できもしないことをしようとして……ただお前を傷つけた」

「うん」

「だから……だからせめて、もう一度。今度はちゃんと、俺の方から言わせてくれ」

 

 そう言ってヒロトは、ぼくの体を離した。真っ直ぐにぼくの瞳を見て、言ってくれた。

 

「エリカ。俺と、結婚してくれ。こんな俺の隣で、俺を支えてくれ。生涯を添い遂げてくれ」

「……喜んでっ」

 

 ぼくはうれしさで涙を浮かべ、ヒロトに抱き着いた。彼も、ぼくを抱きしめ返す。彼の体温を、いつまでも感じていたかった。

 

「……エリカ」

「ヒロト……」

 

 そうしてぼくたちは、口づけを交わす。唇を合わせるだけのキス。

 だけどそれだけで、ぼくはヒロトと、深くつながったような気がした。

 

 夕闇の公園で、ぼくたちはようやく、想いを一つに結んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その後の話をしよう。

 

 コトリさんは、彼女の希望通り、ぼくたちの学校に残留となった。というか、会長さんの依頼を受ける対価の一つに、この学校への正式な編入があったそうだ。

 彼女の父が要求する学歴というのが、どこも前の学校と似たり寄ったりだったようで、コトリさんはのらりくらりと逃げ続けていたらしい。

 そこに今回の依頼があったわけで、実は彼女にとっても、編入の話自体は渡りに船だったようだ。あくまでヒロトの婚約者のフリが苦痛だっただけで。

 会長さんからの依頼の対価ということを盾にすれば、彼女の父は何も言えない。そんなわけで彼女は、今日も元気にカノンちゃんにアタックをしている。

 

「カノン様! クッキー☆を焼いてきたんです! どうぞ、おひとつ!」

「だあああ! 寄るなホモ! エリカちゃん、助けて!」

「あ、でもこのクッキーおいしいですよ、カノンちゃん。食べてあげるだけなら、別にいいんじゃないですか?」

「エリカちゃーん!?」

 

 毎日見せられ続ければ人は慣れるもので、ぼくはコトリさんの素をスルーできるようになった。もちろん、さすがにやりすぎれば止めはする。

 編入してきた美少女が男に興味がないということで、クラスの男子は落胆した。

 

「ちくしょうだまされた、清楚系美人だと思ったらガチレズかよ……」

「しかも大道寺さんはヒロトとヨリを戻してるし……」

「日村さんは……別にいいや」

「はぁ、はぁ、……カノンちゃんとコトリ様、尊いぃ……」

 

 やっぱり一部変なのがいるけど。彼の目には一体何が見えているんだろう。百合の花かな?

 

 

 

 ぼくは……ヒロトが自分の弱みを見せたのに、ぼくが黙っているのはフェアじゃないと思って、ずっと黙っていた一つのことを打ち明けた。

 ぼくの"前世"……「僕」の記憶のことを。

 すると彼は、驚くべきことを教えてくれた。

 

「それって、「継承者」ってやつか? 爺さんから聞いたことあったけど。エリカがそうだったのか……」

 

 この世界には、"前世"としか言いようのない無関係な他人の記憶を持って生まれる子供が、ごく少数ながらいるのだそうだ。そういった人間のことを「継承者」と呼ぶのだという。

 彼らは、この世界の過去の人間だったり、あるいは異界としか呼べない場所の誰かの記憶を持って生まれる。そのため自我の形成が早く、異界の知識を持っている人間は、それを使って技術革新を行ったりするらしい。

 驚かせようとして言ったわけじゃないけど。驚かれるだろうと思っていたぼくの方が、逆に驚かされるとは思ってもみなかった。

 

「っていうか、ぼくは自分自身のことなのに知らなかったんだけど……」

「あー。継承者の存在自体、あんまり一般的な知識じゃないからな。発覚すると、大体は青田買いで財閥とかが囲ったりするらしい。経営者向けの知識だな」

「じゃあ、もしかしてパパは知ってたのかな……」

「かもな。だけど、キョウおじさ……義父さんはエリカのことをただ娘として見てた。そういうことだよ」

「……ヒロトは? ヒロトはこのことを知って、気持ち悪かったりしないの? ぼく、"前世"は男だったんだよ」

「なあ、エリカ。俺の前世が女だったり、なんちゃら神話に出てくるような化け物だったりしたら、気持ち悪いか?」

「そ、そんなことないよ! ぼくにとって、ヒロトは世界で一番大切な人なんだから!」

「そういうことだよ」

 

