葉隠透の奇妙なアカデミア 作:ピーカブー
USJから雄英高校に戻ってきた1-Aの面々は今、教室で自分の席に座り、右ひじを軽く掻き続けている相澤先生に注目していた。
「全員無事に戻ってきた、俺と13号、オールマイトが軽傷だが生徒は怪我人なし、軽傷数名ばあさんに治してもらったがな。逮捕されたヴィラン72名。主犯格の2人が逃げたことを考えると計74人のヴィランから襲撃を受けたわけだ。全員無事に帰ってきたのは奇跡だと言わざるを得ない。今回の事態を重く見て学校側が明日は臨時休校にすることにしたから、ゆっくり休め……と言いたいところだが」
まだ授業やるの、もしかして。
とクラスメートは心を一つにして顔が青ざめた。
「これから君達には事情聴取を受けてもらう」
『クソ学校っぽくねぇの来たーッ!』
「なんで声揃うんだクソガァ!」
「あっ僕もそれ思った」
「黙れクソ殺すぞ」
「ひぃぃぃっ」
後ろを振り返って歯をむき出しにして机を殴り続ける爆豪の顔を見て緑谷が悲鳴を上げて縮こまった。
爆豪に怒鳴られて怯える緑谷を後ろから見ていた峰田は、緑谷がドMならこの関係にも納得だ、としたり顔で頷いた。
相澤は騒ぎ出した教室を眺めて頭が痛そうにしながらも、緑谷はともかく爆豪もまともな感性を持っていたことに新鮮な驚きを感じていた。
「まだ話は終わってない。警察は72名のヴィランから事情聴取中で手が空いてない。というわけで……警察の代わりに教師が君達から話を聞くことになった。まぁ、カウンセリングも兼ねてだな」
ハイになってるのも極度の緊張状態から解放された反動だろうとため息を吐いてから話を続けた。
「同じ場所にいた者達は一緒に受けてもらう。事情聴取が終わった者から帰っていい。まずは青山と尾白はパワーローダーの作業室」
「先生……場所が分かりません」
「教室の外に控えてる」
尾白の質問に相澤先生が答えると同時にドアが開き、パワーローダーが顔を覗かせた。
尾白が青山に同じ場所にいたんだと話しかけながら教室を出ていった。
「芦戸、飯田、麗日、砂藤、障子、瀬呂は校長と校長室。蛙吹、緑谷、峰田はセメントスと会議室η。上鳴、耳郎、八百万はエクトプラズムと会議室ε。切島、爆豪はスナイプと会議室μ。口田、常闇はマイクと放送室。轟はミッドナイトさんと応接室Σ、葉隠は俺と保健室だ」
透が頭を抱えて机に突っ伏した。
やべぇ人に目付けられたのは分かってたけど言い訳考える時間くらいあると思ってた私が甘かった!
「俺と葉隠は別なのか……」
「途中から別行動してただろ」
「あぁ……それもそうか」
「……そこは食い下がってよ、轟君」
ぶつぶつ呟いた透の声は轟までは届かなかった。
「葉隠、行くぞ」
「はぁい……はぁ」
教室から出ていく相澤先生の後ろを透が肩を落として付いていく姿を見て、轟が首を傾げていた。
「相澤先生助けたのになんで死にそうな面してんだ……?」
相澤先生の後ろを俯いて歩く透に上級生達が同情の視線を向けていた。
彼女が今年の除籍1号なのね、可哀そうにという目だ。
透が相澤先生の後ろから保健室に入れば、中にはリカバリーガールと骨と皮だけのひょろ長い体格の男性が椅子に座っていた。
ぐったりしてぺしゃんこになった13号のスーツがひょろ長い金髪の男性の隣の椅子にもたれかかっていることに気付いた透が自分の顔を殴りつけた。
「何してんのかねぇ~この子」
「何やってんだお前」
「見てないッス、私は何も見てないッ! 13号先生の中身がこんな骨みたいなおっさんだったなんて見てないッス! 違う、これは違う! 13号先生に中身なんてないのッ! ダサかわミシュランマンが金魚鉢を被った姿が本体なの!」
サングラスを両手で隠しながら頭を左右にぶんぶん振って叫んでいた。
ひょろ長い男性がオールマイトのトゥルーフォームであることを知っている相澤先生とリカバリーガールが顔を見合わせて、そう思っているならそれでいいかと頷き合った。
オールマイトがショックを受けた顔で「お、おっさん……」と呟いていたし、空気を抜いたスーツを着たままオールマイトの隣の椅子に座っている13号も呟かないまでもダサかわミシュランマンに金魚鉢って思われてたんだ、とショックを受けていた。
そして、これで僕は喋れなくなったし、動けなくなったと軽く絶望した。
「……どうでもいいから早く座れ」
「私だけ先生多くないですか?」
一瞬で気分を切り替えケロっとした顔で空いている椅子に座った。
「前置きなしでハッキリ聞くぞ」
それが既に前置き、思いながらと透がのけ反った。
