葉隠透の奇妙なアカデミア 作:ピーカブー
ホントッ、騒がしいクラスよねぇ。
ヴィランに襲われたってのにもう日常通りの騒がしさ。
ドアの外にいても聞こえる話声にちょっぴり安心。
今日のポーズは左手をメロイックサイン、右手でオールドタイプのチョキを作る。手の甲を前に、右腕を肘から曲げて右手は左肩の前。左手はお腹の前を横切って右わき腹を掴む。重心をやや後ろに、右半身を前に上半身を捻る。
一度承太郎さんに見せたら「……花京院」と呟きながら辛そうな顔をしていて承太郎さんの前では封印したポーズ。
ズアッという音を立ててドアが横滑り……油切れかしら。
あと、このポーズをすると誰でも泣きそうな顔をするのかしら。皆が泣きそうな顔で私を見てるわ。
話声一つしなくなっちゃった。
どうしたのかしら。
私のポーズに注目してたの初日だけだったのに、今日は皆私を見てる。
「おはよう、マドモアゼル。今日もキレてるよ☆」
「ありがとっ青山君。人のこと褒めるの珍しいねっ。おはよっ、尾白君も障子君もっ」
尾白君なんて私の顔見て目頭押さえてるし、障子君も目尻が下がって落ち込んだ顔してる。
ホント、どうしたのかしら。
「おはよっ、爆豪君」
挨拶が返ってきたことないけど一応目が合ったからね。
「……はよ」
「珍しくなぁ~い? 爆豪君が挨拶してくれるなんてっ!」
「チッ、うるせーわ」
「大変よ爆豪君、手だけじゃなくて髪まで爆発してるわッ!」
「白々しいんだよッ! なんでてめぇ除籍になったんだコラァ!?」
爆豪君今なんて?
「……えっ? えっ? 除籍? 誰が、私が?」
周りのみんなも頷いてる。
「マジデェッ!? 除籍とか意味わかんないしッ! どぉして私が知らないのよぉぉぉッ! 除籍になるような心当たりなんて……いっぱいあるぅぅぅッ!?」
「んで本人が知らねぇんだよッ! デマ流しやがったなクソ髪ィッ!」
爆豪君が切島君に怒鳴り散らかしてる。
「他のクラスの奴らが言ってたんだって! A組の厚化粧女子が除籍になるってよォ!」
「じゃあ私じゃなくない? 厚化粧じゃないし」
「黙ってろや厚化粧! 化粧と塗装の違いも知らねぇようなツラしやがって!」
「ぶふぉっ……爆豪今のちょっと面白い」
「ツッコミ女王が認めた男……爆豪君はツッコミマスターで決まりねッ」
「だからてめぇはちょっと黙れやぁぁぁぁッ!」
「葉隠、除籍じゃねぇんだよなッ! なっ?」
「誰?」
「切島だよ!」
「髪真っ赤! おどろきぃ~」
「そこいじるなって! で、どうなのよ?」
ガラガラっていう音を立ててドアが開いた。
私のときとドアの音ちがくない?
「早く席につけ」
相澤先生が寝袋のまま教卓を叩いた、と思ったらコーラの瓶を置いてた。
もう出来るようになったの?
うっそだぁ、早すぎるよっ。
「コォォォォ……」
『勝手にあいたーッ!』
「んだそりゃ……」
出来てるぅ……覚えるの早っ。
先生が話し出す前に小さく手を挙げる。私の除籍の話聞いとかないとっと。
「……先生」
「なんだ?」
「私が除籍って本当ですか……?」
無表情の相澤先生がこっち向いた。
「…………あぁ」
「マジデェッ!?」
「と言いたいところだが、残念ながら除籍じゃない」
「ざ、残念ながら……」
スージーQおばあちゃんが昔言ってた「波紋使い、人をからかうのが三度のごはんよりも好き説」が立証されてしまった。
「相澤先生お茶目ね」
梅雨ちゃん冷静ッ!