 拒絶されるかもしれない。そう思って打ち明けた話が、とてもあっさり受け入れられ、うれしさでまた泣いてしまった。

 ヒロトは「しょうがねーなー」と笑いながら、ぼくのことを抱きしめてくれた。

 ぼくは、女の子でいいんだ。ヒロトの婚約者で……恋人で、いいんだ。

 

 

 

 大場という組織も、少しずつ変化していた。

 

「お久しぶりだね、婚約者殿。直系殿と仲違いをしたと聞いたが、私の聞き間違いだったのかな?」

 

 大場のパーティにて、体から嫌味がにじみ出ているような男に声をかけられる。……かつてぼくを侮辱し、ヒロトを侮辱した男。コトリさんの父親の、神崎イサムだった。

 ぼくは、こういう場では必要だということで身に着けた所作で、作り笑顔で応対する。

 

「ええ、おかげさまで仲良くやらせていただいております。コトリさんにも助けていただいて」

「ふむ? アレにも困ったものだ。私が用意してやった学校を勝手に辞め、庶民の学校への編入を望むなど。……ああ、失礼。どんな学校だろうが、君たちの通う学校だったね」

「いえいえ、お気になさらず」

 

 ――少なくとも、あんたが選んだっていう腐敗の蔓延した学校よりはマシだよ。心の中で悪態をつく。コトリさんは明るく話していたけど、本当に悲惨な話だったんだから。

 

「アレにもそろそろ縁談の一つでも成立させてもらいたいのだがね。是非とも、直系殿に取り入った手腕をお聞かせ願いたいものだ」

「誠実と、愛情。これに勝る婚姻関係などありませんよ」

「おやおや、これはこれは。かつては男の子のようだった君から、そのような言葉が出てくるとは。やはり直系殿は、そういう趣味をお持ちなのだろうね」

 

 ……本当に、なんでコトリさんの父親がコレなんだろう。コトリさんは、性癖にさえ目をつむれば、本当にいい人なのに。

 胸の内に湧く怒りを抑える。――次にヒロトをバカにしたら、爆裂をぶち込んでやる。

 だけど、彼に次の煽り言葉は許されなかった。

 

「――ほう。おぬしは、儂の孫の婚約に意見できるほど、功績を成していたか。これは知らなんだ」

「っ、会長」

「会長さん」

「エリカさん。あんたはもう、孫の嫁も同然じゃ。気軽にお爺様とでも呼んでくれ。……あっちで孫が寂しがっておる。こやつは儂が相手をしてやるから、あんたは不肖の孫を慰めてやっておくれ」

「はい。ありがとうございます、かいちょ……お爺様」

 

 「失礼します」と一礼し、踵を返す。ぼくの背に、会長――お爺様から一言。

 

「それと……以前のしゃべり方であんたに文句を言うやつは、こやつで最後じゃ。無理などせず、孫と楽しんでいっておくれ」

「っ。ほんとうに、ありがとうございます」

「な、まっ!?」

「おぬしにあの娘を非難する資格などない。その増長しきった態度は、儂の怠慢じゃ。己の負債は、己の手で清算せねばなるまい。――覚悟せぇよ?」

「ひ、ひええ!?」

 

 その後、なにやらその一角で騒がしかったけど。ぼくはお爺様の好意を受け取って、気にせずヒロトのところへ向かった。

 ――後日、改めて顔を合わせたイサム氏は、まるで別人のように目が澄み切っており、それはそれで気持ち悪かった。ギャップが……。

 

 ヒロトは、大人たちに囲まれてムスッとした顔をしていた。あれは、疲れを隠す余裕がなくなってきた証拠だ。

 

「ヒロトっ」

「エリカ。どこ行ってたんだよ」

「ごめん、「あのオジサン」につかまってた。お爺様が助けてくれたんだよ」

「……爺さん、気が早すぎだろ」

 

