葉隠透の奇妙なアカデミア   作:ピーカブー

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障害物競争に出よう02

 

「死んだんじゃねぇか?」

「死ぬのか!? この体育祭!?」

 

 凍り付いた巨大ロボの残骸を前に少しばかりイライラし始めた4人の後ろがざわざわと騒がしくなり始めた。

 それもそのはず、下敷きになったまま出てこない生徒がいる。

 事故だ。全国生放送中に特大の放送事故が起きた。

 そんな感じのざわつき方だ。

 上鳴と物間の2人は後ろを気にすることなくロボットの残骸から見える配線を握って充電中だ。

 

「死ぬかぁー!」

 ロボットの残骸を突き破って立ち上がった漢、切島鋭児郎!

『1-A切島、潰されてたァッ! ウケるー!』

 コースまで届くプレゼントマイクの実況に切島から顔を背けて笑いを堪える塩崎茨と。

「「ウケる~!」」

「ハーハッハッハッハ!」

 大爆笑する男3人、この温度差にもめげずに切島が叫ぶ。

「轟のヤロウ! ワザと倒れるタイミングで! 俺じゃなかったら死んでたぞォッ! つか笑うなよ……アレ? ロボ少なくなってねェか!?」

 潰される前は6体いたはずの巨大ロボットが4体しかいないことに気付き、峰田と上鳴に顔を向けて首を傾げた。

「一言で情報量多くね」

「ったくよ~、葉隠がデカロボ透明にしちまったんだよ~、2体も!」

「漢らしくねェな! うし、やるぜ!」

 峰田の一言に納得し、ガチンと拳をカチ合わせ、火花が散った。

 が、飛び出そうとした切島の肩が物間に押さえられた。

 物間は何も言わずにロボットの残骸を指差し、切島も残骸に目を向けた。

「A組のヤロウは本当無茶苦茶する奴ばっかりだな! 俺じゃなかったら死んでたぞォッ!」

 切島と同じポーズでロボットの下から現れた漢、鉄哲徹鐵!

 俺以外にも潰されてる奴いたのか、と状況が分かっていない切島が叫んでいるが誰も相手にせず、キャラ被ってるよなと囁き合っていた。

『B組鉄哲も潰されてた! ウケる!』

 プレゼントマイクの実況まで切島と被っていた。

 

 役者は揃ったとばかりに峰田が一歩前に出た。

 

「いくぜ~!」

 頭を撫でてから広げた両手に4つずつモギモギを携えて。一投目は扇状に前方にモギモギを投げ、8つのうち2つが空中で止まった。2時の方向6m程の高さに一つ、10時の方向5m程の高さにもう一つ。間髪入れずに8個のモギモギを右側、空中に浮かんでいるモギモギの方へ投擲。投げられたモギモギのうち6個が空中に留まり、計7個のモギモギが教えてくれるロボットの位置。

「切島ァッ!」

「おうッ! 漢の背中ってヤツを見せてやるぜ!」

 峰田の上を飛び越え空中に浮かぶモギモギの下へ切島が走り込む。振りかぶった右腕が岩のような質感へと変化していく。踏み込む左足、身体を支える腰、引き絞られた右腕を振り抜くための背筋、身体の全てが完璧に噛み合い、撃ち出された拳が虚空からスパークを散らし見えてない金属を引き千切った。

「上鳴! 任せた!」

「任せろッ!」

 切島の横をすり抜けて空中から散る火花へと上鳴が手を伸ばす。

「離れろ切島! 今の俺はちぃーっとばかし、痺れるぜ!」

 伸ばした右手が光り輝く。上鳴の右手から伸びていく超自然的な光が見えない巨大ロボットの回路を疾り姿を浮かび上がらせる。さながら電撃を浴びた人間が骨だけになって見えるようなコミック的な映像のように、配線が、駆動回路が、輝きを放って浮かび上がって見えていた。

 そして、至る所からスパークを迸らせながら巨大なロボットはゆっくりと後ろへ倒れていった。

 峰田実が動き出してからわずか8秒後のことだった。

 

 信じられない光景だ、緑谷出久は倒れていくロボットを見ながらそう思った。

 まさかこいつらが、と爆豪勝己は3人の背中を睨みつけた。

 ヒーロー科実技入試で巨大ロボと相対したことのある者達もまた、信じられないといった顔で3人の背中を見ていた。

 

