葉隠透の奇妙なアカデミア 作:ピーカブー
「もう大丈夫ッ!! わーたーしーがーッ!!」
ドームの天井に空いたどでかい穴。
空はどこまでも青く、空以外には何も見えていない。
相澤先生に大怪我を負わせ戦闘不能に追い込んだ脳みそをむき出しにしたヴィランはもういない。
空の彼方にブッ飛ばされたのだ!
切島鋭次郎はこの状況を見て心から納得した。
轟焦凍は理解した。
爆豪勝己は歯を食いしばりながらも理解した。
そして、緑谷出久は理解すら出来なかった。
それでも兎に角一先ずのところ、大きな危機は去った、ということに違いなかった。
透が何故か男子にやたらと避けられていることを訝しみつつバスから降りて足を踏み入れた場所は訓練場ではなく遊園地だった。
「すっげー、USJかよ!?」
誰かの驚き声を聞きながらUSJってこんなにめちゃくちゃに壊れた遊園地だったんだ、と透は思った。
遊園地といえばニューヨークのディズニーワールドにしか行ったことがなかった透にとっては、日本の遊園地ってユニークねぇ、くらいの感想しかなかった。
「水難事故、土砂災害、火事、暴風雨、地震etc……あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です」
頭は宇宙服、身体はミシュランマンのようなコスチュームを着たスペースヒーロー、13号が救助訓練場の説明を始めていた。
「その名も……
USJなんだ、ここが、と考えながらきょろきょろアトラクションを見回している透の姿はまさに上京したてのお上りさんのようだった。
「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
13号の良い話を聞きながら雄英高校にもまともな教師がいたんだと透はしみじみ思っていた。
ものぐさで厳しい相澤先生、新米教師のオールマイト、教師中は地味すぎる山田先生、恰好が高校にそぐわない香山先生を順に思い浮かべて、尊敬の眼差しを13号に向けていた。サングラスのせいで誰にも気付かれなかったが。
「以上! ご清聴ありがとうございました」
13号が頭を下げ大きな拍手が巻き起こった。
同じこと考えてたの私だけじゃなかったんだ、とさらに力を込めて手を叩いた。
「そんじゃあまずは……」
ぴりぴりとうなじに鳥肌が立つような感覚。
透にとっては慣れ親しんだその感覚は、敵意を察知する直前に感じる違和感。
例えば相手の策にはまってしまったとき。
例えばスタンド攻撃を無防備に食らってしまったとき。
その直前に感じる産毛が総毛立つような直感。
透は無意識のまま、サングラスを指で弾いて頭の上に乗せる。この動きは一つのルーティーン、一番早く自分自身を透明にするためのスイッチのようなもの。
後ろを振り返っていた相澤先生が13号先生に指示を出すよりも早く、誰にも気付かれぬまま透は自分自身を透明にした。
USJの入り口から見下ろせるセントラル広場の噴水の前に黒い靄が現れ、靄の中から顔に手を貼り付けた男が顔を覗かせた。
「ひとかたまりになって動くな! 13号! 生徒を守れ!」
ちらりと自然と視線がUSJの入り口ゲートへ向かう。
私一人だけなら逃げの一手が最善。
でも一人じゃないから選べない。
顔に手を貼り付けた男は身体中に手を貼り付けていた。
ちょっと憧れるセンスしてるとこが悔しい。
手まみれの男の後ろから2、30人くらいヴィランがわらわら出てきた。
ガチなやつじゃん、これ。
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くなあれは!」
相澤先生が首に掛けていたゴーグルを目に装着。
戦闘態勢ばっちしみたい。
私は何を透明にする?
私は誰を透明にする?