 「会長さん」から「お爺様」に変わった呼称で察し、ヒロトはため息をついた。ぼくが隣に来たことで、いろいろと気が抜けたみたいだ。

 ヒロトを囲んでいた大人たち――遠縁の親戚だったり、大場の役員だったりする人たち――が、ほほえましげにぼくたちを見ていた。

 

「それでは、婚約者様も戻ってきたことですし、我々はこれで」

「またディスカッションをしましょう、若様」

 

 口々に告げ、彼らはいなくなった。……ヒロト、いつの間にか本職の人たちと討論ができるようになってたんだ。すごいなぁ。

 

「大したことはしてねーよ。あの人らの連発する専門用語の中で、明らかにおかしいと思ったとこにツッコミ入れてただけだ」

「それだけでもすごいよ。ぼくじゃ多分、煙に巻かれて何も言えないと思う」

「んなことねーだろ。エリカなら、俺よりもっとうまくやれると思うぜ」

 

 ヒロトの言葉に、ぼくは首を横に振る。

 

「ううん。もしぼくが賢く見えてたとしたら、それは"記憶"の水増しがあるだけだから。今のヒロトの方が、何倍もすごいよ」

「……あー。その、なんだ。お前を守れるようになろうと思って、必死で勉強したから、な」

 

 恥ずかしいのか、視線を泳がせて頬をかくヒロト。その姿がかわいくて、クスリと笑った。

 カツカツとヒールの音。ヒロトの両親が――将来のぼくの義理の両親が、こちらに歩いてきた。

 

「こんばんは、エリカちゃん。ちゃんと楽しんでる?」

「こんばんは、ユキさん。アキトさんも。はい、ちゃんと、楽しんでます」

「あはは。さっきはびっくりしたよ。お義父さんがきて、「エリカちゃんはヒロトの嫁だ」ってはっきり宣言していくんだもん。何人か縮こまってたよ」

 

 その何人かはきっと、ぼくを認めていなかった人たちなんだろう。「痛快だったわ」と快活に笑うユキさん。……今思うと、コトリさんのアレって、ユキさんに似てるような気がする。親族なだけはあった。

 

「あんな連中が何を言おうが、エリカちゃんは婚約当時からヒロトのことがちゃんと好きだったんだからね。いまさら文句なんか受け付けないっての」

「や、やっぱりユキさんはご存じでしたか……」

 

 面と向かって言われて、さすがに赤面する。アキトさんは何となく察していたようで半笑い。

 そして当然のごとく、ヒロトは気付いておらず「マジか!?」とぼくを見た。……鈍感。

 

「……じゃあヒロトは、いつぼくがヒロトのことを好きになったと思ってたのさ」

「え!? えっと、その……中学で雰囲気が変わったあたりからかなーと……」

「その前からエリカちゃん、おしゃれに気を使い始めてたでしょうが。はー、我が息子ながら女心のわかってない……」

「まあまあ、いいじゃないか。こうして二人とも、お互いの気持ちに気付けたんだから」

 

 女二人に責められて不利になるヒロトにアキトさんが加勢する。だけどアキトさんでユキさんの勢いが止められるわけもなく。

 

「ヒロトがエリカちゃんの気持ちを察してあげられてたら、ちょっと前の騒動は起こってなかったのよ。ほんとにもー、そういうところはヒロト、あなたに似ちゃったんだから。私たちが結婚する前だって……」

「そ、そのことはもういいだろ!? 子供たちに聞かせるような話じゃないから! ほ、ほら! 二人だってそんな昔話、興味ないだろ!?」

「いえ、ぼくは興味ありますよ。ユキさんとアキトさんのなれ初め」

「エリカちゃん!?」

 

 思わぬ援護射撃にアキトさんは狼狽し、ユキさんは大笑いして二人のなれ初めエピソードを語ってくれた。

 ……割と生々しくて、確かにぼくたちが聞くような話ではなかった。ぼくたちは関係ないのに、しばらく気まずくてヒロトと顔を合わせられなかった。

 お互い、顔は真っ赤だった。

 

 

 

 

 

 時間は前後して、大道寺家リビング。ぼく、父、母の3人がソファに座ってる反対側で、ヒロトが正座で頭を下げている。

 父は目をつむり、厳しい顔で黙っている。母は、凄みのある笑顔でヒロトを見ている。二人の隣でぼくは、心配しながらヒロトを見守っていた。

 

