葉隠透の奇妙なアカデミア 作:ピーカブー
「よりにもよってパクリはないわぁ~、お茶子ちゃん」
「急に言われても何も思いつかんもん」
呆れたような透の声にわたわたしながら答えたのは麗日お茶子、対オールマイト用の兵器である脳無を空の彼方までブッ飛ばした女子生徒だ。
お茶子は足元でヤンキー座りをする透の方に顔を向けていて、透はお茶子の脚の間から死柄木弔と黒霧に顔を向けていた。
他の全員は上を見上げている。生徒達も、オールマイトも、ヴィランも全員。
大きくブチ破られた天井の穴から覗く空を、見上げていた。
切島鋭次郎はこの状況を見て心から納得した。
透の隣から現れた麗日お茶子の姿を見て、やっと腑に落ちた。
昨日の放課後、戦闘訓練の反省会をしている中で話題になった一言があった。本気で言っていたのか冗談で言っていたのかも分からないまま有耶無耶になってしまった一言。
「まぁ、クラス最強はお茶子ちゃんだよね」
透が昨日帰り際に残していった爆弾だ。
俺が最強だとは思ってねぇけど、麗日が最強ってのも分からねぇ。葉隠と麗日が喋ってるとこ見たことねぇし、おちょくる相手としても微妙だろ。
轟か爆豪、緑谷が最強だって言うんなら気にしねぇけど、ただ触ったものを浮かせられるだけの麗日が最強ってどういうことだ?
――そう思ってた。今までは。
個性の使い方なら葉隠がクラストップ。
個性は知ってても使い方が想像以上にぶっ飛んでる奴。
だからだ。葉隠が最強は麗日だと言い切った以上、俺達には想像もできない使い方を思いついていたはず!
いや俺だって思いついてたよ、でもよォ、思いついてもやらねぇだろッ!
オールマイトと真正面から殴り合ってたヴィランを宇宙まで投げ飛ばすとか!
いくら葉隠と一緒なら気付かれずに近づけると言ったってよォ!
俺達は誰も動けなかったっていうのによォ!
空を見上げてため息が出る。
クラス最強は麗日だ。
もう文句はねぇ。
文句はねぇけど。
握り締めて掌に食い込んだ爪がいてぇ。
轟焦凍は理解した。
時間があればバスの中で聞いておこうと思ったこと。
「まぁ、クラス最強はお茶子ちゃんだよね」
あの言葉の意味を。
戦闘訓練で相対して分かった。
葉隠は見た目の割に馬鹿じゃねぇし、他人の個性もよく見てる。
俺が右からしか氷が出せないことにも気付いてた。
何か意味があるはずと思った。
意味ならもう分かった。
オールマイトと殴り合って凍らせても氷ごと身体を砕いて再生する脳みそむき出しのヴィランを倒せるのは麗日だけだ。他にあのヴィランに勝てる奴はいない。
空を見上げれば、飛んで行ったヴィランの姿はもう見えない。
まともに空を眺めるのなんて生まれて初めてかもしれねぇ。
俺に天井壊せる奴探させたことといい、葉隠の奴、麗日見つけたときからやるつもりだったな。
爆豪勝己は歯を食いしばりながらも理解した。
初日からか透明野郎!
個性把握テストで既に丸顔の浮かせる奴が最強だって結論出してやがった!
戦闘訓練やる前から分かってやがった!
飛行能力ねぇ奴相手なら丸顔は天敵。触らねぇと発動できねぇところは透明野郎がカバーすれば大抵の奴なら完封可能。
一番の問題は遮蔽物がない場所じゃねぇと使えねぇこと!
クソガァ!
クソナードの腕は天井ブチ破ったときに折れたってことか!