まだ決められない。今は落ち着いて深呼吸を繰り返す。
一瞬の判断が趨勢を決めるのはスタンド戦も個性戦も同じ。
今はまだ動くときじゃない。
「
敵の目的はオールマイトの殺害。それにしてはちょっと頼りない仲間達を連れてきてるように見える。
周りを見れば八百万さんが13号先生にセンサーを確認中。轟君はヴィランの分析中。爆豪君と切島君は今にも飛び出していきそう。
「13号、避難開始。上鳴お前も個性で連絡試せ」
「っス!」
「先生は!? 一人で戦うんですか!?」
動くならここかな。
相澤先生に詰め寄る緑谷君の肩を押さえて先生の前に出る。
「ちょっとごめんね、緑谷君」
「は、葉隠さん!?」
私の方を見てビビりすぎだし。
「話はあとにしろ」
「先生は捕縛布が見えなくても使えます?」
「当然だ……あぁ」
「なら先生が透明になるデメリットはない、と?」
先生の目の前に左手を出して、手袋を外す。
「なるほどな」
「お気を付けて」
「で、どのくらいもつ?」
透明になった左手をを相澤先生が思いっきり叩いた。
いてぇッス。
「3日くらい? あ~でも、私が気を失ったり死んだりすると透明化が解けるので気を付けてくださいねぇ~」
「そうならないうちにさっさと避難しろ」
「そうします」
相澤先生がセントラル広場に飛び降りた。
「着地に気を付けて! 身体が見えてないせいで距離感が掴めない!」
「分かった」
透明人間経験のある尾白君からのアドバイスに相澤先生が頷いた。
へぇ~、そうなんだぁ。私には見えてるから気付かなかった。
広場では相澤先生が無双中だ。
「うわっ、つよっ」
「おい、厚化粧。俺も透明にしろや」
「だめ。爆豪君じゃあ相澤先生と連携取れないわ。お互い見えないもの」
「くそが! 使えねぇ」
爆豪君が地団駄踏んでる。
「そういうことか! 多対一の戦闘が不利なのは全員に狙われるから。透明になれば居場所も分からない! 個性を消せる相澤先生なら」
「分析してる場合じゃない! 緑谷君も早く避難を!」
「させませんよ」
広場にいたはずの黒い靄が入り口前に現れた。
「初めまして我々は
話ながっ。
「平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
私ですら話が長いと思ったんだから気が短い子が我慢できるはずもない。
爆豪君と切島君が飛び出していった。
私は後ろに跳ぶ。
私だけかと思ってたら轟君も後ろに跳んでた。
目が合ったような気がした。私の姿は見えてないから気のせいなんだけど。
つか轟君は前に出て靄ごと本体を凍らせてよ、とちょっと思った。
直後、黒い靄が広がって私達を包み込んだ。
散らして嬲り殺す、とか物騒なこと言ってた。
そんなことを考えながら透は意識を失った。
「なんだ――ッ!?」
突然見えるようになった自分の両手と捕縛布を見て相澤消太は焦った。
「見えたぜ~、やはりイレイザーヘッド!」
広場に降りてから10秒足らずで透明化が切れた。
葉隠に何かあった――ッ!?
一人取り逃した黒い靄のヴィランか。
すぐに死ぬような奴だとは思えんが、まずいな。
時間がない。
捕縛布を巻き付けたヴィランを3人まとめて地面に叩きつける。
残り18人。
――ヴィランとの戦いは始まったばかり。
USJ内土砂ゾーンの斜面に立つ轟焦凍の吐く息は白い。
「散らして殺す……か。言っちゃ悪いがあんたらどう見ても」
轟焦凍の前には何体もの氷像と化したヴィランが顔を青褪めさせていた。
「個性を持て余した輩以上には見受けられねぇよ」
「こいつ……! 移動してきた途端に……本当にガキかよ」
「このままじゃあんたらじわじわと身体が壊死していくわけだ……がァッ? なんだこれ……まさか……コイツはァッ!?」
轟焦凍が目の前のヴィランから視線を外して見ていたものは地面に張った氷――!
そして氷の絨毯の中で一か所だけ何故か盛り上がっている場所があった。
盛り上がった氷の下には空洞があったッ――!
黒い靄に覆われ飛ばされた先で着地と同時に右足から出した範囲氷結。地面を伝い半径10mは凍らせた。
氷と地面の間に空気が入るはずはない。
氷の下に見える空洞はまるで人間のような形をしていた――ッ!