「俺の勝手な思い込みで、娘さんを傷つけてしまったこと。名誉を傷つけてしまったこと。こうして、お詫びします。本当に、すみませんでしたぁっ!」

「……顔を上げてくれ、ヒロト君。そのままでは話をすることもままならん」

 

 父の許しを得て、ヒロトは顔を上げた。その表情は真剣そのものであり、今まさに戦いに挑まんとする男の顔だった。

 ――そんな場面ではないんだけど、勝手に心臓がドキドキしているぼくは、どうしようもないぐらいヒロトのことが好きなんだろう。

 父は、ヒロトの真っ直ぐな視線を、真っ直ぐ見返す。お互い、決して視線をそらすことはなかった。

 

「あの後、婚約破棄を撤回したことは、大場会長経由で聞いている。娘と仲直りしたということも、……婚約だけでなく、正しく交際を始めたということもだ」

「はいっ! 俺は、エリカさんとお付き合いを始めさせていただきました! 本日はそのご報告にも上がった次第です!」

「別にそのことを責める気はない。だから少し落ち着いてくれ、ヒロト君」

「……失礼しました。気合いを入れ過ぎたみたいで」

 

 語気が強くなっていたヒロトは、深呼吸をして緩めた。それを確認してから、父が続きを言う。

 

「私たちが知りたいことは、ただ一つだ。今後は、独りよがりな考えで娘を傷つけないか。それを誓えるか」

 

 ヒロトは、目をつむった。しばらく、リビングは無言の時間が続いた。時計の針の音だけが響く。

 やがてヒロトは、目を開く。そして、言った。

 

「……いいえ」

「ほう。正直に答えたな。だがそれでは娘を君にやることはできない。……その先を聞かせてもらおうじゃないか」

「俺は、バカヤロウです。昔エリカに言われた通り、場を読むことができない鈍感野郎です。今回も結局、それが原因で、思い込みで、エリカを傷つけてしまいました。この性分を直すなんて、確約することはできません」

 

 「でも」と、ヒロトは強く言葉を口にする。

 

「エリカと一緒に乗り越えることなら、できる。たとえ傷つけてしまっても、傷つけられたとしても、彼女と一緒なら、傷を乗り越えて先に行ける。俺は、そう思います」

「……なるほど、な。どう思う、ナツメ」

「そうですね。これだけ言えるなら、合格でいいんじゃないですか。個人的には、少し物足りないですけど」

「っ、じゃあ!」

「ただし、条件がある。もし今後、悩むことがあったら……一人で抱えず、二人で抱え込まず、私たちにも相談しなさい。親とは、そのためにいるものだ」

「私たちだけじゃなくて、ユキさんとアキトさんにもね。あの人たちも、親なんですから」

「はいっ! エリカ!」

「うんっ! ありがとう、ヒロト! ありがとう、パパ、ママ!」

 

 ぼくの両親から交際の許可が出て、うれしさからヒロトに抱き着く。彼はよほどうれしかったのか、ぼくを抱きしめたままぐるぐる回った。

 そんなぼくたちを見て、父は少し寂しそうに笑った。父に、母が微笑み寄り添う。――ぼくたちもあんな風になれたらいい。

 

「さて! 真面目な話はおしまいだ。今日はうちで食べていきなさい、ヒロト君。君の分も準備してある」

「いいんですか? いきなりでご迷惑では?」

「遠慮しないでいいのよ。あなたはもう、私たちにとって家族なんだから。それに、キョウさんはヒロト君のこと、なんだかんだ言って気に入ってるのよ」

「こら、ナツメ。余計なことは言わなくていい。……君たちが幼かった頃みたいに、たまにはビデオゲームでもして遊ぼうじゃないか」

「はい、よろこんで!」

 

 ぼくの家族も、ヒロトと仲直りすることができた。本当によかった。

 

 なお、食後のゲームではやっぱりぼくの独壇場となった。パパも割と単純なんだよね……。

 

 

 

 

 

 そうして。

 