「おいおいおいおい、待て待て待て待て……えっ? 脳無を宇宙までブッ飛ばした? え? 脳無は――」
「ひゃっ」
「間抜け顔晒してる間に離れるよっ、と」
透が素早くお茶子の腰に腕を回し、二人まとめて姿を消したがすぐに現れた。
折れた腕を押さえて座り込んでいる緑谷の隣にお茶子が、二人の前に透が。
「――脳無は対オールマイト用の兵器だぞ。オールマイト並のパワー、スピード、オールマイトに殴られても平気なショック吸収、身体が欠損しても再生できる超再生……そんな脳無を宇宙までブッ飛ばしたって、なんの冗談だ」
「はぁ~、世界一の脳筋に勝つためにそれ以上の脳筋連れてくるとか脳みそまで筋肉つまってんじゃあないの、あんた達!」
「何故か私までディスられてる気分だ!」
脳無に殴り飛ばされていたオールマイトが一瞬で透の前に移動した。
透は世界一の脳筋の後ろから一歩横にずれてキレッキレのポーズで死柄木弔を指差した。
左手はオールマイトが邪魔だとばかりに追い払うような仕草をしていた。
「関係ないのよ。うちのクラス最強の前じゃあねぇ……超パワーに超スピード、超再生なんて関係なくぅ~ッ! 触れば勝ちィッ! それが最強ってものなのよ! 殴り合いなんて馬鹿馬鹿しいわ!」
死柄木弔に向けていた右手を大きく振ってビシッとお茶子を指さした。
「だからなんで私までディスるかな! 葉隠少女!」
「おじいちゃんが昔私に話してくれたわ」
「聞いてないよ、おじいちゃんのことなんか」
「勝てない相手は……宇宙までブッ飛ばせ、ってね! 火山も噴火させずに触れば宇宙までブッ飛ばせるって最強だよねぇ~」
「チートかよ、ずるいぞ。うちにはそんな個性持ちいないんだ。触っただけで勝てる奴なんて」
「死柄木弔」
「なんだよ」
「あなたの個性がそうなのでは?」
死柄木弔と黒霧が顔を見合わせて、死柄木弔が首をぽっきり傾げながら頷いた。
「……あぁ? あぁ……あぁ、そうだった。触れば勝ちなのはこっちもだ」
「ですがオールマイトに触れるにはサポートがなければ」
「黒霧ィ」
「なんですか?」
「お前の個性がそうだろうがァ」
「いや無理でしょう。オールマイトに気付かれずに近づくことなど」
「ガキどもはやってたぞ」
「脳無はあなたの命令しか聞きませんでしたから」
「くそ……いいのか、ヒーローを目指してる奴が人殺しなんて」
死柄木弔がお茶子に顔を向けた。
ねっとりした声音で責めるような口調で。
「あ……えぇ~、どうしようデク君……うち……」
人を殺しちゃったかもしれん、と泣きそうな声で呟いた。
お茶子が顔を青褪めさせて縋るように緑谷を見ていた。
「大丈夫! ヴィランとはいえ私が助けに――」
「ちょっとどいて」
「――なぜ? 離れていなさい、葉隠少女!」
透がさらに腕を動かして黒霧の方を指差した。
「あなたが迎えに行けば? ワープ出来るんでしょう?」
「はぁ? 宇宙だろ?」
「もしかしてだけどぉ~、ひょっとして~、迎えに行けないの? 宇宙までは届かないってぇことかしらぁ~? それともぉ~移動してるものはワープさせられない? 限界があるのは距離かしら? それとも座標とかぁ~? ねぇ、どっちなの? 距離でも座標でもなくそれ以外だったりするのかしらぁ~?」
死柄木弔と黒霧が顔を見合わせた。
「でもぉ~、本当は……迎えに行けるんでしょう? だってそうよねぇ、ワープ出来ない場所があるなんて……言えないよねぇ、オールマイトの前ではさァッ!」
「……黒霧ィ、脳無を迎えに行け」
「……時間が……かかります」
黒霧が苦々しげに呟いた。