「葉隠かッ!?」
氷の空洞に色が付き始めた。
見えてきたのは紺色のセーラー服と真っ白い顔に張り付いた金色の髪の毛。
轟が急いで透の周りの氷を溶かした。
氷が溶けるや否や顔に向かって放たれる拳を前に一発殴られるくらい仕方ないかと思うとともに、無事で良かったと一安心した。
「殴られてもしゃあないと思ったが」
「どのくらい経ったか分かる?」
ぴたりと轟の鼻の前で拳を止めた透が立ち上がってコスチュームに付いた砂を払い落とした。
「20秒くらいだな、喉痛めたか?」
透は背筋を伸ばして深呼吸をしていた。
「ドラァッ!」
「大丈夫そうだな」
後ろから迫る槍を見切ってヴィランの顎にアッパーを叩き込んだ透を見ながら轟は心から安心した。
「大丈夫じゃないのは相澤先生よ。私が気を失ったせいで相澤先生の透明化が切れてる」
「……俺のせいか」
「入り口まで戻ろっか」
「オールマイトを殺す策っていうのを聞いてからにしねぇか?」
「教えてもらえる?」
透と轟が今まで無視していた目の前で氷像になっているヴィランに顔を向けた。
「誰が喋るかよ」
「あなたが喋るのよ」
首から下が凍り付いているヴィランの顔に透が手を触れた。
凍り付いたヴィランから情報を聞き出した二人は土砂ゾーンをさくっと抜けて塀の陰に隠れていた。
「さっきのなんだ?」
「催眠術……轟君、ドームの天井壊して」
透が上を指差した。釣られて轟も上を見上げる。
「……はぁ?」
ドームの天井を見て、突然何を言い出したんだと思い透の方を見れば、透は相澤先生が戦っている広場ではなくUSJの入り口ゲートの方を見ていた。
「入り口見える? 障子君とお茶子ちゃんがいるわ」
「あぁ……いるな」
「浮かせて飛べば避難出来る。相澤先生は肘に怪我してるし、他に怪我人がいるかも」
「悪い、届かねぇ」
「壊せそうな人がいたら頼んで。青山君、緑谷君、爆豪君、八百万さん……くらいかなっ? あと、相澤先生助けに行くから援護して、脳みそ野郎さえ相澤先生から離せれば」
「そこで青山の名前出てくるところ流石だな。オールマイトを殺すための策……脳みそむき出しのやつが動いたか。気付かれずに近づけるのか?」
轟の心配を透が鼻で笑った。
「それってもしかしてぇ~、バスで隣だった人にも移動したことに気付かれなかった私を心配してるってことぉ~?」
「言ってろ……緑谷達が水難ゾーンのとこにいるな」
透がサングラスを指で弾き、透明になって塀の陰から出ていった。
まだ運はこっちに味方してる。
黒い靄にワープさせられる前にサングラスの位置を戻していたこと。
轟君に凍らされて透明化が切れたときもサングラスは目を隠していたこと。
お茶子ちゃん達が入り口付近にいること。
そして、ドームをぶっ壊せそうな緑谷君が近くにいたこと。
足音を立てないよう気を付けて歩いて残り6m。
なるほどたしかに、オールマイトを殺すための策だ。
相澤先生の腕を一瞬で折るほど強く、速い。
でもバカなんじゃないの、コイツら。
脳筋に勝つために脳筋より強い脳筋連れてくるとか脳みそまで筋肉詰まってるんじゃあないの?
相澤先生まであと5m。まだ少し遠い。
アクトン・ベイビーのパワーじゃビクともしなさそう。
3歩歩いて残り4m。
「個性を消せる。素敵だけどなんてことないね。圧倒的な力の前ではつまり……ただの無個性だもの」
身体中手首まみれのイカしたモヤシ男がぶつぶつ呟いてる。
脳みそ野郎が相澤先生の左腕を踏み潰した。
個性を消せる目を潰すために顔を地面に叩きつけた。
3歩歩いて残り3m。
そろそろ私も我慢の限界だけど、殴って勝てる相手じゃないし。
でも、轟君の援護を待つのも性に合わない。
やっぱりこの脳みそ野郎は今ぶっ飛ばすッ!
「死柄木弔」
「黒霧……13号はやったのか」
ピタッと脳みそ野郎に振りかぶったアクトン・ベイビーの拳を止める。
黒い靄が現れて状況が変わりそう。
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」
良いニュースね。これで応援が来る。
13号先生も生きてる。生徒のことは何も言ってなかったから入り口に見えた人達は皆無事……だといいけど。
脳みそ野郎は相澤先生から離れない。
早く離れろっての。
相澤先生が無理やり顔を上げた。
不健康なのに素早い動きで手まみれ男が梅雨ちゃんの顔を触ってた。死柄木弔って言ってったけ。
あいつは億泰さんと似た個性だ。自分の手に絶対の自信を持ってるタイプ。
てことはオールマイトを殺す策の本命は脳みそ野郎じゃなくてあいつ、死柄木弔!