 あの小さな事件以降、ぼくたちの周りは、平和そのものだった。

 変化はあった。ぼくたちの学生生活に一人の仲間が加わり、ぼくの親友と毎日大騒ぎをして、先生に怒られる日常が繰り広げられるようになった。

 大場の集まりで、ぼくが『ぼく』と言っても、もう変な目で見られることはなくなった。お爺様が働きかけて、ぼくの個性として認めさせてくれたみたいだ。

 ぼくもヒロトと一緒にいるばかりでなく、カノンちゃんやコトリさんと一緒に遊びに出かけるようになった。友人と遊ぶことも大事だと、ヒロトが教えてくれた。

 ぼくはアキトさんとユキさんをお義父さん、お義母さんと呼ぶようになり、ヒロトはぼくの父と母をそう呼ぶようになった。

 これらの小さくて大きな変化は、きっと良いものだったのだと思う。

 

 

 

「ねー、ヒロトー」

 

 セミが鳴き始める季節。夏の日差しの下、ぼくとヒロトは学校までの道を歩いていた。

 暑さでだれているのか、ヒロトは「なんだー」と力のない返事を返す。

 

「暑いねー」

「おー。アイス食いてー」

「帰りにねー。夏休みになったら、皆でキャンプに行かない?」

「あー、そうだな。来年は無理だろうし、今年のうちに行っとくかー」

「りょうかーい。場所は志筑のキャンプ場でいい?」

「……まー、あんなことは二度と起こらないだろ。俺は別にいいぞー」

「カノンちゃんとコトリさんも一緒だよー」

「あいつらも一緒なのかよ。あー、まあけど、別にいいか。コトリは日村に任せりゃいいし」

「あはは、ヒロトってばひどーい。……ねえ、ヒロト」

「どうした、エリカ」

 

 

 

「だいすきだよ。……えへへ」

「……俺も、大好きだ」

 

 

 

 ぼくたちは手をつないで、学校までの道を歩いた。




くぅ~疲れましたわら これにて本編完結です。
えー、完走した感想ですが……



なんか悪役令嬢っぽくねえよな?



どうしてこんなことになったんでしょうね? 不思議ですねぇ~……。

この作品のコンセプトは、「登場人物すべてが善人であり、善意で行動する悪役令嬢物はどういうものになるのか?」というものでした。
実際、本作ではたった一人を除き、登場人物に悪意を持った者はいませんでした(その一人も最後は浄化されてしまいました)
で、序文を書き終わった時点で、私は気付いてしまいました。

これ、主人公を悪役令嬢ポジにするの無理だわ。

正直、素直な子に設定しすぎたと思っています。もう少し意地を張るような子なら、また違う流れになって誤解を生んで悪役令嬢っぽくできたかもしれません。
でも書きたかったんです。しょうがないね(屑)
取り巻き()の子も登場させました。ハイドロカノンちゃんです。なんだよ、こいつも気持ちのいいやつじゃねえかどうしてくれんのこれ。
お待ちかねの悪役令嬢に対する主人公ポジのゴッドバードちゃん。お前ホモかよぉ!?
結局、文字通り「悪役令嬢ってなんだよ」「(そんなもの)ないです」な作品になってしまい、見事にタイトル詐欺となってしまいました。本当に申し訳ない……。
いうなれば本作は、「転生悪役令嬢婚約破棄物のテンプレメソッドを詰め込んでみたけど、悪役令嬢になり損ねた普通の女の子の話」となります。
……一応ギリギリ、「悪役令嬢ってなんだよ(哲学)」というタイトルからは外れていないか?

さて。

短い作品ということで話すことがもうなくなってしまいましたので。



み~な~さ~ま~の~た~め~に~

こ~ん~な~即興を~

ご~よ~う~い~し~ま~し~た~





「俺は悪役令嬢」

 目が覚めると、俺は人気乙女ゲーム「マジカル☆プリンセス」の悪役令嬢・フランソワーズに転生していた! フランソワーズは序盤に主人公をいじめた罪で、この国の王子から婚約破棄を言い渡されて処刑されてしまう!
 だが俺は未来を知っている! この知識を利用して、破滅を回避して、王子やその他攻略キャラを利用して百合ハーレムを築いてやる!