「まぁ大方、事情聴取に行く途中死にそうな顔してたのを見てた者がいたんだろうが、そんなことはどうでもいい。なによりまだ、戦いは終わってねぇ」
「……戦い」
「まさか」
「またヴィランがぁ……」
後ろ三人でトリオ組めと言いたくなるほど息が合ってる。
「雄英体育祭が迫ってる」
『クソ学校っぽいの来たァァァァッ!』
雄英体育祭、日本の一大イベント。ニューヨークから日本に来た最初の年は意味分かんなかった。
高校の体育祭に日本中が熱狂するとかどういうジョークよ、ってね。
一度見たら熱狂するのも分かったけどさっ。
スポーツ業界の衰退著しい現代じゃあド迫力に個性ガンガン使われるのは見ごたえあるよねっ。
今年の見どころって言ったら……去年と一昨年の脱げ男、今年も脱ぐのかしら。
私も選手だから見られないけどねっ。
「年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るなッ!」
その気があったりなかったりする私はどうしようかなぁっと。
体育祭の準備しながら相澤先生の波紋の修行も見るとかやること多すぎるしっ。
……相澤先生の上達が早すぎて次のレッスン何も考えてなかったしっ。
あれ出来るまで私半年くらいかかったんだけどッ!
考えに考え抜いて結局、逆さにしたコップから水を垂らさないという課題にすることにした。
あんなん指からだけ波紋流せばいいことに気付けばすぐなんだけどっ。
明日には出来るようになってそう。
次のレッスン考えとかないとっ。
体育祭の話題で浮ついたまま放課後になったけど、帰れないねぇ。
ドアの前に人だかりが出来てる。
落ち着くまで座ってよ。
「な、な、なにごとだぁ~!?」
クラス最強が叫んでる。
最強なんだからもっと余裕な態度でいればいいのに。
「君達、A組に何か用が――」
「んだよ出れねーじゃん」
飯田君を遮って峰田君まで叫んでる。
人ごみの奥の方に逆立った紫色の頭発見、心操君だ。相変わらず目の隈すごっ。
物間君まで来てるしっ。
物間君の隣にいる茨ちゃんに手を振ってみようっと。
見えてるかな?
「敵情視察だろ雑魚。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてぇんだろ。そんなことしたって意味ねーから、どけモブども!」
煽るねえ、爆豪君。
「私と違う方向性だけど煽り上手だよねっ、爆豪君って」
「自覚あったのかよォッ!」
「おっ、心操出てきたぜ」
私の机の近くまで来てた切島君と上鳴君が人ごみからかき分けながら語る心操君を楽しそうに見てる。
「噂のA組、どんなもんかと見に来たが随分と偉そうだな」
心操君もなかなかの煽り上手だからねっ。
「ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのか?」
煽るねぇ、心操君。
爆豪君の後ろでお茶子ちゃん、緑谷君、飯田君が手と首を振りまくってる。
峰田君だけこっちを見てる。
切島君と上鳴君も私を見てる。
「どうして私を見るの? そんなに私って可愛い? 可愛いけどねっ!」
「静かに聞いとけって」
静だけにね、ってね。
心操君は人ごみから抜け出して爆豪君の前。
「こういうの見ちゃうと幻滅するなァ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴結構いるんだ。知ってた?」
重ッ!
心操君の言葉が重すぎるッ!
知ってるよぉ!
「ごめんねぇ、心操君」
「言葉が痛ぇよぉ」
「ううッ、すまねぇ! 俺が不甲斐ないばっかりに!」
「オイラ駄目だぁ、心操の前に立てねぇよ~」
峰田君がこっちに逃げてきてた。
4人して俯いてて顔を上げられない。
「そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃあヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしい。敵情視察? 少なくとも俺はいくらヒーロー科とは言え調子に乗ってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」
カッコいい啖呵切るなぁ。
「おうおう! 隣のB組のもんだけどよォ――」
「待て鉄哲。ここは僕に言わせてくれ」
「物間? おう! 言ったれ言ったれ!」
物間君まで来たっ。
煽り上手揃いすぎっ。
「ヴィラン襲撃を耐え抜いたA組、今一番注目されてるクラスだよねぇ。それはどうでもいいんだ、君達が注目されるのは今だけさ。何故かって?」
「聞いてねぇよ」
「体育祭で勝つのは僕達B組だからさ! せいぜい今のうちにチヤホヤされときなよ」
煽りにキレがないっ!
心操君の言葉が刺さったと見える!