『峰田ァッ! 切島ァッ! 上鳴ィッ! 完璧なコンビネーションプレイ! やっぱ一度倒してる奴らはちげぇな! な?』

『あぁ、もう一体の方も見物だな』

『B組トリオが動き出す前に個性の紹介だァッ! 峰田実、個性モギモギッ! くっつくボールッ! 切島鋭児郎、個性硬化! かたくなるッ! 上鳴電気、個性帯電! 電気出す、以上』

 

「紹介雑すぎだろッ!」

「俺の見せ場が……」

「オイラのモテチャンスが……」

 切島が叫ぶ横で上鳴と峰田が肩を落とす。

 

「うぉぉォォッ! なんだよアイツら! カッコいいなッ!」

 巨大ロボを倒した3人の後ろでは鉄哲を拳を挙げて叫んでいる。

「僕達もやるんだよ! やれるよな、鉄哲?」

「やってやらァッ!」

 鉄哲の身体が金属のような光沢を放ち、打ち合わせた拳から火花が散った。

 気合の入れ方まで俺と被ってるじゃねェか、という叫び声が空へと消えた。

「ちっこいロボも動き出してるぜ! 援護いる? あと今度飯いこーよ」

 上鳴が近づいてくるロボット達を指差し、目を閉じて祈りを捧げている塩崎茨に話しかけたが、無視されてさらに凹んだ。

 塩崎茨が歩き出す。目を閉じたまま、胸の前で手を組んで祈りを捧げる姿勢のまま。

 彼女の前には何体ものヴィランロボ、さらに先に空中に浮いた一つのモギモギが見えている。

 塩崎茨がゆっくりと目を開いた直後、茨の髪が彼女の姿を隠してしまうほど密度を増し、縦横無尽に伸びた。

「あー、はいはい、いらないってことね……俺達より派手なんだけど」

 上鳴が肩を竦めて首を振った。

 彼女の道を塞いでいた無数のロボットの残骸が宙を舞う。彼女の茨の髪が目の前にいたロボット達を貫き、絡みつき、引き裂いたのだ。

 これから倒すべき相手に比べればはるかに小さい仮想ヴィランロボを貫き残骸に変えた塩崎茨のツルは勢いそのままに伸びていき、空中で弾かれた。

 塩崎茨が淡い笑みを浮かべた。

「救いを求める子羊達がいる限り」

 ツルのうちの一本が弾かれた場所を目指して空中を伸びていた数多のツルが軌道を変える。空中で見えない何かに巻き付き、巻き付いたツルに何本ものツルがロープを作るように縒られていく。

 胴回り、右腕、右脚上部、右脚関節部、右脚下部に計5本のツルが巨大ロボに巻き付き、ギシギシと金属を締め上げる音を立てていた。

「鉄哲行けぇッ!」

「行ってやらァッ! 見せてやるぜッ! 漢の背中って奴をよォッ!」

「なんで決め台詞まで被るんだよッ!? わざと被せに来てねェかアイツ!?」

 頭を抱えて空に向かって叫ぶ切島の前で鈍色に輝く鉄哲徹鐵の拳が巨大ロボの足を穿った。

 しかも個性まで被ってんじゃねェか! と叫ぶ切島の横で峰田がわなわなと震えて切島と上鳴の背中を殴った。

「オイラだけ! オイラだけ決め台詞言わなかったんだぜぇ~! 言うなら言うって先に言っとけよぉ~! なんだよ「いくぜぇ~!」って!? 決め台詞あるって知ってりゃちゃんと言ったのによぉ~!」

 鉄哲の後ろから走り込む物間もまた、上鳴と同じ方法で巨大ロボットを倒していた。

「物間も言ってねえから気にすんなって」

 

『塩崎ィッ! 鉄哲ッ! 物間ァッ! B組3人も完璧なコンビネーションプレイ! やっぱ一度倒してる奴らはちげぇな!? つか2組まったく同じ倒し方だッ! 芸術点で塩崎の捕捉と拘束が映えてるかァッ!?』

『一応言っとくと、轟と葉隠が未だに独走中だ。そろそろ次の障害物が見える位置まで来てるぞ、急げよ』

『プロヒーロー達お待ちかねッ! 個性の紹介だァッ! 塩崎茨、個性ツル! 髪の毛が茨! 鉄哲徹鐵、個性スティール! かたくなるッ! 物間寧人、個性コピー! 上鳴の個性をコピーしたな!』

 