「そう、じゃあ、脳無君はあなたたちに任せるわ。良かったわねぇ、お茶子ちゃん。対オールマイト用の兵器が宇宙に行ったくらいで死ぬわけないわ、送迎はワープ君に任せましょ」
「葉隠少女! 昨日も感じたが君は人の痛いところを突くのが好きだな!」
「イレイザーヘッドが担任だしぃ?」
「帰るぞ、黒霧……今度は殺すぞ、オールマイト!」
「……ワープゲートが出ない? この個性は……イレイザーヘッド……?」
「動けるわけないだろ……脳無に顔潰されてるんだぞ……長くは使えないはずだ……ッ!?」
死柄木弔がよろけた。たたらを踏んで、腰を落として踏ん張っていた。
それでもずるずると横に滑っている。
死柄木弔が横を見れば、身体を覆うワープゲートが消え、両腕で顔を隠した黒霧もずるずる滑っていた。
「吸われる……!? 13号まで復活したということですか」
「おい、13号は戦闘不能にしたんじゃなかったのか」
「ヒーローはいつだってPlus Ultraさ!」
「いやだね~、やだやだ……でもまぁこのくらいどうってことないね……だってヒーローならヴィランでも殺さないからね」
USJの入り口の方へずるずる滑っていく死柄木弔がしゃがみ込んだ。
そして手近なところに倒れていたヴィランを掴み上げて13号の方へ投げた。
「君ぃ! 仲間を!?」
そしてもう一人、身体の大きいヴィランを選んで黒霧の前に投げた。
抹消の個性が消え、身体から黒い靄を噴出させた黒霧の方へ死柄木弔が手を伸ばした。
「13号クリア……イレイザーヘッドもクリア、オールマイトもクリアして帰ろ」
死柄木弔の伸ばした手が黒い靄の中へと消え、オールマイトの目の前に現れた。
「オールマイトから離れろ!」
「なにやってんのアホンダラァァァッ!」
「ぶぎゃぁっ!」
オールマイトの時間がないことを知る緑谷が飛び出したが透に殴られ地面を無様に転がった。
「TEXAS SMASH!」
下から掬い上げるように打ち上げたオールマイトの拳がワープゲートごと死柄木弔の手を空へとブッ飛ばした。
「ぬぅッ、逃げられたか」
オールマイトが発生させた衝撃波が消え、視界が晴れたときには死柄木弔と黒霧の姿は消え失せていた。
「助かった……」
「デク君! 大丈夫!? 透ちゃんに殴られてたけどッ!」
「あぁ、うん、大丈夫だよ、麗日さん」
「葉隠、もういい……葉隠?」
右ひじを押さえた相澤先生が緑谷と麗日の隣に現れた。
「「相澤先生!?」」
二人はすぐ隣にいつの間にか立っていた相澤先生にギョッとしていた。
オールマイトは相澤先生が無事でいたことに喜んでいた。
透はと言えば、オールマイトに救出されひとかたまりになっていた生徒達の前に立っていた。
「峰田君、梅雨ちゃん、私と一緒に来て」
「いつ移動したのかしら?」
「お~、おうよ! ……オイラ達3人ってことは暴風雨ゾーンだな~?」
「轟君は火事ゾーンお願いねっ、爆豪君は山岳ゾーン」
あっちと、そっちと指さしながら透が二人を見ていた。
「はぁ?」
「アア゛!?」
「他の奴助けに行くのか? 俺も行くぜ」
「切島君は対人戦特化型だから入り口にいる皆の護衛よろしくぅ」
「おう、任せとけ!」
「なんだこいつら、話早ぇな」
轟が話についていけない顔で切島と峰田の顔を交互に眺めて呟いた。
「轟! こいつら起きる前に凍らせといてくれよ~!」
「……あぁ」
「爆豪! ここは任せて早く行ってこいよ!」
「俺に指図すんなクソ髪ィッ!」
爆豪が両手を爆発させながら山岳ゾーンへ向かって飛んだ。