「フランソワーズ! マリアンヌへの非道の数々、もはや見逃すことはできん!」
「いいえ、リチャード様。わたくしはそのようなことはしておりません。爺、証人を」
「はっ!」
「その時間、フランソワーズ様はわたくしたちと一緒にお茶会を開いていらっしゃいましたわ」
「その後はわたくしたちの詩会に出席なさってました」
「マリアンヌ! これはどういうことだ!」
「こ、こんなバカな!?」

 おそらく同じ転生者である主人公の謀略を回避して、逆に断頭台に送ってやったぜ!
 次は攻略キャラの好感度稼ぎ! お茶会を開いて全員を招待すれば、効率的に好感度を稼げるぜ!
 全員の好感度が上がったら、お約束の魔王退治だぜ! この日のために魔法を磨いておいたんだぜ!

「喰らいなさい魔王! 光魔法・アンドロメダフォール!」
「ぐ、こ、この我がああああ!?」

 倒した、やったぜ!
 凱旋のあとは好感度の一番高い攻略キャラからの告白イベントだぜ! ここで告白を受け入れれば晴れてエンディングだが、あえて俺は断るぜ!
 こうすると、攻略しなかった場合のそれぞれのキャラの恋人からの説得イベントが入るので、ここで彼女たちを口説き落とすぜ! 口説き落としたぜ!
 全員の恋人を口説き落としたら、領地に戻って女公爵となって百合ハーレムの完成だぜ!
 やったぜ!



~FIN~





上映会は人それぞれ個性が出るからいいですよね。
この即興で作者の悪役令嬢への理解度の低さを知っていただければ幸いです(白目)



ここから真面目なあとがき。

実を言うと、私は「悪意を持った人物を描く」というのが、とことん苦手です。その場限りの捨てキャラとしてなら出せないこともないのですが、継続して登場するようなキャラクターに悪意を持たせるのが、本当にできません。
というのも、おそらく私は、ある程度以上キャラクターを描くと、そのキャラクターに愛着を持ってしまうのです。今回の話もまた然り。既に大道寺ファミリー、大場ファミリー、カノンとコトリは、簡単に捨てることのできない我が子となってしまいました。イサム? ……誰だっけ。
対立構造自体は作れるのですが、あくまで主義主張の違いによるものであり、進んで相手を傷つけるような真似はさせません。
この事実が、今回「悪意を持たない悪役令嬢物」という作品を書いてみようと思うに至った理由です。
結果は見ての通り、悪役令嬢物とは言い難い代物となってしまいました。この作品を高評価していただける方もたくさんいらっしゃるのですが、「悪役令嬢物」という一点のみで見れば、失敗作でしょう。もどきがちょろっと登場しただけです。
一応、私の中で悪役令嬢というのは、最後までエリカのことを指していました。エリカが動く中で悪役令嬢というものを模索し、「悪意を持たない、悪意を持たれない悪役令嬢」を目指しました。
悪というものの表現は、とても難しいものなのだと感じました。

こんな作品ですが、私が力を入れようと決めていた部分に関しては、最初からブレませんでした。即ち、主人公と婚約者のイチャラブっぷりです。
悪意を持たない、善意しかない。そうなれば、婚約者との関係が最終的にどうなるか、語るまでもありません。本・二の最後らへんなんかはもう全力出しました。
コンセプト崩壊はありましたが、最初から書きたかったことを書き切れたという一点に関しては、満足しています。小並感。

今度こそ本当に書くことがなくなってしまいました。やはりお話が短いと、語れることもあまりないですね。
今後は、この作品の番外編を書く……かもしれません。思いつきで書き始めた割に世界観を掘り下げすぎちゃって、使い捨てするには惜しいんですよね。あとエリカとヒロトのイチャラブもときどき書きたい。
あるいは、全く別の作品や、書きかけの作品に手を出したりなんかするかもしれませんが、やっぱり予定は未定です。
次はまたいつ出没するかわかりませんが、もしまた見かけたときは「あ、ホモだ! 頃せ!」というノリで読んでいただければと思います。

それでは、短い期間ではありましたが、どうもありがとうございました。またいつか、よろしくお願いします。

1話の分量は?

  • 少ない(3万文字書いて♡)
  • 物足りない(2.5万文字はないと……)
  • 大体このぐらい(2万文字程度)
  • 多いよハゲ(1万文字以内じゃないと無理)
  • 多すぎィ!!(5千文字がちょうどいい)

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