「本っ当かっこいいぜ……イレイザーヘッド」
土砂ゾーンから凄い勢いで地面を走る氷が見えてちょっと安心。
必死の形相をした緑谷君が死柄木弔に飛び掛かるのが見えた。
そして、脳みそ野郎が相澤先生から離れた――ッ!
相澤先生に触れて透明化!
アクトン・ベイビーで小脇に抱えてまだ戦闘中の広場から距離を取る。
顔と腕から滴る血も透明にするのを忘れないっと。
落ち着け
落ち着くために深呼吸をしろ。
相澤先生を地面に下ろして怪我を確認。両腕粉砕骨折、顔面陥没骨折、息はある。
死ぬ怪我じゃない。
深呼吸を繰り返し、怪我の手当を手早く済ませてっと。
相澤先生がゆっくり目を開け――やっばいッ!
とっさに相澤先生の瞼が開かないように押さえる。
今度は開きそうになった口を押える。
「私です。先生はそのまま隠れててください」
ヴィランに聞こえてないと信じて小声で喋る。相澤先生が頷いた。
「13号先生が戦闘不能なのでそっち行ってきます」
相澤先生が頷いたのを確認して足音を立てないように走り出す。
「待って下さい死柄木弔!」
「なんだよ? ガキだからって殺すなとか言うなよ」
「イレイザーヘッドが消えました」
「はぁ? そんなわけないだろ……あれ? 消えてる」
相澤先生が動けるようになればあとは――!
透が相澤先生を救出して入り口に走り出す0.5秒前、緑谷出久は右腕を振りかぶって水難ゾーンの池の縁から飛び出していた。
応援を呼ばれたから帰るとかゲームオーバーとか何考えてるんだこいつら!
でもさっきまでの敵たちとは明らかに違う!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
相澤先生の肘を崩壊させた手が蛙吹さんの顔に!
蛙吹さん救けて逃げッ!
「手ェッ放せッ!! SMASSH!」
「脳無」
「……えっ」
速っ、いつの間に、ていうか効いてないッ!?
僕と死柄木弔の間に割り込んでた脳みそヴィラン!
「間に合えッ!」
僕の腕を掴もうとしていたヴィランの腕が突然生えてきた氷に阻まれた。
蛙吹さんと峰田君に伸ばしていた死柄木弔の手も氷に阻まれている。
「轟君!?」
「ありがとね、轟ちゃん」
「助かったぜ~、轟ぃ」
「んなことはいい。緑谷、天井ぶっ壊せ」
「え? なんで?」
蛙吹さんのベロが僕の身体に巻き付き、僕を後ろに投げ飛ばした。
すぐに峰田君の手を掴んで後ろに跳んだ。
なんとか離れられた!
「障子と麗日が入り口にいる。天井空いてりゃ空から逃げられる」
「え? どういうこと!?」
「ちぃっ! こいつだけ障子が飛ぶの見てねぇんだった」
「それいいぜ~! 天井ぶっ壊れりゃ誰か見に来てくれるって!」
「学校全部が襲撃されてなかったらの話だわ」
「そりゃ大丈夫。襲われてるのはここだけだ」
轟君の作った氷は僕達とヴィランを分断してるけど、触れば壊せる手と僕の全力でも効いてなかったヴィランがいることを考えれば長くは持たない。
ドームの天井を壊す?
僕が?
上を見上げる。届くのか?
僕で?
やれたとしてきっと腕が一本動かなくなる。
相澤先生は大怪我、13号先生も無事じゃない!
全員助かるためには、他に方法はないッ!
覚悟を決めろ、僕!
めちゃくちゃ痛いのは分かってる!
それでも撃つんだ!
「SMASSH!」
振り上げた右腕から衝撃波。
全力で撃ったスマッシュがUSJの天井をぶち破った……けど、今回は制御出来なかった。
右腕がバッキバキだ。
どす黒く変色して、めちゃくちゃ痛い。
昨日の戦闘訓練と同じだ。
「オールマイト並のパワーじゃないか、このガキ。もういい、脳無。氷壊してさっさとガキを殺せ」
「待って下さい死柄木弔!」
「なんだよ? ガキだからって殺すなとか言うなよ」
「イレイザーヘッドが消えました」
「はぁ? そんなわけないだろ……あれ? 消えてる」
消えたって……相澤先生は一人じゃ動けないほどの怪我だった。
ってことは……葉隠さんが相澤先生を助けた!