「俺初めて倒したんだけどォォォッ!? お前らすげぇな! 入試で倒してたのかよッ!? ……あれ?」

 実況の声に鉄哲が叫んで視線を戻すと物間と塩崎は既に隣から姿を消していた。

 なんであんなに前に物間と塩崎の背中が見えるんだ? と考えた鉄哲が肩を叩かれ我に返った。親指を挙げて走り抜けていく切島達に気付いて一呼吸遅れて走り出した。

 爆豪、瀬呂、常闇の3人もまた、見えないロボットが倒されたのをいいことに、見えている巨大ロボを飛び越えて先へ進み始めていた。

 

「確か7人いたって言ってたけど……あと2人誰よ? 残り4体もいるんだけど」

「デク君も倒してたよね!? 超パンチでスマーッシュって」

「え? あっ……うん」

「もう一人は葉隠だけど、知らなかったのか? あいつら……あのときより成長してるな、やっぱ普通科だと出遅れるよなぁ」

 

 耳郎、麗日、緑谷が話している後ろから目がぼんやりしている3人の騎馬の上で胡坐をかいている心操が呟いた。

 話してないのか、もしかしてまだ気にしてんのか。とぶつぶつ呟き、何かを考えるように顎に手をあてて倒れた巨大ロボの先を見ている。

 一目見て意識のない状態の騎馬の様子にギョッとしながら緑谷が考え込む。

 こんな最序盤でOFAには頼らない。でも――。

 でも、正直言って憧れる。振り返れば他の科の皆が憧れの眼差しで先を進む彼らの背中を見ている。後ろから見てても僕達を安心させてくれる。絶対に負けるわけないと、そう思える背中だった。

 ヘドロ事件で僕達を助けてくれたオールマイトの背中を思い出す。思い出させる背中だ。

 自身ですら気付かぬうちに緑谷が拳を握りこんだ。

「デク君、あんなん殴ったらまた腕バッキバキになるよ?」

「それでも……」

「必要ありません……チョロいですわ!」

「あぁ、必要ないし、チョロい相手だ」

「……は?」

 右手を握ったままの緑谷が呆然と呟いた。

 2体の巨大ロボットは何かに撃たれ倒れていくし、残り2体の巨大ロボットはずぶずぶ音を立てて地面に沈んでいく。

 

『キルスコア更新ッ! 八百万が巨大ロボ2体撃破ッ! 作ったのは大砲かありゃ。さらにキルスコア更新したのはB組骨抜柔造ッ! 個性、柔化! 触れたものを柔らかくする個性だッ! 巨大ロボ2体とちっこいロボ沢山まとめて沈めたァッ! 流石は推薦組、轟といい巨大なロボットなんか相手にならないってぇ感じだなッ!』

『1位の轟は次の障害物の前まで来てるな』

『お? じゃあスクリーンにそっち映すか! 第2関門! 落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!』

 

「あっちは良い感じに盛り上がってたみたいだねっ、轟君!」

 10m程前を走る轟に向かって透が叫ぶ。プレゼントマイクの実況からからでも分かる盛り上がりだ。見たかったなぁ、と思いつつ轟の後ろに出来る氷の上を滑っていく。

 轟はちらっと一瞬だけ振り返り、舌打ちだけ返して走り続ける。俺の作った氷の上滑って楽しやがってという思いのこもった舌打ちだ。

 目の前に現れたのは見渡す限り数えきれないほどの崖。

 崖と崖はロープで繋がれているのみ。

 

「綱渡りか……大したことねぇな」

 轟がロープを凍らせ、その上を一気に滑って一本目のロープを渡り終えた。

 

『1位轟、這いずらないッ!? 這いずれよッ! 昨日セメントスとパワーローダーが休日出勤して作ったんだぞッ!』

『今それ関係ねぇだろ』

 

 透は氷の道を滑るのをやめ凍っていない地面を蹴って走る。

 第2関門、最初に選んだロープも轟が凍らせていないロープだ。轟が選んだルートが最短、あえて遠回りせざるを得ないロープを選んだのは、ひとえに凍り付いたロープが途中で砕けてしまうのを警戒してのこと。

 姿勢も変えず、速度も落とさずに透は走り続ける。ロープまで残り7m。

『2位葉隠、お前は這いずらないとヤバくないかッ!?』

 プレゼントマイクの実況に不敵な笑みを浮かべたまま深呼吸。残り4m。

『このまま突っ込む気だァァァッ!』

 右手を高く、人差し指まできっちり伸ばして深呼吸。ロープまであと一歩。

 前傾姿勢のまま、速度を落とさず――。

『突っ込んだァァァッ! 一本のロープの上を全力疾走ッ! 俺が喋ってる間に走り抜けちまったァァァッ!』

『……器用な奴だな』

 

 同感だ、と既に5本目のロープを滑り終えて崖の上で振り返っていた轟は思った。足がロープに吸い付いてるように見えるほど、安定した走りだ。

 ロープの振動も揺れも関係ないとでも言うように下も見ず前だけを見て走り続けるその姿はロープから落ちるわけがないという確信があってのもの。

 だからこそあり得ない。物理的に不可能な走り方だ。

 壁と天井走ってたのも同じ理屈か?