「超能力ッス……信じないと思いますけどぉ~。こんなこと言っても信じないッスよねぇ、普通」
「いや、信じよう」
「やはり複数の個性! 透明化と治癒……その個性をどこで?」
オールマイトが落ち窪んだ目をギラギラさせながら身を乗り出し、オールマイトが前に出た分だけ透が身体をのけ反らせた。
「えっ? いえ治癒の方は個性とは関係ないッス」
「ん?」
「お?」
「複数の個性を持ってるのでは?」
「そんなわけないッス。ただの超能力ですよっ」
「それを個性と言うんだろう?」
「言いません」
「は、話が分からなくなってきたぞ!?」
頭を抱えるオールマイトを見ながら透が首ごと身体を傾げた。
「13号先生ってそんな喋り方でしたっけ?」
「だったら治癒の個性はなんだ?」
「治癒は個性じゃないって言ってるじゃあないですかッ」
「じゃあなんなんだ?」
「超能力ッス!」
信じない相澤先生と他に説明のしようがない透が睨み合った。
オールマイトは二人をなだめようと手をぶんぶん振っているが何の意味もなかった。
はぁ~あ、と今まで静観していたリカバリーガールが長い溜息を吐いて透に顔を向けた。
「どんな原理か話せるかい?」
「話せますけどぉ~。荒唐無稽なんですよねぇ」
「いいから話してみなさいな」
「はい、えー、まず呼吸で血流を操作して」
「ブラドキング!?」
オールマイトが両手を上げて叫び、リカバリーガールに黙って聞きなさいと頭を叩かれた。
「違うッス。体内の生命エネルギーを増幅して」
「リカバリーガール!?」
「なんだい?」
「だから違うッス。増幅した生命エネルギーを手や足から出すっていう超能力です。うーん、なんか違うけどそんな感じ?」
「つまりその生命エネルギーを受け取ると傷が治る……と、大体ばあさんと一緒だな」
相澤が目元を揉みほぐしながら頷いた。脳無に砕かれた眼窩底骨を気にしての仕草だった。
「凄いな! 葉隠しょ――げふんげふん」
「私も引退時期かねぇ……何か飲むかい? それにしてもまさかねぇ」
リカバリーガールがしみじみ呟きながら椅子から降りて、備え付けの冷蔵庫から飲み物を取り出した。
教師陣と透を隔てる小さなテーブルの上に置かれた飲み物を前にして、透は無意識にサングラスのフレームを撫でた。
サングラスのフレームに触れるたびに透明の目を隠すために鏡面加工されたレンズがキラキラ輝いた。
視線は目の前に置かれた2本の瓶コーラに向けたまま。
「……栓抜きは?」
リカバリーガールの5本の指が瓶を掴むのを透はじっと見つめる。
「ないね……コォォォォ」
リカバリーガールの口から響く特殊な呼吸音、透にとっては聞き慣れたその音の正体は――ッ!
ポーンという小気味いい音ともにコーラの栓が抜けたッ!
「うわマジッ!?」
「リカバリーガール鉄板の宴会芸を何故今ッ!?」
「……あの音……俺を治したときと同じ……音か?」
透は椅子から飛び上がりそうなほど驚き、オールマイトは意味が分からずに驚き、相澤はリカバリーガールの呼吸音が気になっていた。
リカバリーガールは弾けるように上に飛んだ王冠をキャッチしてゴミ箱に投げ込んだ。
「で、その超能力っていうのは波紋っていう名前かい?」
「そうですよ。コォォォォ」
透が栓の空いてないもう一本を掴んだ直後、風船が割れるような破裂音を鳴らして王冠が吹き飛んだ。
オールマイトと相澤が唖然とした様子を天井を見ていた。
コーラの王冠がめり込んだ天井を。
「ありゃ、私より使えるね」
「リカバリーガールが使える方がビックリしましたけどねッ!」
「若い頃半年くらい教えてもらったのさ……私の治癒も万能じゃないからねぇ。体力のない子には使えないデメリットがなくなればってね……理由があって途中でやめたけどねぇ」
「話が分からん」
「わた……僕もだッ!」
「正真正銘の超能力だよ……ぱっと見でも骨折くらいなら治せるねぇ」
「個性じゃない超能力なんてあんのかい」
「あるさ。まさか個性の発現以前に超能力がなかったと思ってたのかい?」
「話が早くて助かったー。もう帰っていいスか?」
「その超能力俺にも教えろ……ばあさんが教えてもらってたってことは生まれつきじゃねえんだろ」
「話早ッ……でも、正直な話~相澤先生は覚えた方がいいような気がするんスよね~」
「なんでだ?」
問いかけに答えず椅子から立ち上がり背を向ける透に溜息を吐き、リカバリーガールに顔を向けた。
「さぁねぇ……波紋使いは言葉足らずだからねぇ、案外向いてるかもしれないよ」
「私だけ置いてけぼりだッ!」
オールのマイトの言葉に僕の方が置いてけぼりですと13号の呟きが漏れた。