「まぁいいや。どうせ動けるわけないよ。脳無、この邪魔な氷壊せ」
氷が壊され、同時に遠くに見えるUSJの入り口が破られた。
「もう大丈夫! 私が来た!」
「オールマイトー!」
オールマイトが来てくれた!
「あー……コンテニューだ……」
死柄木弔の呟きが僕には不気味に聞こえた。
オールマイトが来てからは早かった。
僕達は救助され、かっちゃん、切島君が加勢に。
途中オールマイトが「相澤君はどこだ……?」と辺りを見回してたけど轟君に葉隠さんが助けたと聞いて安心してた。
葉隠さんは入口で13号先生の手当をしていたらしい。
かっちゃんは黒霧って呼ばれてたヴィランを制圧、切島君と轟君は戦闘態勢を整えている。
僕はバッキバキになってる右腕を押さえて皆の後ろの方にいる。
それにしたって脳無っていうヴィランはおかしいよ。
オールマイトに殴られても平気なショック吸収、オールマイト並のパワーとスピード、そして……凍らされて砕けた身体も再生する超再生。
いくつもの個性を持ってる。
対オールマイト用の兵器っていうのも納得だ。
だからこそヤバイ、オールマイトには時間がない!
僕の右腕はもう動かない。
オールマイトと殴り合って平気なヴィランにはかっちゃんも轟君も切島君も勝てないッ!
僕のスマッシュじゃ効かなかった!
どうする!?
どうすれば勝てる?
考えてる間に氷で砕けた身体の再生を終わらせた脳無が動いた――ッ!
「かっちゃん!」
かっちゃんが殴られたときの衝撃波が僕達を襲う。
「かっちゃん!?」
僕のすぐ横にいた。
「よっ、避けたの!? すごっ」
「ちげぇよ、だまれカス」
でも殴られた誰かがいたはず。
殴り飛ばされた誰かの方を見ようとして、僕は不思議なものを見た。
「は?」
誰かの唖然とした声が聞こえた。
――脳無が踊ってる。
僕にはそう見えた。
脳無が少しだけ浮いてダンスでもしてるようにぐるぐる回って、そのまま空へと飛んで行った――ッ!?
「え? 脳無? どこ行くんだ? ……えっ……?」
死柄木弔も黒霧もふわふわと上へ飛んで行く脳無を見上げてる。
僕達も呆然と見上げてる。
脳無はそのまま僕がぶち破った天井から空の彼方へと飛んで行った。
なんだかそれはとても、見覚えのある光景だった。
「さぁ、勝利宣言だよっ。カッコいいのお願いねっ」
僕達もヴィランも何が起きたのか何が起きたのかさっぱり分からないままだったけど、脳無がいた場所に誰かが現れた。
しゃがむような姿勢で、いかついヤンキー座りで現れたのは不良女子高生を彷彿とさせるコスチューム。
葉隠さんだ。
「葉隠! お前の超パワー使えたのかッ!」
切島君は葉隠さんが脳無をぶっ飛ばしたことに納得してるみたいだった。
「違うよっ……私じゃないわ。よく聞いてねっ、カッコいい勝利宣言が聞けるからさっ」
葉隠さんが顎でしゃくった先から誰かの足が見え始めた。
「もう大丈夫ッ!! わーたーしーがーッ!!」
女の子の声だった。
なんだろう、とっても聞き慣れてる声のような。
見え始めたコスチュームも、なんだかとても見覚えのあるような。
大きめの薄いピンク色のブーツ。
黒いタイツ、薄いピンク色のベルト。
黒と薄桃色のボディスーツは戦隊ものを思い出させる。
サムズアップした右手を僕達の方に伸ばして現れたのは――。
「宇宙までブッ飛ばしたッ!!」
「麗日さん!?」
麗日さんが僕に向かって大きく頷いた。
親指を立てた腕は少し震えてて、顔は恐怖で引きつっているけど目には力強い光が見える。
脳無が飛んで行った空を見上げる。
どこまでも青い空が見えた。
さっきまでオールマイトを追い詰めていた脳無は、もういない。
「よりにもよってパクリはないわぁ~、お茶子ちゃん」
→To Be Continued ...
オールマイトの本気? そんなものウチにはないよ……。
ごめんね、オールマイト。
誤字報告いただきまして修正しました。