轟は教師とクラスメートを避けて広場一帯を凍らせた。既に起きつつあったヴィラン達は氷像と化し、うめき声を上げていた。
「これ相澤君の教育? 凄いな!」
オールマイトが氷漬けになった周りを見回しながら驚いていた。
入り口の方から向かってきていた13号も合流した。
「迅速かつ最善の判断です。僕達も行きましょう」
「待て葉隠、緑谷の手当頼む」
「えっ? 緑谷君怪我してたのぉ~?」
相澤先生に呼び止められた透がわざとらしく素っ頓狂な声を上げた。
「してたやん! 腕バッキバキ――じゃないねっ!?」
「ああああぁぁぁぁっ!? 治ってるぅぅぅっ!?」
緑谷の腕を見たお茶子が驚きに目を丸くし、緑谷は自分の腕を見て絶叫した。
さっきまで紫色に変色しバッキバキに折れていた腕を触りながら首を傾げる二人の横で蛙吹梅雨が相澤先生の腕と顔を心配そうに見ていた。
「相澤先生……動けるんですか? 腕と顔……?」
「もう治ってる」
「プロヒーローって凄いわ」
「13号先生も背中が……」
何故か骨折が治っていた緑谷を見て安心したお茶子が13号の方を向いた。
個性のブラックホールで背中が大きく裂けていた13号の手当をしていたが故に、普通に歩いている姿が信じられなかった。
「治りきってはいませんが、動けます」
「プロヒーローってすごっ!」
「そんなに大怪我してたのかい? 私が見たときは軽傷だったはずだが」
オールマイトだけが腕を組んで首を傾げていた。
相澤先生と13号の二人は呼び止められても振り返らず背中を向ける透に訝し気な視線を向けていた。
「行くよ、梅雨ちゃん、峰田君」
「えぇ、今行くわ」
「オイラ達の救助訓練はまだ始まったばかりだぜぇ~」
峰田と蛙吹を伴って暴風雨ゾーンへ向かって歩き出す透は隣の二人に聞こえないようにため息を吐いた。
積極的に使う気はなかったけど、使わないことは出来なかったんだよねぇ~。私達を守るために怪我した相澤先生と13号先生、私達を守るために応援を呼ぼうとして天井ぶっ壊した緑谷君の怪我を治さないなんてカッコ悪いこと、出来ないよねぇ。
でも言えないよねぇ~。
だって今時あり得なくない?
個性と関係なく超能力が使えますなんてさぁ~。
まぁ、スタンドも個性じゃないけどさ。足の小指に関節あるし。
波紋なんていうチャチな超能力が使えるなんてさぁ、普通言えないよねぇ。
はぁ~、なんて言い訳しよう。
「緑谷の怪我……葉隠に殴られて治ったように見えたぜ~?」
「ドMだからじゃない?」
「増強系って凄いわ」
ちがうよぉぉぉっ、と誰かが叫んでいた。
叫び声に合わせるように数発の銃声が響いた。
「ごめんよ皆、遅くなったね」
「1-Aクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!!」
「おっせぇわクソガァ! とっくに終わったわァッ!」
「まだ終わってねぇだろ! スナイプ! 暴風雨、山岳、火事ゾーンにまだ生徒がいる」
「あぁ、そっちはとっくに終わった」
雄英高校の教師達がUSJの入り口に立っていた。
「次の救助訓練にご期待くださいって感じぃ?」
「よかった~! 助かったー! オイラは生きてるぞー!」
「今度こそ終わったのね」
雄英高校1-A救助訓練、敵連合の襲撃を受け教師3名軽傷という被害を受けたものの無事完了。
宇宙までブッ飛ばされた脳無、校長根津の個性で軌道計算の後、麗日お茶子が個性を解除し無事地球に帰還した。落ちてきた脳無はセメントスが個性で操作したコンクリートのプールが受け止めた。
→To Be Continued ...
静・ジョースターなら使える、気がする。