「まぁ俺には関係ねえな。今の走りで確信した……あのスピードじゃ俺には追いつけねぇ」

 どっちかっつったら葉隠の後ろの奴が追い付いてきそうだ。

 

「待てやゴラァァァァッ!」

 遠くから響く怒声に轟がため息を吐く。

 爆豪、アイツいっつも怒鳴っててうるせぇな。

 

『3位爆豪、這いずれ……這いずるわけねーよなッ! 誰も這いずらねーな、面白くねー』

 

 遠くに聞こえていた爆発音が近づいているッ!

 一直線に空を突っ切るのが最短ルート、にも関わらず爆発音が近づいてきているということは――。

「あっれ~? もしかして……こっち来てる!?」

 既に3本目のロープを走り切った透がちらりと後ろを見る。

「待ちやがれッ透明野郎ッ!」

「顔こわっ」

 視線を前に戻してロープの上を透が走る。

 厳つい顔で空から突っ込んでくる爆豪に背を向けて走るが5本目のロープのド真ん中で頭のすぐ後ろから爆発音が耳を打つ。

「落ちろォォォッ!」

 爆豪の右の大振りに合わせて透が左へ大きく身体を倒す。

 拳は躱したが爆風までは躱せず体勢を崩し、透がロープの下へと落ちて――。

 

『落ちればアウトッ! 最初の脱落者はなんてこったァッ! 葉隠透だつら――アァッ!?』

「ざまぁみやがれッ!」

 次は半分野郎だとばかりに爆豪が轟の背中を睨みつけた。

『落ちてねェェェッ!?』

『……器用な奴だな』

「アン?」

 空中で振り返った爆豪が見たものは――。

 崖を真っ逆さまに落ちていく葉隠透の姿ではなく、

 無様にロープにしがみ付く葉隠透の姿でもなく、

 重力に逆らって尚変わらぬ姿勢でロープの下を走り続ける葉隠透の姿だった。

「器用で済むかァッ!」

『器用で済むかァッ!?』

 爆豪とプレゼントマイクの実況がシンクロした。

 一本のロープに足の裏がぴったりくっついているように逆さの姿で走る透が珍しくも焦った顔で爆豪を指さした。

「爆豪君ッ! 前ッ!」

 前を向いた爆豪の目の前には視界を覆う氷の壁。

「氷野郎ォォォッ!」

 2度目はねぇッ!

 両手を氷の前に突き出し今出せる最大火力の爆破。腰を起点に全身で旋回、身体を伸ばし回転しながら爆豪勝己が氷壁へと突っ込んでいく。

 彼の両手から放たれる爆発が氷に穴を空け、ドリルのように氷を掘り進み、一気に突き抜けた。

 

 そう、爆豪勝己は何時如何なる時も冷静な男だ。

 

「やっちまえーッ! 爆豪君ッ!」

「言われなくてもやってやらぁッ!」

 

 轟焦凍が舌打ちし、もう一度自分の後ろに氷壁を作ってから凍らせたロープの上を滑り出す。

 よそ見している瞬間を狙って作った氷壁、葉隠が叫ばなければ爆豪は落とせていた。

 完璧なタイミングだったはずだ。

 意外だったのは葉隠が爆豪を助けたこと。

 そんな奴には到底思えねぇ。

 

「轟君ッ! 爆豪君をやっちまえーッ!」

 

 透の大声に轟が振り返る。

 空中から轟を追っていた爆豪も振り返る。

 どっちの味方なんだ、アイツ。

 二人ともそんな顔をしていた。

 

「相打ちになれば私がトップだァッ!」

 

 刹那の間、轟と爆豪の視線が交錯する。

 轟は爆豪に背を向けてレースに戻り、爆豪は高度を上げて空を駆ける。

 

「あっれぇ~?」

 

 足を引っ張り合って透が先に行く、それだけは避ける。

 奇しくも両名、同じ結論を出していた。

 

『レース中盤でェッ! 順位が変わったッ! 1位轟相変わらず独走ォォッ! 2位に爆豪ッ! 3位葉隠ッ! 4位以下は足を止めちまってるッ!? 這いずれよッ!』

『何足止めてんだあのバカ共……』

 

→To Be Continued ...

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