透は水を入れたコップに指を突っ込んで戻ってきた。
「ほらこれ……よく見てくださいよっ」
水の入ったコップを逆さにして上に引き上げると水がコップの形を保ったまま、透の指の動きに合わせてぷるぷる揺れた。
「ゼリーみたいだッ! 凄いッ!」
「俺に宴会芸を覚えろと?」
「ほぉ~、なるほどねぇ~」
リカバリーガール頷き、透がニヤッと笑った瞬間に、ゼリーのように固まっていた水が破裂し――
「~~~ッ!?」
「目があああっ!?」
――相澤とオールマイトの目にかかった。リカバリーガールはバイザーを付けていたため無事だった。
「目開けていいですよ~」
「開けられるかッ!」
「……あれ? 普通に開けられるよ!」
目を押さえて顔を背ける相澤をよそに目を開けたオールマイトが相澤の肩を叩いた。
「葉隠お前、人をおちょくる癖どうにかしろよ……」
今にもお説教を始めそうな相澤を無視して透が腕時計を叩いた。
「目を閉じないように意識してくださいね~。波紋を流した水は眼球の表面に膜を張って1分くらいなら余裕で持ちますよ~ドライアイとか関係なくねッ!」
「瞬きいらずでドライアイにもならないって……えっ? 相澤……先輩の弱点消えるよねそれ!」
「教えてもらおうか、波紋とかいう超能力をッ!」
「今すぐですか?」
鬼気迫る様子の相澤を前に透が小指を立てた拳を突き出した。
これから透がやろうとしていることを察したリカバリーガールが濡れたバイザーを拭きながら深い溜息を吐いた。どうしてこう波紋使いは人を振り回すのが好きなんだろうねぇ、とぶつぶつ呟いていた。
「今すぐだ」
「ドラァァァァァッ!」
思いっきり振りぬいた透の拳が相澤の腹に突き刺さった。
「校内暴力!?」
「思い切りの良さと入試で見せた沸点の低さは師範代の師匠に似てるねぇ」
苦しそうに息を吐き出し続ける相澤を前にオールマイトはおろおろするだけだった。
「まずはぁ~、肺の空気を1cc残らず吐き出させるッ! 私はこのまま先生の横隔膜に波紋を流し呼吸のリズムを整える!うまくいけば自力で波紋の呼吸が出来るようになるッ! ……はずッス、失敗しても怒らないでねっ相澤先生」
「……え? 失敗したらどうなるの?」
「呼吸困難になる」
「こわっ」
何気なく訊いたオールマイトが透の返答に震えていた。
「おい、殴るなら殴るって先に言え」
透に腹部を殴られてから3分後、蹲っていた相澤が顔を上げた。
「呼吸はそのままで~はいっ」
コーラの瓶を逆さにして相澤に投げ渡した。
受け取った相澤が瓶を眺めて透けて見える中身を確認した。
「流れない……?」
「成功ッ! たぶんできると思ってたけどホントにできたッ!」
「たぶん……?」
「ホントにできた、だと?」
「あ~あ、呼吸乱しちゃダメですって」
透が瓶から流れ出したコーラを全て手で受け止めてコップに移していたが、相澤はそんなことどうでもよさそうに呼吸を整えるよう深呼吸していた。
「最初のレッスンは、瓶コーラを波紋を使って開ける! 目標は目薬を瞼の代わりにする、でいいですかぁ?」
相澤が頷いた。隣でオールマイトがそわそわしながら期待するような顔で透を見ていた。
「わた……僕も覚えたいッ! それッ!」
「13号先生って指先からブラックホール出す個性?」
「そうだッ! たぶん」
「じゃあ覚えても人に使えないじゃん」
「なんとッ!? ……アレェッ!? 殴って治してたよねッ!?」
相澤先生に教えてもらってくださいと一言だけ返して透がリカバリーガールに顔を向けた。
扱いが雑だ、とオールマイトが嘆いていた。
「リカバリーガールの個性ってなんですか? 確かチューした相手を治癒する個性だと思ってたけどぉ~? 実は波紋で治してたんですか~?」
「チューした相手を治癒する個性で合ってるよ」
「それって……相性最悪ッ! 個性使ってるときは波紋使えないし、波紋使ってるときは個性使えないってこと!?」
「だから途中でやめたんだよ」
「じゃっ、帰りますね~」
「待て、これから事情聴取だ」
「ホントにやんの~ッ!?」
「あぁ、当然だろ」
葉隠透の事情聴取、相澤からの追及が細かく、終わったときにはクラス全員が帰ってしまっていた。おちょくられたことと事情聴取の細かさは関係ないと相澤は言っていたがそんなことはその場にいた誰も信じなかった。
13号、長い事情聴取の間も動くことができず身体が固まってしまったがそれを伝えることもできずスーツの中で涙を飲んだ。絶対皆さん僕のこと忘れてたでしょ、と事情聴取が終わった後不貞腐れた。
→To Be Continued ...
今回の苦労人は相澤先生と13号先生。