茨ちゃんは手を組んで祈ってるしっ。
「どした物間ァッ! 煽り下手になっちまってるぞぉオイッ!」
啖呵切ろうとして物間君に止められた人が叫んでる。
心操君半笑いだしっ。
「それはそれとしてだけどさぁ」
「宣戦布告も終わったから言うよ、僕はこんなこと言うキャラじゃないんだけどねぇ」
「あん?」
「全員無事で良かったな」
「誰も怪我しなくて良かったね」
心操君と物間君が爆豪君の肩を優しく叩いた。
『めっちゃ良い人達だー!』
「んだそりゃぁ」
心操君達が爆豪君を素通りしてこっち来た。
爆豪君は白けた感じで帰っちゃった。
「物間ァッ! おめぇって奴はッ! 俺はおめぇって奴を誤解してたぜッ! 俺はなんてちいせぇ男だったんだ! ヒーローを目指す者同士まずは全員無事だったことを喜ばなきゃいけなかったのに俺って奴は!」
B組の人が男泣きに泣き崩れてる。
「あの人切島君とキャラ被ってない?」
「あいつも……良い奴だなッ!」
「なんかこれ……逆にA組カッコ悪くなってね?」
「徳の差出たな~」
こっちに来た心操君、物間君、茨ちゃんに手を振る。
「アレアレアレェ~? 除籍になったっていう厚化粧女子がこんなところで何してるんだぁ~い?」
「なってないよっ」
眼力すごっ。
煽り力戻ってるしっ。
心操君達は男4人で近況報告会始めてるしっ、物間君引き取ってくれないかなぁ。
「ご無事で何よりです」
「茨ちゃんは癒しだよねっ」
「葉隠さんの他にも厚化粧の方がいらっしゃるのですか?」
「煽ってくるねぇ~、このこのっ」
茨ちゃんの脇腹を小突こうとしてるんだけど髪の毛で防がれるし逆に棘が刺さってきて痛い。
「変わらない厚化粧を見て安心しました。くれぐれもヴィラン襲撃を私に負けたときの言い訳になさらないように」
「一番煽ってくるなぁ」
「もっとだぁ、もっと言うんだ塩崎ィ。クラスじゃあ聖母扱いされてるけど煽れる奴だと僕は思ってたよ! なんてったって葉隠と話せる奴だからなぁ」
「戻りますよ、嫉妬の権化よ」
「嫉妬ォ? ハハハッ、僕には無縁の感情だねッ! ……いや本当に無事で良かったよ」
「良い人なのかそうじゃないのかハッキリして欲しいねッ!」
最後だけマジな顔になっちゃってもう。尖ってない露伴先生みたいな偽悪ぶり。
煽るだけ煽って茨ちゃん達は出て行っちゃった。
心操君も後ろ手を軽く振って出ていった。もう人ごみも消えてる。
「君達!」
飯田君達がこっち来た。顔が怖い。
「他のクラスの生徒とも交流していたとは……流石だッ!」
「入試でちょっとな……」
上鳴君が答えづらそう。
上鳴君に限らず私達全員答えづらい。
「面白い人達だったね!」
「お茶子ちゃんほどじゃないよっ」
「なんで今煽ったし!?」
「私だけ煽るチャンスなかったからっ」
ウィンクしてもサングラスかけてるから見えないんだよねぇ。
「他のクラスの人達も本気なんだね……体育祭」
「そりゃそうだろ~。何もしなくても注目されるオイラ達より本気だぜ~」
緑谷君がなんか考え込んでる。何も考えるようなことなかったと思うけどぉ。
「あと2週間、鍛え直すぜ」
「燃えてるねぇ切島君。私修行とか大っ嫌いなのッ! 楽して勝ちたい派だからさっ」
「葉隠君ッ! 楽して勝ちたいなどと言うべきではないぞッ! Plus Ultra精神で高みを目指すんだッ!」
「熱血がここにもいたっ……ちょっと職員室行ってくるから先帰るねぇ~」
「なんだ? 除籍か~?」
私の持ちネタみたいになっちゃってるしっ。
「だから違うっての……体育祭ってサポートアイテム持ち込み禁止なんだよね? サングラスと手袋とウィッグ、あとマフラーも許可もらわないとっ」
「透明人間の方がインパクトあるぜぇ~」
「厚化粧もインパクトあるけどよぉ、透明人間の方がアピれね?」
「オープンスケベ君達めっ。上から覗かれると下着見えるからやっ」
「「それだぁ!」」
それだぁ! じゃないよ。
指ささないでよっ。
「じゃあね~」
手を振る代わりにポーズを決めてから帰ろっと。
「そう! そのポーズだッ! 葉隠お前、実は相当鍛えこんでるよなッ!」
声でかっ。
切島君までこっち指差してきた。
「ん? なんでっ?」
「前に家でやってみたら出来なかったッ! 倒れちまうんだよ」
「真似っ子さんめっ……ばいば~い」
→To Be Continued ...
障子君てあの体格なのに見えてないんだろうか。紳士だから見ないようにしてるんだろうか。